土地明渡訴訟・強制執行

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Last update 2015.6.5mf
弁護士河原崎弘


相談
私の父は、10年ほど前に土地約120坪を、権利金なしで個人に貸し、自動車置場として貸しました。4年ほど前に借主が社長をしている建築会社はこの土地上にプレハブ建物を作りました。その頃、父と社長は相談して、借主を個人から会社に変えました。その契約書には、「1年間の一時使用」と書いてあります。
その会社は、1年前に倒産しました。その後、色々な人がその 建物に入居しましたが、現在は別の人が別の会社名で、砂利、鉄骨などの資材の置場として土地、建物を使っています。建物収去土地明渡強制執行の人夫の絵
地代は今は月額8万円ですが、現在の土地使用者が建築会社の名前で父の口座に振込んでいました。ここ3か月ほどは振込んできません。
知人は、「又貸し(転貸)だから、解除し、出てもらえる」と言います。 別の知人は、「あれほど大掛かりに土地を使っているから、なかなか出ないが、このまま放置していても、ただで土地を使われるだけで土地は戻ってこない。金がかかってもいいから、裁判した方が良い」と言います。
最近、代理人の不動産屋が、借地権割合7割を引いた3割の1億5000万円で土地を売ってくれ」と言ってきています。
どうしたら、よいでしょうか。代理人の不動産屋の話では現在の土地の使用者は組関係の会社だそうです。
相談者は、法律事務所を訪ね、弁護士に相談しました。

回答
弱者を保護するために色々な法律があります。借地人を保護している借地法(平成4年8月1日からは借地借家法)がその1つでした。土地を貸してしまうと、地主は僅かな地代を請求する権利しかなくなり、土地の明渡しは、できなくなります。余りに借地人が強過ぎ、借地の供給が不足していることを理由に、新しく借地借家法が成立し、一定の条件の下に時期が来たら土地建物を返してもらえる契約も認められました。しかし、通常は借地人は強く保護され、地主の権利は弱いです。
土地の価格に比較すると、地代の相場は低く(大体税金の3倍位)、地主としては土地を明渡してもらえる機会を狙うことになります。特に本件のように一時使用であり権利金の授受がない場合にはそうでしょう。
通常、土地賃貸借の終了を理由に土地の明渡を求めることは難しいと考えねばなりません。何が土地の賃貸借契約の終了原因になるか考えてみます。
まず、「1年間の一時使用目的」を理由に契約終了することはどうでしょうか。
「一時使用目的」とは、通常、臨時的な催しもの会場などのために土地を貸した場合などです。一時使用の土地賃貸借契約では、決められた期限が来れば契約は終了し、土地を返してもらえます(借地借家法25条)。
一時使用目的と認められるには、単に「一時使用」とか、「1年間」 と期間が決められているだけでは不十分です。一時使用目的にした実質的な理由が必要です。
「来年、土地の上に新築するまで」、「転勤で、貸主が東京に戻るまで」、「別の場所における建築完了までの仮住まい」などと、目的が具体的に契約書に書かれていると、一時使用目的と認められます。
本件では、契約書に「1年間の一時使用」と書かれているだけで、契約は10年間続いているのですから、借地法9条(現在は、借地借家法25条)で言う一時使用目的の契約かどうか、相当問題になるでしょう。判例では、1年契約を何回も更新して10年経過した場合でも、一時使用目的を理由に地主が勝った裁判があります。
一時使用目的が否定されると、権利金をもらっていないのに借地権が発生し、土地の権利の6割から8割は借地人の権利になります。
次に、建物に他人が入居していることは土地の「又貸し(転貸)」になるかを考えてみます。又貸しであれば、貸主は、土地の賃貸借契約を解除できます。
しかし、建物を使用しているだけでは、法律上は元の建築会社が土地の上に建物を所有して土地を使用していると認定され、土地の又貸しに当たりません。判例もそうなっています。
そこで、建物の登記簿謄本を取り寄せ、建物の所有者が変わっていないか調査する必要があります。これは法務局(登記所)に行けば調べることができます。登記簿謄本は1000円支払えば誰でも交付申請できます。
もし、建物の登記名義が他人に移っていたならば、土地の使用者は建物の所有者ですから、又貸しを理由に土地賃貸借契約を解除できます。
解除の通知は内容証明郵便で出します。本件では、現在の使用者は、若干の法律の知識があるようで用心しており、元の建築会社名義で地代を支払っていたようです。又貸しを理由に解除することは難しそうです。
借地人は、地代を滞納しているようですので、これを理由に契約を解除すると良いでしょう。契約書に「地代滞納の場合には催告なくして解除できる」と書いてあっても、3か月ほどの滞納では、このとおりの効力が認められるかどうか不安です。やはり、催告した方がよいでしょう。
「3日以内に滞納している地代を支払え」との催告、支払わない場合には、さらに「契約を解除する」との通知が必要です。催告と停止条件付解除の通知を1通の内容証明郵便で出しても良いですが、本件では別々に出した方がよいでしょう。
今は、非常に価値の高い財産を取り戻す絶好の機会です。すぐ弁護士に相談することをお勧めします。
相談者は、弁護士に依頼しました。この事件で弁護士がどのような手続きをとったかについて説明します。

仮処分
まず、平成18年2月8日弁護士は裁判所に土地の占有移転禁止、建物処分禁止を求める仮処分を申立てました。裁判の相手を特定するためです。これをやらない場合、裁判の途中で土地の使用者が変わったり、建物が他に処分されると、裁判をやり直す結果になります。
不動産明渡訴訟では、通常、仮処分は必要です。特に、相手は組関係者ですから、この仮処分は必ず得ておかねばなりません。仮処分申立には、契約書、解除の通知の内容証明郵便などを証拠に出し、相手が土地を明渡す義務があることを疎明し、さらに保証金を法務局へ供託します。この手続きは通常1週間程で完了します。本件では保証金は250万円でした。保証金は裁判終了後返還されます。
平成18年2月15日、裁判所は仮処分命令を出しました。弁護士はすぐ仮処分の執行申立てをしました。 仮処分命令は、執行官によって現場に掲示され、裁判所から登記所に書類が行き、建物には仮処分の登記がされます。

訴提起
平成18年3月5日、弁護士は建物収去土地明渡の訴を提起しました。裁判で、地代の滞納があったのか、契約は一時使用目的であったのかが論点になりました。証人尋問をしますので、裁判は2年間ほどかかるでしょう。
1審判決で勝てば、通常は、仮執行宣言が付きますので、強制執行できます。相手がこれを止めるには裁判所に保証金を積んで執行停止の決定を取らねばなりません。
地代を滞納している場合には、相談者は、地代債権を請求債権として執行停止の保証金を差押えることができます。相手は地代など支払わずに逃げようとしますから、相手は執行停止手続きも、控訴もせず、裁判は1審で終わる蓋然性が高いです。
地代の滞納がない場合には相手は執行停止の決定を取り、高等裁判所に控訴するでしょう。控訴審では裁判官は和解を勧めるでしょう。控訴審で裁判官が提示する和解案は大抵一審判決にそったものです。従って、1審で勝っていれば、和解条件はこちらに有利でしょう。100万円位の立退料を支払って明渡してもらう和解案なら、のんだ方が良いでしょう。嫌なら和解せずに、2審でも判決をもらっても良いです。1審判決が2審でひっくり返る蓋然性は3割前後でしょう。
本件では、被告が裏で若干の地代にプラスしたものを相談者の父親に支払っていたとの事情、被告代理人が代わったなどの事情で、裁判は若干時間がかかりました。平成19年9月25日、3か月分の賃料滞納を理由とした解除が認められ、原告勝訴の判決が出ました。被告は控訴しませんでした。

強制執行
判決が出て、判決が相手(被告)に送達されたら、弁護士は、すぐ、判決に執行文をもらい、さらに、建物収去命令をもらいました。
そして、裁判所の執行官に強制執行の申立てをします。本件では、弁護士は、平成19年11月26日、建物収去土地明渡の強制執行の申立をしました。 相手は、土地上に黒塗りの大型バス1台、バキュームカー1台、ユンボ1台(警察で調査すると、一部の所有者は同和の団体でした)を置いて執行妨害を企てました。強制執行に際しての妨害行為は非常に多く、組関係者も関与しています。彼らの行為は、強制執行妨害罪に該当します。弁護士は妥協をせず、執行することにしました。
執行官は、まず、現場に行き、相手に対し、土地を明渡すよう、明渡さないときは強制執行をする旨警告しました。その約2か月位後に実力を使って明渡の強制執行を断行します。
平成20年2月9日強制執行を断行しました。この際、執行官は現場に居るだけで、実際の作業は債権者側で依頼した業者がしました。そのため、本件のようなケースでは150万円前後の費用がかかります。15、6 人の作業員を手配し、管轄の警察に警備要請をし、現場に行き、1時間程で建物を取壊しました。
大型バス1台、バキュームカー1台、ユンボ1台は搬出し、別の場所に保管しました。警察は協力的で、執行現場にはパトカーが2台来てくれましたので、心配はいりませんでした。
執行断行後(翌日)、組の関係者が法律事務所に泣きついてきました。彼は、ある組の親分でした。彼は、車両を借りて、本件土地上に置いたが、それがなくなり、貸主(やはり組関係者)から責められ、困っていることでした。弁護士は、余計な執行費用がかかったので、賠償金の支払いを求め、金 10 万円を支払ってもらい、車輌を引渡しました。
執行の 3 週間ほど後が、建物を取壊した廃材や遺留物の競売期日と決まりますので、そこで競売して全て終了しました。

費用
相談者が弁護士に支払った費用は着手金 60 万円、報酬 400 万円です。強制執行を依頼した業者には100万円支払いました。その外に、印紙代、裁判所に納める執行費用(強制執行予納金)などで50万円ほどかかりました。

上記は、実際の事件です。


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