勝手に   神奈川二十五名山 : 蛭ヶ岳   (1,673m )


丹沢棚沢ノ頭付近から見た蛭ヶ岳丹沢主稜、臼ヶ岳頂上付近から見た蛭ヶ岳

蛭ヶ岳 (ひるがたけ) は丹沢山塊の最高峰であるとともに、神奈川県の最高峰でもある。
高さは 1,673m、 いささか物足りなさを感じるかも知れないが、 どうしてどうして 丹沢登山の基地である大倉からのアプローチは相当な時間を要し、 その頂上に達するまでにはかなりの体力を必要とするのである。

私が持っている 「ヤマケイ登山地図 丹沢」「日地出版 丹沢山塊」 の2つの地図を見ると、この蛭ヶ岳が丹沢山塊の中心であり、 いかに奥深い山であるかが良く分かるが、 山深いだけに その全容は丹沢の中に入り込まねば見ることがなかなか難しい。

例えば、私の住む横浜市瀬谷区からも西の方向に丹沢山塊の連なりを見ることができるのだが、一番南に見える大 山を除けば、 塔ノ岳、丹沢山、蛭ヶ岳はその頂の部分しか見ることができず、 従って蛭ヶ岳は日々憧れる山とはなかなかなり得ないのである。

しかし、一旦丹沢山塊に足を踏み入れれば、蛭ヶ岳のどっしりとした山容に驚かされるとともに、この山が丹沢の盟主であることに 十分納得するであろう。
特に、 丹沢山を過ぎて棚沢ノ頭付近から見る ズングリとしながらもドシッと重みを感じさせる姿や、 蛭ヶ岳を経て檜洞丸に向かう途中 臼ヶ岳頂上から見た、 谷から一気に突き上がった隆々としたその姿、 そして丹沢主脈縦走の要所 姫次から見る大きくこんもりとした山容は、 それぞれなかなか堂々としていて 登高意欲を大いに刺激してくれる。

この蛭ヶ岳が丹沢山塊の中心であることは、その尾根の連なりを見ても明らかで、蛭ヶ岳を中心に南北に延びた尾根を丹沢主脈、 蛭ヶ岳から臼ヶ岳、檜洞丸、 そしてそのまま山中湖の方まで延びている尾根を 丹沢主稜と呼んでおり、 この2つの尾根によって丹沢山塊は形成されていると言っても良く、 この蛭ヶ岳が丹沢山塊の心臓部であることは間違いない。

このような奥山ではあるが、やはり人々がその堂々たる姿を見逃そうはずもなく、昔から信仰の対象になっていたようで、 かつては頂上に薬師如来が祀ってあったとも言われ、 従ってこの山は別名 薬師岳とも呼ばれていたようである。

一方、蛭ヶ岳の山名の由来であるが、誰しもがその名前から想像するように、ヤマヒルから来ているという説もあれば (ヤマヒルが多いとのこと) 猟師のかぶる山頭巾を 「ヒル」 と呼んでおり、 この蛭ヶ岳の形がこの山頭巾のようにこんもりとしているために付いた という説もあるようである。

この蛭ヶ岳の頂上に立つと、丹沢随一の標高を誇るだけあって四方八方遮るものがなく、雲取山大菩薩嶺 金峰山などといった奥秩父の山々、 八ヶ岳連峰、さらに甲斐駒ヶ岳を初めとする南アルプスの山々、 そして忘れてはならない富士山といった 素晴らしい展望を得ることができる。

また、藤本 一美氏・田代 博氏 の著書 「展望の山旅」 によれば、田代さんが蛭ヶ岳頂上にて撮った写真 (雲のようだが 雪山にも見えなくはない山が写っている) をきっかけに、 蛭ヶ岳から北アルプスが見えるかを 『理論的』 に計測したところ、 その写真の雪山が穂高岳であることが確認され、 『山と渓谷』 の 1981年 12月号に 田代さんが 「丹沢・蛭ヶ岳から穂高が見えた ! 山岳展望図の楽しさと山座同定による知的探検の魅力」 という論文を発表されたとのことである。
但し、 この論文のきっかけになった写真では ハッキリと穂高岳であることを確認できないために 論文には写真を掲載しなかったのであるが、 翌年の 1月に横浜山岳会の宮崎 快さんという方が ハッキリとした証拠写真を撮影され、 蛭ヶ岳頂上から穂高連峰が見えることが完全に証明された という話があるそうである。

試しに、山岳展望ソフト 『カシミール 3D』 (© SUGIMOTO Tomohiko ) が持っている山岳展望機能の中の 「2点間の見通しのシミュレーション」 を実施してみると、 下記のように蛭ヶ岳と奥穂高岳の距離は約 161km、 十分に見えという判定が出ている。

従って 私でも蛭ヶ岳頂上から穂高連峰を見るチャンスは十分にあるのだが、 実は私は蛭ヶ岳に登ったことが6回ほどあるものの、 これらは全て大倉から日帰り縦走の行程であるため、 蛭ヶ岳頂上に着く頃にはかなり日が高くなっていて 展望できる距離が短くなってしまっているか、 ガスがかかった悪コンディションが多く、 未だかつて北アルプスにお目にかかったことがない。

やはり頂上の蛭ヶ岳山荘に泊まって、空気の澄んだ冬の早朝や夕方に望むようにしなければ見ることができないのかもしれない。 しかしこの場合でも相当の幸運が必要な気がする。

こうした奥山だけに蛭ヶ岳に登るのは結構大変であるが、 一番手っ取り早いのが 西丹沢の玄倉林道をユーシンロッジの前を通って 熊木沢出合まで進み、 そこから蛭ヶ岳に直登するか、 あるいは弁当沢ノ頭経由にて棚沢ノ頭に登り、 そこから蛭ヶ岳へと登るものである。
しかし、 このコースは玄倉林道が車両通行止めになっているので、 返ってアプローチが大変かもしれない。

やはり蛭ヶ岳に登るには、大倉から塔ノ岳、丹沢山を経て登る主脈縦走コース (あるいは主稜縦走コース) を辿るか、 あるいはその逆コースである 西丹沢から檜洞丸を経て登るか、 道志方面の焼山登山口から焼山、姫次経由にて登るのが 王道のような気がする。

どちらも気の長くなるような道のりであるが、体力に自信があって、朝 6時45分前後の小田急小田原線渋沢駅発のバスに乗ることができる人なら 日帰り縦走登山が可能である。
じっくり丹沢を楽しみたいというなら、 この丹沢主脈コースの途中にある山小屋で1泊するのが良いと思うが、 先ほど述べたように 蛭ヶ岳頂上でのベストの展望を期待するなら、 初日に頑張って蛭ヶ岳まで足を伸ばし、 蛭ヶ岳山荘に泊まるのが一番良いのではないかと思っている。

私は主脈縦走も主稜縦走も行っているが、夏場はいずれも大倉尾根の登りがキツく、残雪の 2月頃に歩くのが一番良いのではないかと思う訳で、 天候さえ良ければ素晴らしい山旅を味わえることを保証したい (主脈縦走については、こ こ を、主稜縦走については こ こ を参考にされたい)

この蛭ヶ岳は高さもさることながら、 その登り甲斐と展望の素晴らしさで 勝手に 神奈川二十五名山』 の中の第一番に挙げるべき山であろう。

(追 記): 丹沢山から蛭ヶ岳にかけては 不動ノ峰などもあって私の好きなコースですが、 現在ここの稜線はブナの立ち枯れが激しく、 見るに耐えない箇所もかなりあります。
これは 丹沢から相模湾へと続く間に位置する大都市の大気汚染のガスが、 相模湾からの風で北上して この丹沢山塊にぶつかることから起こっているのですが、 もっと我々人間は 知恵を働かせて自然を労ることをしなければならない と痛感させられます (私もプリウスを買おうかな)


『勝手に 神奈川二十五名山』に戻る      山のメインページに戻る      ホームページに戻る