コラムシフト 第1回  by 渡辺英樹



SFの話は「SFマガジン」でいつも書いているので、そっちを読んでもらうとして、アニメの話でも書きましょう。ここ数年それほど意識して見たアニメはなかった。「エヴァンなんとか」も見るには見たが、あの独特の世界にはちょっと入り込めなかったというのが、率直な感想である。『攻殻機動隊』(95年)や『もののけ姫』(97年)も、こちらの期待を上回る出来とは言い難く、『メモリーズ』(95年)の3話に「おおっ」と驚いたぐらいだ。前にもどこかで書いたかもしれないが、私がアニメに求めているのは、物語に密着した斬新な映像表現、動くはずのないものが動くこと自体の快感が物語のもたらすカタルシスと一体になったときの、あのたとえようのない快楽に他ならない。作画のタイミングにこだわるのも、その快楽原理に忠実に従っているだけで、これは、あえて言えば、音楽を聴いているときの感動に近いものなのである。たとえば、同じフランク・ザッパの曲であっても、ドラムがチェスター・トンプソンか、チャド・ワッカーマンかで雰囲気が随分と変わってくるでしょう。いくら曲自体がよくても演奏が駄目ならそこにカタルシスは有り得ない。私はチェスター・トンプソンのはねるようなドラミングが大好きなので、ワッカーマン・ヴァージョンでは同じ曲の同じフレーズでもグッとこないときがある。ロック・バンドでもオーケストラでも似たようなところがあると思う。いささか乱暴なたとえになるが、曲のメロディや構成が、アニメの物語や脚本だとしたら、演奏におけるこうしたグルーヴ感というものが、作画のタイミングに当たるのではないだろうか。

デジタル・アニメーションという言葉を最近よく聞くけれど、この言葉の解釈は二通りある。一つは、作画はあくまで従来通り2D(2次元)で人間が行い、色塗りとか仕上げの行程をコンピュータ処理していくアニメーション。もう一つは、『トイ・ストーリー』のように、すべてを3DCGで処理していくアニメーションだ。このあたりの最新の動向は、電子学園総合研究所編『アニメの未来を知る』(98年12月発行・1300円)に詳しくレポートされている。この本は、押井守や山賀博之の最新インタビューなどを掲載している上に、業界の構造分析と問題点の指摘に鋭いものがあり、なかなか読み応えがある。その中でも、述べられていたが、まだまだ国内では作画は人間が担当して仕上げをコンピュータ処理する手法が主流であり、おそらく作画レベルでのデジタル化は、当分先のことになるだろうとのことだ。そもそも動きのデジタル化までする必要があるのか、と思ってしまう自分は、もはや古い人間なのだろうか。ドラム・マシーンの打ち込みよりも生のドラム・セットの音の方が良いと思うのと同じなんだろうなあ。

さて、ここで、一つ最新のTVアニメをご紹介しましょう。『カウボーイ・ビバップ』である。某民放で放映していたが、13本で打ち切りとなったため、現在はWOWWOWで当初の予定通りの全26本を放映中である(ノンスクランブル放送で毎週金曜夜1時から)。地球の表面に人間が住めなくなり、位相差空間を通じて宇宙に人類が進出した未来、犯罪者を捕まえる賞金稼ぎ(カウボーイと呼ばれる)を主人公にした、洒落た感覚のハードでリアルなアニメーションだ。監督の渡辺信一郎は65年生まれ。我々と同じ世代で、音楽の趣味も良く、感覚的に共有できるものを持っている。サブタイトルに「悪魔を哀れむ歌」「闇夜のヘヴィ・ロック」などのロックやブルースの題名を使ったてみたり、オープニングはインストのみで画面は往年のジャズのジャケットを思わせるものだったり、なかなかやってくれるじゃん、といった感じである。ストーリーも一話完結を基本として、しっかり練られて作られているし、作画も高いレベルで安定している(特に元アニメアールの逢坂浩司の担当する回は必見だ)。主なキャラクターも、飄々とした感じのスパイク、元警官で盆栽が趣味のジェット、強欲でわがままな女フェイ、天才ハッカー少女エドと、いずれも個性的で良い味を出している。現在9話が放映されたところなので、まだこれからどうなるかわからないけれど、ひさびさにのめり込むことができるアニメーションに出会えて、私は実にうれしい。WOWWOWが見られる環境の人はぜひ見てみてちょうだい。



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