不動産競売における保全処分等
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2015.12.1mf更新
価格減少行為
不動産競売においては、強制執行が妨害行為されることがあります。差押後更地に建物を建てたり、容易に名前が判明しない外国人に不動産を占有させたり、建物内にあるパイプにモルタルを流し込んだりする妨害行為があります。
競売妨害行為をする目的は、立ち退き料目的や(占有屋)、競売で不動産を買う人を不安にし、買受け申し出を躊躇させたり、競売価格を安くして、自己が買受け申し出をする際の有利な条件を作り出す目的があるのです(落し屋)。
その中で、債務者または当該不動産の占有者が競売の対象となった不動産の価値を毀損する場合には(価格減少行為)、対抗手段として保全処分があります。
ただし、占有者から不動産を取り上げ、執行官に保管させる保全処分は、執行妨害目的、意図が認められる酷い価格減少行為(執行妨害行為)があった場合ですね。
保全処分
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売却のための保全処分(民事執行法55条、開始決定後)
申立人:差押債権者
不動産が競売手続中であっても、当該不動産の所有者は、通常の用法に従って、これを使用収益することができます。
しかし、債務者または当該不動産の占有者が、当該不動産の価値を著しく減少させる行為、または減少させるおそれのある行為をするときは、差押債権者は、原則として担保を立てて、買受人が代金を納付するまでの間、その行為を禁止あるいは一定の行為を命ずることができます。その中には、不動産を執行官に引き渡させることもあります。
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競売開始決定前の保全処分(187条)
申立人:競売申立をしようとする者
不動産競売の開始決定前でも、担保権を実行しようとする者の申立により、特に必要がある場合には、前記売却のための保全処分と同様の決定を得ることができます。 -
買受け申出をした差押債権者のための保全処分(開始決定後、68条の2)
申立人:買受申出をした差押債権者
占有者が、対象不動産の売却を困難にする行為をし、またはその行為をするおそれがあって、買受けの申し出がない場合、差押債権者が自ら買受けの申し出をすることを条件に、占有者を排除し、執行官または差押債権者に当該不動産を引き渡させ、保管させることができます。
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最高価買受申出人又は買受人のための保全処分(77条)
申立人:最高価買受申出人又は買受人
最高価買受申出人又は買受人は、最高価買受申出人が定められたときから引渡命令の執行終了時までに、(不動産を占有する)債務者・所有者又は不動産の占有者でその占有権限を差押債権者、仮差押債権者若しくは民事執行法第59条1項により消滅する担保権者に対抗できない占有者が、対象物件に対して、価格減少行為、不動産引渡困難行為、又はこれらの行為をするおそれがある場合には、それらの者に対して、前記保全処分の申立をすることができます。
- 抵当権者の保全処分(民法369条、423条)
申立人:抵当権者
抵当権者は、抵当権保全のため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使でき、さらに、不動産を自己に明け渡すよう請求できます。
なお、
余りに酷い妨害行為なら、強制執行妨害罪として刑事告訴ができます。
不服申立
保全処分に対する不服申立ては、執行抗告です(民事執行法55条6項、10条)
判決
- 平成20年7月30日東京高裁決定
民事執行法46条2項によれば、債務者は、差押えによっても、通常の用法に従って不動産を使用収益することは妨げられず、一般には、相場価格の賃料での第三者へ
の賃貸が通常の用法による使用収益に当たり、これによる価格減少の程度が軽微なものにとどまることがあるのは、抗告人の主張するとおりである。しかし、通常の用法
であるかどうかは、当該価格減少行為以前の各不動産の性質、具体的な利用状況等に照らして判断すベきところ、上記のとおり本件各建物は新築分譲用マンションとして
売却が予定されていたものであり、このような建物の第三者への賃貸は、通常の用法による使用であるとも、これによる価格減少の程度が軽微なものであるともいえない。
そうすると、執行妨害目的であるかどうかにかかわらず(もっとも、上記認定事実によれば、抗告人は、所有者の事業停止の直前に優先的債権回収目的でサブリース契約
を締結したことが窺われ、さらに、差押えがされた後に転貸借契約を次々と締結していることからすれば、執行妨害目的も推認されるというべきである。)、抗告人の主
張は理由がない。
- 最高裁判所平成11年11月24日判決
【要旨第一】抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法423条の法意に従い、所有者の不法
占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するのが相当である。
なお、第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、
抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるものというべきである。
最高裁平成元年(オ)第1209号同3年3月22日第二小法廷判決・民集45巻3号268頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。
四 本件においては、本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権の弁済期が到来し、被上告人が本件不動産につき抵当権の実行を申し立てているところ、上告人ら
が占有すべき権原を有することなく本件建物を占有していることにより、本件不動産の競売手続の進行が害され、その交換価値の実現が妨げられているというのであるか
ら、被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となっていることも容易に推認することができる。
【要旨第二】右事実関係の下においては、被上告人は、所有者であるBに対して本件不動産の交換価値の実現を妨げ被上告人の優先弁済請求権の行使を困難とさせてい
る状態を是正するよう求める請求権を有するから、右請求権を保全するため、Bの上告人らに対する妨害排除請求権を代位行使し、Bのために本件建物を管理することを
目的として、上告人らに対し、直接被上告人に本件建物を明け渡すよう求めることができるものというべきである。
- 高松高等裁判所平成5年10月15日決定
抗告人ら(債務者、所有者・占有者)は、相互に意思を通じて本件不動産競売手続の実行を妨害する目的で賃貸借を仮装したうえ、本件土地上に本件建物を建築して本件土地を占有するに至ったのと
認めるのが相当である。
また、前判示のとおり、本件土地の共同抵当物件である旧建物二棟を取壊して、第三者所有名義の本件建物を建築し、賃貸借を仮装して、抗告人小林龍一及び同鈴木忠
吉が本件土地及び本件建物を占有する行為が本件土地の価格を著しく減少する行為であることは明らかである。
以上によれば、本件土地の所有者である抗告人小松保並びにその占有補助者である抗告人小林龍一及び同鈴木忠告に対して、原決定主文掲記の売却のための保全処分
を発することができると認めるのか相当というべきである。
明渡と同じ効果がある保全処分の実例
占有者が暴力団関係者等の場合の保全処分 暴力団などの不法占拠を排除する民事上の保全処分等の事例
2012.8.30
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