生命保険受取人が被保険者より先に死亡した場合の規定
保険金受取人を妻と指定しておいたのに、妻が先に死亡してしまったなどの例はよくあります。その場合、保険契約者は、さらに、保険金受取人を指定すればよいのですが、この指定をしないで、被保険者が死亡する例もよく あります。
そのような 場合に備えて、保険法46条は、次のように規定しています。
保険法
(保険金受取人の死亡)
第46条 保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。
なお、平成20年までは、商法676条2項が次のように規定していましたが、同年、廃止されました。。
商法
(第三者である保険金受取人が死亡した場合)
第676条 1 保険金額ヲ受取ルヘキ者カ被保険者ニ非サル第三者ナル場合ニ於テ其者カ死亡シタルトキハ保険契約者ハ更ニ保険金額ヲ受取ルヘキ者ヲ指定スルコトヲ得 2 保険契約者カ前項ニ定メタル権利ヲ行ハスシテ死亡シタルトキハ保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人ヲ以テ保険金額ヲ受取ルヘキ者トス
そうすると、保険金受取人が死亡し、その後、被保険者が死亡した場合は、保険法の規定により、保険金受取人の相続人が保険金を受取ることになります。相続人が死亡している場合は、その相続人が保険金を受取ることになります。受取る割合
では、その受取る割合は、どのようになるでしょうか。
相続ですから、相続分に応じて受取るように思えます。ところが、判例は、古くから、相続人は、均等に保険金を受取ることになるとしています。その根拠は、次の民法427条の規定です。
第427条
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
すなわち、保険法あるいは旧商法676条2項の規定は、保険金受取人を指定してるが、その受取り割合までは、指定していないとの考えです。これと異なり、保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする趣旨の指定も含まれ、各保険金受取人の有する権利の割合は相続分の割合になります(平成6年の最高裁の判決)。 。
平成5年の最高裁の判決では、下記のような親族関係1において、受取り割合いについて判断しています。
仮に、相続分に応じて受取るとなると、受取る割合は、相続人14人のうち、3人の子が、各4分の1であり、被保険者である子の分(残りの4分の1)を、異母兄姉3名および異母姉の子8名を含め14名全員で受取ることになります(相続分の計算は複雑です)。
しかし、最高裁(1審、2審も同じ)は、合計14名が、各14分の1づつ均分に受取ると判決しています。
親族関係図1 ---- 子 | 保険金受取人
昭和 62.5.9死亡---- | | || ---- 子 || || || ---- 子 ||------------ ----- | || | || ---- 子/保険契約者・被保険者
昭和63.11.13死亡|| || 受取人の配偶者 ---- - ---- 異母兄姉3名 - ---- - ---- 異母姉の子8名 受取人と、当該受取人が先に死亡したとすれば、その相続人となるべき者とが同時に死亡した場合
民法32条の2は、次のように規定しています。
第32条の2 数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
同時死亡の場合は、相互に相続しません(民法32条の2)。
生命保険の指定受取人と、当該指定受取人が先に死亡したとすれば、その相続人となるべき者とが同時に死亡した場合においては、 その者またはその相続人は、商法676条2項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」には当たりません。
指定受取人の相続人が受取人となります。
最高裁の平成21年の判決は、親族関係図2の状況で、 夫死亡時の、受取人である 妻の相続人、すなわち、 妻の兄が、受取人であるると判断しています。
親族関係図2 ---- 夫の弟 | | ---- 夫/被保険者・保険契約者 || || ---- 妻/保険金受取人 | | ---- 妻の兄 判例
- 最高裁判所平成21年6月2日判決
商法676条2項の規定は,保険契約者と指定受取人とが同時に死亡した場合にも類推適用されるべきものであるところ,同項 にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」とは,指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現 に生存する者をいい(最高裁平成2年(オ)第1100号同5年9月7日第三小法廷判決・民集47巻7号4740頁),ここでいう 法定相続人は民法の規定に従って確定されるべきものであって,指定受取人の死亡の時点で生存していなかった者はその法定相続人に なる余地はない(民法882条)。
したがって,指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同 時に死亡した場合において,その者又はその相続人は,同項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」には当たらないと解すべきで ある。そして,指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者との死亡の先後が明らかでない場合に, その者が保険契約者兼被保険者であったとしても,民法32条の2の規定の適用を排除して,指定受取人がその者より先に死亡したも のとみなすべき理由はない。
そうすると,前記事実関係によれば,民法32条の2の規定により,保険契約者兼被保険者であるAと指定受取人であるCは同時に 死亡したものと推定され,AはCの法定相続人にはならないから,Aの相続人であるEが保険金受取人となることはなく,本件契約に おける保険金受取人は,商法676条2項の規定により,Cの兄である被上告人のみとなる。- 最高裁判所平成6年7月18日判決
保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定に は、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。け だし、保険金受取人を単に「相続人」と指定する趣旨は、保険事故発生時までに被保険者の相続人となるべき者に変動が生ずる場合に も、保険金受取人の変更手続をすることなく、保険事故発生時において相続人である者を保険金受取人と定めることにあるとともに、 右指定には相続人に対してその相続分の割合により保険金を取得させる趣旨も含まれているものと解するのが、保険契約者の通常の意 思に合致し、かつ、合理的であると考えられるからである。
したがって、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と 指定した場合に、数人の相続人がいるときは、特段の事情のない限り、民法四二七条にいう「別段ノ意思表示」である相続分の割合に よって権利を有するという指定があったものと解すべきであるから、各保険金受取人の有する権利の割合は、相続分の割合になるもの というべきである。- 最高裁判所平成5年9月7日判決
一 商法六七六条二項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者、相続人」とは、保険契約者によって保険受取人として指定された者(以下 「指定受取人」という。)の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者をいうと解すべきであ る(大審院大正一〇年(オ)第八九八号同一一年二月七日判決・民集一巻一号一九頁)。
けだし、商法六七六条二項の規定は、保険金 受取人が不存在となる事態をできる限り避けるため、保険金受取人についての指定を補充するものであり、指定受取人が死亡した場合 において、その後保険契約者が死亡して同条一項の規定による保険金受取人についての再指定をする余地がなくなったときは、指定受 取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者が保険金受取人として確定する趣旨のものと 解すべきであるからである。この理は、指定受取人の法定相続人が複数存在し、保険契約者兼被保険者が右法定相続人の一人である場 合においても同様である。
ニ そして、商法六七六条二項の規定の適用の結果、指定受取人の法定相続人とその順次の法定相続人とが保険金受取人として確定し た場合には、各保険金受取人の権利の割合は、民法四二七条の規定の適用により、平等の割合によるものと解すべきである。
けだし、 商法六七六条二項の規定は、指定受取人の地位の相続による承継を定めるものでも、また、複数の保険金受取人がある場合に各人の取 得する保険金請求権の割合を定めるものでもなく、指定受取人の法定相続人という地位に着目して保険金受取人となるべき者を定める ものであって、保険金支払理由の発生により原始的に保険金請求権を取得する複数の保険金受取人の間の権利の割合を決定するのは、 民法四二七条の規定であるからである。
三 そうすると、佐和田英司が被上告人との間で、昭和六一年五月一日、被保険者を英司、保険金受取人を英司の母である佐和田タキ、 死亡保険金額を二〇〇〇万円とする生命保険契約を締結したが、タキが同六二年五月九日に死亡し、次いで英司が同六三年一一月一三 日に保険金受取人の再指定をすることなく死亡し、タキの法定相続人として英司及び上告人らの四名がおり、英司の法定相続人として 上告人ら以外に一一名の異母兄姉等がいるとの原審が適法に確定した事実関係の下においては、上告人ら及び英司の一一名の異母兄姉 等の合計一四名が保険金受取人となったものというべきであるから、右死亡保険金額の各一四分の一について上告人らの請求を認容し、 その余を棄却すべきものとした原審の判断は正当として是認することができる。