其の1
石川賢自ら「ライフワーク」だと語る遠大にしていつ果てるとも知れない宇宙空間の戦争。
その抽象的な世界観は、未だ我々の前にその全貌を現してはいないようだ。
5000光年の虎
〜徳間書店『リュウ』 1981.12月号(vol.9)〜1982.3月号(vol.16)連載〜
徳間書店アニメージュコミックス |
角川書店ヤマトコミックススペシャル |
1982年4月10日発行 |
1989年2月7日初版発行 |
この作品が描かれたきっかけは、少年アクションに連載され、雑誌休刊のために終了した『魔獣戦線』の続編を...との依頼によるものだったらしい。ところがフタを開けば、いきなり五体バラバラの水槽漬けの男が登場!自分をそのような姿にし、家族を惨殺した者達に対する復讐を描くストーリーと相成った。その怨念は確かに『魔獣戦線』の系譜の物語だ。 読者に説明もなく、首だけの男は念じ続ける。切り放された腕の水槽に向かって!その課程で徐々に明かされる経緯...主人公一家が知っているらしいエネルギー鉱脈を求める組織(?)に家族は殺され、自白剤の効かない主人公に施された孤独地獄!五体バラバラに刻まれ、生物の死に絶えた星に一人取り残される...! そして時は過ぎ、地獄を作りだした男が再びやって来る。主人公の自白を待ちに待って。 やがて復讐を重ねていく中で、主人公が持つ謎の力の発現、宇宙を圧倒的な力でねじ伏せていく「神の軍団」の出現と石川ターボで話はエスカレート!ある星の少年兵士を拾い上げた主人公が「俺は虎だ!」と高らかに名乗ったところでストーリーは終了。ケン・イシカワの法則・「さあ、闘いだ!」効果である(笑)。加えて、主人公の名前がラスト1ページ前に初めて現れるというのも凄い! 角川版発行に当たって、60ページ程度描き下ろし/ディテール描き加えがあり、虚無戦記に加えられた。「儒生暦」年表もこの時の書き加えである。この後物語は、虎率いる「虎の軍団」と「神の軍団」との闘いになるはずだが...。ところで儒生暦16337の「いよろけん座」は「りょうけん座」の誤植に違いないっ(笑) |
虚無戦史MIROKU
〜徳間書店月刊少年キャプテン連載(1988〜90)〜
1巻1988.8/20初版 2巻1988.11/20初版 3巻1989.2/15初版 4巻1989.8/20初版 5巻1990.3/20初版 |
1巻1997.1/15初版 2巻1997.2/15初版 3巻1997.2/15初版 |
雑誌『リュウ』以来、久しぶりの徳間書店登場。忍者とSFという絶好の素材を得て、賢ちゃんノリに乗った伝奇!1973年の『ウルトラマンT』以後、時折石川マンガに現れていた「神と魔」モチーフがはっきりと形を取った作品と言えるだろう。 この年の前年発行された、山田風太郎原作の『魔界転生』の大胆な脚色が端緒だった。女の体を突き破って死者が蘇るという原作のイメージを更に発展させ、全く別のエレメントを持った空間が現実の空間を満たしていく...という絵的イメージが完成されたのである。 九龍覇剣 虚空斬破(くりゅうはけん こくうざんぱ)! 戦国末期。異空間の力を手に入れた真田忍軍は天下をとらんと企む!ソレを阻止せんとする弥勒ら九龍忍軍の闘いをキッカケとして、物語は始まる。真田十勇士が悪役の上、とてつもなくぐっちゃんげろげろな忍術の数々を見せてくれる!関東を揺り動かす「御神器」を奪おうとする真田の頭領・幸村を辛くも防いだ弥勒の体に「力」が目覚める...トコロで物語は加速し始める! 人の体を食い破って現れ、触れる者全てを巻き込みながら空間を支配していく恐怖の兵器「ドグラ」。虫や爬虫類の集合体のような醜悪な固まり。宇宙大戦に使われる生物兵器である。 ...てなストーリーももちろんだが、何と言っても面白いのが、九龍・真田問わず百花繚乱の忍法合戦とドグラの大暴走!だ。こればっかは百言尽くしても、賢ちゃんの絵にはかなわないっ!...どころか、そのほとんどを自身でペン入れしている!それだけでも戦慄を覚えざるを得ないっ!ゲットして目にせよ! |
邪鬼王爆烈
〜朝日ソノラマ コミックファイター2〜7号(休刊)連載(1987)〜
朝日ソノラマ サンコミックファイターシリーズ
1988.4/30初版発行
世は『北斗の拳』を中心とした格闘マンガブームまっただ中。朝日ソノラマも追随、コミックファイターを創刊した。我等が賢ちゃんも、「核戦争後の地球に生き残った人々は革で出来たトゲトゲ付きの服を着た連中とその他大勢モノを」と依頼されたのだろうか? ...が、心配はいらない!終末イメージの日本は東京に隠されていた宇宙兵器の暴走の結果であり、戦国時代さながらの鎧武者集団「信長軍」が世界制覇を目指し、主人公・空海坊 爆烈はお下げ髪の優男だが、「人間の限界を超え、身体に持つエネルギーを叩き付けて相手の細胞を破壊する」爆烈拳使いの正義の坊さんだっ! 爆烈の拳が音速を超えた... その時 すべての物は爆烈
!! かえすがえすも残念なのは掲載誌の休刊により、様々な敵を倒しながら地獄と化した関東に一歩一歩向かって行くというロードムービー的要素が失われたことか。関東への第一歩・箱根で、立ちふさがる十二神将。その向こうにあるのは、恐らくは『虚無戦史MIROKU』にて「竜」と呼ばれていた兵器・須弥山(しゅみせん)を巡る闘いらしいコトが明かされて「さあ闘いだ」効果発動(涙)。 ちなみにその後爆烈は無事、須弥山の前まで行っているようだ。『虚無戦史MIROKU』のラスト付近で唐突に、お下げ髪にした男が「行くぞ!」と叫んで「リアコントの闘い」に参戦するが、彼がすなわち爆烈その人なのである。 |
以上三作品を「虚無戦記」と石川賢先生自身が語っている(『魔獣戦線 THE COMPLETE』のインタビューにて)ワケだが、虚無戦記に見られる生物兵器「ドグラ」のモチーフは他作品にも散見できる。
また、「空間の喰い合い」が神と魔の闘いだというモチーフも他にもあるので、以後のページで、それらの作品を虚無戦記バリエーションとしてピックアップしてみるっす。