相談:不動産
私は、次男がマンションを借りる際の連帯保証人になりました。その後、次男は契約を 2 回更新し、家賃も 40 万円になりました。その後、次男が経営していた会社は倒産し、滞納家賃は約 500 万円なりました。次男が支払い能力がないので、貸主から私に対して請求が来ています。
更新契約では私は保証人として捺印していません。私は滞納家賃を支払う義務がありますか。
相談者は市役所の法律相談室で弁護士に相談しました。
回答
これについては前から説が別れていました。その後、後記平成9年の最高裁判例により、「更新後の賃料についても、保証人は責任を負う」と、確定しています。
借地借家法の適用を受ける建物賃貸借契約は期間満了後も更新されるので、保証人も当然更新されることを認識すべきであるとし、この場合、原則として、保証人は更新後の滞納賃料についても責任を負います。これは、法定更新であろうと、合意更新であろうと同じです。これが、原則です。
ただし、次のような場合は、保証人は、責任を負いません。
-
借主が賃料を滞納していることを、貸主が保証人に連絡しなかった場合、
-
契約当時予測し得ない事情があるなどの特段の事情のある場合
- 貸主が明渡を実行できるのに、それをせずに
保証人に請求するのは、権利の濫用で許されない
従って、原則として、あなたに、保証人として、支払い義務があります。例外的に、保証人の責任を免れることがあると言えます。
判決例
- 大阪地方裁判所平成25年1月31日判決(判例秘書)
この点,原告代表者は,上記のとおり,Aの賃料滞納があってから,Bに賃料を納めてもらおうと思い電話をしたなどと陳述するが,その陳述内容は,Bに対し
て権利行使しようとしたが,「好きなようにやってくれ。」などといわれて思いとどまったという不自然なものであって直ちに採用することはできない。また,この点を
おき原告代表者の陳述を前提にするとしても,原告代表者がBに電話をしたのは,Aが行方不明となる前のことであるというのであって,しかも,Bに伝えた内容は全く
判然としない上,Aが行方不明となった後は7年近くも何もせずに放置したことを原告自身が認めている(原告は,原告代表者にはなすすべがなかった旨主張するが,原
告がBに対して権利行使をする上での支障があったとか,弁護士等の法律専門家に相談できなかったとかいう事情は何も見当たらないことに照らせば,原告は,権利行使
できるのにそれを放置していたといわれてもやむを得ない。)。
以上のことに照らせば,平成16年9月にはAが行方不明となったというのであり,その賃借人としての債務の任意履行が全く期待できない状況が現出したとい
えるから,権利行使をするかどうかは権利者の自由であるとの原則を最大限考慮したとしても,少なくとも,本件賃貸借がAが行方不明となってから2回目の更新を迎え
た平成19年5月13日以後(契約締結後5回目の更新以後)に生じる関係については,原告がBに対して連帯保証人の責任を追及することは信義誠実の原則に反し許さ
れないというべきである。
- 東京地裁平成10年12月28日判決(判例時報1672-84)
また、山本(賃借人)は、前件訴訟の際にも約240万円もの賃料を滞納していたものであり、それゆえ、本件賃貸借契約には賃料の支払を2
か月怠ったときには、原告は本賃貸借契約を無催告解除しうる旨の特約も付されていた。
しかるに、本件更新時には、山本の延滞額は200万円にも及んだが本件賃貸借契約は解除されず、原告自身ですら賃貸借契約の更新に消極的であったにもかかわらずそのまま法
定更新されたものであり、さらに、山本は更新後も賃料延滞はおさまらず、最終的にその額は400万円を超えるまでになり本件訴訟
が提起されたというのであって、右のような事態が、本件連帯保証契約が締結された当時、契約当事者間において予想されていたものとは言いがたい。
以上の諸点を総合すれば、被告において本件更新後は本件連帯保証責任を負わないと信じたのも無理からぬことであったということ
ができ、山本が本件更新に負担した賃料等の債務については右連帯保証責任を負わない特段の事情があったものとするのが相当である。
- 最高裁平成9年11月13日判決(判例時報1633-81)
以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借契約から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないものというべきである。
これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、前記特段の事情がうかがわれないから、本件保証契約の効力は、更新後の賃貸借にも及ぶと解すべきであり
- 東京地裁平成9年1月31日(
判決判例タイムズ952-220)
被告野沢(保証人)主張の特別解約権について
1 被告野沢は、被告李が本件店舗において営業する飲食店の顧客であり、被告李の日本語が十分でないことから、被告李に頼まれて
原告と同被告の本件賃貸借契約の締結に立ち会い、連帯保証人になったものである。その当事、被告李は、補償金2000万円及び池
内か賃借人であった当時の未払の賃料及び電気・水道料合計2100万円を原口に支払って本件店舗を借り受けたのであり、その際、
原告は被告李の要請に応じて本件店舗の水漏れ等の修繕を約したのであり、被告野沢は、これを確認して、本件店舗の賃貸借契約か正
常なものになると信じて右のとおり連帯保証人になったものである(被告ら各本人尋問の結果)。
ところか、前認定のとおり、原告は
本件賃貸借契約締結の直後から、被告李からの本件店舗の修繕に誠実な対応をせず、これが本件紛争につなかっていったものである。
2 被告野沢が特別解約権を行使した平成8年3月6日の時点において、被告李の賃料等不払は、最終支払日である平成5年2月15
日から約3年に及んでおり、本件賃貸借契約か解除された平成5年5月18日からでも1年9月に及んでいる。原告が被告李に対し、
本件店舗の明渡しを求める本件訴訟を提起した後、その請求権の有無についての審理に著しい長期間を要したのは、原告の賃貸人とし
ての誠意を欠く態度に起因するところか大きい。
すなわち、前記認定のとおり、原告は、本件店舗の修繕義務を尽くさず、そのことに
ついての指摘を被告李から受けても、徒らにこれを否認し、当裁判所の鑑定の結果により原口の本件ビルの管理が悪いことを指摘され
ても、なおそれを受け れずに争ってきたものであり、また、原告は訴訟代理人により本件訴訟を提起する以前には、手気料、水道料
等の請求明細もはっきりさせず、被告李代理人からの内容証明郵便の受取りを拒むなどの不信義な態度を取り、さらに、2000万円
の保証金についても、これは被告李が現在差入れ中の保証金にあてられているとして返還を拒絶するなどの不信義な態度を取ってきた
ものであり、原告のこのような姿勢により、事案の解明に著しい長期間を要したものである。
3 このような原告の姿勢による原告と被告李との間の本件店舗の明渡しをめぐる紛争の長期化は、被告野沢の予期しないところであ
り、右1のような事情から被告李の連帯保証人となった被告野沢に対し、平成8年3月6日以降になっても、なお被告李の明渡しの遅
滞による責めを負わせるのは酷に失し、正義の観念に反する。したがって、被告野沢については、信義則上、右の時点で解約を認め、
被告李の連帯保証人としての地位からの離脱を認めるべきものである。
4 右時点までの被告李の本件店舗の賃料等の不払の額は、被告李が原告に差し入れた保証金2000万円をもって充てれば優にまか
なえる金額であり、被告野沢は、右1認定のとおり、右保証金の存在を前提として連帯保証人となったものであるから、被告野沢に、
被告李の賃料等の不払の額の負担を命ずるのは信義則上適当でない。したがって、原告の被告野沢に対する請求は理由がない。
- 東京地裁平成6年6月21日(判決判例タイムズ853-224)
そこで、被告の主張について検討するに、本件賃貸借の契約書(〈書証番号略〉)に、(1)「期間満了の場合は両者合議のう
え契約を更新することをうるものとする」、(2)「本契約更新の際は現金にて8万600円を貸主に支払うものとする」との各記
載があることからすれば、本件賃貸借は当然に更新されることが予定されていたもので、被告においても、本件賃貸借が2年で終了す
ることなく、更新されることを承知して連帯保証人になったものと認められる。
とすれば、更新後は連帯保証人の責を免れるとの明示
のない本件においては、被告は更新後に生じた本件賃貸借に基づく債務についても責任があると解される。
もっとも、賃借人の賃料の
支払がないまま、保証人に何らの連絡もなしに賃貸借契約が期間2年として2回も合意更新されるとは、社会通念上ありえないことで、
被告がかかる場合にも責任を負うとするのは、保証人としての通例の意思に反し、予想外の不利益をおわせるものである。
本件におい
ては、昭和63年11月以降、賃借人川島の賃料不払が継続していたにもかかわらず、被告に何らの連絡もなく、平成2年4月19日
及び平成4年4月19日の2回にわたり本件賃貸借契約が合意更新されている(被告本人、弁論の全趣旨)のであるから、平成4年4
月19日以降の本件賃貸借に基づく債務について被告は保証人としての責任は負わないものというべきである。
- 東京地方裁判所昭和51年7月16日判決(判例時報853号70頁)
しかしながら、《証拠略》によれば、本件建物は交通上不便な場所に位置し、賃借単位である一室の広さが50坪弱もあって、借り手が得難いこと、本件建物中二階の
一室はここ1年来空室のままで賃借人が得られないことが認められるので、原告が昭和50年11月30日の明渡期限到来後も前記和解調書による明渡執行に着手しない
でいるのは本件建物部分を空室とするよりも訴外会社に使用を継続させ、訴外会社又は被告から賃料相当障害金の支払を受ける方が得策であるとの判断に基づくものと推
認でき、原告本人尋問の結果中明渡の執行費用として100万円ないし150万円を要するためその調達ができず明渡執行に着手できない旨の部分は、同じ原告本人尋問
の結果によって認められる訴外会社は本件建物部分を事務所として使用しており室内には事務用品が置かれているにすぎない事実に照らしてたやすく信用できない。
そして本件におけるようなビルの一室の明渡は通常明渡期限到来後2か月以内には執行を完了できるものとみられ、本件において明渡執行完了までに特別長期間を必要
とする格段の事情の存在はうかがわれないから、昭和51年2月1日以降の本件建物部分明渡遅延は原告の特段の理由に基づかない権利不行使によるものであり、これに
より増大した損害を保証人に負担させることは信義誠実の原則に著しく反するものといわなければならず、原告の本訴請求中昭和51年2月1日以降の賃料及び共益費相
当損害金の支払を求める部分は権利の濫用として許されないものというべきである。
虎ノ門3丁目(神谷町駅1分) 弁護士河原崎弘 03−3431−7161