平成10年度 論文本試験問題



●憲法●

【第一問】
 公立A高校で文化祭を開催するに当たり、生徒からの研究発表を募ったところ、キリスト教のある宗派を信仰している生徒Xらが、その宗派の成立と発展に関する研究発表を行いたいと応募した。 これに対して、校長Yは、学校行事で特定の宗教に関する宗教活動を支援することは、公立学校における宗教的中立性の原則に違反することになるという理由で、Xらの研究発表を認めなかった。
 右の事例におけるYの措置について、憲法上の問題点を指摘して論ぜよ。
【第一問】
 国会法第五六条第一項は、「議員が議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する。」と定めているが、この規定には、憲法上、どのような意味と問題があるかを論ぜよ。
 また、右規定のただし書を改正し、「但し、予算を伴う法律案を発議するには、内閣の同意を必要とする。」とした場合の憲法上の問題点について論ぜよ。

●民法●

【第一問】
 Aは、Bに対し、自己所有の甲建物を賃料月額一〇万円で賃貸した。 Bは、Aの承諾を得た上で、甲建物につき、大規模な増改築を施して賃料月額三〇万円でCに転貸した。その数年後、Bが失踪して賃料の支払を怠ったため、AB間の賃貸借契約は解除された。 そこで、Aは、Cに対し、「甲建物を明け渡せ。Bの失踪の日からCの明渡しの日まで一か月につき三〇万円の割合で計算した金額を支払え。」と請求した(なお、増改築後の甲建物の客観的に相当な賃料は月額三〇万円であり、Cは、Bの失踪以後、今日に至るまで賃料の支払をしていない。)。 これに対し、Cは、「自らがBに代わってBの賃料債務を弁済する機会を与えられずに明渡しを請求されるのは不当である。AB間の賃貸借契約が解除されたとしても、自分はAに対抗し得る転借権に基づいて占有している。Bの増改築後の甲建物を基準とした金額を、しかもBの失踪の日から、Aが請求できるのは不当である。」と主張して争っている。  AC間の法律関係について論ぜよ。

【第二問】
 消滅時効と除斥期間につき、どのような違いがあるとされているかを論じた上で、次に掲げる権利が服する期間制限の性質やその問題点について論ぜよ。
 一 瑕疵担保による損害賠償請求権
 二 不法行為による損害賠償請求権
 三 取消権
 四 債務不履行による解除権

●刑法●

【第一問】
 甲は、愛人と一緒になるために、病気で自宅療養中の夫Aを、病気を苦にした首つり自殺を装って殺害する計画を立てた。そこで、甲は、まずAに睡眠薬を飲ませ熟睡させることとし、 Aが服用する薬を睡眠薬とひそかにすり替え、自宅で日中Aの身の回りの世話の補助を頼んでいる乙に対し、Aに渡して帰宅するよう指示した。睡眠薬の常用者である乙は、それが睡眠薬であることを見破り、 平素の甲の言動から、その意図を察知したが、Aの乙に対する日ごろのひどい扱いに深い恨みを抱いていたため、これに便乗してAの殺害を図り、睡眠薬を増量してAに渡した。Aは、これを服用し、その病状とあいまって死亡した。 Aが服用した睡眠薬は、通常は人を死亡させるには至らない量であった。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ。

【第二問】
甲は乙にAの殺害を依頼し、乙はこれを引き受けた。甲は、犯行準備のための資金として乙に現金一〇〇万円を手渡し、A殺害後には報酬としてさらに二〇〇万円を支払うことを約束した。 その後、乙は、その妻丙から「甲なんかのために、危ない橋を渡ることはない。」と説得され、殺害を思いとどまり、丙と二人でその一〇〇万円を費消した。そのころ、Aは既に重病にかかっており、しばらくして病死したが、乙はこれに乗じて、甲に対し自分が殺害したように申し向けて約束の報酬を要求し、現金二〇〇万円を受け取った。 その夜、乙は、丙にこれを自慢話として語り、同女にそのうちの一〇〇万円を与えた。
 乙及び丙の罪責を論ぜよ。

●商法●

【第一問】
 甲及び乙の二つの事業部門を有するA株式会社が甲事業部門を別会社として分離独立させるため、商法上採り得る方法とそれぞれの方法の特色について述べよ。

【第二問】
 手形が要式証券とされていることの意味及びその根拠について論ぜよ。

●民事訴訟法●

【第一問】
 境界確定訴訟について論ぜよ。

【第二問】
 Yは、Xに対し、次の各事由を主張してそれぞれの確定判決の効力を争うことができるか。
一  XのYに対する売買代金請求訴訟においてX勝訴判決が確定した後、YがXに対し、その売買契約はXにだまされて締結したものであるとして、取消しの意思表示をしたこと
二  XのYに対する賃金返還請求訴訟においてX勝訴判決が確定した後、YがXに対し、事実審口頭弁論終結前より相殺適状にあった金銭債権をもってXの賃金返還請求権と対当額で相殺するとの意思表示をしたこと
三  賃貸人Xの賃借人Yに対する建物収去土地明渡請求訴訟においてX勝訴判決が確定した後、YがXに対し、事実審口頭弁論終結前から存在する建物買取請求権を行使したこと

●刑事訴訟法●

【第一問】
 便せんに約六〇〇字に及ぶ脅迫文言を記載し、これを郵送する方法によって害悪を告知した脅迫罪の事案において、検察官は、起訴状の公訴事実に、証拠として請求する予定の右文書に記載された脅迫文言の全文を引用して記載した。
 この場合における公訴提起をめぐる問題点について論ぜよ。

【第二問】
 捜査官は、偽造の供述調書を唯一の資料として甲方の捜索差押許可状の発付を受け、同人方を捜索して覚せい剤を差し押さえた。 そして、右覚せい剤を資料として、「甲は自宅において覚せい剤を所持していた」との被疑事実につき、甲に対する逮捕状の発付を得て、甲を逮捕した。 甲は、逮捕・勾留中に右事実について自白し、供述調書が作成された。公判において、甲は右覚せい剤の取調べについて異議がないと述べ、自白調書の取調べに同意した。
 右覚せい剤及び自白調書の証拠能力について論ぜよ。

●破産法●

【第一問】
 条件付破産債権を有する者の破産手続における地位について説明せよ。
【第二問】
 A会社は、B銀行から三億円を借り受け、この債務を担保するため、A会社所有の土地について順位一番の抵当権を設定し、その旨の登記がされた。 また、A会社は、C会社から八〇〇万円を借り受け、この債務を担保するため、C会社との間で、A会社所有の機械(時価一、〇〇〇万円)について譲渡担保契約を締結した。
 その後、A会社は破産宣告を受け、破産管財人が選任された。
 A会社は、B銀行及びC会社に対する各貸金債務につき、利息を支払ったのみで、元本の弁済はしていない。なお、B銀行は、右土地(破産宣告時の時価二億円)について抵当権に基づく競売の申立てをしておらず、C会社のため譲渡担保に供された右機械は、A会社の工場内に設置されている。
一 破産管財人は、右土地を換価処分するため、どのような措置を採ることができるか。
二 B銀行は、自己の債権を回収するため、どのような措置を採ることができるか。
三 C会社は、破産管財人に対し、どのような権利行使をすることができるか。

●刑事政策●

【第一問】
 刑務作業の意義と問題点を概観し、行刑の社会化の観点から将来の在り方を論ぜよ。
【第二問】
 被害者保護の視点から犯罪者の社会内処遇はいかにあるべきかについて論ぜよ。

●国際公法●
【第一問】
 個人の「国際法上の犯罪」とされる行為を幾つかの類型に分け、各類型の特質をできるだけ具体的に説明するとともに、それぞれの類型ごとにどのようにして処罰が加えられるかを論ぜよ。
【第二問】
 A国外相が、B国代表との協議で、経済問題についての譲歩を求め、同意を得たとして、閣議に報告した。この経緯は、同意内容とともに、両国の新聞で報じられた。後に、この同意が、条約として両国を拘束するかどうかが争いになり、A国は拘束するとの立場、B国はしないとの立場を採った。 争いは、主に、文書による同意でないこと、及び、協議で用いられた統計が不正確であった、という二点にあった。
 A国B国いずれの立場が正しいか。
 なお、一九六九年の条約法に関するウイーン条約をB国は批准し、A国は批准していない。

●国際私法●
【第一問】
 法例第一五条第二項及び第三項における内国取引保護は、法例第三条第二項における場合とどのように異なるか。
【第二問】
 甲国人A男と乙国人B女は、乙国で婚姻し同国に居住していた。AB間には、現在は甲国籍のみを持つ八歳の子Cがいる。 三年前に、勤務先から日本に派遣されたAは、単身来日し、間もなくD女と同棲した。半年前に、日本の大学で語学の教師としての職を得たBも、Cを伴って来日したが、Aとは同居できず、Cと共に日本国内に居住している。
Bは、Aと離婚し、今後もCと日本で暮らしたいと考え、離婚及びCの単独親権者にBが指定されることを求めて、日本の裁判所に訴えを提起した。 一 AB間の離婚の準拠法は何国法か。
二 離婚が成立する場合、BはCの単独親権者に指定されることができるか。
 なお、父母離婚後の未成年子に対する親権は、甲国法では父のみに、乙国法では父母のいずれか一方又は双方に、与えられる。

●労働法●
【第一問】
 労働組合法第七条の「使用者」の意義について論ぜよ。
【第二問】
 A社の就業規則には、「会社の許可を得ずして他の企業に勤務した者は懲戒解雇することがある」、「懲戒解雇された者には退職金を支給しない」と定められている。
 A社従業員Bは、以前からA社と同業のC社において休日等を利用して働いていたが、A社を退職してから一か月後にC社に雇用され、営業部長として勤務していた。 これに対し、A社は、在職中の無許可兼職は不支給事由に当たるとして退職金の返還を求め、また、BがA社の営業秘密をC社のために使用し、そのために損害が生じたとして損害賠償を求めている。
 Bに対するA社の右二つの請求の当否を論ぜよ。

●行政法●
【第一問】
 処分取消訴訟における違法性と国家賠償請求訴訟における違法性との異同につき、具体的事例を挙げて論ぜよ。
【第二問】
 次の各処分につき、処分の相手方が取消訴訟を提起した場合における執行停止の申立ての利益の有無について論ぜよ。
一 風俗営業の営業停止命令
二 公立高等学校への入学不許可処分
三 外国人の在留期間更新不許可処分


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