風のささやき

ある日の物語

もうしばらく会わなくなった
懐かしい人が住んでいる街を通りました
今はどうしているのかも
分からないのですが
この街の何処かに暮らしていることは知っていました

その後その人はどんな思いを重ねて
この街で暮らしているのでしょうか
幸せそうな笑顔を今でも浮かべているのでしょうか
きっとその陰にも夕べの人知れずの涙があって

それからの日を埋め合わせる言葉を
その人と重ねてみたい気持ちで一杯になって
その曲がり角の方から突然にその人が現れて
人懐っこい笑顔で僕に手を振り
近寄ってくることを思って
胸はこんなにも張り裂けそうになるものだと
懐かしさはこんなにも鼓動を
高鳴らせるものなのだと

けれどそれと同時に
僕の心には疑いが湧いていました
その人に伝える言葉を僕は
持ち合わせているのだろうかと
その人に教えてもらったことに
報うほどに一生懸命に
僕は生きてこられたのだろうかと

ずっと大切に心の中に手紙を
綴っておけば良かった
あなたに恥ずかしくない僕であることを
毎日に振り返りながら

思い出の断片が頭をよぎり
僕の頭はぐちゃぐちゃにかき回されました
高鳴る胸だけはそのままに
僕は重たく感じられる足に力を入れて
自分の街へと向かう駅へ歩き始めました

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