潮風の街(一枚の絵に)
日傘をさした貴婦人の 小さな後ろ姿が 海を眺めている絵 今日のパーティーで どんな噂話を楽しもうかと 考えているような 色鮮やかに壁を塗り立てる家々 海辺の夏を楽しむ 日に焼けた肌の人たち 咲き乱れているのは ブーゲンビリアの赤い花 今日のパーティーは 19時の始まり まだ明るい波間に 宵闇と月影が混ざりあうころ あの奥さんの服は いただけなかったわと言われないように 首飾りにはいにしえを封じた琥珀 海の底に夢見た真珠貝の白い粒 長い髪をまとめあげたら準備は整って 馬車は18時に呼んで下さらないと 鏡の中で赤い唇が動く 今日も2頭の老いた馬は 首を垂れて 石畳の固い道を歩く きしむ馬車の車輪 笑い声と 甘い香水がこぼれる車室 帰ったら腹いっぱい 食べさせて休ませてやるからなと 手綱を引く御者の手も 潮風に年老いて 痩せた月を見ながら 干し草を食む馬小屋にも 波の音は届く 白い石の教会に こだまする祈りも 人のこころの断片で ステンドグラスは 海の続きのように 青い光に波打つ 無邪気に生を謳歌する人 黙って後悔を募らせる人 誰かのために祈りたい人 潮風で胸を膨らませて 今日の出来事を 誰かに話さずにはいられない 人よ、人よ どの場所を描いても 人のありようは さして変わらないようだ
旅先で見た一枚の絵に。Last Updated 2026/06