銀色の腕時計
逃れるようにするりと 海中に沈んだ 銀色の腕時計 銀色の魚のように 小舟から 手を伸ばしても 海底に逃げてゆく 腕に巻かれ 一緒に思い出を刻んだ 時計の日焼け跡に 潮風が涼しく吹いていた 力強く漕ぎ進む 舟を止めることもできずに 唇をかんで 腕を離れた時計は まだ海の底の静けさに 時を刻み続けているだろうか どこかホッとして 慌しい時間から 解き放たれて その上を魚が通りすぎる 差しこむ青い陽射し ゆらゆらと海草が揺れて 誰も触れない 秒針の歌海の中に逃げた腕時計に。Last Updated 2026/08