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2019.2.6mf更新
弁護士河原崎弘
不倫相手との金銭貸借の効力
相談
私は42歳、会社を経営しています。私には妻子があります。
週1回位飲みに行っているクラブの女性(35歳)が、マンションを買うときに、私は、500万円貸しました。お金は私から彼女の口座に振込み、「月6万円を、8年間にわたり返済する」との借用書も書いてもらいました。
先日、些細なことで、彼女と喧嘩して気まずい雰囲気になってしまいました。私が彼女と別れた場合、私は彼女に貸金の返還を請求できますか。私と彼女は肉体関係があります。
相談者は、久しぶりに顧問の弁護士事務所を訪れました。
回答
相談者に妻子がいますので、これは愛人に対する金銭貸借です。
愛人との関係での金銭の貸借、贈与は、問題となることが多いです。一般論は次の通りです。
-
愛人関係の維持目的の場合は、法律は保護しません。無効となります。
- 愛人の生活の維持を目的とした贈与は有効と認められやすいです。
法律は公序・良俗に反する法律行為を保護しません。
愛人に金を貸した場合、それは愛人との不倫関係を維持する目的があるでしょう。あなたと彼女との金銭消費貸借契約(貸金契約)は無効です(民法90条)。
契約が無効でも、あなたが彼女に渡した500万円は不法原因給付ですので、返還請求できません(民法708条)。従って、あなたが、彼女に対して、貸金返還請求の訴を提起した場合、裁判所は、請求を棄却する可能性が大きいです。借りた側に、詐欺行為があった場合、半分の返還を認めた判決(下記)がありました。
最近の判例を見てください。
裁判ではなく、任意に返還を受けることは大丈夫です。弁護士は、話合いで返済してもらうことを勧めました。
判決
- 大阪地方裁判所平成24年4月24日判決
本件領収証等により認められる本件請求貸金を含む一連の貸付けは、被告が、原告に対し、貸金の使途、担保提供等につき欺罔ともい
える言辞を労し、原告にこれを実行させたというべきであり、一連の貸付けの動機がいわゆる愛人関係を維持することにあったとしても、これにつけ込み、詐術ともいえ
るような手段を用いて貸付けを行わせた被告には、原告を上回る不法性があると解するのが相当である。
このことからすると、本件においては、民法708条本文についての上記判決の趣旨、あるいは、同条ただし書きの規定の趣旨から、本件請求貸金のうち、被告が、不
法原因給付としてその返還を拒める範囲は、本件請求貸金の2分の1である1544万5000円にとどまり、残額については、被告は、原告に対し、不当利得として1544万5000円の返還義務を負うものというべきである。
- 東京地裁平成17年12月9日判決
(1)不法原因給付について
甲14,原告(貸主)代表者Bの供述,被告Y1(借主)の供述によると,Bと被告Y1は,平成15年7月ころから交際を始め,同年10月ころには結婚を考えるようになっ
ていたこと,被告Y1には,△△△の開店が中止されるまでは,原告と結婚したいという気持ちがあったこと,原告は,被告Y1に招待され,韓国にある被告Y1の実
家を訪問したことがあることが認められ,Bが,被告Y1との愛人関係を維持する目的を有していたと認めることはできない。また,前記認定事実によると,原告から
被告らへの金員の交付は,バンス代として返還を予定されたものであり,仮に被告の主張のとおり原告が,被告Y1との愛人関係を維持するためになされたものである
ならば,贈与するのが通常であり,金員の返還の約束をさせる消費貸借としたことの合理的説明ができない。
したがって,原告の被告らに対する金銭の交付は,公序良俗に反するものではなく,不法原因給付には当たらないものというべきである。
- 東京高裁平成11年6月16日判決(判例時報1692-68)
伝言ダイヤルで知り合った女性に対する300万円の交付について、
平成8年1月に借用書が作成された時点で、本件金員の返還を目的とする準消費貸借契約が成立したと認める余地がないわけではない。
しかし、その前提となった契約は、控訴人も主張するように愛人契約であり、公序良俗に反し無効であって、本件金員の交付は不法原因給付に当たるから、控訴人は、被控訴人に対し、本件金員を不当利得として返還するよう求めることはできないものと解するのが相当である。
そうすると、本件準消費貸借契約は、法的に存在しない被控訴人の控訴人に対する不当利得返還義務を消費貸借の目的としたものというべきであるから、本件準消費貸借契約が有効に成立したということはできない。
- 東京高等裁判所昭和55年6月26日
判決
以上の事実によれば、被控訴人は、法律上の妻又は事実上の妻でなくして妻帯の男性から経済上の援助を受けて、これと性的結合関
係を継続する女性として、当時控訴人の妾ないし二号(以下単に「妾」という。)であったと認めるのが相当であり(最高裁昭和三二
年九月二七日判決、刑集一一巻九号二三八四頁参照)、この場合、たとい控訴人が一つ家に被控訴人と同棲若しくは寝泊りしていた事
実がなく、交付した金員に定期、定額的性格が稀薄である反面、被控訴人が他に職を持ってこれからもその生活費を稼いでいたとして
も、右の結論を左右するものではなく、また、被控訴人が控訴人から交付される金員によって、その人格と性の自由を甚だしく拘束さ
れ、暗くみじめな境涯にあったか否かを問うまでもないといわなければならない。そして、このような妾関係を作出し、これを維持、
継続してゆく代償として交付された金員については、たとい当事者間に消費貸借契約又はこれが返還債務を目的とする準消費貸借契約
が結ばれたとしても、これらの契約は、妾関係という公序良俗に反する身分関係を作出し、維持、継続するための妾契約と不可分一体
のものとして、いずれも公序良俗に反し無効といわざるを得ないから、不法の原因に基づく給付として民法七〇八条本文によりその返
還を請求することは許されないのである。而して、前認定の事実関係に照らせば、本件の消費貸借契約及び準消費貸借契約は、いずれ
も右の場合にあたることは明らかであるから、本件各貸金について控訴人はその返還を被控訴人に請求することはできないといわなけ
ればならない。
- 水戸地方裁判所昭和54年10月2日判決
前記認定に徴すれば、原告が合計128万円を交付したのは、肉体関係にある被告の歓心を買う趣旨にあつたことは推認に難くないところがあるが、被
告が本件土地を入手すれば、他より金借して返せるような口振りであつたことによるものでもあつたことも窺われる。一方、被告は原告より金を出させる趣旨で原告に近
付いたとまでは言えないにしても、当時別件調停事件で必要とされる代金の調達が念頭にあつたものと思われ、それがために右代金支払の頃、右代金額と同一の金額を原
告に出捐させたもので原告も右金員が本件土地入手のための代金となることを承知していたことは明らかである。そして原告は、被告経営の「初恋」にしばしば訪れ飲
酒したが、老令でかつ糖尿病であつたから、口先は免も角、本心では継続的、恒常的に被告と情交関係を持ち、その経済的援助をする、いわゆる妾として世話するまでの
意思はなかつたものと認められる。
してみると、本件128万円の出捐は情交関係にあつたことが、その動機の一因をなしているとしても、不倫な関係を維持するため原告より被告に贈与または貸与され
たとまでは言い難く、仮りに不法原因給付としても、被告の積極的な働きかけによるものであり、また不法原因給付とされる目的物について契約を解除して交付されたも
のの返還の契約をすることは有効と解されるから、前記返還の合意が無効である旨の被告の抗弁は採用しない。
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港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)弁護士河原崎法律事務所 03-3431-7161