紛争の相手方弁護士に対する紛議調停申立
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2023.8.13mf
相談:相手方弁護士の態度が悪い
私は、3年ほど交際した男性と婚約し、10か月ほど同棲していました。あるとき、お金のことで言い合いになり、その後、彼は、家を出たままです。お金のこととは、部屋代(月8万円)など、ほとんどを、私の持っていた預金から支払っていたことです。また、私が彼に貸していたお金が200万円ほどあります。
彼とは、電話で話合いをしていました。私は、彼に帰って欲しいのですが、帰らないなら、慰藉料を入れて500万円は支払って欲しいと言いました。
あるとき、突然、彼の依頼で弁護士が入りました。弁護士は、威圧的で、私に対し、「それなら、裁判をしてください」などと言って、話合いになりません。
弁護士の態度が悪いので、私は、弁護士会に対し、紛議調停の申立をしようと考え、苦情の申立をしました。弁護士会では、私の申立を無理だといいます。これは正しいでしょうか。
回答:紛議調停は意味がない
弁護士会に対する懲戒請求や、紛議調停申立の中に、ときどき、紛争の相手方の弁護士についての苦情があります。
紛争の相手方の弁護士は、相手方の依頼を受け、相手方の利益を守るために活動します。当然、他方の当事者の利益に反するでしょう。これは、許されることです。
紛争を有利に解決するために、相手方弁護士を攻撃することは、ほとんど、意味がありません。
当事者は、自分の利益を守るために自分で弁護士に依頼する必要があります。
相談者の紛争については、相談者は、ご自分で弁護士を依頼し、訴訟をする必要があります(話合いでは解決は無理です)。相手方の支払能力の点は心配ですが、訴訟をすれば、相談者には、貸金200万円、婚約破棄の慰藉料150万円〜200万円で、合計350万円〜400万円程度をの判決は出るでしょう。
紛争の相手方弁護士の行為に違法性があれば、通常、不法行為となり、損害賠償請求ができ、弁護士会に、紛議調停申立、懲戒請求ができます。次のようなケースです。
(弁護士の行為が違法になる例)
- 離婚事件の相手方弁護士が、自宅の住所を知っているにもかかわらず、嫌がらせのため、ことさら、勤務先の会社に内容証明郵便を送ってきたり、訪問する
- 相続人の代理人であるにもかかわらず、相手方弁護士が遺言執行者に就任した
- 性犯罪の被害者が断っているにもかかわらず、相手方弁護士が、被害者に対し、執拗に、示談することを申入れるよう助言したり、申し入れをすること
- 裁判における弁論内容(訴状、準備書面に犯罪行為や前科が記載してあり)が、当事者の名誉を毀損している
判決
- 東京地方裁判所平成29年9月27日判決
したがって,本件離婚記載Dについては,違法性が阻却されるものというべきである。
(6)本件離婚記載Eについて
本件離婚記載Eは,原告が,本件面談@ないし本件面談Aの際,CないしBに対し,欺罔ないし脅迫をしたことが不法行為に当たるとのCないしBの主張に関して記載したものだと解されるとこ
ろ,かかる記載は,前記(1)に記載したのと同様の理由で本件離婚調停における争点の判断のために必要性があるものと認められる。しかし,「弁護士として存在すること自体,許されない」という表
現は,原告が不法行為責任を負い,それに関する訴訟提起が予想される旨を本件離婚調停の進行の参考とするために,裁判所に伝えるという目的を超えて,弁護士である原告の人格を攻撃するものといえ,
その表現方法が不当なものといわざるを得ない。
したがって,本件離婚記載Eについては,違法性が阻却されないものというべきである。
(7)本件離婚記載Fについて
本件離婚記載Fは,原告が,本件面談@ないし本件面談Aの際,CないしBに対し,欺罔ないし脅迫をしたとのCないしBの主張に関して記載したものだと解されるところ,かかる記載は,前記
(1)に記載したのと同様の理由で本件離婚調停における争点の判断のために必要性があるものと認められ,その表現方法も不当なものとはいえない。
したがって,本件離婚記載Fについては,違法性が阻却されないものというべきである。
- 広島高等裁判所平成27年6月18日判決
弁護士が法律相談のため受領した相談者の手紙を別件訴訟において文書(書証)として提出したことが、プライバシー侵害の不法行為に当たるとされた
- 富山地方裁判所平成23年12月14日判決(出典:判例秘書)
そして,被害者が検察官を通じて示談に応じるつもりがないとの意向を伝えていた場合には,改めて検察官を介して謝罪
と示談の申入れの書面を被害者に渡して読んでもらうという方法では,被害者が受取り自体を拒否する可能性があるので,被害者に書
面を読んでもらうために,検察官を介さずに被害者に対して示談を申し入れる書面を直接送付したことが,正当な弁護活動を逸脱した
違法なものであるとはいえない。したがって,上記「申入書」と題する書面を原告に対して送付したことは,違法とはいえない。
また,本件調停事件を申し立て,本件調停事件の調停期日の前後に同期日への出頭を要請したことは,調停委員会を通じ
た説得による示談解決を期待したものであり,正当な弁護活動を逸脱した違法なものであるとはいえない。
(イ) 上記認定のとおり,被告Y2(弁護士)は,原告から示談はしない,話すこともない旨の記載のある本件回答書を受け取ったと
ころ,その後,被告Y4らに対し,原告宅を訪問して謝罪するとともに示談のお願いもするよう助言したものであり,被告Y2の助言
を受けて,被告Y4らは原告宅を訪れて原告に対して謝罪をするとともに示談の申入れをしている。
上記Y2の助言の違法性について検討するに,上記認定のとおり,被告Y2は,原告が示談には応じるつもりがないこと
を知りながら,原告に対し書面の送付あるいは調停申立てによる示談を試みたが,いずれも奏功せず,原告から回答は得られず,調停
期日にも出頭してもらえず,その後,本件回答書により,原告から示談には応じない旨の通告を受けたものである。
かかる交渉経緯に鑑みると,示談に応じないとの原告の意向は極めて明確かつ堅固であり,接触することも嫌悪しており,
これを拒否するとの意向も明確であり,これ以上,原告に対し示談交渉をしても,これに応じてもらうことは不可能であることは客観
的に明らかであったと認められる。
そして,犯罪被害者等基本法6条が犯罪者被害者等の名誉又は生活の平穏を害さないように配慮す
ることが国民の責務であると定めていることや,刑事訴訟法290条の2及び同法299条の3が被害者特定事項の秘匿について定め,
同法316条の33は強姦の罪を含む一定の罪の被害者等による刑事手続への参加について定めていることなどは,犯罪被害者の権利
や利益に配慮する必要性が高いことの表れであるが,原告は,その中でも性犯罪という特に被害者に対する配慮を必要とする類型の犯
罪の被害者であることなどを併せて考慮すると,原告の意向が明確で,示談交渉に応じる余地がないことは明白になったにもかかわら
ず,原告宅を訪問して,謝罪及び示談の申入れをするという直接交渉の方法を助言したことは,原告の感情をいたずらに刺激し,その
安定を損ない,苦しめるだけであって,上記法の趣旨を損なうものであり,正当な弁護活動を逸脱する違法なものであるというべきで
ある。
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長崎地方裁判所佐世保支部平成23年9月5日判決(出典:判例秘書)
しかし,これらが認められる余地があるとしても,本件各記載には,詐欺や横領等の犯罪行為や前科内容の摘示も多く含まれ
ている上,それ以外にも「邪悪」,「毒牙」,「悪らつ」,「狡猾」などといった苛烈な表現が用いられており,被告らが法律専門家
たる弁護士であることからすれば,このような方法によらずとも,より適切かつ穏当な方法によって,原告供述の信用性を弾劾するこ
とは十分に可能であったといえる。
また,証拠(乙16,18,23,25,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告らは,別件訴訟
の第一審において被告Y1が提出した準備書面中の「タクシーチケットの不正利用」,「当たり屋とも思われる行動があった」との記
載について,原告から,いずれも原告が詐欺罪を犯した旨の事実摘示であって名誉毀損に該当する旨警告を受けたにもかかわらず,そ
の後も,原告が強姦容疑等で逮捕されたり強要罪等で起訴され有罪判決を受けた旨記載された準備書面等を提出した上,別件訴訟の控
訴審において本件控訴理由書を提出したことが認められ,上記の要証事実との関連性や主張の必要性の程度に加え,かかる被告らの訴
訟活動の経緯等も勘案すると,被告らが本件控訴理由書において本件各記載の表現に及んだことが,主張方法として相当であったもの
と認めるに足りない。
したがって,被告らが本件控訴理由書を提出・陳述したことが,正当な弁論活動として違法性が阻却されるものとはいえない。
3 争点3(原告の損害額)
前記1,2の認定説示のとおり,本件各記載には原告が犯罪行為を行った旨の摘示や原告の前科内容が多く示されていること,
本件控訴理由書の提出・陳述は原告の警告後になされたものであること,本件訴訟提起までの間,第三者による別件訴訟記録の閲覧・
謄写はなされていないこと(弁論の全趣旨),その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,本件各記載により原告に生じた精神的苦
痛に対する慰謝料は30万円と認めるのが相当である。
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東京地方裁判所平成18年12月18日判決
被告Y3は,甲4及び5の手紙の送付ないし本件訪問によって,A内で原告と被告Y1との間の離婚交渉に関する情報が知られ,そのた
め原告のAにおける立場が悪化している可能性が高いこと,Aが原告に対して再び何らかのトラブルが起こるのではないかと注視していること及びさらに弁護士名で内容
証明郵便をA内に送付したりすれば,中身を第三者が閲読するか否かにかかわらず,送付されたこと自体でさらに原告が困惑し,A内での立場が悪化し信用が低下するで
あろうことは,被告Y3は容易に認識し得たものというべきである。
加えて,被告Y3は弁護士として相手方の利益にも配慮して適切な手段を選択すべきであるにもかかわらず,被告Y1及び被告Y2によるAへの内容証明郵便
の送付の要請に安易に従い,原告と電話等で連絡を取って警告したり,原告が相談している弁護士を聞き出してその弁護士に内容証明郵便を送付することなどの原告の利
益を害さない手段を検討しなかった。
したがって,甲6の手紙の送付行為は社会的相当性を逸脱する違法なものであり,被告Y3には当該行為について少なくとも過失があったというべきである。
また,当該行為によって原告が困惑し,Aの原告に対する信用が低下したと認められるから,同被告は当該行為について不法行為責任を負うものと解するのが相当である。
- 東京高等裁判所平成15年4月24日判決(出典:判例時報1932号80頁)
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有し(民法1012条)、遺言執行者がある場
合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(同1013条)。すなわち、遺言執行
者がある場合には、相続財産の管理処分権は遺言執行者にゆだねられ、遺言執行者は善良なる管理者の注意をもって、その事務を処理
しなければならない。したがって、遺言執行者の上記のような地位・権限からすれば、遺言執行者は、特定の相続人ないし受遺者の立
場に偏することなく、中立的立場でその任務を遂行することが期待されているのであり、遺言執行者が弁護士である場合に、当該相続
財産を巡る相続人間の紛争について、特定の相続人の代理人となって訴訟活動をするようなことは、その任務の遂行の中立公正を疑わ
せるものであるから、厳に慎まなければならない。
弁護士倫理26条2号は、弁護士が職務を行い得ない事件として、「受任している
事件と利害相反する事件」を掲げているが、弁護士である遺言執行者が、当該相続財産を巡る相続人間の紛争につき特定の相続人の代
理人となることは、中立的立場であるべき遺言執行者の任務と相反するものであるから、受任している事件(遺言執行事務)と利害相
反する事件を受任したものとして、上記規定に違反するといわなければならない。
2011.3.3