風のささやき

置いてきた言葉

浅い夏の潮風が
無邪気な子供の手のように
あなたの髪を
陽射しと一緒にかき回していた

波打ち際に
白い泡が崩れて
あなたの裸足を濡らした

足跡を残す海岸線を
振り返れば
そのいくつもが
もう波に飲み込まれている

手を離せば
温もりまで失われてしまいそうで

暮れてゆく海原の
夕日までの一本道を
ずっと歩いてゆきたかった

誰にも言わない
夏の思い出

それ以来
聞いていないあの波音

あの日に置いてきた言葉は
忘れたころに
風鈴のように
遠くで鳴っている

あの海に
また出かけようか
あゆみを止めた
足跡の先を辿りに

胸に残った言葉を
そっと波に預けに

「ありがとう」
「さようなら」

きっと
それしか砂に書けずに

終わってゆく
夏の空は
どんな思いで見上げるだろう

雲は思った以上に速く

その時には
あなたの笑顔も
添えられているといい

その人に届けたい言葉があって。Last Updated 2026/07

← 詩の一覧に戻る