波の帰る場所(一枚の絵に)
ねえ、波はどこへ帰るの? 波が帰るおうちはどこなの? 一枚の絵を指さして 子供が知りたいを口にする 雲の合間からさしこむ 銀の陽ざしの道を 波は水平線に帰る ほっとしたのかな 押し寄せるより 穏やかな顔をして ねえそこに雨は降るの? 大きなお日さまはあるの? 子供が知ろうとしてやまない それが大切な仕事だから 心にうかぶがまま口を開いて 大人はちょうどいい頃合いで 口を噤むことを知っている 喉の奥に飲み込んだ言葉が うつろに木霊する胸の奥を知っている 波のおうちは ごめんよ きっと大人にもわからない この優しい絵の画家も それを知りたくて この絵を描いたのかも知れない 何度も色を重ねた波の強弱 波が帰りつく家が きっとどこかにある 鴎たちも白い翼を広げ 水平線に帰りたがっている ただその場所が分からずに 船と一緒に港で休んでいる まだ諦めきれずに 厳しい目をして 空をさまよう鴎もいる いつから引いてゆく波に 心が惹かれるようになるのだろう 足元を濡らす波の行方 その泡沫に桜貝をくわえ 遠くへ去ってゆく波の行方を 知っているよ 波だけではない みんなどこかへ 帰りたがるのだ みんながいる安らげる家へ 願わずにはいられない 幸いの屋根の下に いつかみんなで集えることを
旅先で一枚の絵の前に立ち。Last Updated 2026/06