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2015.5.26mf
弁護士河原崎弘
奥さんと別居した男性との交際
相談
会社の同僚(子供2人いる)が、奥さんとうまく行かず、別居しました。その後、私は、彼と交際するようになり、最近、親密な関係になりました。彼は奥さんと離婚調停中ですが、奥さんから私宛に、交際を止めることと、慰謝料500万円を支払えとの内容証明郵便が届きました。
私は、慰謝料を支払わなければいけないでしょうか。
彼は、私と一緒に住みたいというのですが、一緒に住んで大丈夫でしょうか。
答え
相談者の事情を聴いた弁護士は次のように説明してくれました。
問題は、別居時、あるいは、その後、彼の婚姻関係が破綻していたかです。
- 婚姻関係が破綻していた場合
彼と親密になった時期が、彼の婚姻関係が破綻した後であれば、あなたに責任はありません。例え、彼に配偶者がいても、あなたと彼との交際が、彼の家庭を破綻させたのではないので、あなたは、慰謝料を支払う責任はありません。
下記のとおり判例もあります。
- 婚姻関係が完全に破綻していない場合
彼が一時的に別居でいずれ、奥さんと同居する予定であるなど、彼の婚姻関係が完全に破たんしていない場合、あなたと彼が親密な交際をすると、あなたに慰藉料支払い義務が発生します。この場合の慰藉料金額は少ないです。50万円くらいでしょう。
この事情はその男性と奥さんの間の問題ですので、あなたにはわからないでしょう。彼の説明だけに頼るのも危険です。
事実認定をする裁判官は、人間ですから、真実を全て見極める能力を持っていません。真実が不明の場合もあります。その場合は、挙証責任の分配により決められます。別居していれば、一応、破綻と認定されます。この状況を、彼と奥さんがどのように説明するかです。
破綻と証明できないとあなたに不利な判決が出ます。彼には子供が2人いますので、裁判官も、相当慎重に、さらに、奥さんに有利な判断をしようとします。
彼の婚姻関係が破綻していると証明できない限り、一緒に住むことには危険があります。危険とは、彼が 有責配偶者 とされる(その結果、離婚できない)、あなたに慰謝料義務を負わされる危険があるとの意味です。しかし、その場合でも、慰謝料は50万円くらいでしょう。
なお、
彼があなたと交際する目的で別居した場合は、彼の婚姻関係は別居時には破綻していないと認定されるでしょう。
この件については 別居後の異性との交際 も参照してください。
判例
- 平成8年3月26日最高裁判所判決
二 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の
事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。
けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利
又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
三 そうすると、前記一の事実関係の下において、被上告人がaと肉体関係を持った当時、aと上告人との婚姻関係が既に破綻し
ており、被上告人が上告人の権利を違法に侵害したとはいえないとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決
に所論の違法はない。
所論引用の判例(最高裁昭和51年(オ)第328号同54年3月30日第二小法廷判決・民集33巻2号303頁)は、婚姻関係破綻前のものであって事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
- 東京地方裁判所平成17年3月29日判決
これらの事実によれば、原告は、被告甲山と同居してまもなく、同被告の求めに応じて離婚届に署名押印したこと、被告甲山は、原告の実家を離れて生活を始め、原告との別居生活を続け、いわゆる夫婦生活もなくなり、次第に関係が疎遠になったこと、被告甲山が被告乙川と性的関係をもって妊娠したころには、被告甲山と原告との間では連絡もほとんど途絶えていたこと等が認められ、そのころ、原告と被告甲山との婚姻関係は、その実体がほとんど失われていたと認めることができる。
しかし、他方、原告は、当初、離婚届に署名押印したが、被告甲山が届出をすることを拒んだこと、被告甲山は、被告乙川の子を妊娠するまでは、原告に対し離婚を求めたり、離婚届を提出することの承諾を求めていなかったこと、換言すると、妊娠
を契機に原告に対し離婚を明確に求めたこと、これに対し、原告は、被告らに対し、慰謝料を求めたことがあったとしても、離婚について明確に承諾をしなかったこと、被告甲山は、約4年前に原告に署名押印してもらった離婚届を提出したこと、この時点で、原告に対して、離婚届を提出することの承諾を明確に得ていないこと(原告から明確に承諾を得ていれば、あらためて離婚届に署名押印してもらうことが可能であったはずである。)、その後、原告は、離婚無効の申立てをしたこと等の事実が認められ、原告が被告甲山と離婚することを承諾していたとは認めがたく、原告と被告甲山の婚姻関係がまったく破綻していたと認めることは相当でない。
したがって、これらの事実を総合すると、原告と被告甲山の婚姻関係は、その実体がほとんど失われていたが、被告甲山が被告乙川と性的関係をもって、同被告の子を妊娠し、原告の明確な承諾を得ないで離婚届を提出したことによって破綻に至った
と認められる。
そうすると、被告甲山は、原告に対し、慰謝料を支払うべきであるが、その額は高くはなく、被告乙川と連帯して50万円
の支払義務を負うと解することが相当である。
- 東京地方裁判所平成19年4月11日判決
3 被告Y1の責任(争点(2)A)について
前記のとおり,遅くとも本件合意の当時には,原告と被告Y2の婚姻関係は修復不能な程度に破綻していたところ,その当時までに,被告らが交際していたという事実を認めることはできないのであって,被告Y2が原告との婚姻関係を継続させる意思を喪失するに至ったのは,被告Y1との交際が理由であったと認めることはできない。
かえって,前記事実に証拠(被告Y1本人,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告Y2と被告Y1は,平成7年9月7日,被告Y1が本件会社の面接に訪れた際に知り合い,同年10月ころから,交際するようになったものであることが認められるところ,その当時,原告は,本件合意に基づいて被告Y2が購入した□□□宅のマンションに転居していたのであるから,その当時,原告と被告Y2の婚姻関係が修復不能な破綻状態にあったことは明らかである。
以上によれば,被告Y1が被告Y2と交際していたという点については,原告に対する違法な行為であると評価することはできない。
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