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2025.1.20 mf更新弁護士河原崎弘
土地の時効取得の対抗要件として登記が必要
相談:不動産
祖父は、2000年に、それまで借りていた畑を買いました。以後、この土地を、祖父(3年前に亡くなりました。)、祖父亡き後は、父が使用してきました。
最近、付近一帯を測量して、当時、買った畑に、Aさんの隣地一部(約100坪)が入っていることがわかりました。売買した当時は、売主も、祖父も、三者とも、これに気が付きませんでした。
Aさんからは、土地を買い取って欲しいと言ってきています。父は、取得時効で所有権を取得していると考えています。私も法律書を読むと、父の言っていることが正しいと思えるのですが、時効取得にも、対抗要件として登記が必要という人がいます。何か不安があるのですが、どうしたらよいでしょうか。
回答
取得時効
お父さんは、この場合土地の所有権を時効取得したと考えていいと思います。
10年あるいは20年間土地を継続して占有した場合、土地の所有権を時効により取得できます(民法162条)。
時効取得するには所有の意思が必要です。これは外観上で判断します。内心に所有する意思があっても、他人の土地を借りている人には所有の意思があるとは判断されません。お父さんの場合は、2000年に土地を買ったときに所有の意思があったと考えてよいです。
占有者は、「所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する」です(民法186条1項)ので、あとは、無過失の証明だけです。相談者のケースでは、占有の初めに善意無過失と考えられますので、10年で時効取得します。お父さんは2010年に所有権を取得しています。最後に最高裁の判決を掲げます。文中に随時、最高裁の判決の日付けを書いておきます。
登記
時効取得と登記の関係は、第三者の登記がいつであるかによって、結論が変わってきます。
- 時効完成前:占有者は、元の所有者、および、時効完成前(時効進行中)に不動産を譲り受けて登記した第三者に対して
登記なくして対抗できます(昭42.7.21判決、昭41.11.22判決)。その後、時効が完成し、時効取得者(占有者)は、登記した第三者に対抗できます。
元の所有者は、
時効による物件変動の当事者だからです。第三者も類似した関係です。
第三者の登記後、再度の時効が完成した場合も、登記なくして対抗できます(昭36.7.2判決、平24.3.16判決)。
- 時効完成後:占有者は、時効完成後の第三者に対しては登記が必要です。
時効完成後に不動産を譲り受けて登記した第三者に対しては、時効取得者(占有者)は、登記なくして対抗できません。二重譲渡のケースと扱うのです。
時効の起算点を後の日にずらせて、時効完成日を後の日にずらせことはできません(平15.10.31判決)。
時効完成後は、下記図のように、時効により土地の所有権を取得した人(占有者)を、買主と同様に、取引により所有権を取得した人(二重売買の買主)として扱うのです。従って、時効による不動産の取得者にも対抗要件として登記が必要です。
背信的悪意者は、登記の欠缺を主張できません(平8.1.17判決、平18.1.17判決)。これに対しては、登記不要です。
相談者の父は、2.のケースです。
Aさんが、2010年(時効完成日)以降に、この土地を売り、買主が登記すると、あなたのお父さんの取得した所有権は否定されます(時効が中断される)。ただし、お父さんにも、再度の時効完成を主張できる可能性があります。
仮処分
現在は、時効完成後ですから、用心が必要です。そこで、お父さんが取得時効を主張する際には、用心のために、事前に、弁護士に依頼し、裁判所においてAさんを相手に、土地の処分禁止の仮処分(昭59.9.20判決)決定を得ることが必要でしょう。裁判所は、仮処分と同時に嘱託登記をします。
仮処分の登記後、Aさんと交渉するなり、土地の所有名義人Aに対する所有権移転請求の裁判するなりすればよいです。
判決
- 最高裁判所平成24年3月16日判決
不動産の
取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者か
ら抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効
取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したとき
は,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段
の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当
権は消滅すると解するのが相当である。その理由は,以下のとおりである。
ア 取得時効の完成後,所有権移転登記がされないうちに,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了したならば,占有者がその後にいかに長期間占有を継続しても抵当権の負担のない所有権を取得することができないと解することは,長期間にわたる継続的な占有を占有の態様に応じて保護すべきものとする時効制度の趣旨に鑑みれば,是認し難いというべきである。
イ そして,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者に上記不動産が譲渡され,その旨の登記がされた場合において,占有者が,上記登記後に,なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続したときは,占有者は,上記第三者に対し,登記なくして時効取得を対抗し得るものと解されるところ(最高裁昭和34年(オ)第779号同36年7月20日第一小法廷判決・民集15巻7号1903頁),不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者が上記不動産につき抵当権の設定を受け,その登記がされた場合には,占有者は,自らが時効取得した不動産につき抵当権による制限を受け,これが実行されると自らの所有権の取得自体を買受人に対抗することができない地位に立たされるのであって,上記登記がされた時から占有者と抵当権者との間に上記のような権利の対立関係が生ずるものと解され,かかる事態は,上記不動産が第三者に譲渡され,その旨の登記がされた場合に比肩するということができる。また,上記判例によれば,取得時効の完成後に所有権を得た第三者は,占有者が引き続き占有を継続した場合に,所有権を失うことがあり,それと比べて,取得時効の完成後に抵当権の設定を受けた第三者が上記の場合に保護されることとなるのは,不均衡である。
- 最高裁判所平成23年1月21日判決
抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は,当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ,当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し,賃借権を対抗することができないのが原則である。このことは,抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても,異なるところはないというべきである。したがって,不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に,当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合,上記の者は,上記登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,当該不動産を継続的に用益したとしても,競売又は公売により当該不動産を買い受けた者に対し,賃借権を時効により取得したと主張して,これを対抗することはできないことは明らかである。
- 最高裁判所平成18年1月17日判決
甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時点において,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たるというべきである。取得時効の成否については,その要件の充足の有無が容易に認識・判断することができないものであることにかんがみると,乙において,甲が取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても,背信的悪意者と認められる場合があるというべきであるが,その場合であっても,少なくとも,乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があると解すべきであるからである。
- 最高裁判所平成15
年10月31日判決
前記の事実関係によれば,【要旨】被上告人は,前記1(5)の時効の援用により,占有開始時の昭和37年2月17日にさかのぼって本件土地を原始取得し,その旨の登記を有している。被上告人は,上記時効の援用により確定的に本件土地の所有権を取得したのであるから,このような場合に,起算点を後の時点にずらせて,再度,取得時効の完成を主張し,これを援用することはできないものというべきである。そうすると,被上告人は,上記時効の完成後に設定された本件抵当権を譲り受けた上告人に対し,本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を請求することはできない。
- 最高裁判所平成8年11月12日判決
これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、上告人Aは、Dの死亡後、本件土地建物について、Dが生前にCから贈与を受け、これを上告人らが相続したものと信じて、幼児であった上告人Bを養育する傍ら、その登記済証を所持し、固定資産税を継続して納付しつつ、管理使用を専行し、そのうち東門司の土地及び花月園の建物について、賃借人から賃料を取り立ててこれを専ら上告人らの生活費に費消してきたものであり、加えて、本件土地建物については、従来からCの所有不動産のうち門司市に所在する一団のものとして占有管理されていたことに照らすと、上告人らは、Dの死亡により、本件土地建物の占有を相続により承継しただけでなく、新たに本件土地建物全部を事実上支配することによりこれに対する占有を開始したものということができる。そして、他方、上告人らが前記のような態様で本件土地建物の事実的支配をしていることについては、C及びその法定相続人である妻子らの認識するところであったところ、同人らが上告人らに対して異議を述べたことがうかがわれないばかりか、上告人Aが昭和四七年に本件土地建物につき上告人ら名義への所有権移転登記手続を求めた際に、被上告人Eはこれを承諾し、被上告人G及び被上告人Iもこれに異議を述べていない、というのである。右の各事情に照らせば、上告人らの本件土地建物についての事実的支配は、外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解するのが相当である。原判決の挙げる(1) Cの遺産についての相続税の修正申告書の記載内容について上告人Aが格別の対応をしなかったこと、(2) 上告人らが昭和四七年になって初めて本件土地建物につき自己名義への所有権移転登記手続を求めたことは、上告人らとC及びその妻子らとの間の人的関係等からすれば所有者として異常な態度であるとはいえず、前記の各事情が存在することに照らせば、上告人らの占有を所有の意思に基づくものと認める上で妨げとなるものとはいえない。
右のとおり、上告人らの本件土地建物の占有は所有の意思に基づくものと解するのが相当であるから、相続人である上告人らは独自の占有に基づく取得時効の成立を主張することができるというべきである。そうすると、被上告人らから時効中断事由についての主張立証のない本件においては、上告人らが本件土地建物の占有を開始した昭和三二年七月二四日から二〇年の経過により、取得時効が完成したものと認めるのが相当である。
- 最高裁判所昭和62年6月5日判決
他人の土地の所有者と称する者との間で締結された賃貸借契約に基づいて、賃借人が、平穏公然に土地の継続的な用益をし、かつ、賃料の支払を継続しているときには、前記の要件を満たすものとして、賃借人は、民法一六三条所定の時効期間の経過により、土地の所有者に対する関係において右土地の賃借権を時効取得するに至るものと解するのが相当である。
- 最高裁判所昭和59年9月
20日判決
前記原審の認定した事実関係のもとにおいては、本件仮処分決定は、Aほか五名と上告人Jとの関係において、前記二、(1)の売買に基づく所有権移転登記手続請求権を被保全権利とする処分禁止の効力を有しないものといわざるをえないが、前記二、(5)の取得時効の完成時以降は、時効取得に基づく所有権移転登記手続請求権を被保全権利とする処分禁止の効力を有するものと解するのが相当である。そうすると、被上告人Aほか五名は、右時効完成後に上告人Hから本件土地につき前記二、(6)の売渡を受け登記を経由した上告人Jに対して本件仮処分決定の効力を主張することができ、したがつて、上告人Jは、被上告人Aほか五名に対し右売渡による本件土地の所有権取得の効力を対抗することができないものといわなければならない。これと結論を同じくする原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
- 最高裁判所昭和42年7月21日判決(判例タイムズ210号152頁)
原判決の確定した事実によると、被上告人は本件土地の占有により昭和三三年三月二一日に二〇年の取得時効完成したところ、上告人は、本件土地の前主から昭和三三年二月本件土地を買い受けてその所有者となり、同年一二月八日所有権取得登記を経由したというのである。されば、被上告人の取得時効完成当時の本件土地の所有者は上告人であり、したがつて、上告人は本件土地所有権の得喪のいわば当事者の立場に立つのであるから、被上告人はその時効取得を登記なくして上告人に対抗できる筋合であり、このことは上告人がその後所有権取得登記を経由することによつて消長を来さないものというべきである。
- 最高裁判所昭和41年11月22日判決(出典:判例タイムズ200号92頁)
時効による不動産所有権取得の有無を考察するにあたつては、単に当事者間のみならず第三者に対する関係も同時に考慮しなければならないのであつて、この関係においては、結局当該不動産についていかなる時期に何人によつて登記がなされたかが問題となるのである。そして、時効が完成しても、その登記がなければ、その後に登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗することができないのに反し、第三者のなした登記後に時効が完成した場合においては、その第三者に対しては、登記を経由しなくても時効取得をもつてこれに対抗することができるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであつて(昭和三二年(オ)三四四号同三五年七月二七日第一小法廷判決、集一四巻一〇号一八七一頁以下、同三四年(オ)七七九号同三六年七月二〇日第一小法廷判決、集一五巻七号一九〇三頁以下)、これを変更すべき必要を認めない。
- 最高裁判所昭和36年7月20日判決(出典:法律時報34巻3号94頁)
不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ、その後に所有権取得登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえないが、第三者の右登記後に、占有者がなお引き続き時効取得に要する期間占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記を経由しなくとも時効取得をもつて対抗しうるものと解すべきである。
- 最高裁判所昭和33年8月28日判決(出典:最高裁判所民事判例集12巻12号1936頁)
取得時効による不動産の所有権の取得についても、登記なくしては、時効完成後当該不動産につき旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対して、その善意たると否とを問わず、時効による所有権の取得を対抗し得ないと解するを相当とするから、所論は採るを得ない(大正一四年七月八日大審院判決、民集四巻四一二頁参照)。
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