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「知能公害(反教育シリーズXI)」渡部 淳 (著)(現代書館 1973年9月)

→目次など

■子どもを選別して画一的な教育を施す意味を考えると社会そのものの在り方が問われて来る■

「障害」を理由に学校に来ることを拒まれる子どもたち。就学させることのできない子どもだとして人が人を選ぶのは何のためなのか、拒まれた子どもたちにはどのような人生が待っているのかという疑問を抱いて「教育を考える会」が発足しました。

できない子に知能テストを実施して、その結果をもとに「特殊学級」行きを決める教育相談活動に異議を唱えた三鷹市の教育相談所所員は解雇されました。東京大田区では、「どんな子も切り捨てない」と頑張ってきたクラス担任の先生が「受験競争に勝てない」という親の声によって担任を外されました。

本書によると、いわゆる科学的検査法として知能検査が登場したのは1905年、フランスでのことでした。1882(明治15)年に義務教育令を発令したものの、なかなか教育の効果が上がらない中、効果を上げるために「邪魔者」を教室から排除しようとしたのです。

教育の効果を上げるとはどのような意味でしょうか。それを知るには、公教育(義務教育)の起源を知る必要があります。一番早い、一番完全な公教育は、1763年、ドイツのプロイセンで「地方学事通則」によって国民に課されたのです。プロイセンでは国民兵役制度を導入し、七年戦争を戦っていました。当時のフリードリッヒ大王は、貴族階級出身の将校と無学文盲の兵卒をつなぎ、将校の出す命令を理解して兵卒にわかりやすく説明する下士官を養成する必要性を感じていました。つまり、義務教育の本来の目的は下士官の養成にありました。

このような背景から生まれた知能検査ですが、本書では知能テストとは本来社会的事象にすぎないものをあたかも生物学的事象であるかのように粧って把えようとしているにすぎないと言いきってあります。つまり、支配者の都合に合わせて国民を選別できればよかったのです。

さらに、本書では「自閉症児は存在するのか」として、自閉症的な行動を示す子はあるが、それをまとめて自閉症という病気を作ってきたのは医学者たちなのだと指摘しています。自閉症は、教育の場から子どもを締めだす口実でしかないことが明らかになります。本書では、自閉症を含め、一切の「障害児」を特殊化する方向に対して異をとなえていこうと呼びかけています。

先に述べた、公教育そのものを疑問視する在り方について、残念ながら本書にそれ以上の踏み込みはありません。「学校に入れさえすればよいのか」「子どものためになるのか」と問いながらも、現在行われている「教育」に子どもを合わせていくのではなく、子どもに合わせた「教育」(さしあたり教育とはそもそもなにかについてはさておくことにする)を考えることの方が論理的に可能な方向であると主張するに留まっています。

「うちの子は"身辺自立"ができていないだけの普通の子です」といいきる母親があります。28歳にしてようやく就学を認められながら手をあげてもあてられず、テスト用紙も配られなかった重度脳性麻痺者の男性がいます。人が人を選ばず、少なくとも他者によって選ばれるのではなく、また、その人なりの速度で、その人なりに必要性を感じた分野を伸ばしていくことのできる世界はあるのでしょうか。それに一番近かったのは、公教育を必要としなかった世界、それも最も古い生き方をしていた世界なのではないでしょうか。

なお、この本の出版は1973年です。

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内容の紹介


「第三章 選ばれる"人身御供"」より
  六月十二日も、支援する会と組合が団交を開くよう、三鷹市教育委員会に折衝していたのです。 市教委は団交を開くことを約束し、責任者をよび、会場の設定をするから待ってほしいと、私たちに告げたのです。 私たちは市教委の指示に従って待っていました。 ところがそこにきたのは、団交設定の返事ではなく、市教委の役人をしたがえるようにして市庁舎三階に入ってきた三鷹警察署警察官七〇名でした。 彼らは、私たちの前にきて、「全員逮捕」と叫びながら、なぐるけるの末、四名の仲間を逮捕理由をつげることなく連行していったのです。
  しかし、私たちの不当逮捕抗議の前に、市教委、三鷹警察は、逮捕は全くデッチあげであり、六月二二日に予定されていた拘留理由開示裁判を維持できないことが明らかになりました。 前日の二一日夕刻、私たちは全員を私たちの手にとり戻しました。 - 89ページ


「第四章 実力就学運動」より
  S区のOさん…さんざん迷った末に特殊学級に就学させましたが、校長先生は、仮入学を許可したつもりだったそうです。 この間、同じ目に合わされているOさん等三人の母親を呼んで、普通学級から特殊にまわさなくてはならない子どもが多いので、三人の仮入学を取り消す、と通告して来たそうです。 その場には担任の先生も出席しており、「四月以降この子どもたちが伸びてきているし、もう少し続けたい」と希望を出しましたが、一喝の下に黙らされたそうです。
  だいたい校長に仮入学させるとか、それをとり消すなどという権限は一切ありません。腹を決めて、ぶつかれば、引き下がらざるを得ないのは校長のほうですから、「いやです、私は通学を続けます」と軽くごあいさつだけしておけばよいでしょう。 あとは、Oさんたちを守って、私たち「がっこの会」でどんな闘いが組めるかという問題ですし、Oさんたちがそれをやり通すという決意如何にかかっています。 - 112ページ


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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