ホーム > 遺言、相続事件 >遺産分割(相続)事件で請求された弁護士費用(報酬)に納得できない
弁護士河原崎弘相談:相続事件の弁護士の報酬額について
県内の弁護士に相続事件(遺産分割協議)、その他手続きの代理を依頼し、当初、その報酬として、すべてを含めて400万円と約束しました。この400万円の報酬額の約束は残念ながら口約束です。
事件が終了し、連絡を受けたとき、弁護士から報酬として470万円を要求されました。
私が、「約束は400万円では」と言うと、弁護士から、「400万円などという約束をした覚えはない。その約束を証明できますか」などと、言われてしまいました。
事件の概略は次の通りです。相続事件の弁護士費用は、どのように計算するのですか。
- 遺産の総額は約9500万円(時価)
- 当方の相続額は約3000万円
- 解決に要した期間は約2年
- 経費として印紙、鑑定費用などの実費は、報酬額に含まないことは連絡を受け、当方も了解済み。具体的な金額も了解済み、電話による口約束。
- 担当した弁護士は、依頼した法律事務所に勤める弁護士。これは、当方了解済みで、代理依頼に問題ありません。
- 報酬額を証明する書面などはありません。
- 相続したお金はいったん弁護士の口座に振込まれた後、弁護士から当方に振込まれることになってます。
不動産を買うときの重要事項の説明のように、弁護士は事件を引き受ける際に、報酬についての説明や書面の交付は義務づけられていないのでしょうか。
初めに、当方が了解した金額であれば、高くても納得するんですが、納得できないお金は1円も払いたくありません。
回答
(弁護士の説明義務)
弁護士には、報酬については依頼人に説明する義務があります。
日本弁護士連合会の総会で決議された「弁護士倫理 (平成17年3月31日に廃止) 」36条は、「弁護士は、依頼者に対し、受任に際して、その報酬の金額又は算定方法を明示するように努めなければならない」と規定しています。 弁護士会の報酬会規 (平成16年4月1日に廃止)7条1項にも、平成16年4月施行の、日本弁護士連合会の 弁護士の報酬に関する規程 5条1項にも、 平成17年4月1日施行の、日本弁護士連合会の 弁護士職務基本規程 29条1項にも、弁護士報酬について説明する義務が定められています。 説明しないと、弁護士は、規則違反になります。
昔は、弁護士には、書面による 弁護士報酬契約 締結義務はありませんでしたが、現在では、弁護士の報酬に関する規程5条2項で、書面による締結義務が決められています。(具体的な弁護士費用の算定)
弁護士報酬会規によれば、相続 事件の弁護士費用(相場、報酬)は、あなたが遺産分割協議 で得た取得(相続)分3000万円を基準(経済的利益)にして計算します。これは、2つの計算方法に分かれます。
(A) 財産の範囲あるいは相続分に争いがある場合(事件例:遺言無効確認裁判/弁護士の事件簿・相続、 遺産分割無効確認訴訟/弁護士の事件簿・相続) 通常はこれに当たるでしょう。あなたが得た取得分3000万円を経済的利益として計算します。実際の計算は、弁護士費用計算機 を使うと簡単です。計算は次のようになります。 着手金 159万円 報 酬 318万円 (B) 財産の範囲あるいは相続分に争いがない場合 弁護士報酬会規14条13号では、この場合は、あなたが得た取得分3000万円の3分の1(1000万円)を経済的利益として計算します。計算は次のようになります。 着手金 59万円 報 酬 118万円
解決に2年を要したのですから、あなたのケースは、遺言の有効性( 公正証書遺言の有効性)とか、寄与分 とか、特別受益 などが争われた場合、すなわち、上記(A)の場合に当たります。この場合、上記の通り標準の報酬金額は、318万円になります。
質問では、着手金について説明がありませんが、着手金の支払いがない場合は、報酬は上記の場合より、若干、高額にすることが公平でしょう。
弁護士会の報酬会規は廃止されましたので、現在では、上記規定はそのままでは適用されません。しかし、上記理屈は、報酬基準として考慮されるでしょう。
あなたの場合は、報酬についての契約書がありません。この事実は、あなたに有利に、弁護士に不利に作用します。弁護士は、妥当な報酬がいくらであるかについて証拠を出す責任を負います。
あなたが、どうしても納得できない場合は、その弁護士が所属する 弁護士会 に対し、 紛議調停の申立 をして話し合いをするが良い方法です。
あなたは、弁護士費用を支払う意思があり、弁護士は事件処理をきちんとしたようです。この説明程度の違い(400万円と470万円)は、善意の依頼者と善意の弁護士のちょっとした意見の違いです。弁護士会の紛議調停委員会で、円満に解決するでしょう。
弁護士会の紛議調停事件の多くは、もっとひどいです。事件が終わったから弁護士費用を払いたくない依頼者(多い)とか、あるいは、いい加減な事件処理をした弁護士(偶にある)のトラブルなのです。