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「15歳の寺子屋 ゴリラは語る」山極寿一(著)(講談社 2012年8月)

→目次など

■冷たいが懐の深い自然の中で生きるゴリラを通じて、見えるヒトの社会■

調べ物をするとき、ジュニア向けに書かれた本を一冊読んでおくと、理解しやすくなると聞き、そのような本の選び方を意識するようになりました。そうしてみると、確かにわかりやすく、また少ない分量でポイントをもらさないように編集されていることも多く、なるほどいい本が多いようです。

この本もそんな一冊でした。

この本の著者は、ご存じの方も多いでしょうが、京都大学の教授で長年ゴリラの研究を続けておられる山極さんです。長年の研究成果のエッセンスが簡潔に分かりやすく、面白くまとめてあります。

表紙にある「ゴリラの家にホームステイ」とは、野生のゴリラの群れに時間をかけて近づき、研究者の存在を受け入れさせるという観察方法を示しています。餌づけとは異なり、自然な様子を観察できます。ニホンザルは緊張を解かないそうですが、ゴリラの場合は研究者がゴリラの群れの中に入ることさえできます。

ゴリラたちは人を居させるだけでなく、人と関わってきます。

大雨の日に山極さんと同じ木の洞で雨宿りをし、山極さんにもたれかかって眠った子どもゴリラ。
わざわざ山極さんのひざの上に腰をおろしたメスゴリラ。
山極さんに挨拶をしようとした若いオス。

相手は自分たちとは違う生きものであると知りながら、受け入れていくゴリラたちの様子は何を語っているのでしょう。

本書には、印象深い言葉がいくつもあります。

ともすると、ぼくらは忘れてしまいそうになりますが、生きることと食べることはイコールです。(37ページ)

人間もうれしいときには目を輝かせますが、ゴリラは人間以上に光ります。目の色が変わるのです。(47ページ)

本書によると、人間でも顔と名前が一致するのはせいぜい百五十人までだといわれており、これは狩猟採集民の共同体の人数とだいたい同じだとのことです。また、ゴリラ、チンパンジー、ボノボという類人猿たちはみな乱婚であるといいます。そこから、人間が恋愛に悩む理由に話が及び、狩猟採集生活と農耕や所有について、争いについて、自然保護についてと考察が進んでいます。

最終章では、共感と信頼がかえって冷酷さや残虐性につながっている面もあると指摘されています。

たとえば、ゴリラのフィールド・ワークをしていて、ぼくがピンチにおちいっても、ゴリラはぼくを助けてはくれません。そういう意味ではゴリラは冷たいといえるでしょう。 でも、つきあっていけばいくほど、そばにいることを許してくれたり、いっしょに遊んでくれることもあります。そういう意味では、とても懐が深いのです。(92-93ページ)

狩猟採集者たちの暮らしを通じて見えてくるものも同じです。「神」ではなく「天」という言葉であらわされるような、あるがままを受け入れていくことしか本当はできないのではないかという事実を示しているようです。

関連書評;ジュニア向けの本:
動物の死は、悲しい?---元旭山動物園 飼育係がつたえる命のはなし (14歳の世渡り術)
森に生きる人―アフリカ熱帯雨林とピグミー (自然とともに)

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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