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「アメリカの国家犯罪全書」ウィリアム・ブルム (著) 益岡 賢 (訳)(作品社 2003年4月)

→目次など

■裏を暴く本かもしれないが、裏の裏は表ではなく、さらに裏がある。■

凶悪犯罪、災害など、マスコミをにぎわせる事件が起きるたびに、関係人物の経歴、事件の起きた場所にある施設などから、スピン・コントロールである可能性を鋭く分析されているブログがあります。そこで推薦されていたのが本書です。

普段から鋭い分析に感服していただけに高い期待を持って本書を開いたのですが、残念ながら期待は裏切られてしまいました。

本書は、「正義」と「民主主義」の名のもとに「ならず者国家」を断罪している米国こそがならず者国家であることを暴こうと、米国による国家犯罪をまとめた本です。「あとがき」を著者は次のように始めています。

本書を、『チェーンソーによる連続幼児殺人犯たちと、彼らを愛した女性たち』という書名にしようかとも考えた。

つまり、あなたの愛する彼(米国)は、正義の味方ではなくて凶悪犯なのかもしれないですよと言っているわけです。

読んでみると、『モンサント――世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』を読んだときと同じように、強い違和感を感じます。裏を暴きながら、裏の裏を隠す方向でしか情報を提供していないのではないかとしきりに感じられるからです。

たとえば、日本への原爆投下については、本書の「はじめに」では、アメリカに対する恐怖をソ連に植え付け、冷戦を開始する一撃となったと記述されています。 ところが、原爆投下に関しては、2種類の異なる爆弾を投下していること、占領後の米軍の行為から人体実験が目的だったと考えられること、広島原爆投下の翌日にGM(ゼネラルモータース)の社長がアメリカで初めての癌研究所を設立していること、原子爆弾の機密をアメリカに売り渡したとされている湯川秀樹にノーベル賞が送られたことなど、本書にはまったく示されていない、重要な情報が多く存在しています。 これを含め、本書では、裏の裏は表ではなく、さらに裏があることについては考えが至らない形で情報が提供されているように感じます。
また、わかりにくい記述に終始し、ページ数が多い点も『モンサント』と共通しています。 このような本に時間を費やすことは、貴重な時間の浪費につながってしまいます。以上の点から、本書は残念ながら高く評価することはできません。

繰り返される犯罪行為という点では『略奪者のロジック』をお勧めします。

内容の紹介


第18章「選挙操作」 日本――一九五八年〜七〇年代
  CIAは、国会選挙で自民党を「一議席一議席」支援するために、何百万ドルもの予算を費やし、日本社会党を弱体化させるために策動した。その結果、自民党は三八年にわたり権力の座を維持した。 これはやはりCIAがスポンサーとなったイタリアのキリスト教民主党政権に比するものである。 こうした策略により、日本とイタリアでは強固な複数政党制が発達しなかった。 - 279ページ


日本の政治家の動き、政党の動きを観察して見えてくることは、自民党だけがCIAによる支援を受けてきたと考えるよりは、すべての政党の主要政治家に対して支援が行われていると見なすほうが説明しやすいということであろう。 たとえば、小選挙区制の導入に、不利をこうむるとわかりきっている小政党が賛成するのはなぜかとか、野党候補を統一すれば自民党候補に勝てるときに、共産党も必ず候補者を立ててくるのはなぜなのかという点である。これらのことから、この記述に私は真実性を感じない。

第22章「拉致と略奪」 ヨーロッパ
  第二次世界大戦末期に、ハンガリーのファシスト指導者たちは、ハンガリー系ユダヤ人ブルジョアからの略奪品――毛皮や切手のコレクション、美術品や東洋の絨毯、ホロコーストの犠牲者から没収した少なくとも木箱いっぱいの結婚指輪など――を貨物列車に詰め込んで、西へと逃げつつあった。 列車がオーストリアに到着したとき、米軍が停止を命じた。米軍兵士たちは――おそらく部下たちも――それらの品を自分たちで失敬した。 - 329ページ

裏の裏を考えるのであれば、この逸話を紹介することはなかったと思われます。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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