その後8月末に、第二作の取材のついでに、名古屋にまで足を伸ばしたT氏と久しぶりに会うことができたが、まったく以前と変わらぬ様子、話し振りで安心した。ミステリ界での評価はなかなか高く、「このミス」では堂々9位を獲得。最近では「小説すばる」2月号の対談で笠井潔も『ハサミ男』の名を挙げ、サイコキラーと本格を融合した作品として誉めていた。
今号には「ミルキーネット便り」がないので、この場を借りて、本誌関係者の声をパティオから拾ってみよう。「在学中からその才気には幾度も驚かされましたが、ようやく晴れて表舞台で活躍してくれると思うとなんか嬉しいです。今の出版状況で専業作家として身を立てていくのはなかなか大変だと思いますが、頑張って欲しいですね。」(名和文人)「読んでて『ええっ!?』っと声を出してしまいました。ちょっと前にも同じ『ええっ!?』を発した記憶があるなあと、思い出したのが『今はもうない』。」(HARASINA)「多分僕はお話をさせていただいたことはないと思います。みかけたことはあるかな? ともかく天才の誉れ高かったことは覚えています。」(鵜飼伸光)などなど。まあ、とにかく幸先の良いデビューを飾った殊能氏の今後の活躍に大いに期待したい。二作目は講談社ノベルスより4月発売予定。本誌読者でまだ『ハサミ男』を読み終えていない人がいたら、すぐさま本屋に走ってほしい。
さて、題名に惹かれてか、音楽雑誌でのレビューも多い『ハサミ男』であるが、中でも「ストレンジ・デイズ」6号での米田郷之氏のレビューはなかなか鋭いものがあった。70年代ブリティッシュ・ロック専門誌とも言うべき「ストレンジ・デイズ」であるが、本誌関係者渡辺睦夫も最新アメリカン・ロックについて連載コラムを書いているので、本屋で見かけたら是非手にとってみてほしい。それはともかく、「ストレンジ・デイズ」3号に載っていたXTCのインタビューには笑えた。リーダーであるアンディ・パートリッジは今でもロンドンから百キロほど西の田舎町スウィンドンに住んで活動を続けているのだが、自分の故郷であるこの町について、こう語っている。アンディ「イングランドではジョークのタネになるような町なんだ。日本でどこか笑いものにされるような町ってあるのかな? この町から来たというだけで笑われるような……」インタビュアー「どこでしょうね……」アンディ「ナゴヤかい?(周囲が笑う)やっぱりそうか、ナゴヤなんだ(笑)」。おいおい。誰だよ、アンディにナゴヤが笑い者になるような町だなんて教えたやつは? まあ、あながち外れでもないなと思ってしまうような気の弱さが名古屋人の特色かも知れないが。ますますXTCに親近感を持ってしまった。
XTCと同じくイギリスの田舎町(スウィンドンからもう少し西のブリストル)に住んで活動しているバンドに、スタックリッジがある。こちらは76年にいったん解散して以来の再結成だから、ほぼ15年ぶりにアルバムを発表したわけだが、これが大傑作! ジョージ・マーティンがプロデュースした3rdを始め旧譜も傑作揃いだけれど、新譜「サムシング・フォー・ウィークエンド」(ヴォイスプリント/VPJ116)はもっと凄い。ビートルズが今も活動していたらこんな音楽をやっていたんではないかと思われるサウンドやメロディに、レノンそっくりのジェイムズ・ウォーレンの歌声(特に4曲目)。とにかくブリティッシュ・ロック・ファンは必聴である。
(つづく)