内容証明郵便の受取り拒否

弁護士ホーム法律事務所
Last update 2015.4.30mf
弁護士河原崎弘
質問:不動産
マンションを家賃18万円で貸しています。借主が家賃を3か月分滞納したので、内容証明にて「3日以内に支払え」と請求しましたが、相手は不在で、郵便は返送されてきました。
区役所の法律相談では、「契約書に家賃滞納の場合無催告で解除できるとの規定がないので、内容証明郵便が届かないと催告としての効力がない、従って、解除できない」と言われました。
どうしたらよいですか。

回答
意思表示は相手に到達したときに効力が生じます(民法97条1項)。到達とは、意思表示が、相手が了知できる状態に入ることです。郵便受けに投入されたり、同居の親族、家族、雇人などが受け取れば、本人が了知しなくても到達なります。

相手が 内容証明郵便 の受領を拒否したり、不在で1週間の留置き期間が経過した場合、郵便は返送(還付)されます( 内国郵便約款87条 )。不在の場合郵便局は「書留め郵便が届いたので、お受取り下さい」と相手に通知しています。従って、相手は郵便を受取ることが可能な状況にあります。この場合、郵便に書かれた意思表示は相手に到達したと認定されるかの問題です。
到達は、意思表示が相手の勢力圏内に入ること、すなわち、社会通念上一般に了知しうべ客観的状態を生じたと認められることです。郵便受けに投入された、または、同居の親族、家族、雇人などに交付されたときは、例え、本人がこれを了知しなくとも、到達となります。

判例を見ますと、受領拒否では、意思表示は到達したと認定しています(東京地裁判決平成10年12月25日金融法務事情1560-41、東京地裁判決平成5年5月21日判例タイムズ859-195、大阪高裁判決昭和53年11月7日判例タイムズ375-90、大審院昭和11年2月14日判決・民集15-158)。

不在の場合は、受取り拒否と推測して意思表示は到達したと認定した判例(大阪高裁判決昭和53年11月7日判例タイムズ375-90、東京地裁判決昭和61年5月26日)と、到達していないとの判決があります(大阪高裁判決昭和52年3月9日判例時報857-86)。

下級審の判例が別れている場合、裁判官は、この判断を避けようとしたり、あるいは、挙証責任を根拠に「意思表示は到達していない」と判断しがちでした。
しかし、この問題は、下記 最高裁の判決 により決着がついたと考えてよいでしょう。
本件では、意思表示は到達したと考えてよいでしょう。さらに、再度、内容証明郵便を送ったらどうでしょう。2度も返送されたら、相手が意図的に受領を拒否している態度が、さらに判明します。
このような面倒な問題を回避するため、賃貸借契約書の中に「賃料を 1 か月分でも滞納した場合、貸主は催告なくして賃貸借契約を解除できる」との条項を入れておくとよいでしょう。

最高裁平成10年6月11日判決:
遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合において、受取人が、不在配達通知書の記載その他の事情から、その内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ、また、受取人に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができたなど判示の事情の下においては、右遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、受取人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められる。

関連質問
内容証明郵便は、「請求した、しない」、「言った、言わない」の判断に使えると思うのですが、受取り人が、以下の行動に出た場合、裁判において内容証明郵便は到達したことになるのでしょうか?
回答
受取り拒否の場合は、到達したと認定されるでしょう。不在の場合は、到達したとみる判例と到達していないとの判例に別れます。判例は上記。
その他は到達しています。以上は、配達証明がある場合です。

関連質問
内容証明郵便物の転送について、質問があります。
お金を貸した相手が、転居してしまい転居先がわかりません。普通の郵便で督促すると、郵便物はこちらに戻って来ないので郵便局には転居届が出されているようです。
このような場合、内容証明付き郵便で督促する場合、旧住所で差し出した場合、ちゃんと転送してくれるのでしょうか。
それとも、受取人が旧住所に住んでいないと言うことで、戻ってくるのでしょうか。
もし、転送されるとしたら、内容証明郵便に書いてある旧住所と、転送先の新住所が違うので無効になったりはしないでしょうか。本を読んでも、こういった例が書いてなかったので、どうなのか教えて下さい。郵政相談室などに相談しても、「転送されるとは思いますが、法的な詳しいことはわかりません。専門家に相談して下さい」と情けない答えしか返ってきませんでした。

回答
内容証明郵便も転送期間内であれば転送されます(郵便約款87条)。転送期間は届出から1年間です。
その場合、意思表示が到達したことになります。従って、法律的効果なども生じます。例えば、請求による時効中断効果(民法 147 条)、遅滞に陥らせる効果(民法412条3項)などがあります。
転送されない郵便物とは、「転送不要」と書かれた郵便物です( 郵便約款 87条 )。

コメント
集配郵便局の集配課に勤務する方から、次のコメントがありました。 回答
特別送達郵便を受取り拒否した場合は、配達人は郵便物をその場に置いてくること(差置送達)ができます(民事訴訟法 106 条 3 項)。その意味で、特別送達郵便は「受取り拒否できない」と言う人がいるかもしれません。しかし、内容証明郵便はそうではありません。
受取人が内容証明郵便を「受取り拒否」した場合、郵便物は留置かず直ちに差出人に還付されます。
特別送達郵便は裁判上の書類の送達に使われます。
さらにコメントどうぞ。

関連質問
質問なんですが、受取拒否のページには「転居先不明」と、「転送期間経過」の取扱いには触れてませんが、法的にはどのように解釈されるのですか。
また、どのようにしたら不明者を探せるのですか。

回答
「転居先不明」および「転送期間経過」で郵便物が戻るということは、受取人がその場所にいないのです。従って、郵便は届いていない、意思表示も到達しなかったことになります。
その場合に、どうしても意思表示を到達させる必要がある場合は(例えば、期限の定めなき債務で催告をして相手を遅滞に陥らせ遅延損害金を請求する必要がある)、公示送達 という方法があります(民法97条の2)。
行方不明者を捜すことは、なかなか、難しいです。通常は、住民票を調べたり、電話番号から住所を調べたりします。

内国郵便約款
(郵便物の転送)
第87条
郵便物は、その受取人がその住所又は居所を変更した場合において、その後の住所又は居所を当社が別 に定めるところにより変更前の住所又は居所の郵便物の配達を受け持つ事業所に届け出ているときは、その届出 の日から1年内に限り、これをその届出のあった住所又は居所に転送します。ただし、その表面の見やすい所に 「転送不要」の文字その他転送を要しない旨を明瞭に記載した郵便物については、この限りでありません。
書留、交付記録郵便又は代金引換としない郵便物の配達を受けた者が受領後遅滞なくその郵便物に受取人の移 転先を表示して差し出すときは、前項の届出がない場合でも、その郵便物に限り、これをその移転先に転送しま す。
前2項の規定により転送する郵便物が速達、翌朝郵便又は新特急郵便としたものであるときは、それぞれその 取扱いにより転送します。ただし、翌朝郵便又は新特急郵便としたものでその取扱地域外に転送するものについ ては、速達の取扱いにより転送します。
(郵便物の返還)
第88条
受取人に交付することができない郵便物は、差出人に返還します。
法若しくは法に基づく総務省令の規定又はこの約款の規定に反して差し出された郵便物は、次の場合を除き、 差出人に返還します。
(1) 第19条(郵便書簡の差出方法)第4項に規定する場合
(2) 第26条(規定に反して差し出された郵便葉書)に規定する場合
(3) 第83条(料金未払又は料金不足の郵便物の取扱い)の規定により受取人が受け取った場合
(4) 第95条(危険物の処置)の規定により棄却された場合
(5) 法第81条(郵便禁制品を差し出す罪)の規定により没収された場合
3 郵便物の差出人が返還すべき郵便物の受取りを拒んだときは、その郵便物は、当社に帰属します。
郵便物の差出人が返還すべき郵便物の受取りを拒んだときは、その郵便物は、当社に帰属します。
(受取人不在のため配達できない郵便物の取扱い)
第89条
受取人不在のため配達することができなかった郵便物(あらかじめその郵便物の配達を受け持つ事業所 に旅行その他の事由によって不在となる期間を届け出てある受取人にあてた郵便物を含みます。)で当社が別に 定める期間内に配達することも交付することもできないものは、その期間経過後に差出人に返還します。
その表面の見やすい所に「不在留置何日」その他受取人不在の場合のその郵便物の留置期間(当社が別に定め る日数以内に限ります。)を表示した郵便物は、前項の規定にかかわらず、その留置期間の経過後に差出人に返 還します。
返還する郵便物が速達、翌朝郵便又は新特急郵便としたものであるときは、それぞれその取扱いにより返還し ます。ただし、翌朝郵便又は新特急郵便としたもので、その取扱地域外に返還するものについては、速達の取扱 いにより返還します。
*1 第1項の当社が別に定める期間は、最初の配達の日又は不在となる期間(最長で30日とします。)の 満了の日から7日(受取人が郵便物の留置期間の延長を申し出たものは、最初の配達の日から10日)と します。
*2 第2項の当社が別に定める日数は、7日とします。

当サイト内における内容証明郵便に関する記事

登録 Feb.4, 1999
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301 河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 3431-7161