黙示の不動産使用貸借/遺産である家に無償で住めますか
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2015.7.10mf
弁護士河原崎弘
相談(不動産/相続)の概要
私たち家族は、父と同居し生活していました。父が死亡し、相続人は、私、兄と妹でした。父は遺言を残し、それによると、相続分の指定があり、私が3/5、兄と妹は1/5と指定されていました。母は前に亡くなっています。
遺産は、この割合で分けることは、よいので、今、家庭裁判所で話し合っています。もう2年になります。
兄と妹が、私が亡父の家に住んでいる家賃相当額を不当利得として支払うよう求めています。その金額は月額25万円です。
私は、この金額を支払う必要がありますか。
相談者は、弁護士会がデパートで開いていた法律相談所で弁護士に相談しました。
回答
使用貸借は、借主が死亡すると、効力を失います(民法599条)。この反対解釈として、貸主が死亡しても、使用貸借は終了しないのでしょう。
あなたは、お父さんが生きている間は、その家に無償で住むことができました。あなたは、法律上は占有補助者と言います。お父さんとあなたの間に無償で住むことに関し、契約などないのが普通でしょう。
お父さんが亡くなると、あなたは占有補助者ではなくなりますので、無償で住む根拠はなくなります。
しかし、意思の推測という事実認定の問題ですが、お父さんの意思を推測すると、お父さんには、「自分が死んだ場合、すぐ家を出なさい」との意思はなかったと考えられるでしょう。しかし、「いつまでも住んでもよい」との意思でもなかったでしょう
お父さんの意思は、通常は、遺産分割終了までは住んでよいと推測できます。
判例も、「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認する」としています。
あなたは、遺産分割終了まで、無償で、その家に住むことができます。
お兄さんと妹さんの要求は認められないでしょう。
判例
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最高裁平成8年12月17日
判決(判例時報1589号45頁)
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事
情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有
関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるので
あって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が
貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。
けだし、建物
が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の
相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続
人の通常の意思に合致するといえるからである。
2004.11.22
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