同時死亡の場合の相続
弁護士河原崎弘質問:同時に死亡した場合の相続
夫と夫の父は、帰省先で交通事故に遭い、2人とも死亡しました。交差点で、 赤信号を無視したトラックに側面衝突され、即死でした。
49日も終わり、 相続と事故の賠償などの話が出ています。父親の遺産は、 夫が相続しないとの話がありますが、従って、私も相続しないとの話があります。本当でしょうか。私と夫の間には子供はいません。
相談者は友人の弁護士事務所を訪れました。
相続関係系図 夫の父 ======= 夫の母 | ーーーーーーーーーー | | 夫の妹 夫 = 私 回答:同時死亡の場合 相互に相続しない
同時に死亡した者(民法 32 条の 2 )の間においては、相続 しません。 あなたの夫は、父親の遺産を相続しません。従って、 あなたも、夫の父親の遺産を、夫を通して相続することはありません。
あなたの夫の父親の遺産は、父親の妻と、あなたの夫の妹が相続します。
この場合、もし、あなたと夫の間に子供がいれば、子供が、 あなたの夫の父親の遺産を 代襲相続 します(下記図で、緑色の場合)。
代襲相続の要件である「被相続人の子が、 相続の開始以前に死亡したとき(民法887条2項)」との用語から、 以前は、同時を含むとし、同時死亡の場合は、通常の相続ではなく、代襲相続が発生すると、 解釈するのです。
この場合の子の相続分は、父(あなたの夫)の相続分と同じです。 父(夫)の相続分と父(夫)の妹の相続分の合計は 1 / 2 です。子の相続分は、その 1 / 2 で、 夫の父の遺産の 1 / 4 です。
相続関係系図 夫の父 ======= 夫の母 | ーーーーーーーーーー | | 夫の妹 夫 = 私 | 子 関連質問:死亡時が明らかな場合
この場合、父親が事故現場で死亡し、夫が病院へ運ばれてから、死亡したとすると、どうなりますか。
同じ事故が原因で死亡すると、やはり、同時死亡の規定が適用されるのですか。回答
同時死亡の規定は適用されません。 父親が事故現場で死亡し、父親について相続が開始し、その後、夫が病院へ運ばれてから、死亡したので、夫についての相続が開始します。
相談者は、夫が父親から相続した遺産を相続します。参考条文
第5節 同時死亡の推定
民法32条の2
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
民法887条(子・代襲相続)
1 被相続人の子は、相続人となる。 2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、 又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、 その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。 但し、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。 3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、 又は第891条の規定に該当し、 若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合に準用する。 条文の新旧比較
従前の条文 「相続の開始前に死亡」 ↓ 昭和37年の改正法 「相続の開始以前に死亡」 判例
- 最高裁判所平成21年6月2日判決
商法676条2項の規定は,保険契約者と指定受取人とが同時に死亡した場合にも類推適用されるべきものであるところ,同項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者 ノ相続人」とは,指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者をいい(最高裁平成2年(オ)第1100号同5年9 月7日第三小法廷判決・民集47巻7号4740頁),ここでいう法定相続人は民法の規定に従って確定されるべきものであって,指定受取人の死亡の時点で生存して いなかった者はその法定相続人になる余地はない(民法882条)。
したがって,指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同 時に死亡した場合において,その者又はその相続人は,同項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」には当たらないと解すべきである。
そして,指定受取人と当該 指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者との死亡の先後が明らかでない場合に,その者が保険契約者兼被保険者であったとしても,民法32条の2 の規定の適用を排除して,指定受取人がその者より先に死亡したものとみなすべき理由はない。