推定相続人の廃除
河原崎法律事務所
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2017.8.30mf
弁護士河原崎弘
相談
私は28歳の主婦です。今は主人と息子との3人暮らしですが、実家の両親(父は、元教員)は、将来は、今住んでいる一戸建て(土地と建物は父名義)を2世帯住宅にして、私たちと一緒に住みたいと言ってます。
実家には、現在、89歳の祖父、両親、そして27歳の妹がいます。問題は27歳の妹です。
妹は20歳で大学を中退して以来、まともな職に就いたことがなく、預金もありません。両親の話では、妹はバンドをやっている男性に貢いでいるようです。今は一緒にバンドをやりながらフリーターをして、小遣い銭が足りないときには両親の年金をあてにしている状態です。妹は、父の家をもらおうと考えているようです。
私としては、妹が、両親と一緒に住むことはかまわないのですが、妹がサラ金等に手を出したとき、家を自分名義にして、売却してしまうのではないかと心配してます。
相続のときに妹が取得できる財産は一切ないようにするには、どうしたらよいでしょうか。
相談者は、区役所の法律相談所で、弁護士に相談しました。
お答え
家の名義変更
家の名義は、名義人の意思が必要ですし、手続きとしても、実印、印鑑証明が必要ですので、簡単にはできません。さらに、お父さんの生前の名義変更には高い贈与税が課せられます。ご心配なら、あなたから、事前に、ご両親によく注意をしておくとよいでしょう。
さらに、法的には、お父さんとあなたの間で、家について、死因贈与契約 を締結し、仮登記をすれば、さらに安全です。
推定相続人の廃除
民法には、相続人の廃除の手続きがあります(民法 892 条)が、要件(廃除事由)は、「被相続人(この場合は両親)に対する虐待、重大な侮辱、著しい非行」です。下の審判例を参考にしてください。
相続人の廃除は両親(被相続人が)が生きている間に家庭裁判所に対して手続をします。遺言でも、できます(民法 893 条)。遺言で廃除する場合は、被相続人が死亡後、遺言執行者が家庭裁判所に対し廃除の請求をします。
廃除された者は、相続人になれません。
しかし、妹の場合、これ(廃除事由)には当たらないでしょう。
遺言
次に、両親に「財産を全部あなたに相続させる」旨の 遺言 を書いてもらうことです。
それでも、妹には、遺留分 の権利がありますので、(法定相続人が、両親の片方,
あなたと妹の場合)、妹は、遺産の8分の1の権利(遺留分)は取得できます。
妹の遺留分を減らすには、あなたの夫、子どもがあなたの両親の養子になることです。2人とも養子になった場合(法定相続人が、両親の片方、
あなた、妹、養子2人の場合)、妹の遺留分は減少して、16分の1になります。遺留分放棄
両親の 生前に相続放棄 はできませんが、遺留分放棄はできます。その場合は、妹に一定の財産を与え、妹に遺留分放棄をさせるのです。しかし、妹が自己の意思で放棄しないとできません。さらに、遺留分放棄には、家庭裁判所 の許可が必要です(民法 1043 条)。
妹の同居
妹が両親と同居していると、両親がなくなった後の遺産分割協議は、もめるでしょう。
妹は、寄与分とか、「家の立退料をくれなければ、立ち退かないなど」の主張をするおそれがあるのです
判決
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東京地方裁判所平成26年2月20日判決
本件遺言には,被告を廃除する理由として,被告がAの所有地の売却の邪魔をしたこと,無断で物置を建てたこと,測量を妨害したことが記載されているところ,
このような記載内容からみれば,Aは,被告の複数の行為により多大な迷惑を被ったと認識して,被告に対し強い怒りを持っていたということができる。そして,この
点を考慮して本件廃除文言を解釈すれば,本件廃除文言は,被告に対し,遺留分を有する推定相続人の廃除の場合と同様に,遺産を一切相続させないとするもの,すな
わち,遺産全部に対する被告の相続分(指定相続分のみならず具体的相続分をも包含する相続分)を零とする趣旨,ないし遺産全部を被告以外の共同相続人に遺贈する
趣旨であると認めることができる。
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東京高等裁判所平成23年5月9日決定
以上のとおり,平成10年から10年近くの間,C(被相続人)が○○で入院及び手術を繰り返していることを知りながら,年1回程度帰国して生活費等としてCから金員を
受領する以外には看病のために帰国したりその面倒をみたりすることはなかったこと,CのDに対する別件建物明渡訴訟及び原審相手方自身に対する本件離縁訴訟が提
起されたことを知った後,連日Cに電話をかけ,Cが体調が悪いと繰り返し訴えるのも意に介さず長時間にわたって上記各訴訟を取り下げるよう執拗に迫ったこと,信
義に従い誠実に訴訟を追行すべき義務に違反する態様で本件離縁訴訟をいたずらに遅延させたことなどの原審相手方(養子)の一連の行為を総合すれば,原審相手方の行為は民
法892条にいう「著しい非行」に該当するものというべきである。
4 よって,原審相手方をCの推定相続人から廃除すベきものとした原審判は相当で
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神戸家庭裁判所伊丹支部平成20年10月17日審判
被相続人(父親)の遺言執行者が,遺言による相手方(長男)の推定相続人からの廃除を申し立てた事案において,借金を重ね,被相続人に2000万円以上を返済させたり,相手方の債権者が被相続人宅に押しかけるといった事態により,被相続人を約20年間にわたり経済的,精神的に苦しめてきた相手方の行為は,客観的かつ社会通念に照らし,相手方と被相続人の相続的協同関係を破壊し,相手方の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものであって,民法892条の「著しい非行」に該当する(判例タイムズ1305号68頁)。
- 京都家庭裁判所平成20年2月28日審判
相手方は,これまで窃盗等を繰り返して何度も服役し,今も常習累犯窃盗罪で懲役2年の刑に処せられて在監中であり,このほ
かにも,交通事故を繰り返したり消費者金融から借金を重ねたりしながら,賠償や返済をほとんど行わず,このため,申立人をして被
害者らヘの謝罪と被害弁償や借金返済等に努めさせ,これにより,申立人に対し多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を強いてきたこ
とが明らかであって,申立人に対する著しい非行があったと認めるべきである。そして,これまでの経過や事情に加えて,相手方が自
身の行状につき申立人にも責任の一端があるかの如く述べたうえ多額の手切れ金を要求しており,申立人がこれに応じる意思がないと
述べていることからみて,両名の親子関係に改善の見込みがあるとはいい難く,その他,本件に顕れた諸般の事情を勘案すると,相手
方を申立人の推定相続人から廃除するのが相当である。
- 福島家庭裁判所平成19年10月31日審判
被相続人(母)の遺言執行者が遺言による相手方(長男)の推定相続人からの廃除を申し立てた事案において,被相続人が70歳を超えた高齢であり,介護が必要な状態であったにもかかわらず,被相続人の介護を妻に任せたまま出奔した上,父から相続した田畑を被相続人や親族らに知らせないまま売却し,妻との離婚後,被相続人や子らに自らの所在を明らかにせず,扶養料も全く支払わなかったものであるから,これら相手方のこれらの行為は,悪意の遺棄に該当するとともに、相続的共同関係を破壊するに足りる「著しい非行」に該当する(民商法雑誌2巻252頁)。
- 釧路家庭裁判所北見支部平成17年1月26日
審判
相手方は,上記1(3)(4)(7)のとおり,被相続人本人からの不満や,E,Fらの再三の忠告にもかかわらず,上記1(3)のとおりのビニールシート
を使った生活を継続し,また,上記1(5)のとおり,被相続人が死んでも構わないなどという趣旨の,その人格を否定するような発言もしている。これらの事情に照ら
せば,相手方には,自ら闘病中の被相続人に対し虐待をしていると認識していたのはもちろん,これを積極的に認容していたと評価するほかない。
そして,相手方の被相続人に対する上記虐待行為は,その程度自体も甚だしく,相手方に推定相続人からの廃除という不利益を科してもやむを得ないものと考えられ
る。
また,上記1(6)(7)のとおりの経過に鑑みれば,被相続人は,平成13年2月以降死亡するに至るまで,相手方との離婚につき強い意思を有し続けていたとい
えるから,廃除を回避すべき特段の事情も見当たらない。
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301 河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 電話 03-3431-7161