強制執行を予想して不動産の名義書換する是非 / 強制執行妨害罪

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Last update Feb.16,2016mf


相談:不動産
私は、資産約5億円、年収2500万円ほどありますが、債務が13億円あります。バブルの頃に銀行の薦めでマンションを2棟買いましたが、この値段が下がりました。
この債務を整理するためには、自己破産しかないと聞いています。
最近、公認会計士を紹介されました。この公認会計士は、「(報酬として)300万円出せば、会社を作り、財産の名義を変え、強制執行ができないようにしてあげる」と言うのです。
そんなことができるのでしょうか。相談者は、同級生の弁護士に相談しました。

回答
強制執行を予想し、債務者が、不正行為をすることは非常に多いです。債務者は、真実に反して不動産の所有名義を変えたり、 以前から賃借人が居るように仮装 したり、 土地上に障害物を置いた り、ビルの賃料の振込先を変えたりして、不正に強制執行を妨害しています。
一時期、強制執行対策として、銀行が貸ビルを所有している顧客に、「賃料の振込先を変える」等の指導をしていたそうです。銀行が指導していても、真実の貸主でない口座に振込みさせるのは、犯罪であることは変わりません。
従前、警察はこの種の事件に関心を示さず、債権者側は困っていました。数年ほど前から警察はこの種の事件を刑事事件として扱う傾向です。

債務者が、強制執行を免れるため、資産を隠したり、仮装譲渡する行為は、強制執行妨害罪(刑法96条の2、旧強制執行免脱罪)に当たります。債務名義(判決、和解調書、公正証書)がなくとも、債権が存在していれば、強制執行妨害罪は、成立します(最高裁昭和35年6月24日判決)。不動産について事実に反する登記をするのですから、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)に当たります。さらに、
破産原因 (支払い不能,破産法126条)がある場合、これは詐欺破産罪に当たります。
これらは、めったに使われない罪名ですが、刑罰が科せられます。
従って、相談者の場合も資産の仮装譲渡をすると、犯罪が成立します。

この種の行為は民事的には、詐害行為(民法424条)として債権者は取り消すことができます。
奥さんが家計費用の余りを奥さん名義で少しずつ貯めることは差し支えありません。しかし、大きな資産を仮装譲渡することは、刑事事件になる可能性もあります。これから、まともに陽の当たるところで生きて行くためには、止めた方がよいでしょう。
あなたが相談した公認会計士の提案はまともではありません。
以上が普通の考え方でしょう。

コメント
オーナーから建物を借り、さらに転貸する場合、強制執行妨害罪に当たらないと思うのですが。

回答
賃借人は、通常、転貸できません(民法612条)。しかし、サブリース契約でよくあるように、転貸の特約がある場合、転貸できますし、転貸しても強制執行妨害罪には当たりません。真実に反して仮装する行為が犯罪になるのです。

関連質問
当社(A社)はビル(時価約10億)を所有し、賃貸しています。しかし、金融機関に対し、それ以上の債務があり、債務超過状態で、返済はストップしています。
現在、当社が自由に使えるのはテナントから入る毎月700万円ほどの賃料収入です。銀行は未だこれを差し押さえていません。当社は、今度、賃貸部門を独立して管理するため、賃貸専門会社(B社)を設立し、現在の賃料の7割ほどでB社に賃貸し、B社がテナントに貸す転貸方式に切り替える予定です。これは合法でしょうか。

回答
当初から賃貸部門が独立しており、賃貸専門会社が賃貸するのなら刑事上は問題はありません。
債務超過の状態でB社を設立し、表面上B社がテナントから賃料を徴収するが、そのままA社に渡すなら、転貸また管理の実体はなく、それは転貸を仮装したものであり、強制執行を妨害する目的と考えられます。
B社が清掃、修繕、家賃取立てなどの管理をする実体があり、B社が合理的な管理費を取得し、残賃料をA社に支払うのなら、それは、賃貸の管理と転貸の実体があるので、合法でしょう。
ご説明にある現在の賃料の7割でB社に貸すことは、3割の管理費に合理性があるか問題です。3割で何をするのでしょう。3割も取るのは高額の管理費であり、不自然であり、真実、管理であるか疑問です。

虎ノ門 弁護士河原崎弘 03−3431−7161

1998.12.14登録