弁護士ホーム > 相続 >
2023.5.12 mf

生命保険受取人が被保険者より先に死亡した場合の法律問題/受取人と権利割合

弁護士河原崎弘

生命保険受取人が被保険者より先に死亡した場合の規定

保険金受取人を妻と指定しておいたのに、妻が先に死亡してしまったなどの例はよくあります。その場合、保険契約者は、さらに、保険金受取人を指定すればよいのですが、この指定をしないで、被保険者が死亡する例もよく あります。
そのような 場合に備えて、保険法46条は、次のように規定しています。

保険法
(保険金受取人の死亡)
第46条  保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。

なお、平成20年までは、商法676条2項が次のように規定していましたが、同年、廃止されました。。

商法
(第三者である保険金受取人が死亡した場合)
第676条
保険金額ヲ受取ルヘキ者カ被保険者ニ非サル第三者ナル場合ニ於テ其者カ死亡シタルトキハ保険契約者ハ更ニ保険金額ヲ受取ルヘキ者ヲ指定スルコトヲ得
保険契約者カ前項ニ定メタル権利ヲ行ハスシテ死亡シタルトキハ保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人ヲ以テ保険金額ヲ受取ルヘキ者トス

そうすると、保険金受取人が死亡し、その後、被保険者が死亡した場合は、保険法の規定により、保険金受取人の相続人が保険金を受取ることになります。相続人が死亡している場合は、その相続人が保険金を受取ることになります。

受取る割合

では、その受取る割合は、どのようになるでしょうか。
相続ですから、相続分に応じて受取るように思えます。ところが、判例は、古くから、相続人は、均等に保険金を受取ることになるとしています。その根拠は、次の民法427条の規定です。

第427条
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

すなわち、保険法あるいは旧商法676条2項の規定は、保険金受取人を指定してるが、その受取り割合までは、指定していないとの考えです。これと異なり、保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする趣旨の指定も含まれ、各保険金受取人の有する権利の割合は相続分の割合になります(平成6年の最高裁の判決)。 。
平成5年の最高裁の判決では、下記のような親族関係1において、受取り割合いについて判断しています。
仮に、相続分に応じて受取るとなると、受取る割合は、相続人14人のうち、3人の子が、各4分の1であり、被保険者である子の分(残りの4分の1)を、異母兄姉3名および異母姉の子8名を含め14名全員で受取ることになります(相続分の計算は複雑です)。
しかし、最高裁(1審、2審も同じ)は、合計14名が、各14分の1づつ均分に受取ると判決しています。

親族関係図1
----
|
保険金受取人
昭和 62.5.9死亡
----|
|
||----
||
||
||----
||-----------------|
|||
||----子/保険契約者・被保険者
昭和63.11.13死亡
||
||
受取人の配偶者---------異母兄姉3名
-
---------異母姉の子8名

受取人と、当該受取人が先に死亡したとすれば、その相続人となるべき者とが同時に死亡した場合

民法32条の2は、次のように規定しています。

第32条の2  数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。

同時死亡の場合は、相互に相続しません(民法32条の2)。
生命保険の指定受取人と、当該指定受取人が先に死亡したとすれば、その相続人となるべき者とが同時に死亡した場合においては、 その者またはその相続人は、商法676条2項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」には当たりません。
指定受取人の相続人が受取人となります。
最高裁の平成21年の判決は、親族関係図2の状況で、 夫死亡時の、受取人である 妻の相続人、すなわち、 妻の兄が、受取人であるると判断しています。

親族関係図2
----夫の弟
|
|
----夫/被保険者・保険契約者
||
||
----妻/保険金受取人
|
|
----妻の兄

判例


港区虎ノ門3丁目(神谷町)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161