Go-21トピックス

このページは現在社会で注目を集めている話題をとりあげてそれについてのコメントを掲載して行きたいと
考えています。会員各位の投稿も期待しています。JERの他SkillStorage.com  ”ビジネス虎の穴”からの
コメントもご紹介します。

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2003年12月21日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.12.14
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        広がる大企業・中小企業格差
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12日に日銀が発表した12月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業
の景況感を示す業況判断指数は大企業製造業で前回の9月調査に比べ10ポ
イント改善し、プラス11となりました。まさに大幅改善、6年半ぶりの水準となり
ました。

しかし、非製造業、中小企業も全般的には回復はしていますが、大企業製造業
と比較すると回復の動きは鈍い。全体的に改善しているトレンドではある中、
「二極化」の象徴といえる大企業製造業と中小企業非製造業との業況格差は一
層拡大しております。

これらの状況を鑑みると、外需主導の緩やかな循環的景気回復の動きは大企
業製造業においては見られるものの、GDPシェアの大きい非製造業・中小企
業はかかる大企業のリストラスタンス等もあり、その伸びが抑制され、全体とし
ての自律的回復への道のりは長いものとなるでしょう。           

                  ・       ・       ・

先週号にて、大企業の業績の好調さの一方で顕在化するサービス残業問題を
少しだけ触れさせていただきましたが、本件について、以下のような読者の方か
らのメールをいただきました(どうもありがとうございます)。今回の短観に見ら
れるような、大企業・中小企業格差の問題もかなり根深いものであることを改め
て思い知らされます。

以下、読者よりのメールを幾つか。
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企業収益がのびているという数字。少し、?マークで見ています。
確かにリストラ効果で利益が上がっているのは事実でしょう。私は労働組合に
関係していてボーナス交渉も見聞きしますが、経営者はよく「会社がつぶれた
らみんなの生活は守れない。社員の生活を守るために頑張っている」と言って
ます。
この報告を見ればその言葉の不誠実さがよく見えます。ほんとに困ってるまじ
めな経営者は社員に頭を下げてボーナスの減額や賃下げを頼みます。そんな
企業は当然赤字で苦しんでいます。不誠実な会社ばかりが生き残っていく今
の日本経済に危うさを感じています。

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初めてメールさせていただきます。
確かに日本の経営者や上司はサービス残業を当然視していますよね。1999
年にそういう職場に放り込まれて(もちろん自分の意志で入社したのですが)、
労基監督署と個人加入の労働組合の助けで多少の金銭的補償は得られたの
ですが、会社自体はクビになり、それがトラウマになって、3年間仕事ができな
い状態が続きました。

このブランクで、社会人に復帰しようと思って、現在数十社に応募したのですが
、まるで手も足も出ない状態が続いています。何かの事情で夜遅くに電車に乗
ると、酒の息ではない人でいっぱいです。それを見るたびに「あぁ、サービス残
業なんだな」と感慨深くなりますが、自分もさまざまな状況から、早くどこかの
会社に入社したいものです。とはいえ、特別なスキルを持っていない以上、まだ
まだ就職活動で苦しい状況が続くのでしょうね。

しかし、「うつ状態」でクビを認めてしまったのは、この先(というか、21世紀)に
むけて悪い兆候だったと思います。まぁ、私を含めて3人の職場だったから、会
社の居心地が悪ければ、退職するしかないところだったので、やむなかったの
でしょうが。本当にサービス残業を一掃すれば、失業率はそれこそ過去より低
くなるでしょうね。

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大企業の収益向上要因を、サービス残業であるとの分析は各方面で取り上げ
られていますが、忘れられている要素に、大企業に於ける”合理化”の名にお
ける安易な「コストカット」「企業努力」の押し付けもあるのではないでしょうか?
大企業様に「お取引戴いている」下請け企業、そのまた下の孫受け企業等々、
日本の産業構造は、「大」は「小」から搾取する構造、いわゆる「弱肉強食」の
世界を当然と思えという、私流に言えば企業社会は「獣社会構造」で出来てい
る訳です。
「親会社」が倒れたら、君たちの仕事は無くなるのだよ!と言われ、新たな取引
先や構造転換の図れない「弱肉企業」は、じっと我慢でわが身を差出し耐えて
(そして絶えて)いくのが零細企業の実態です。
 
サービス残業で搾取されている大企業の社員サンなら、発注先からの見積額
に対し、今月から「一律××%の協力金をお願いします」と平然と言える感覚
が身に付くのも当然と思えなくも無いわけです。
 
大企業経営者の、他社収益と並ぶためには、わが社はこれだけの利益がなけ
ればならないとの「利益つくり」が先で、その数字の配分先として割り当てられ
る「社員」ならびに「底辺企業の従業員」に、消費意欲は芽生えるハズもない事
は明白な事ではないでしょうか?これが、「消費拡大がついてこない」最大要因
である事は明白です。勿論、全ての大企業がそうではないとは、思たいですが、
一零細企業には、知りうる機会もありようのないことです。
 
私は、建築関係の下請け業を生業にしていますが、実例でお話し申し上げまし
ょう。着工時に切るべき発注書が、いまや完工してから発注されるのは、当たり
前。我々零細企業が、同業他社をおさえて指名されるために練りに練り、削り
に削った、20%前後の粗利益見積に、「この現場は厳しいので、発注額は見積
の90%でお願いしました」とメモ書きのついた、発注書が送られてくる事だって
あります。ちなみに現状は、標準は、5%+端数カットの万単位発注書のようで
す。
 
大企業社員さんの10%給与カットと同じ感覚での交渉(というより命令)に対し
て、丁寧にわが社の可処分の50%がカットされる事を何度説明してもなかな
かご理解いただけないのが実態なのです。仕事があるだけでも幸せだと言い
聞かせ、納得するよう努力してはいますが、、)

私には、大企の経済業指標は上がっても、実感が無く、むしろ失速懸念の要因
は、こんな単純明快な原理で説明されるのではないかと思う次第です。


「JAPAN ECONOMIC REPORT編集部 Copyright(C), 1998-2001」
URL<http://www.jerep.com/>






2003年12月14日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.12.07
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        企業収益回復とサービス残業
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先週、7−9月期の法人企業統計が発表され、経常利益は全産業で前期比2.6
%増(製造業で同1.9%増、非製造業で同3.1%増)と、企業収益の緩やかな
回復基調の継続が確認されました。経常利益の伸び率は前年同期比ではプラ
ス9.4%。

しかし、この主たる要因は固定費(主に人件費)減少によるもの。人件費は製造業
で前年同期比2.7%減少、非製造業で同0.6%減少となっており、リストラが企
業収益回復の主要因となっている傾向に変化はありません。

企業収益が回復しているにも拘わらず、当該企業の人件費を構成する給与は増
えない。−−−こんな背景もあり、サービス残業、すなわち、時間外労働に正当
な対価が支払われないという問題が、最近新聞紙面上でもかなりの話題になって
きています。

今年に入り、国も監視の目を一層強化(厚生労働省は5月にサービス残業解消に
向けた指針を発表。また、労働基準監督署は6月に大規模な立ち入り調査を実施
し、数多くの事業所に是正指導を行っている)しておりますが、この件数は増える
ばかり。サービス残業は労働基準法に違反する、あってはならない筈のものなの
ですが。

このトピックスは、読者の皆様の意見等が複数ありましたら、もう少し掘り下げて
みようかなと思っております。                  【編】






2003年11月30日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.11.24
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           双子の赤字の行方
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街中がクリスマスモードになってきました。米国においては、最も個人消費が盛
り上がる時期であり、全米小売業協会も年末クリスマス商戦の売上予想を集計
しその動向を占っております。

同協会が9月16日にまとめた売上予想によると、前年比プラス5.7%と昨年比
で大きく改善。低金利、低インフレ、株式市場の上昇、地政学的リスクの低減等
を受けての消費者マインドの上昇、そして、夏場からの所得税減税による可処分
所得の増加等が個人消費が高まるとの期待を大きくしています。

          ・       ・       ・

最近、米国において「双子の赤字」が再び拡大してきています。

前回の「双子の赤字」の発生の起点は、81年のレ−ノミクスに求められ、その
中心となるのは(1)歳出カット、(2)大幅減税、(3)規制緩和、(4)マネーサプ
ライ管理政策でありましたが、ここで減税を先行させた一方で歳入が伸び悩ん
だ結果、急速な財政赤字拡大へとつながり、貯蓄・投資のバランスを変え、経
常赤字を拡大させたものと言えます。

もう少しシンプルに図式化すると、「財政赤字の拡大→総需要の拡大→輸入の
拡大→貿易赤字の拡大」「金利の上昇→海外資本の流入増→ドル高→貿易赤
字の拡大」というようなイメージとなるでしょう。

さて、今回の「双子の赤字」もブッシュによる減税策やイラク関連の軍事予算の
拡大等に伴う財政赤字から始まり、これが経常収支を悪化させているという流
れについては前回に類似しているものではありますが、上述のような旺盛な米
国の個人消費が背景にあり、これが企業業績をより改善させ、税収増加につな
がり得ると考えれば、また、経済済環境がレーガノミクスの時代と根本的に異な
っている(※1)と考えれば、前回ほど懸念する必要はないのかもしれません。

(※1)レ−ガノミクスは70年代後半の第二次オイルショックによる高インフ
    レと対峙すべく金融引締政策が続き、自信喪失気味の時期に産業・経
    建て直しを図ろうと登場したものですが、今回は景気は鈍化したものの
    インフレは沈静化しており、90年代の米国一人勝ちの時代を経てドル
    の信認も当時よりは大きいと言えます。

しかし、経済政策が意図した通りにその効果を発現させるとは限らず、(1)所得
減税策の先行が企業業績回復へと連動せず持続的な景気浮上に失敗する、
或いは、(2)イラク問題を終結させる事ができず長期化し、軍事支出が当時想
定以上に膨らんでいく等により、財政赤字がますます拡大する可能性も有り得
ます。米国経済が再び「双子の赤字」のメカニズムに苦しむリスクがある点も十
分留意しておいた方がよいでしょう。  【編】







2003年11月23日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.11.16
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         国民負担率と経済成長率
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前回号にて、社会保障給付費の国民負担率の説明をしましたが、この国民負担
率の高まりは、現役世代を中心とする家計や企業の可処分所得を低下させ、貯
蓄や資本の蓄積が取り崩される事となることから、現役世代においては労働意欲
の低下、企業においては競争力の低下、海外への所得移転促進等をもたらす事
となります。つまり、理論上は、経済活力の低下へとつながってくるものです。

そして、実際に先進国の潜在的国民負担率(前回号ご参照)と経済成長率との関
係を比べてみても、両者には負の相関がみられ、潜在的国民負担率が高い国ほ
ど経済成長率が低いというデータが導かれています(経済の低成長が国民負担
率を高めているという逆方向のベクトルがある点も考慮の要はありますが)。

ちなみに、日本の潜在的国民負担率は、1970年の頃は25%程度、2000年度
以降は50%弱。限界的に達している事は明らかであるとともに、将来への先送り
も許されない(メスを入れざるを得ない)状況とも言えるでしょう。【編】


「JAPAN ECONOMIC REPORT編集部 Copyright(C), 1998-2001」
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2003年11月16日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.11.09
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         国民負担率議論の前に
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社会保障等に関する国民負担率の議論をする時に、よくスウェーデンの事例が
参照されることがあります。

スウェーデンにおいては、税率の極めて高い間接税(※1)、控除が少なく低所
得層にもそれなりの税負担を求める所得税(※2)、さらに、社会保険料が加わ
って、極めて国民負担率が高く、既に日本の二倍近い状況となっています。

(※1)たばこ税や酒税の税率が極めて高く、又、日本の消費税に相当する付加
    価値税(VAT)の一般税率は25%。
(※2)地方税としての所得税が全ての人、つまり低所得者に対しても平均31
    %の税率で課され、高額所得者はさらに20−25%程度の国の所得税
    が課される。

そして、ここで徴収した税金、社会保険料を目に見える社会保障給付・サービス
という形にして国民に大量に還元する事により、「高福祉国」となっているわけ
です。

上記方式と、国民負担率を抑制して、社会保障給付・サービスも必要最低限に
抑えるのとどちらを選択すべきかというと、それぞれの置かれた立場にて、つま
り、自分の位置する世代や所得階層によって判断が異なってくるので、国民的
コンセンサスを取るのは難しい問題とも言えます。

ただ、社会保障を公的機関にて運用を行おうとすると、必然的にその行政に必
要な役人の数が増える為、日本のように公的機関の経営能力の無さが国民の
不信感を募らせている状況下においては、国民負担率を高め、高福祉を実現し
ようという政策は受け入れ難いと言わざるを得ません。

結局、どういう方式とするにせよ、より重要なテーマは、官に対する国民の不信
感の払拭、国家と国民との信頼関係の醸成、というところなのでしょう。【編】

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■用語解説:国民負担率
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「国民負担率」は「(租税負担+社会保険料)/国民所得(もしくは国内総生産)」
として定義されているもの。

又、公債(国債等)による資金調達の割合が大きい場合には、国民負担率が政
府の大きさを適切に反映するものとならず、財政赤字は最終的には将来の租
税負担によって賄われることから、通常の国民負担率に財政赤字を考慮した
「潜在国民負担率」(=(租税負担+社会保険料−一般政府の財政赤字)/国
民所得(もしくは国内総生産))も頻繁に用いられることがあります。

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■用語解説:絶対安定多数
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絶対安定多数とは、全ての常任委員会(17委員会)で委員長ポストを確保した上
で、全ての委員会で過半数を確保できる議席数。

安定多数とは、全ての常任委員会で委員長ポストを確保した上で、全ての委員会
で過半数或いは野党と同数を確保できる議席数。




2003年11月02日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.10.26
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     難題は企業・金融部門から公的部門へ
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先週、平成15年度の経済財政白書(年次経済財政報告)が内閣府より発表され
ました。

この中で、政府の構造的課題への取組姿勢がアピールされておりますが、特に
具体的に挙げられているのが、「金融と企業の再構築」という課題と「高齢化・人
口減少のもたらす影響、とりわけ財政・社会保障制度の改革」という課題です。
「一刻の猶予も許さない」と書いてある程です。

個人的には、前者「金融と企業の再構築」という課題については、ここ数年(10数
年?)相当に焦点があたっていたところでもあり、金融システムに係わる問題点
もという点も、だいぶ正常化されつつあるかなという印象があります。不良債権額
がなかなかゼロにならないではないかという声もありましょうが、相応のリスクテ
イクを行う(企業に対して信用を供与する)というのは金融機関の使命の一つでも
あり、リスクに見合う収益力をつけていけば、引当額が恒常的に発生したとしても
、さほど大きな問題には無らないと思っています。

一方、後者「高齢化・人口減少のもたらす影響」「公的部門の再構築の必要性」
といったところは、その現実的な議論はなかなか前進せず、見通しも立たずとい
った感が強く、同経済白書の言葉を借りれば「一刻の猶予も許さない」状況と考
えています。

景気回復の鍵も、「企業・金融部門」から「家計」「公的部門」へと移行し、特に社
会保障制度の構造改革といったところが、今年末から来年にかけての最大のト
ピックスとなるのではないでしょうか。

                  ・       ・       ・

さて、上述の通り、経済白書においても、この高齢化・人口減少に起因する公的
部門再構築というテーマに対して、様々なデータ試算を行い、結論めいたものを
記述しておりますが、これを簡単に列記してみましょう。

(1)人口減少は労働力の減少を通じて経済成長を鈍化させる。
(2)支え手(生産年齢)の減少を通じて年金など社会保障制度の維持も困難と
   なる。
(3)しかし、税金や保険料といった国民負担を過度に重くすると成長を一段と
   下押しする。つまり、国民負担率の上昇を極力抑えなければならない。

ここ迄は一般論ですが、今回はさらに具体的に踏み込んでいます。

(4)高齢世代にも年金給付の引き下げや相応の負担を求める必要がある。

別の言葉で言えば、「世代間不公平の格差拡大の抑制」という事となりましょう。
従い、世代によって、上記結論付けに対する意見は異なってくるとは思いますが、
現行制度では何れ破綻するのが明らかであるという現実を直視し、これを将来の
問題とせず、「いま」解決すべき問題とする局面に来ている事は間違いないでしょ
う。

次号以降、この高齢化・人口減少に対応する公的部門の構築問題における各種
トピックスやデータも採り上げていきたいと思います。(続く)  【編】


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2003年10月26日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.10.19
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          「マニフェスト」対決
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総選挙が近付いてきました。衆院選の公示は28日。投開票は来月9日。新聞紙
面上でも、各政党の「マニフェスト」(後述、用語解説ご参照)の比較が行われる
ようになりました。

小泉自民党VS菅民主党の「マニフェスト」対決とも言われますが、比較してみて
気づくのは、具体的数値の多寡。民主党の方が具体的な数値の提示が圧倒的
に多くなっており、具体的な期限・目標・財源の提示が行われてはじめて「マニフ
ェスト」と呼ぶのであれば、民主党の方が「マニフェスト」らしさはありますね。

この点は、民主党が「マニフェスト」対決の姿勢を全面に打ち出し、旧自由党と
の合併大会で華々しくお披露目したのと反対に、改革に後ろ向きな族議員との調
整に手間取り、公表も与野党で最後と出遅れているところを見ても、力の入れ具
合の違いが感じられるところです。

もちろん、具体性、明確性だけで判断するのは片手落ちで、加えて、達成可能性
、妥当性等も見ていく必要があります。

例えば、我々一般有権者が見て、目を引くものとして、民主党の「マニフェスト」に
ある「道路公団を廃止」するとともに「高速道路を3年以内に(一部大都市を除いて
)無料化」があります。その財源としては、「道路特定財源の一部の振替え」や「有
料を維持する首都圏や阪神圏の高速道路料金の充当」とありますが、試算が甘
いという声もあるでしょうし、ドイツのアウトバーンにおいて顕在化しているように無
料化に伴う弊害も考慮すべきという声もあるでしょう。

個人的に残念なのは、今後の財政運営を考える上で避けては通れない筈の「消
費税」についての具体的な考え方が明示されていないこと(選挙に勝つ為には消
費税上げの話をするのはタブーというのが選挙の常識ではありますが)。自民党
の「マニフェスト」にある「将来の消費税引き上げについても国民的議論を行い、
結論を得る」という抽象的な表現で精一杯というところでしょうか。

マニフェストの語源は、イタリア語で「はっきりと示す」ことを意味するそうですが、
その通りはっきりと示されているかどうか。。【編】

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■用語解説:マニフェスト
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期限、数値目標、財源等を具体的に明示した選挙公約(政権公約)のこと。政権
プログラム、事後検証可能なプログラムを示したものとも言えるもの。

従来、選挙公約は「検討します」や「取り組んでいきます」といった具合に、曖昧
な言葉の羅列で具体性の無いものが多かったわけですが、「マニフェスト」は具
体的なアクションプランとなります。また、この「マニフェスト」の冊子は選挙期間
中に候補者の演説会場などで配布する事が認められていますが、国政運営の
政策について党本部が一種類だけ作成できるものです。

ちなみに、英国では投票の約1ヵ月前に各政党がマニフェストを発表し、新聞・
テレビでも公表されますが、冊子としてまとめられ、書店で販売されます。日本
で書店に並んでも買う有権者がいるかどうか。。。【編】


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2003年10月12日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.10.05
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        短観での業況感改善と円高
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先週10月1日、日銀短観が発表されました(短観については先週号ご参照)。

業況判断DIは、大企業・製造業が+1(前回6月調査比+6ポイント)と11四半期
(約3年)ぶりのプラスに転じ、幅広い業種にて改善の動きを示す事となりました。

又、大企業・非製造業は前回調査比横ばいの▲13ではありましたが、中小企業
も、製造業が▲23(前回調査比+5ポイント)、非製造業が▲31(前回調査比+
4ポイント)と低水準ながら改善。ほぼ事前の予想の範囲内というところでしょう。

この短観、正式名称を「主要企業短期経済観測調査」と言い、何だか重々しい調
査のように聞こえますが、要は単なるアンケート調査。日銀から調査票が送られ
てきて、企業の経営者(実際には私のような担当者レベルにて回答する)が記入
して提出するわけですが、このアンケート調査の記入のタイミングと公表のタイ
ミングには2〜3週間ほどズレが生じます。

となると、今回の場合は、9月の下旬に急激に進行した円高は反映されていませ
ん(実際、今回調査における03年度の想定為替レートは1ドル117.99円と円高
は殆ど織り込まれていない)。

大企業・製造業は輸出のウェイトが高く、輸出の伸びにより業況感が改善してい
たわけですが、この円高の進行が進む、或いは、現在の円/ドル水準が継続す
れば、確実に業績の下方修正が行われる事となります。従い、現状の円高水準
が継続する限りは、企業の業況判断を見極めるには次回の調査を待つ必要があ
りそうです。  【編】


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2003年10月05日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.09.28
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       ようやく短観にも目が行くように
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最近景気の底打ち感も強まり、ここ最近殆ど見向きもしなかった日銀短観の動き
も、ようやく気になってくるようになりました。

10月1日に9月短観が公表される事となりますが、大企業製造業業況判断DIは
6月比5ポイント程度改善してプラスマイナスゼロ近傍、大企業非製造業業況判
断DIは6月比横ばいの二桁マイナス維持といったところが予想の中心でしょうか。

となれば、新聞誌面には「景気回復傾向」という文字も出てくるかもしれませんが
、それと同時に「製造業と非製造業間の二極化傾向が一段と鮮明に」という見出
しも出てくる事でしょう。逆に、非製造業業況判断DIも改善傾向を示せば、景気回
復感は強まり、株高・債券安へと反応する事になるでしょう。この業種間でのバラ
ツキが有るか無いか、というあたりに注目したいところです。

但し、中小企業の業況判断DIも引き続き大幅マイナスの数字となる筈です。
今上期に見られた大企業指数である日経平均株価の回復の裏には、大企業の
リストラ等の影響も受けやすい中小企業へのしわ寄せがあるという事実が如実
に反映されるものとなり、やはり力強い景気回復という事にはなり得ないかなぁ。。
【編】

(以下、用語解説は2000年4月2日号記事より抜粋したものです。)
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■用語解説:日銀短観
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日銀が3ヶ月に1回、企業の動向を的確に把握する事を目的として行われている
調査で、海外でも「TANKAN」として広く知られています。

調査は企業にアンケートを実施している形で行っており、企業マインドを読み取
るのに適している他、景気の先行きについての予測も調査されている為、短期的
な景気の見通しをする際にも適しています。そして、勿論、日銀自身も、金融政
策の舵取りを行う上で大変重要視しています。            【編】

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■用語解説:DI(ディフュージョン・インデックス)
==================================

例えば、短観のアンケートで、企業の業況を調査する為に、「良い」「さほど良くな
い」「悪い」という3つの選択肢の中から1つを選んでもらうような形で設問をしてい
ます。そして、「良いと答えた回答社数の構成比」から「悪いと答えた回答社数の
構成比」を引いた数字がDIです。

従って、上記(業況判断)DIでは、景気の悪い時は(「悪い」と答える割合の方が
多くなる為)「マイナス」の数字となりますし、景気が良い時は「プラス」の数字と
なります。   【編】


「JAPAN ECONOMIC REPORT編集部 Copyright(C), 1998-2001」
URL<http://www.jerep.com/>






2003年09月28日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.09.22
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           消費の三大仮説
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7月27日号にて簡記しました消費の三大仮説。今回は、これら仮説に係わる用
語をちょっとだけ覗いてみましょう。

先ずは一つ目、ライフサイクル仮説。

この仮説は、モディリアーニ、ブランバーグ、安藤の3人の経済学者によって考
え出されたもので、各家計は自己の持つ資産と一生のうちに得られる賃金所得
を予算制約として最適な消費計算をたてて各期の消費量を決定していると考え
るというもの。家計がこのように消費量を決定している場合には、各期の消費水
準は、各時点の所得水準には全く依存せず、生涯所得にのみ依存するようにな
ります。

この仮説に基づけば、一般に、人々は若い時に精一杯稼いで貯蓄を増やそうと
努めますから、老後にその貯蓄を崩して消費水準を高めるということとなります。
ということは、高齢化社会が進んでいくと、消費も堅調に推移するということにも
なります。(本誌7月27日号ご参照)

2つ目は、恒常所得仮説。

この仮説は、フリードマンによって考えられたもので、実際の所得を恒常所得と
変動所得とに分類し、家計の消費水準は実際の所得ではなく、恒常所得水準
に依存すると考えるもの。恒常所得というのは、生涯所得を平均化したもの。
変動所得というのは、言ってみれば、短期的な誤差。まぁ、宝くじが当ったとか。。

定義の違いはありますが、結局、生涯所得に消費水準が異存する事になるの
で、ライフサイクル仮説と本質的には同じですね。

3つ目は、相対所得仮説。

この仮説は、デューゼンベリーによって考え出され、彼は時間的相対所得と空
間的相対所得という2つの相対所得概念によって説明されるもの。

時間的相対所得というのは、各時点の消費水準は現在の消費水準だけでなく、
過去の最も高い消費水準に依存するという考え方。言い換えれば、高い所得を
得て裕福に暮らしていた人が、今期の所得が少しぐらい減ったからといって、そ
の生活水準をすぐに改めるようなことはしないということ。このような法則に基づ
き、景気後退期であっても消費水準の減少に歯止めがかかることを歯止め効果
(ラチェット効果)と呼んだりします。

一方、空間的相対所得というのは、個々の家計の消費水準は、その家計の所
得水準のみに依存するのではなく、その家計が属する社会階層の平均的な所
得水準にも依存するということ。確かに、周囲が高い買い物をしていたり、裕福
な生活をしていれば、つい見栄を張って自分も消費水準を高めようという心理
が働く場合も人によっては有り得るかもしれません。この空間的相対所得の消
費に与える影響をデモンストレーション効果と呼びます。

難しい用語のようですが、言われてみるとごく当たり前の話?経済学の言葉っ
て大概そんなものです。  【編】


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2003年09月21日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.09.14
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        ネット市場にて勝ち組伸びる
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9月4日、「楽天」は、ネット上での宿泊予約サイト「旅の窓口」を運営するマイトリ
ップ社の全株式を親会社である日立造船社より323億円で買収。マイトリップ社
は上場準備中で、時価総額200億円台と言われていましたから、それなりのプレ
ミアムをつけての買収となったのではないかと思います。また、従来無借金経営
であった同社も、この買収資金をを銀行借入にて賄うこととなります。

ヤフーへの対抗意識、そして、ネットビジネスのモデルが確立されてきた中にお
いての勝ち組のより積極的な経営姿勢が感じられるものでした。

さて、ネットでの流通総額は日々増加していますが、このネットモール上の各店
舗がどうやって売上を上げたのか?−−−他人の事は気になるものですが、楽
天にて、この成功事例集を無料進呈しております。これから始める方、既に始め
ている方、是非請求されてみてはいかがでしょう?

http://common.rakuten.co.jp/cl/?i=2765

ネット市場の動向を知るにも色々な方法がありますが、代表的なネット関連企業
の決算発表資料などを見ると、最新の動向を一早く把握する事ができる為、私は
こまめにチェックします。ただ、最近、ネット市場における勝ち組・負け組の峻別は
際立ってきているので、それが本当にマクロな市場の動きなのかどうかを判断す
るのは少々難しくなってきている感もあります。

先月21日、ネット「勝ち組」企業の代表格である「楽天」の2003年度第2四半期
の決算発表がありましたが、売上計上基準の変更(マージンの計上月を1ヶ月前
倒した為、当該四半期は4ヶ月分の売上高が計上されています)による一時要因
を控除しても、非常に好調な決算内容でした。楽天市場内の流通総額は、前年
同月比61%増。注文件数は前年同月比でほぼ倍のペースを維持。一店舗当り
の流通額・注文件数も推移も順調に増加しております。

この要因として、ブロードバンドの普及によるネットショッピングモール利用者の
拡大という点の占める比率は大きいでしょう。確かに2000年度のネットバブル
崩壊を乗り越え、生き残ったネットベンチャー企業の多くも、続々と黒字化し始め
ています。

しかし、それだけではなく、出店数が堅調に推移している一方、退店数が増加し
ていない(むしろ減っている)状況等も鑑みれば、ブロードバンド普及に伴う市場
の拡大に加え、強者ならではの「ウリ」があるという事も言えるでしょう。

この「ウリ」をキーワード化すると、「システム」「集客」「ノウハウ」に集約できます
が、中でも際立っているのは、「ノウハウ」の提供力。例えば、専任のECコンサ
ルタントが、売上アップの相談に乗ってくれる等、リアル市場に負けず劣らずの
きめ細やかなサービス提供姿勢には目を見張るものがあります。

また、物販で蓄積したノウハウは、他の場面でも活かされており、例えば、Web
制作、印刷、会計、翻訳、等の法人顧客開拓サイト「楽天ビジネス」。

   → http://business.rakuten.co.jp/for_seller/index.cfm?afl=nnq

法人向のサービス業でも日本最大級のマーケットを運営し、既にネット上で1万
5千件を超える商談が発生しています。

なかなかマクロの経済指標には現れませんが、ネットを介在した新しい消費、新
しい流通。これらが着実に浸透している様子が垣間見られます。    【編】







2003年09月07日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.08.31
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         長期金利と日経平均
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前ここ最近、世界的な「悲観論の修正」がなされており、これに伴い長期金利が急
上昇しています。また、短期金利の世界においても、足元の水準には変化は無い
ものの、金利先物市場では、年明けの日銀による政策金利引き上げを既に織り込
んできております。

このような状況下、日銀は27日午後に、既往最長(用語解説ご参照)である期間
8ヶ月半の手形買取オペ(手形を買い取る形で市場に資金供給し、資金需給を緩
和させる=金利を低下させる効果があります)を実施。当面の経済環境下におい
て引き続き時間軸効果によるイールドカーブ(用語解説ご参照)低位安定を重視
していくスタンスを明確にさせました。

短期金利の低位安定は、長期金利上昇を抑制するアンカーとなり得ます。日銀が
持続的に政策金利を引き上げていく事はとても想定し難く、長短金利差がここま
で拡大してくると長期金利上昇圧力もそろそろ一服でしょう。

一方、日経平均株価と長期金利水準は強い相関関係をもって推移しておりますが、
長期金利はマクロ指数であるのに対して、同株価は大企業指数。言い換えれば、
現在の経済状況の特徴の一つである「大企業と中小企業との格差拡大(勿論、ミ
クロの視点でみれば元気の良い中小企業は沢山存在しますが)」は、日経平均株
価にはさほど反映されません。こちらの方は、長期金利とは切り離して考える必
要あるのでしょう。                        【編】

==================================
■用語解説:既往最長?
==================================

日銀は金融政策、とりわけ金利の水準調整により、経済をプラスの方向へと向か
わせんとします。しかし、日銀が行なう金利の水準調整方法にも制約があり、長
期金利に対する直接的な介入というのは困難で、日々1年内の短期金利(短期金
融市場)への直接的な介入(資金供給や資金吸収)により金利水準をコントロー
を行なうもので、この対象も3ヵ月未満の金利への介入が中心。6ヶ月超というの
は異例のこととなるのです。

==================================
■用語解説:イールドカーブ
==================================

縦軸を金利率、横軸を期間として、現在の長短金利の構造をグラフ化したもの。
例えば、短期金利が低く、長期金利が高い状況であれば、右肩上がりのカーブ
を描きます(これを順イールドと言う)。逆に、短期金利が高く、長期金利が低い
状況であれば、右肩下がりのカーブを描きます(これを逆イールドと言う)。景気
回復期待が高まると、将来へのインフレ期待から、長期金利が上昇し、順イール
ドのカーブが非常にきつくなるわけですが、この金利の上昇が経済実態の沿わ
ない場合は、景気を腰折れさせる要因にもなりかねません。従い、日銀は当面
短期金利を低位安定で推移させるという事をコミットし、イールドカーブをフラット
ニング化させようとしているのです。


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2003年08月24日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.08.17
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      日本の家計貯蓄率に異変?【後編】
            統計上のクセに要注意

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前回号において、日本の家計貯蓄率が低下してきており、また、この要因とし
て、高齢化社会の進展とライフサイクル仮説への合致という点を取り上げさせ
ていただきました。

しかし、本当にそこでいきなり何%も急低下するものなのでしょうか。

実は、ここ最近の貯蓄率が急低下しているのは、単にマクロ経済的な趨勢が
反映されているだけではなく、国民経済計算(SNA)統計上の決まりごとの影
響も強く受けています。

国民経済計算(SNA)統計上の貯蓄率は「貯蓄÷(可処分所得+年金基金
年金準備金の変動)×100」にて計算され、ここでの貯蓄というのは、「可処
分所得+年金基金基金準備金の変動−消費支出」にて計算されます。
そして、可処分所得は、給与所得(含、自営業者の営業剰余金)+財産所得
(利子・配当など)+社会給付+その他−税金・社会保険料−財産所得(住
宅ローン利子など)−その他に分解されます。

このSNAを算出するにあたっての各項目の数字は、同一の統計数字より用い
られているのではなく、銀行や郵便貯金の決算書、国税庁の資料など様々な
基礎統計をもとに作成されています。しかし、これら各基礎資料の数字の認識
の仕方が異なっているケースがあるのです。例えば、代表的な例としては、金
融機関が支払う利子。利子所得は発生ベースで(キャッシュを支払っていなく
とも、期間が経過していれば)家計収入として認識しているのに対し、一方、当
該利子にかかる税支払いについては現金ベースで消費支出として認識してい
ます(期間が経過していてもキャッシュアウトされていなければ支出として認識
しない)。

00年、01年と言えば、90年、91年に預け入れられた郵便貯金(定額貯金)
の満期が集中した年。つまり、SNA統計上では、利子所得が10年間で発生
ベースで毎年分割して認識されていた一方で、この利子に対する税金支払
いについては、00年、01年に集中的に支出として認識されたという事となり
ます。この認識のタイミングの違いにより、必然的に、00年、01年の家計貯
蓄率は大きく減るわけです(逆に統計計算上のクセによる要因を排除すれば
、00年、01年の貯蓄率は大きく上昇します)。

前回のコラムに記しましたように全体的な趨勢を把握する事は重要ですが、
統計上の表面的な数字に惑わされてはいけないという典型的な例と言える
でしょう。

さて、新聞記事の論調を読む限りでは、貯蓄率が低下したら、何かとてつもな
く「悪いコト」が起こっているような印象を覚えてしまいますが(私だけかもしれ
ませんが。。)、必ずしも貯蓄率の低下イコール「悪いコト」ではありませんよ
ね。貯蓄率の水準が高かろうが、低かろうが、生活水準の向上に家計貯蓄が
有効に使われているかどうか、有効に使われるような貯蓄がなされているか
等々が大切なところなのでしょう。  【編】






2003年08月03日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.07.27
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      日本の家計貯蓄率に異変?【前編】
          高齢化社会とライフサイクル仮説

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貯蓄大国日本−−かつて、日本は先進国の中で最も高い家計貯蓄率を示して
いました。しかし、この固定観念はもはや過去のものとなりつつあり、国民経済
計算(SNA)ベースの日本の家計(個人企業を含む)の貯蓄率は99暦年には
11.1%、00暦年には9.8%でありましたが、これが01暦年には6.9%と急
低下をしています。一方、米国の貯蓄率が4%台まで上昇してきており、近々
日米逆転するのではなどと新聞記事に取上げられている事もしばしばあります。

家計貯蓄率の変動には様々な社会・経済要因が関係しておりますが、とりわけ
人口構成はその中でも重要度の高いものとなっています。そして、日本で言え
ば、急速に進む高齢化社会。サラリーマン生活より引退した高齢者の主たる収
入は公的年金であり、生活資金としては決して十分とは言えない為、これまで
に貯えてきた資産を取り崩して使わざるを得ない。必然的に、貯蓄率は低下す
ることとなります。

上述に示された考え方、つまり、「生涯の所得」と「生涯の消費」は同一であり、
若い時に貯えた貯蓄は、老後に消費に充当されることとなるという考え方は、
経済学の世界では「ライフサイクル仮説」(消費の三大仮説の一つ。消費の三
大仮説については、別の機会の説明致します)と言われるもので、これに基づ
いて貯蓄水準が決まってくる(言い換えれば、高齢化が進めば貯蓄水準が低
下する)というのは、世界的に一般的な考え方ではあります。

しかし、日本の場合は、過去何度となく貯蓄奨励策が施行されたこと(「消費の
日」はないけれども「貯蓄の日(貯蓄に対する関心を深め貯蓄の増進を図る目
的で貯蓄増強中央委員会が制定。10月17日)」ってのがあるくらいですし、古
く遡れば「質素倹約」の儒教的な考え方も背景にあるのでしょう)、また、土地・
持ち家信仰が強く、これら資産を子や孫に遺産として残そうという特殊な国民気
質・伝統が根付いていたことから、このライフサイクル仮説では説明しきれず、
結果、貯蓄水準も高止まっていると説明されることがありました。

これを逆にとらえて、日本においても、子や孫に資産を残そうという考え方が薄
まり、自分で稼いだ貯蓄は自分で使い切ろうという「個」中心の考え方へ移行し
てきて、ライフサイクル仮説に当てはまるようになってきたのではとここ最近の
貯蓄率減少を説明付けしようとする新聞記事解説も多々見られます。

確かに高齢化社会の進展が進んだ事、日本においても個人主義(自分で稼い
だお金は子孫に残さず自分の為に使う)的な考え方が台頭しているというのも、
貯蓄率低下傾向をもたらす要因とはなっているでしょう。

しかし、これだけで、貯蓄率の急低下を説明してしまってもよいのでしょうか。
(次号へ続く)  【編】

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2003年07月27日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.07.20
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       外貨証拠金取引と外貨預金
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98年に外為法が改正されて以来、外国為替取引が完全自由化され、誰でも自
由に外国為替取引が出来るようになりました。そして、これを受けて外国為替証
拠金取引を取扱う会社が年々増えてきましたが、銀行のように監督官庁も無く、
外国為替証拠金取引を監視する団体(現在、設立の動きはあります)や規制
に関する法律も無い事から、取引を行うにあたっては、会社の信用力並びに商
品の特性やリスクの所在を十分に理解して行う事が肝要です。

一方、外貨証拠金取引は、通常の外貨預金と基本的には両者とも同一の為替
リスクに対しては同一のリターンをもたらす事ができるのですが、外貨預金より
も明らかに取引コスト(主として手数料)が安い為、リスク管理の基本さえ抑え
ていれば、取引コストを勘案すると非常に有利な取引手段と言えます。今年に
入ってから一部の大手の証券会社やネット証券も次々と参入してきており、着
実に裾野が増えつつある状況にあります。

外貨証拠金取引が何故通常の外貨預金と同様の効果をもたらすかについては
、(書き始めると大作となりそうなので)割愛しますが、先ずは両取引の一般的
な特徴について簡単な比較をしてみます(取引会社毎に異なる事があるので注
意の程)。皆様におかれましては、それぞれの特徴を理解し、自分のスタイルに
あった利用をされていくとよいでしょう。

●外貨預金の特徴
 (メリット)
  取り扱う会社が多い。
  仕組みが分りやすい。
  最少取引単位が小さい(但し、一定額以下は口座維持手数料が課される場
  合が多い)。

 (デメリット)
  手数料が高い。自由に解約できない。
  途中解約できたとしても、金利が下がる。
  預金保険の対象とならない。
  最少取引単位と同様の資金が必要。

●外貨証拠金取引の特徴
 (メリット)
  リアルタイムのレートで売買できる。
  取引期限が無く、いつでも取引可能。
  手数料が安い。解約手数料も無い。
  最少取引単位よりも小さい資金で取引が可能。

 (デメリット)
  取り扱う会社は限られている。
  仕組みが分かりにくい。
  資産保全システムが確立されていない(各社自主管理)。
  最少取引単位が大きい(小さいか大きいかの判断は人によりますが・・)。

 (メリットかデメリットかは自分次第)
  リスク管理をしやすいが、レバレッジ効果が高い為、リスク管理を怠ると、
  リスクの幅が大きい(プラスにもマイナスにも大きく損益が振れる)。 【編】


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2003年07月20日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.07.13
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        期待成長率の長短ミスマッチ
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先行き不透明感を醸成していた地政学的なリスクやSARSリスクを無難に回避
し、また、まだら模様ながらも、一部の景気指標においては循環的な景気回復
を示唆するものも出てきましたが、これが中長期的に持続していくかとなると、
諸々の構造問題を抱えたままの現下の日本経済においては懐疑的に思わざる
を得ず、これが金融当局要人の発言や各種調査結果にも反映されています。

先週7月7日、日銀の福井総裁は、大阪経済4団体共催懇談会前の挨拶にお
いて、「景気が循環的に回復の方向に向かう場合にも、過剰債務や過剰雇用
など様々な構造調整圧力が強い中で企業等の中期的な期待成長率は容易に
高まっていかない」との見通しを示しました。

もう少し行間を説明すると、企業においては過剰債務により、借金の返済を優
先事項とせざるを得ず(特に非製造業)、また、海外生産へのシフトの必要性
(特に製造業)といった別の要因も含めて考慮すると、かかるキャッシュフロー
(支出)の増加により、国内における新規の設備投資の増加は期待できない。
一方、家計の消費行動においても、企業が労働コスト圧縮の手綱を緩める状
況にはないだけに、家計を取り巻く雇用・所得環境は全体として依然厳しい状
況にあり、家計の財布の紐が緩む状況を容易に想定できない。
結果、中長期的な期待成長率は高まっていかない、という事となります。

今年4月に公表された、平成14年度企業行動に関するアンケート調査(平成
15年1月調査)の結果は、まさに上記の日銀総裁の発言を裏付ける内容のも
のとなっており、ここにおいて、今後3年間(平成15−17年度)の成長率につ
いては0.7%(年度平均)と昨年度調査(0.6%)と比べて上方修正された一
方で、今後5年間(平成15−19年度)の成長率については1.0%(年度平均)
と昨年度調査(1.2%)の数字よりさらに下方修正され、過去最低の数字とな
っています。

ここ2週間において、債券相場や株式相場は大きく変動しましたが、当面は、
この短期的な見方と中長期的な見方とが交差する中、落ち着きどころを模索
していく事となるのでしょう。 【編】


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2003年05月11日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.04.30
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           デフレ=不況?
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「デフレ」--「デフレーション」の略。

ひと昔前迄は新聞紙上において「インフレ」という言葉の方が目にする事が多か
ったと思いますが、最近は「デフレ」という言葉が本当によく使われております。
例えば、日経の4紙(日本経済・金融・産業・流通新聞)で「デフレ」を含む記事
の掲載件数を調べてみると、小泉内閣誕生時の2000年と比べて4倍に増加。
まさに「流行語」です。

さて、「デフレ」というと「不況」?という連想をされがちですが、本来は「デフレ」
=「不況」ではありません。「インフレ」の時代においても「不況」の時代はあるも
のです。

インフレと不況が同時に訪れる現象は「スタグフレーション=stagnation(景気
停滞)+inflation(継続的な物価上昇)」という言葉が一般的に使われますが、
stagnation(景気停滞)+deflation(継続的な物価下落)を組み合わせても「ス
タグフレーション」?

いや、この場合は、「スタグフレーション」という言葉は使われませんね。近いニ
ュアンスの用語として使われがちなのは「デフレスパイラル」でしょうか。需要不
足すなわち不況が物価下落を加速させ、そしてその物価下落が不況をさらに
深刻化させるという悪循環。この言葉は、数年前によく取り上げられましたが、
最近は「デフレ」=「不況」という感覚で捉えられているので、以前ほど使われな
くなってしまいました。

「デフレ」が悪者扱いされていますが、では、実際の生活者の視点から「デフレ」
という事象がどにように捉えられているかというと、決してそうでもないようです。

この話は次号にて。 【編】


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2003年05月04日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.04.22
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         リスクを取る人取らぬ人
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先週、20年国債の入札がありました。

1千億円の増発の上、さらにクーポンレートも史上最低の1.0%と、前回と比べ
て0.4%もの大幅引下げとなりましたので、その動向に注目が集っておりました
が、蓋を開けてみれば、なんという事はなく、相も変わらず都銀勢の買いが順調
に入り、好調な結果となりました。セカンダリー市場でも買いが入り、利回りも1
%割れ。反対に、株式相場は引続き軟調な動きとなり、日経平均株価のバブル
後安値更新のニュースはすっかり耳慣れされてしまっている状況です。

国債を購入しても、20年で年率1%の収益しか上げる事ができないというローリ
ターンにも拘わらず、株式市場に資金が回らないというのは産業の活性化という
観点から考えれば、忌々しき事態でもあり、財界からも対策を求める声が噴出し
ています(といっても、20年前の水準迄株安が進行しているというのが目の前に
ある現実なだけに、投資家の心理としては現実を直視せざるを得ないところでし
ょうが)。

そんな中で、経済3団体(日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会)
が14日「緊急株価対策として構ずべき税制措置について」と題して、証券税制に
ついて緊急提言を行いました。

その内容としては、個人投資家が03年度に取得した上場株式等について、(1)
相続税評価を2分の1に軽減、(2)所得税・住民税の譲渡益・配当に対する非課
税、(3)譲渡損失について他所得との通算を可能とすること、の3点。前回号で
簡単に触れた、「新・新証券税制」よりもかなり踏み込んだ大胆な減税策です。

だからといえ、「いざ、リスクをとれ」と言っても、将来不安だらけの個人投資家が
簡単に共鳴するとは思えませんが、これは「たまごが先かにわとりが先か」の問
題でもあり、リスクをとろうとする個人に対して税制面での優遇を行うというのは、
産業活性化という点で意義ある事かもしれません。 【編】


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2003年04月27日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.04.13
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         非伝統的な金融政策
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先週8日、日銀は金融政策決定会合において金融調節方針の現状維持(8対1の
多数決)と、資産担保証券購入の検討を進める方針を決定しました。

具体的には、(1)中堅・中小企業関連資産を主たる裏付資産とする資産担保証券
を時限的措置として金融調節上の買入れ対象資産とすることについて検討を進め
る事(2)資産担保証券買入れの具体的スキーム策定に際しては広く市場関係者
の意見を求める事(3)具体的なスキームは改めて金融政策決定会合において討
議の上決定する事、が示されました。

また、声明文の中において、日銀は「民間債務を買い切ることは、中央銀行として
は異例の措置である。日本銀行としては、(1)波及効果の大きさはどの程度か、
(2)市場機能を歪めることはないか、(3)日本銀行の財務の健全性をどのように
維持するといった点も見極めながら、買入れの具体的方法等を最終的に決定し
ていく方針である」と明示しております。

以上のような日銀の発表から推察される事は、日銀が(今回の民間債務の買取り
といったような)非伝統的な金融政策に対して、極めて慎重であるという点。福井
新総裁が就任し、日銀のスタンスの変化に対して注目は集まってはおりましたが、
トップが代わったからといってそう簡単に変わる訳はありませんし、又、資産担保
証券の買取りといっても、市場規模がさほど大きくない事を考えると、「異例の措
置」と日銀がやや大袈裟に言うのとは裏腹に、今回の措置が金融市場に与える影
響も極めて限定的でしょう。                【編】

==================================
■用語解説:資産担保証券
==================================

資産担保証券は、アセットバックセキュリティー(ABS)、その中でも期間1年内の
短期のものは、アセットバックコマーシャルペーパー(ABCP)とも呼ばれます。

資産担保証券の発行の流れとしましては、先ず、金融機関の設立した特別目的会
社(SPC)が企業の保有する売掛債権等の資産を買取ります。そしてSPCが当該
資産を裏付け(担保)にして証券(=文字どおり「資産担保証券」)を発行する事とな
ります。

SPCに債権を譲渡する企業にとっては、たとえその企業の信用力が劣っていても
、債権先の信用力が高ければ、相対的に低いコストで資金調達ができ、また、資
産を圧縮しバランスシートの見栄えをよくする事ができるというメリットがあります。
又、金融機関にとっては、SPCを活用した資産担保証券スキームを組む事でそ
れなりの手数料収入を得る事ができます。そして、資産担保証券を購入する投資
家にとっても、(担保となる資産の信用力は概して高い為)比較的低リスクでの運
用ができる事となります。  【編】

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2003年04月13日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.04.06
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         未曾有の長期金利水準
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SARS(サーズ)という言葉が独り歩きし始めています。ご存知の通り、Severe
(重症)Acute(急性)Respiratory(呼吸器)Syndrome(症候群)の頭文字をとっ
たものですが、感染経路が不明で「謎の肺炎」としてマスコミが報じているので
、一層不安感が煽られているような気がします。

4月3日のWHOの報告では当該時点の死亡率は3.5%、死亡者は78名。-----
感染者・死亡者絶対数や感染力の強さ(現時点においてはSARSよりもインフ
ルエンザの方が感染力が強いとは考えられている)を考えると、世界中に猛威
を振るったインフルエンザの方が恐ろしいとも思えますが、「得体の知れない」
「対処法不明」というのは不気味ですね。。(「対処法不明」で不安ばかりが募る
という点では、日本経済の先行きともある意味共通しているような気も、、)

航空会社や旅行会社への悪影響は深刻です。でも、淘汰が進み、生き残った
会社はその後きっと飛躍のチャンスが訪れる。そういう時代の流れなのでしょ
う。

気が付けば4月。皆様におかれましてはよい年度でありますように。  【編】


長期金利はもうこれ以上下がりようがないと言われつつ、先週も長期金利が大
きく低下しました。背景としては、(1)デフレ長期化観測のさらなる強まり、(2)
イラクや北朝鮮問題等の地政学的リスクの高まり、(3)世界的な株安・債券高
トレンド、(4)イラク戦争後においても内閣支持率が大きく下落していない事を
受けた政策転換リスクの剥落等々ありますが、とにかく「質への逃避」(国債の
質が高いかというと異論もありましょうが、消去法的に。。)が進んでいます。
10年物の国債で0.7%割れ、、国債のリスクプレミアムは何処へ???

イラク戦については、今週より米英軍がバクダッタ市街に入った事により一つの
山場となり、仮に早期終結の見通しが立ってくれば、マーケットには少なからず
影響を及ぼす(良くも悪くも一つのきっかけとなる)事でしょう。

必然的に戦後復興の話題が湧き出してきて、日本政府の経済政策や政局にも
それなりの影響を与えてくるものとなるのでしょう。この点、米財務長官が先日
3日のフロリダの講演にて、イラクの戦後復興費用について「先進各国の支援
を確認したい」と述べたり、米国が開戦直前に日本を「戦後の平和維持と復興」
におけるイラク攻撃の参加者として公表している事等からも、日本の復興支援
に強い期待が抱かれております。

従って、かかる米国からの期待の圧力と対峙しつつ、従来からの財政再建に向
けた政策方針との整合性もとらなくてはならないので、舵取りが難しくなってくる
事が予想されます。まぁ、何れにしても、大借金国にてお金ないんですけどね。。。

長期金利は上記背景に伴う政策転換リスクを察知して反発する可能性はあり
ますが、構造的なデフレ問題解決の糸口が見えない中、その反転幅は限定的
なものと思われます。  【編】


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2003年03月30日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.03.24
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             開戦相場
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戦争が始まってしまいました。1991年1月の湾岸戦争が勃発した際に米国市
場がどのように動いていたかというと、「株高・債券安・ドル高」でした。戦争が短
期で終結するという期待やそれに伴う原油価格の鎮静期待などがあったと言え
ます。

今回の開戦時においても米国市場においては同様の動きが見られました。日本
の三連休中、株は大幅反発、ドルも買い戻しの動きが活発化しました。原油相
場も売りが膨らみました。開戦、しかも、圧倒的な軍事力の格差がある中での
開戦により、目先的なイラク問題は短期解決し(根深い問題は到底解決するも
のではありませんが)、漫然としていた先行きの不透明感もなくなるだろうという
発想です。戦争という異常事態に対して市場がとる最初の行動としては、確か
にそうなのかなという気がします。

一方、難しいのは、中長期的な見通しです。短期決戦なのか長期決戦なのかと
いうところもありますが、仮に短期決戦で戦争が終結したとしても果たして米国
経済は大丈夫なのか。。という疑問も残ります。この点は、今週は米国において
重要な経済指標の発表が続きますから(25日には三月の消費者信頼感指数、
26日には二月の新築住宅販売、28日には二月の個人所得と個人消費)、注
視していく必要があるでしょう。

ちなみに、米国金融当局FRB(米連邦準備理事会)は先週18日に行われたF
OMC(連邦公開市場委員会)でどのようなスタンスを採ったかと言いますと、
政策金利の据え置きほ決めるとともに、(初めてのことではありますが)「判断
保留」というスタンスを採りました。

景気の停滞、特に、最近の雇用関連指標には失望感が抱かれつつも、イラク問
題を中心とする地政学的不確実性(最近流行りのキーワードですね)の要因が
大きく、これがなくなれば現行の低金利政策と労働生産性の上昇が景気拡大に
寄与するであろうという従来の見方は繰り返されましたが、戦況によっては景気
が下ぶれるリスクもあれば、早期解決を見込んで景気浮揚の環境が発生する
可能性もある。取り敢えずは黙って見守ろうというものです。

FRBもさながら戦時体制。物騒な世の中です。 【編】


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2003年03月23日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.03.17
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        どう変わる? ホテル業界
        〜うねり高まるネット予約への波〜

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この時期に浮上したのがインターネットの利用です。日本でネット宿泊予約が始
まって7年。インターネットの普及とともにネット予約は急カーブの伸びを示し、
ブロードバンド利用人口の急増がこれに拍車をかけています。旅行代理店依存
度の高いシティホテルでさえ、ネット予約が宿泊売上の10%を超えてきており、
920室を擁する大阪の新阪急ホテルでは、この1年で3倍増の20%に達したそ
うです。ビジネスホテルでネット依存率が高いことはいうまでもありません。

現在1000億円強のネット関連の宿泊売上が、数年後には2兆円を超えるとい
う予測もあります。ボトムの料金で泊まれ、居ながらにして予約できるというメ
リットの大きさから考えても、この数値は過大とはいえないでしょう。2〜3年前
には、ネット予約をする人は珍しい存在でしたが、ネット予約をしない人が珍しく
なる日が目前に迫っているように感じられます。
 
かつて、旅行業界はJTBが主導する護送船団のようなものでした。その体制が
崩れた後も余波は根強く残っていました。しかし、旅行代理店依存とネット利用
の間で揺れていたホテルのハラも決まってきました。いよいよネット予約への大
移動が始まります。ということは、現在のネット予約の隠れていた問題点があら
わになるということでもあります。

ネット宿泊予約業界のガリバー「旅の窓口」が「ホテルの窓口」の名称でスター
トを切ったのが7年前。2〜3年前から、ネット予約の将来性を見越して数十社
がどっと参入し、急に賑やかな業界になりました。しかし、残念なことにすべて
が「旅の窓口」の亜流なのです。

宿泊サービスもひとつの商品です。この商品の特徴は、実際に泊まってみるま
で料金に見合った満足度を予測しにくいところにあります。つまり選択に不安が
つきまといます。ネット予約をされた方なら、割引率といった当てにならない指標
にやむなくすがったりしたことがおありではありませんか? 

時間が有り余っていれば、投稿情報を丹念に読むこともできるでしょうが、感情
的に書かれた一行の表現に振り回されるかもしれません。サイトのおすすめ情
報も信じられません。根拠がないかウラがあるかのどちらかですから。

宿泊サービスという商品の性格がもたらす不安、これを解決する手立ては従来
の宿泊予約サイトにはありませんでした。明快・簡潔でなかったらネット利用の
メリットは半減します。ネット予約の利用者が無意識に求めているもの、それは
情報の適正な集約なのではないでしょうか?

旅行業界は身近な割にその実情が知られていません。読者の皆さんの知的欲
求を満たせるテーマもたくさん転がっています。旅行の実用情報についても意
外にご存じない方が多いのに驚きます。次回はもう少し先となりますが、これら
を取り上げた記事を寄稿させていただきたいと思いますので、宜しくお願い致し
ます。 【G】





2003年03月09日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.02.25
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         成功するWEBショップ
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前情報総合通信研究所の「インターネットショッピング利用実績調査」によると、
昨年3月時点でインターネットショッピング利用経験は8割に達しており、その
2年前が10%代であった事を考えれば飛躍的な伸びを示しています。ご周知
のとおりブロードバンドが普及し、誰にとってもインターネットがより身近な存在
となった事により、全てのWEBショップが確実に儲かるとは言い切れないもの
の、確実に儲ける事ができる市場に成長していると言えるでしょう。

このWEBショップの実店舗と比較した場合におけるメリットとしては、

(1)地理的に店舗へ訪れることのできない遠隔地の顧客に対して販売できる
  ので、商圏が今まで以上に拡大する。
(2)24時間稼動でき、営業時間の制約が無い。
(3)低コストですぐに始めることができる、リスクが圧倒的に少ない。

等が挙げられます。

しかし、これは裏返せば、参入障壁が低く、競争が激しいという事。WEBショ
ップとして成功させるには、幾つかのポイントを抑えておく必要があります。こ
のポイントの一つは、WEB上で「カード決済」ができるかどうか。上述の「イ
ンターネットショッピング利用実績調査」によると顧客が選択する商品代金の
支払い方法としては「カード決済」が最上位。逆に、顧客のニーズを満たす為
には、「カード決済」に対応できるシステム整備は最低限行っておく必要があ
ります。

とは言え、個人でクレジットカード決済サービスを構築するのはなかなか難し
いもの。レンタルサーバ会社にて同決済サービスが用意される場合は、契約
・構築の手間やコストが大幅に削減できるので、WEBショップ運営のインフ
ラとなるレンタルサーバ会社を選択する際はこのような点にも留意する必要が
あるでしょう。   【編】


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2003年03月02日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.02.23
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        産業再生法の位置付け
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前回号記事中に「ダイエー」を「マイカル」等と共に「破綻した大手小売業者」とし
て並列させておりましたが、これは誤りです。後者の内「マイカル」は最終的に民
事再生法の適用が申請され法的整理されましたが、前者は厳しい経営状況であ
る中、産業再生法の申請をする事により破綻が回避されたものです。
当編集部の推敲・校正漏れです。大変申し訳ありませんでした。

さて、ダイエーに適用された産業再生法。オールドニュースではありますが、適
用を受ける企業も多数出ておりますから、この機に簡単におさらいしてみましょ
う。尚、この産業再生法は時限立法で、適用を受ける為には今年3月31日迄に
申請する必要がありますので、お気を付け下さい。  【編】


昨年4月26日、産業再生法(正式には産業活力再生特別措置法)に基づき申請
していたダイエーグループの事業再構築計画が経済産業省より認定を受けまし
た。

産業再生法に似た名前の法律としては、民事再生法がありますが、これは経営
が苦しくなった経営者等が企業の再生を目指して早めに裁判所に倒産の申請を
できるようにした制度です。これに対して、産業再生法は、バブル経済の崩壊に
伴って疲弊し、低下した生産性を抜本的に改善していく為に、種々の優遇措置に
ついてのパッケージを用意し、低生産部門より高生産部門への経営資源の迅速
且つ円滑なシフトを図る事により産業活力の早期再生を目指す事を目的とした
制度です。

企業のリストラに対応するという側面もありますが、法の適用範囲もリストラに
限らず広範にわたり、もともとの立法主旨は民事再生法とは大きく異なりますし、
トヨタ等優良企業にも広く適用されているものです。

適用を受けた企業が受けられる優遇措置としては、税制上の特例、商法上の特
例、財政金融上の特例等多数ありますが、例えば欠損金の繰り延べ(過去の赤
字を将来の黒字と相殺して将来発生する税金を抑制できる)が7年間(通常は5
年間)、繰り戻し(現在の赤字を過去の黒字と相殺して過去発生納付した税金の
還付を受けられる)が1年間(通常は認められていない)認められたり、会社設立
の際の登録免許税が大幅に軽減されたり(新会社設立や合併等事業再編が進
められやすいようにする為)、日本政策銀行等により低金利融資を受けらたり、
等々(全ては記載しきれないので割愛します)。

ダイエーのケースはやや特殊で、銀行からの借入金債務免除(銀行からみると
債権放棄)を受ける企業に対する初めてのケース。産業再生法は債権を支援す
る銀行側にも大きなメリットがあり、債権放棄分を損金算入し無税償却(→200
2年10月27日号ご参照)できる他、通常であれば認められない銀行による5%
以上の保有が例外的に認められる為、債務の株式化(用語解説ご参照)が実施
しやすくなります。そういう意味では、ダイエーは産業再生法があったからこそ銀
行の支援も受けられやすくなり、法的整理(倒産法、会社更生法、民事再生法申
請)への道を回避できたといってもよいでしょう。          【編】

==================================
■用語解説:債務の株式化
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経営の苦しい企業に対して融資の返済を免除(債権放棄)する代わりに、企業
が新規に発行する株式を受け取るという仕組み。デット・エクイティ・スワップと
も言います。

企業側にしてみれば、融資を返済する負担が消え、資本が増強する為、財務体
質が著しく向上するというメリットがあります。

一方、銀行側にしてみれば、企業が上手く再生すれば、株価の値上がり益や配
当受取等により、融資を回収する以上の利益が期待できるわけです。また、既
存株主にとっては、短期的には理論株価が下がるという短所がありますが、こ
れも破綻が回避され再生していけば、中長期的にはプラスとなる可能性があり
ます(最終的にどうなるかはケースバイケースで誰にも分からないわけですが)。
【編】


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2003年02月23日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.02.11
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       どう変わる? ホテル業界
        〜破綻続けど、需給改善せず〜

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本コーナーは宿泊予約サイト<http://www.tabitama.net/jerep/php/index.php>
を新規に立ち上げされた読者【G】氏よりの御寄稿によるものです。ホテルや旅
行業界のトピックスを何回かに分けて紹介させていただきます。    【編】
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「そごう」「マイカル」「ダイエー」「第一家庭電器」と並べると? そう、破綻した大
手小売業者ですね。このお蔭?で、残っている大手小売業の販売効率がアップ
したそうです。売り場面積が減れば、単位面積あたりの売上は増える。
当たり前のことですが・・・

では、ホテルはどうでしょう?大手のチェーンでは「第一ホテル」「チサンホテル」
、有名どころでは「川奈ホテル」が経営破綻組ですが、その他にも、名前を挙げ
れば、え?あそこもそうなのか?というくらい破綻ホテルは多いのです。
しかし、大手の場合は民事再生法か会社更生法の適用を受け、ほとんどそのま
ま営業が継続されています。破綻した小売業も再建が認可されれば営業を継
続できますが、店舗数は激減(たとえば「そごう」の場合42→11店舗)していま
す。

また、ホテルは転用が難しいこともあって、ホテルの持ち主が変わった場合でも
ホテル以外の業種に転換することは滅多にありません。どこかのホテルグルー
プに運営を委託したりして、そのまま営業を継続しています。これでは需給の改
善は望めません。それどころか、東京の汐留や六本木はじめ都市の再開発が
らみでホテルが新設されるほか、宿泊に特化すれば利益が見込めるということ
でビジネスホテルのオープンも続いています。

ヒルトンやホリデイインなどのカンムリを持ったホテルは外資系と呼ばれていま
すが、ホテルを所有しているわけではなく「運営」を委託されているだけでした。
ところが、投資会社のリップルウッドがホテル運営会社のマリオットとパートナ
ーを組んで「第一ホテル」の買収を図ったのを契機に、外資が「所有」に動きは
じめました。このことも日本のホテル業界にとって不気味な脅威になりつつあり
ます(記事解説「参入相次ぐ外資系ホテル」ご参照)。

旅行業者も大変です。バブル期の需要に合わせて店舗を構え、正社員を多数
抱えている大手であるほど経営は厳しい。利幅も少なくなっていますから、量で
頑張るしかない。売れ筋は安いパック旅行しかないというので、ホテルや旅館を
叩きまくり、懸命の企画作りに今日も励んでいるのです。

宿泊施設にしてみれば、叩かれること自体は迷惑な話ですが、施設や従業員が
遊んでしまうよりはましというので、泣く泣く押し切られてしまう。
共存共栄というより共損で半死半生という図式でしょうか? (続く)    【G】

==================================
■記事解説:参入相次ぐ外資系ホテル
==================================

都市再開発によりオフィスピルの供給過剰、所謂「2003年問題」が取り沙汰され
ておりますが、ホテル業界もこの都市再開発に無縁ではありません。2002年度
の「全国主要ホテル経営実態調査(日本ホテル協会)」によると、規模別では700
室以上のホテル群で減収減益かつ最終赤字。一部のホテル(帝国ホテル等が代
表例)を除いては、不況の長期化に伴い、収益回復の兆しが見えてこないホテル
業界。そこに都市再開発の動きに呼応して外資系、国内組共々開業ラッシュが続
きます。

今年4月は森ビルが再開発した六本木ヒルズにグランドハイアット東京が開業、5
月には品川にストリングスホテル、7月には汐留にロイヤルパークホテルが開業。
又、2005年1月にはウェスティンやシェラトンを世界中に展開するスターウッド社
(米国)が最高級ブランドであるセントレジスを汐留に開業、同年末には日本橋に
香港資本のマンダリン、07年には有楽町に同じく香港資本のペニンシュラが開業
する予定です。

10年前に集中的に開業した外資系の新御三家パークハイアット、フォーシーズ
ンズ椿山荘、ウェスティンは先のコラムの通り運営受託(外資は設備投資は行わ
ず、受託料を受け取るのみで、リスクを最小化する)という形態での進出でしたが
、上記ペニンシュラやマンダリンは100億円規模の内装を自前で行う等、大規模
な設備投資を伴い、進出してきているのが特徴です。では、リスクの伴う設備投
資を行ってまで、外資が進出してくる背景は何でしょう。

2つ挙げるとすれば、1つは、デフレや都市再開発の影響で進出コストが低減し、
ハードルが低くなった事。1つは、グローバルな視点でみれば、東京市場は魅力
あるマーケットでもある事。実は、世界の主要都市間で比較すると(物価水準の違
いもあり、単純比較は出来ませんが)東京市場は客室単価、稼働率共にトップク
ラス(高い客室単価と稼働率が両立している希少なマーケット)。既存ホテルがバ
ブル崩壊に伴う負の遺産を抱え、赤字体質から脱却できない状況であっても、
身軽な新規参入組にとっては、収益に対する十分な自信を持つに足る市場とも言
えるのです。

逆に言えば、経営能力の卓越した外資系ホテルの進出は、競争を激化させ、既存
ホテルにとってはますます厳しい状況に追い込まれる可能性がある事は間違いな
いでしょう。旺盛な新規開業の裏では既存ホテルの淘汰の動きも加速するものと
思われます。     【編】

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2003年02月16日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.02.09
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  無料オンライン投資講座のススメ(為替取引編)
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イラク情勢に一層目が離せなくなってきました。為替市場においては、かつて度
ある毎に言われた「有事のドル買」は死語となり、「有事のスイスフラン買」とよく
言われるようになっています。

不人気投票の結果、米ドルや日本円は敬遠され、相対的にユーロが買われて
います。最近の株式市場のようにマクロな動きに引っ張られて個別銘柄の動き
が読みにくい状況下、マクロな動きに反射神経的に反応する為替取引もおもし
ろいと思います(一方で変動率も大きいので注意も要しますが)。

以下のようなWEB上での無料講座もありますので、ご活用されるとよいと思い
ます。→http://sec.himawari-group.co.jp/academy/Forex_demo.cfm

為替取引には興味はあるけれども、本を読む気にもならないし、本を読んでも専
門用語が多くて分かりづらい。。。なんていう方には、Web上の画面で為替取
引の仕組みやリスク・戦略を勉強できる無料オンライン投資講座がオススメです。

最近、私もひまわり証券の「インベスターズアカデミー(フォレックスコース)」に
触れる機会がありまして、動画もきれいで、とても分かりやすい。
http://sec.himawari-group.co.jp/academy/Forex_demo.cfm

デモ画面にも同様の例示がありますが、例えば「1ドル=119円50−60銭」と
いう為替レートの表示についての説明。経験者であれば、119円50銭と119
円60銭という2つの数字はビッド(買い気配=119円50銭ならばドルを売る事
ができる)とオファー(売り気配=119円60銭ならばドルを買う事ができる)とが
表示されているものである事やマーケットの流動性が低下している時はこのオ
ファー・ビッド差が乖離しやすい事等は当然のごとく分かっている事ですが、経
験がないと案外よく分からない(という私も、社会人になった頃は119円50〜
60銭の間で取引が成立したという事かなぁと勘違いしていました)。
そのような基本的なところから平易な表現で解説してくれるのです。

実際に為替取引を行うかどうかは兎も角、何はともあれ為替(或いは為替取引)
の基礎知識、分析手法、リスク管理等々を理解しておくという意味では、色々と
ためになると思いますので、おススメです。

ちなみに、この無料オンライン講座を提供するひまわり証券は為替証拠金取引
(用語解説ご参照)のパイオニアとして広く知られ、同社の「マージンFX」は98
年8月から日本で初めて為替証拠金取引をリテール向にリリース。

同社は、インターバンク市場での有力なカウンターパーティー(顧客から受けた
売買注文をインターバンク市場で対応してくれる金融機関)を複数持っている事
から、非常時でもプライスが出やすく、個人に対してもインターバンク市場に準じ
た適正なレート提示ができるという点等も好評を博しており、取扱シェアナンバ
ーワンの実績(2002年3月、矢野経済研究所推計)を持っています。

同社は「投資家育成」を常に考えており、その代表的なものが、先に紹介しまし
た「インベスターズアカデミー(フォレックスコース)」。既に受講生数も7300名
を突破しており、現在52期生を募集中との事です。 【編】

■用語解説:為替証拠金取引とは

簡単に言うと、証拠金を使って行う、外国為替スポット(直物)取引と言う事となり
ます。取引の基本は、インターバンク市場と同様に信用取引なのですが、個人
の場合は大手金融機関のように何の担保もなく信用供与を受ける事はできませ
んから、担保として証拠金を預け、その証拠金を使って取引を行うものです。

24時間動き続ける為替市場で、リアルタイムに、そして、相対的に低い手数料
で、少ない資金を効率的に使って投資する事ができる−−というとよい事ばかり
に見えますが、当然メリットの裏側にはリスクもありますので、両方を十分に理
解された上で取り組みましょう。 【編】


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2003年02月09日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.02.02
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       えっ、1円で株式会社設立?
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先月21日、「新事業創出促進法施行規則の一部を改正する省令」が公布され、
2月1日から施行となりました。

この省令は、昨年11月に公布されました「中小企業挑戦支援法(中小企業等が
行う新たな事業活動の促進のための中小企業等協同組合法等の一部を改正す
る法律)」をうけて、新事業創出促進法第2条第2項第3号に該当する創業者(事
業を営んでいない個人が新たに設立し、当該新たに設立した会社で事業を開始
しようとする個人であって、2カ月以内に開始する具体的計画を有する者)のうち
当該創業者に該当することについて経済産業大臣の確認を受けた者が設立す
る会社については、最低資本金未満の資本金で会社(株式会社:最低資本金1
000万円未満、有限会社:最低資本金300万円未満)を設立することが認めら
れ、その設立から5年間は資本の額が最低資本金の規制を適用されないことと
するものです。

つまり、簡単に言えば、新たに事業を行おうとする者は、たった1円でも、有限会
社や株式会社を設立する事ができるというものです。(これまで、最低資本金未
満にて会社を設立するには、戦前設立企業に会社を新設してもらい特定権利譲
渡処理を行う、海外で法人登記し日本では支店として活動する等の裏技はあっ
たものの、手数料が割高であったり、なかなか行い難いという問題がありました)。

今回の改正は、開業率(約4%)が廃業率(約6%)を下回る厳しい経済状況の
中、創業、新事業などの新たな事業活動に「挑戦」する中小企業者等を積極的
に支援しよう(「中小企業挑戦支援法」という文字のごとし)というのが主目的。

個人的には、個人投資家にも奮起してもらいたいですね。ある特殊な技能を持
った起業家を支援したいと思えば、たとえ1円でもその起業家を社長にして会社
を作れるわけです。資本金が1000万円に達する迄は配当を受ける事ができな
いという制度上の規制はありますが、限り無く大きい夢を持つ事はできますよね。

【編】


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2003年02月02日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.01.26
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         交際費と景気の関係
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先日、国税庁が「平成13年分税務統計から見た法人企業の実態」を公表致しま
した。

同税務統計は、年度が終了してから税務調査が終了する迄にタイムラグがある
事から、1年程度遅れた数字とはなってはしまいますが、企業にとって最大のコ
ストの一つでもある税金面から捉える企業の実態というものは、なかなか興味深
いものがあります。

例えば、交際費。今回の統計によると、営業収入金額1000円当りの交際費は2
円50銭となり、この数字は交際費について統計を取り始めは昭和36年に次ぐ低
さとなっています。交際費支出額の総計も3.9兆円と10年前と比べると約36%
減少しており、バブル崩壊後の失われた10年において、企業が交際費削減努力
をしている姿が統計上も顕著にあらわれております。

交際費支出の状況を企業の資本金の規模別に見ていくと、資本金1000万円未
満の企業については営業収入1000円当り6円94銭、資本金1000万円以上5
000万円未満の企業については4円08銭であるのに対して、資本金5000万円
超の企業については1円台と大きく減少します。

これは、資本金5000万円超の企業に適用される法人税法上の優遇措置(交際
費のうち一定部分は課税されない)があるからであり、このような交際費支出額
の抑制傾向(交際費課税収入の減少、交際費支出抑制に伴う消費低迷)に配慮
してか、平成15年度税制改正においてはさらなる優遇策がとられる事となりまし
た(詳細は別途)。

軽減措置の内容としては、交際費等の損金不算入制度について、400万円の定
額控除を認める対象法人の範囲を資本金1億円以下(現行資本金5000億円以
下)の中小法人に拡大するとともに、定額控除額までの金額の損金不算入比率
を20%より10%に引き下げるというもの。

この措置に上手く合致する企業においては、例えば、その社長の給料をアップさ
せて、交際費とも言えるような支出を自腹で行わせるケースよりも、その社長の
給料をアップせず、会社の経費(交際費)として100の支払をするケースの方が
断然に節税メリットを得られる(前者で発生する個人所得税よりも後者で発生す
る法人税の方が小さい)事もあります。収入が目減りするデフレの昨今、税コス
トのマネジメントにも留意されるとよいでしょう。

さて、この交際費支出について業種別の額についても公表されておりますが、営
業収入1000円当りの交際費支出額のNO1業種はダントツで建設業。
なんだかんだ言ってもイメージというものは実態を伴っているものなんですね。

【編】

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2003年01月19日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  03.01.14
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           個人向け国債
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今年は個人向けの金融商品として「個人向け国債」なるものが登場します。

従来の国債は発行時に金利が確定する固定金利型であるのに対して、この個
人向け国債は金融情勢に応じて金利が変動する変動金利型であるのが最大
の特徴で、また、発行より1年経てば、中途換金も行う事ができるので元本割
れのリスクも小さそう(但し、中途解約に際しては、直近2回分の利子相当額が
手数料として差引かれるので、これを考慮すると元本割れとなる事はあり得ま
す。又、中途解約不可の期間については、個人間でしか売買が認められない
ので、その期間の流動性リスクもあるでしょう)。

日本では初の試みとなる個人向け国債が発行される事となった理由の一つと
しては(米国や英国では既に導入されています)、購入者層を広げて、大量発
行が続く国債の消化を円滑にするためです(実際、日本においては国債全体
に占める個人保有比率は2.5%しかなく、英米の8〜9%に比して小さい)。

上述の通り、基本的には元本割れが起こりにくい設計となっており、国内にお
いては安全資産としての位置付けを得られるでしょうが、そもそも個人に変動
金利型の商品が必要かどうか。

変動金利型の金融商品への投資の意義は、(1)将来のインフレを予測しヘッ
ジする事、(2)変動金利型の負債(ローン)を抱えている等、資産サイドと負債
サイドのキャッシュフローのミスマッチを防ぐ事、等が挙げられますが、(1)
いかにデフレをヘッジするかというニーズが強い情勢において果たして求めら
れているかどうか、(2)資産と負債を両建てで保有するよりは、先ずは負債(ロ
ーン)の返済に注力すべきというのが家計の鉄則、などを考えるとニーズは限
られてしまうとも言えるでしょう。

とはいえ、個人の金融商品投資に選択肢が増えるのは、歓迎です。財務省で
は、国民向けにポスターやパンフレットを作成。
ホームページ<http://www.mof.go.jp/>でも情報は公開されておりますので、
ご興味あれば御覧になってみるとよいでしょう。    【編】






2003年01月01日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.12.24
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        デフレは続くかどこまでも
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昨年の今頃、2002年度の個人的な予想として「大局観としては、やっぱり『悲観
シナリオ』です」などというコメント(以下、引用文御参照)を書き、素直に「株売り、
債券買い、円売り」に沿ったオペレーションを行った訳ですが、やはり明るい兆し
はあまり無いまま、株は売られて日経平均株価はバブル崩壊後の安値を更新、
債券は買われて史上最低の金利水準に、そして、円も売られてしまいました。

----2001年12月31日号 JEREPより--------------------------------------

昨年の今頃、「来年の景気シナリオを完成させました。一言で言うと、またしても
『悲観シナリオ』色が強くなってしまいました」などというコメントを書きました。

私が相場を張る時は、日計りディーリングは行わないので、「悲観シナリオ」を予
測すると、年初に素直に「株売り、債券買い、円売り」に沿ったオペレーションを行
い、あとは一年間大局観が変わらない限りにおいては、特に何もせずボーッとし
て、成り行きを見守ります。結局、今年は国民総悲観論まっただ中へと突入し、
株も円もだいぶ売られましたが、多くの人は同じように思っていたでしょうし、ある
程度予測しやすい年だったかもしれません。

でも、来年は少し難しそうですね。一方的に(悲観論へと)見方が傾いているよう
な時は、得てしてちょっとした事で反動も大きくなる傾向が強いですし、年末にか
けての円の売られ方もスピードオーバー気味、株価もある程度はいくところまで
いったといった感はありますから。少なくとも米国テロ事件のマイナス影響につい
ては、GW頃からはっきりとした反動が出てくるのではないでしょうか。

ただ、大局観としては、やっぱり「悲観シナリオ」です。一向に減らぬ不良債権、
事実上債務超過となっている多くの地方自治体や第三セクターの存在、年金や
保険など高齢化進展に伴う問題の増幅等々、直ちに解決できそうもない問題が
山積みとなっていますから。少々暗いムードですが、世の現実はそれとして、私
生活では来年もポジティブシンキングでいきたいと思います(と思わずとも、いつ
も楽観的過ぎるのですが)。
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先日、日経新聞の特集記事にもありましたが、我々も経験してきました20世紀
は「インフレの世紀」でありましたが、長い歴史でみれば例外的な時代とも言え
ます。19世紀の時代はほぼ安定的に物価が推移していましたし、とりわけ19世
紀後半は欧州において約30年間デフレを経験しています。

19世紀後半は、列強諸国の植民地政策の進展、蒸気船の登場等による交通網
の発達等により、発展途上国より安価な労働力・物資が大量に流入し、デフレが
進展しました。1990年代以降の冷戦の集結等によるグローバル化の進展、イン
ターネットなど情報通信網の急速な発達に伴う企業の国際的な調達・研究開発
体制の確立促進等々、時代は違えど「グローバル化」という面では共通項があり
ますが、これがデフレを推し進める構造的な要因の一つとすれば、ここ最近のデ
フレはまだ始まったばかりと言えるのかもしれません。 【編】


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2002年12月08日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.12.01
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           金持ちへの課税
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先日、塩川財務相は2002年度税収見通しについて税収不足(税収欠陥)が2兆
8000億円に達することを明らかにしました。結果、政府が固めた2002年度補
正予算案も、この税収不足の手当て分を含め、金額が膨らみ、国債発行枠30兆
円も突破する見通しとなりました。税収不足のトレンドは今後も続きそうです。

税収の中で個人に紐付く税金としては、どのようなものがあるかというと、最も多
いのが所得税で、これがほぼ16兆円。次いで、消費税で、これが約10兆円。
税収を増やす為に、所得税の課税標準の引下げや消費税率のアップを行うべき、
というような政策案は、今後も何度となく出てくるのでしょう。

                   ・      ・      ・

さて、現実的には、導入される可能性はまずないのですが、例えば所得税をゼロ
にして全て消費税の形にて個人より税金を徴収しようという考え方もあります。

大きな所得がある人は通常「金持ち」と呼ばれ、所得が大きければ大きいほど、
その所得に対して高率の税金が課される。これが、現行の所得税です。いや、で
も幾ら所得があっても、お金は使うところに魅力があるもの。だから、お金を使わ
ずに質素・倹約にしている人は、実は「金持ち」とはいえず、お金を惜しみなく使い
、贅沢に消費をしている人こそ本当の「金持ち」で、そういう人にこそ課税すべきだ
という考え方です。

代表的なものは、カルドア教授の消費税。彼は、上述の通り、単なる消費税では
なく、所得税に代わるものとしての消費税(Expendenture Tax、以下「総合消費税
」)を提案しています。

単純に考えると、消費性向の低い人(所得を消費ではなく貯蓄に回す傾向がある
人)にとってはメリットがあり、消費性向が高い人にはデメリットとなるこの制度。
現実的には、色々な問題があり(今回は説明省きますが、皆さんも幾つか気づき
ますよね)、導入される可能性はまずないのですが、発想としては面白いですよね。

ところで、本当の「金持ち」の定義とは、一体何なのでしょう?    【編】





2002年11月24日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.11.17
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        デフレを知らない人々
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世界中の多くの人々はデフレを実体験した事はありません。前々回お話したよう
に世界の殆どの国は物価上昇率こそ鈍っていますが、物価はマイナスにはなっ
ていません。

直近で物価がマイナスになっているのは、日本と中国ぐらい。
そして、中国も未だ「持続的に下落」の域には達していません。
持続的に物価が下落している状況を実体験しているのは我々日本人ぐらいです。

しかし、それでもなお、日本の様々なシステムはインフレを前提としていたりとデ
フレへの対応力が極めて弱い状況です。いわんや、デフレを実体験した事の無
い日本人以外の人々、とりわけアメリカの人々が日本や中国が輸出するデフレ
の圧力に対して臨機応変に対応できるかどうか、疑わしいところでしょう。

少し遅れた話となりますが米国では11月6日のFOMC(連邦公開市場委員会)
において、政策金利の一つであるFFレートの誘導水準が1.75%から1.25%
へと市場の予想を超える範囲で引き下げられました。

最近2年間では5%以上も米国の金利が下がった事となります。まさに、この積
極的な金融緩和政策は、日本の轍を踏まないようにという思いの裏返しでもある
わけですが(イラク攻撃への備え等、他にも色々考え方はあるでしょうけれども)
、この水準迄金利も下がってくると、95年頃の日本を思い出します。

当時の日本の政策金利もまさにこの水準、公定歩合下げ、オーバーナイト金利
の低め誘導等々、日銀が大胆且つ積極的に金融緩和を実施。「超低金利」とい
う見出しが新聞市場で賑わい定着。誰もがいよいよクライマックス、誰もがこれ
で景気底打ちと錯誤した時がありました(95年の七夕に日米協調介入+金利
低め誘導、お盆に日米独三国協調介入等が行われた時など。私が大学を卒業
し、社会人1年目の頃の出来事、懐かしいなぁ・・)。

しかし、皆さんが御存じの通り、結論はデフレの呪縛に陥り、「超低金利」を長期
間続けざるを得ず、更には、「超低金利政策」を超えて「ゼロ金利政策」「量的緩
和政策」へ。

一方、財政政策も効果的な策を見出せないまま、不毛な公共投資中心の景気対
策に終始。
デフレの時代に備えるぞという政府サイドの意気込みは、最近こそ多少は垣間見
られるようになりましたが、2〜3年前までは全く感じられませんでした。

インフレを前提とした経済しか知らぬ人々は、デフレにそうは簡単に対応できない
もの。歴史は国境を超え、繰り返されるのでしょうか。   【編】



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2002年11月10日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.11.04
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        デフレとディスインフレ
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10年物の国債利回りが4年ぶりに1%を割り込みました。極端な話、何らかのビ
ジネスを始めたとしても、10年間で年利1%の収益すら生み出せないと大勢の
人々が思っているようなもので、異常な状況ですねぇ。 【編】

グローバルデフレ(世界的なデフレ)懸念が台頭しております。

しかし、グローバルデフレと言っても、世界中の一般物価が持続的に下落している
わけではありません。各国・各地域の消費者物価指数の動向をみてみると、実際
に物価が下落している主要国としては日本と中国ぐらい。米国、ユーロ、東南アジ
ア諸国でも、景気減速に伴い、消費者物価上昇率こそ減少していますが、マイナ
スには陥っていません。従い、現状は、グローパルデフレではなく、グローバルデ
ィスインフレ状態と言えるのです。

  デフレ・・・・・・持続的に物価が下落する事象
  ディスインフレ・・物価は上昇しているものの、物価上昇率が減少する事象。

それにも拘わらず、グローバルデフレ観測が日に日に強まっているのは、長い間
デフレの悪循環から抜け出せずにいる、日本の経験を見ているからとも言えます。
日本の株安は、1989年末に過去最高値に達してから足掛け13年。もちろん、
日本においても、当初は誰もがデフレになるとは思ってはいませんでしたが、結
果だけをみればこの有り様です。これに対して、米国をはじめとする世界の株安
は2000年初に始まったばかりで、まだ2年半しか経っていません。しかも、
早期か米国を初めとする各国金融当局は、日本と同じ轍を踏まぬよう、先手先
手に金融緩和策をとるなど、危機感を持って対応してきたにも拘わらず、思い通
りにはいっていません。このような中、世界各国において、何れはディスインフレ
から本格的デフレ局面を迎え、さらなる景気の悪化が長期化するのではという連
想が起こってしまうのはやむを得ない事でしょう。

先月31日、長期金利(10年国債利回り)が4年ぶりに1%を下回りました。
政府の総合デフレ対策に大規模な財政出動を含む需要創出策が盛り込まれなか
った事から、デフレが引き続き進行するとの見方は依然強く、債券への資金シフト
が加速。日本を反面教師と日本の動向に注目する世界の金融市場は、今後につ
いてもグローバルデフレの長期化懸念を意識せざるをえない状況にあります。

【編】

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2002年11月03日

         JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.10.27
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        費用と損金って何が違う?
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ご費用と損金。似たような言葉ですが、一体どういう違いがあるものなのでしょう?

費用は会計上の用語。損金は税務上の用語。会計上費用処理するものにおいて、
税務上損金に算入できる場合と損金に算入できない場合とがあり、前者の場合は
この費用は課税所得を減少させ、納税額を抑える事ができますが、後者の場合は
課税所得を減少させる事ができず、納税額を抑える事ができなくなります。要は、
後者の場合は、支払う税金が増えてしまうわけです。

では、費用と損金、どうして認識の仕方が異なるのでしょう。

先ず、会計上は、投資家を保護する点からも保守的な処理を最優先しています。
例えば、貸倒引当金。まだ損失が確定していなくとも将来損失が発生する確度が
高ければ、保守的に早め早めに損失を出しておきなさい(引当を積んでおきなさ
い)というもとで損失計上するものです。

一方、税務上はどうかというと、会計上保守的に損失を出すのはよいけれども、未
だ損が確定していないのだから、損金計上はできませんよ、とりあえず税金はきっ
ちりと払って下さい、そして、将来、法的に損失が確定したら払った税金をお返しし
ますというようになっています。つまり、税収の欲しい税務当局にとっては、納税は
早ければ早いほど都合がよいのです(何れ返す事になるにしても、それに対して金
利も付けて返す必要もないのですから)。
従い、会計上の損失はできるだけ早く、税務上の損金はできるだけ遅く、というそ
れぞれの事情による個別の要請が働き、認識のタイミングにズレが生じる事が多
々あるのです。

                 ・       ・       ・

さて、最近新聞で賑わしているデフレ対策。竹中金融相が発表した不良債権加速
処理策案において「税効果会計の厳格化」とか「無税償却の枠拡大」とかいう聞
き慣れない言葉が出てきておりますが、これらも費用と損金計上のタイミングの
相違に密接に関係するものです。

「税効果会計」というのは、費用計上したにも拘わらず損失が確定していない為損
金算入できずに支払う事となった税金は、将来損失が確定した時点で戻ってくる
ものなのだから、その税金は会計上の費用として処理しなくてもよいですよという
会計ルール。従い、税効果会計においては、支払われた税金は費用ではなく繰延
税金資産として処理するのですが、この資産を自己資本に入れられる限度を厳格
化しようという話が持ち上がったのが、最近の話題。こうなると、多くの銀行が自己
資本不足に陥り、公的資金注入を受けいれざるを得なくなり、その結果、政府主
導で銀行管理をしやすくなるという目論見が政府側にあったわけです。(しかし、
恣意的に銀行を自己資本不足に陥らせるこのハードランディングシナリオは極め
て劇薬と与党内でも反発の声が大きく、取りあえず1年先送りとなった模様。)

そもそも何故、銀行の繰延税金資産が膨らむかというと、不良債権処理を早急に
進めよとの圧力もあり、銀行が貸倒引当を積極的に積んでいる(貸倒れ損失を出
している)わけですが、にも拘わらず税務上は損金と認められない事にあります。
このような条件下、引当を積む(貸倒れ損失を出す)事を「有税償却」と言い、
逆に、税務上も損金として認められる中、貸倒れ損失を出す事を「無税償却」と言
います。

銀行が不良債権処理をスムーズに進められるようにする為には、無税償却ができ
る要件を緩和すればよいとも言えるのですが、そうすると税務当局にとっては税収
が減って困ってしまう。まぁ、こんな具合に様々な利害関係もあり、なかなか上手い
具合に進んでいかないのが実情です。

とりとめなく書いてしまいましたが、何れにせよ、費用と損金、これは全く似て非な
るものであるという点、理解しておくとよいでしょう。   【編】

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2002年9月29日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.09.23
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          捨て身?の政策転換
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ご日銀は18日、金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決定した後、続いて政
策委員会を開催し、銀行保有株の日銀による買取りを開始する方針を示しました。

今回の日銀による株買い取り策の位置付けは、株式市場の需給改善策でもなけれ
ば、景気対策でもなく、あくまでも金融システム対策の一環となります。この点、日
銀の発表文においては、以下の通り明示されています。−「金融機関保有株式の
価格変動リスクが、金融機関経営の大きな不安定要因となっている。

このリスクを軽減することは、金融システムの安定を確保するとともに、金融機関が
不良債権問題の克服に着実に取り組める環境を整備するという観点からも、喫緊
の課題である。こうした認識を踏まえ、日本銀行は、金融機関による保有株式削減
努力をさらに促す為の新たな施策の導入を検討する事とした」−−−。

発表後の市場の反応はというと、動物的な勘で動く外為市場においては、日銀の株
式購入の検討→日銀の保有資産の質の低下→円の信認低下という連想から先ず
は円売り、その後、日銀の銀行株の上昇や金融システム安定化に寄与するとの連
想から円買いという動きが見られました。外為市場とは対照的に通常冷静に反応す
る債券市場も、今回の日銀の発表は流石にサプライズ。日銀の捨て身とも言える
政策転換(つい最近迄は否定的であった株式買取り策への踏み切り)を目の当たり
にして、小泉内閣の政策すらも方向転換、つまり緊縮財政をベースとする構造改革
断行路線から、積極財政出動による景気優先主義へと路線変更するのではとの連
想まで生まれ、債券は大きく売り込まれました(金利は急上昇)。

とはいえ、基本的にはマチマチの反応。具体的な手法詳細は未定ですし、実効性は
不透明です。

本政策はポジティブな評価、ネガティブな評価それぞれを論じる事ができますが、簡
記すると以下の通りとなります。

ポジティブな評価

・日銀の金融システム安定化に駆ける意気込み・決意が伝わった。

→これは、先ず第一に言える事でしょう。株式買取りは日銀法第33条に規定されて
いる通常業務に含まれず、又、日銀法第44条においては、日銀法に規定されてい
る通常業務以外の業務は行なってはならないと記されております。

しかし、この但し書きにおいて、「但し、この法律に規定する日本銀行の目的達成上
必要がある場合において、財務大臣及び内閣総理大臣の認可を受けた時は、この
限りではない」とあります。

今回の措置は、まさにこの例外規定を適用したものであり、ある意味非常事態対応
をしているものであります。並々ならぬ日銀の危機感及び政府への強い警鐘すら感
じます。

本措置をとるにあたっては、政府との事前の「握り」、つまり、日銀が同措置をとるの
だから、政府サイドもそれなりの対策をとってくれよね、という類のものがあった事は
容易に想像がつくものです。そういう観点から言うと、政府による抜本的な金融シス
テム安定化策を引き出した、という点もポジティブな評価としては挙げられるでしょう。

・銀行の持ち合い解消売りに伴う株式市場の需給緩和(売り圧力の増大)が回避さ
れる。等々。

ネガティブな評価

・日銀資産が劣化する事で、円の価値が減価する恐れがある。
・株式市場の価格形成機能が歪んでしまう恐れがある。
・日銀が企業の株主となる事で、コーポレートガバナンスが機能不全に陥る恐れが
 ある。等々。

実は、個人的には、本政策そのものの実効性はかなり薄いのではないかと感じてい
ます。具体的な手法が未定なので何とも言えませんが、金融機関が日銀の政策に
足並みを揃えて呼応していく保証は何処にもありませんし、本政策自体は、不良債
権処理等の側面支援的な位置付けに過ぎないものです。

世界的に強まるデフレ懸念、根深い不良債権問題等長年に渡って続く構造不況−−
−今後、政府サイドからどのような併せ技が出てくるかにもよりますが、今回の日銀
の打ち出した政策のみでダイナミックに事態が改善していくと確信を持てる人は皆無
というのが実情でしょう。  【編】


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2002年9月15日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.09.08
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       株式投資は長期的な視点で?
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ご既承の通り、先週の東京株式市場は一段安となりました。日経平均株価は一時
1983年以来、19年ぶりに9千円の大台を割り込む事となりました。

90年代は「失われた10年」等と称されてはいましたが、気付いてみれば「失われた
20年」に限りなく近づいている状況。日本の株安の要因として、海外の株安や国内
景気の回復局面も短命で終わるとの見方が台頭している点等が指摘されています
が、やはり市場の「デフレ期待?(懸念?)」の長期化等に基づく要因が大きいので
しょう。

「株式投資は長期的な視点で」とは株式セールスの謳い文句でよく耳にはしたもの
ですが、これを信じて損切る事なく、保有し続けた結果、損がどんどん膨らんでしま
った方もいたでしょうに、悲しいかな。確かに、近代経済史はインフレの歴史でもあ
りましたから、株式市場創設以来の株価のチャートをみると、明らかに右肩上がり。
でも、過去の実績の延長線上に将来の結果があるというのは目の(心の?)錯覚で
、実際にそうなる確証などは本来何処にもない筈なのです。

多少話しは変わりますが、株安に起因する金融システム不安が台頭する事を懸念
し、ペイオフ全面解禁の延長議論も盛り上がってきております。柳沢金融担当相は
、6日の記者会見で「1ヶ月、半年の猶予も(検討対象として)排除されていない」と
述べており、これによると来年4月に予定されていたペイオフの全面解禁については
、猶予期間が設けられる方向にあります。さらに、与党内においては、猶予期間どこ
ろか、全面的延長議論も飛び出してきており、今後「政治問題」として議論が進めら
れる見通しです。

「ペイオフ解禁対策に***投資を」という謳い文句もよく聞いたセールストークでした。
例えば、今年前半、個人投資家の金投資家がブームとなったのもこの影響。それに
よって利益を得られた方もいるかもしれませんが、「ペイオフ解禁対策に」というのは
全く的を得ていません。確かに、金投資は銀行の信用リスクの影響を受けませんが
、さほど大きいものではない(銀行にもよりますが)銀行の信用リスクが排除される
代わりに、金の価格変動リスクと為替の変動リスクという二つの非常に大きなリスク
が生まれる事となるのですから、実際にはリスクヘッジにならないのです。(しかも、
そのペイオフ解禁時期も上述の通り、延長されそうな気配ですが。)

世の中、色々なセールストークがあって、それに乗ってみるのも良しですが、鵜飲み
にせず、本質を理解しつつ投資する事が肝要です。        【編】



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2002年9月8日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.09.03
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             脱ダム論?
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先週末に発表された完全失業率は5.4%となんとか過去最悪の更新を免れました
が、完全失業者数に目を向けると前年同月比ベースで16ヶ月連続の増加、又、就
業者数も同様に16ヶ月連続の減少と雇用情勢は極めて厳しい状況です。

2日に厚生労働省より7月の毎月勤労統計調査が発表されましたが、この内容も案
の定良からぬ内容でした。ポイントを纏めると以下の通り。

(1)現金給与総額は前年同月比で5.2%減少→過去最大の減少
(2)特別給与(主としてボーナスの動きを反映する)も同12.9%の大幅な悪化
(3)パート増加・正社員減少トレンドの継続
(4)所定外労働時間増にも拘わらず、所定外給与の伸びが低迷→単純に考えれば、
時間当たり賃金が減少している

ところで、約2年前、日銀総裁の持論としてダム論というものがありました。
同年8月の弊誌記事を抜粋すると−−−

別に誰が名付けたわけではないのですが、日銀が景気の動き、とりわけ「企業所得
と家計所得」との関係を捉える時に、ダムの水位と下流への放流の関係に喩えなが
ら議論する事があります。つまり「ダムの水位の上昇、すなわち企業収益の増加が
明確になるならば、下流への実際の放流、すなわち家計所得の増加、ひいては消
費の増加に繋がっていく可能性が高まる(日銀HPより)」という関係です。−−−

上記ダム論の通りいけば、「企業収益回復→給料もアップ」という事になる筈なので
すが、「給料ダウン(労働分配率低下)→企業収益回復」「ダムの水いつ迄経っても
溢れ出ず。。。」という構図になっています。「脱ダム論?」どこかで聞いたような。

【編】

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2002年8月4日

          JAPAN ECONOMIC REPORT
                  02.07.28
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          ジェットコースター相場
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米国株式市場が乱高下しています。

NYダウは22日に8千ドルの大台を割り込んで引けましたが、24日には前日比488
ドル高という史上2番目の上げ幅を記録し、8千ドル台を回復。ジェットコースターの
ような相場展開です。

米国景気については、楽観論者、悲観論者様々です。

楽観論者は、(1)依然として労働生産性の高い伸びが続いている、(2)企業会計不
信問題には自浄作用が早期に働くと思われ、金融システムも健全である、(3)株式
市場は大きく下げたものの不動産(住宅)価格は伸びており、これを加味すると個人
資産はさほど毀損しておらず、個人消費も堅調さを維持する、と。

一方、悲観論者は、(1)これまで金融緩和により乗り切ってきたが、いよいよ金融緩
和余地もなくなってきた、(2)会計不信問題や大型倒産等により、信用収縮の動きが
顕著となり、金融システム不安も懸念される、(3)株式市場が大きく下げているだけ
でなく、最近、不動産(住宅)価格の伸びも鈍化してきており、個人消費に黄信号が
灯っている、と。

新聞紙上でも、日本の90年代のバブル崩壊局面と似てきた、つまり、当時の日本は
、株式市場の下落に遅れる形で、不動産(住宅)価格の下落が進んだわけですが、
米国もこの兆しが見え隠れしているというような記事がよく見られるようになりました。
一方、米国の不動産価格は、日本のバブル経済の時のように、急騰していない、よ
って、その価格が急落する事もない(バブルそのものが無いのだから、バブル崩壊
もあり得ない)という見方もあります。

デフレを経験した事のない国が如何にデフレを克服するか、日本を反面教師にすれ
ば簡単なようにも思えますが、未経験の事態に直面する人間の心理状態をそう簡単
にコントロールできるかどうか。さて、皆さんはどっち派?    【編】


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2002年7月28日

           JAPAN ECONOMIC REPORT
                   02.07.21
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        米株安、ドル安、日本債券高
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先週金曜日、ダウ工業株30種平均(NYダウ)が急落。前日比下げ幅は、過去7番目
の390ドル安となり、終値は昨年9月の米同時多発テロ事件直後の安値を下回りま
した。大型倒産、企業業績への懸念、会計不信の高まり等により、売りが加速してい
ます。

マネーの動きは、米国から日本へ、株から債券へと。この「米株安、ドル安、日本債
券高」という流れは、1987年のブラックマンデー時、そして、最近では、1998年の
ロシア危機〜LTCMショックの時にも見られた現象です。

98年当時は、金融システム不安が主因となり、NYダウは約1ヵ月で9000ドルから
7500ドル迄一気に売られ、ドルも対円で1ドル147円から115円前後迄暴落し、ま
た、「質への逃避」から、円債は買われ、長期金利も急低下しました。

しかし、その後、米国景気は復調し、相場も反転。NYダウは急騰、円債は急落して
います。当時、円債が大きく売られた背景としては、大蔵省(当時)資金運用部が国
債買入を取り止めるという報道がなされるという特殊な要因(「資金運用部ショック」
と言われた)もありましたが、円債バブル崩壊とも言われる事象でした。

さて、今回の「米株安、ドル安、日本債券高」。日本国債が、格付が下がり続けるなが
らも消去法的に買われている現象を「バブル」と言うべきものなのでしょうか。

でも、「バブル」というのは、泡が膨らむ時のように一時的、且つ、急激に価格が高騰
するもの。最近2年間の景気低迷局面からずっと変わらず高値圏で推移している債
券市場の状況を「バブル」と呼ぶのはどうもピンときません。それよりもやはり、米国
株が「バブル」だったという方が納得感があります。

となれば、年初の時点では、年度後半での米国景気回復、円安基調を前提に業績予
想を発表していた国内企業も多かった事から、米国市場の動向には引き続き要注意
となります。  【編】


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2002年7月14日

           JAPAN ECONOMIC REPORT
                   02.07.07
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           野茂になれるか?
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日本では、奈良時代の頃より祭られてきました七夕には、2つの起源があり、日本の
七夕祭はその2つが合体したものと言われています。

由来の一つは、中国の宮廷行事・乞巧奠(きっこうでん)。これは、天帝の娘織女(こと
座のヴェガ)と牽牛(わし座のアルタイル)の星の恋物語にちなんだ星祭で、日本の大
和朝廷もこれにそって七夕を祭り、民間には室町時代に伝来したと言われています。

もう一つは、日本には棚機女(たなばたつめ)という巫女が、水辺で神の降臨を待つと
いう農村の「禊ぎ(みそぎ)」の行事(乞巧奠が伝わる以前より行われている)に由来す
るというものです。   【編】


先週3日、日銀の山口副総裁の講演が外国特派員協会向けに行われました。そのタ
イトルは、「未踏の領域における中央銀行」。(この「未踏の領域」というのは直接的に
は世界の中央銀行の歴史上例を見ない金融緩和政策(ゼロ金利政策+量的緩和策)
を指していますが、もう少し広く捉えれば、当該金融緩和政策に踏み切らざるをえなく
なった程、デフレ圧力が深刻化している現在の経済情勢を示しているとも言えます。)

さて、この講演の中で、「持続的な成長軌道への復帰には何が必要か」について言及
している部分があるのですが、ここで気になるのは「国民の意志」「国民の選択」という
キーワード。

発言内容より該当箇所を抜粋すると、「現在、わが国の一般政府債務の対GDP比は
140%近くに達していますが、国債発行で調達した資金が需要創出という観点から見
て有効に使われる場合には、需要増加とそれに伴なう所得や生産の増加から、最終
的には政府債務の対GDP比は低下する可能性があります。

逆に、非効率に使われれば、長期的には成長抑制要因にもなります。どちらの可能
性が実現するかは、最終的には国民の意思にかかっています。」「(金融政策か財政
政策か構造改革か)どのような政策をどのような順序で行なうかは、結局のところ、国
民の選択に依存します。資源の効率的な再配分を一挙に実現することは、大きな混
乱や痛みを伴ないますが、同時に、回復のスピードも速いかもしれません。

これに対し、徐々に資源の効率的な再配分を実現するというアプローチを取ると、大
きな落込みは避けられますがいつまでたっても経済は本格的には成長しません。 」
と。

つまり、山口副総裁は、バブル崩壊後にとられてきた政策−−例えば、非効率的な
財政政策、金融政策への依存、構造改革に対する後手後手の取り組み姿勢等−−
は、ズバリ失敗であった。そして、日本経済が10年以上にもわたる経済低迷から脱
出し、持続的な成長軌道へと復帰する為には、国民が大きな混乱や痛みを伴うリス
クを負ってでも、既存の政策を大きく転換していく必要があると言いたいのでしょう。

これに関連して同副総裁より、こんな発言も−−「最後に、個々の企業や個人の役割
について一言触れたいと思います。市場経済においては、個々の企業や個人の役割
が最も重要であることは言うまでもありません。

この点で示唆的なのは、やや唐突な印象を与えるかもしれませんが、米国の大リー
グで日本人選手が活躍するに至ったプロセスです。10年前の米国の大リーグには、
日本人選手は誰もいませんでしたが、現在は13名が選手登録をしています。この間
に、日本人選手の能力が飛躍的に向上したのでしょうか。多分、そうではなく、ひとり
の冒険的な選手が大リーグにまず挑戦し、次いでその成功を見て他の選手も挑戦す
るようになったということではないかと想像しています。」

やっぱり、野茂は偉大ですなぁ。。。【編】





2002年7月7日

           JAPAN ECONOMIC REPORT
                   02.06.25
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             双子の赤字
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米国80年代のレーガン政権による一連の経済政策「レーガノミクス」。−−−
年率10%に達していたインフレの解消や、規制緩和によるアメリカ経済の国際競争
力の回復などを目的とし、貨幣供給量縮減政策(金融引締策)や大胆な所得税減税
政策を行う事により、米国景気拡大は長期にわたって継続しました。

この一方で、軍事費、社会保障費、連邦財政赤字の利払いなどによって財政赤字が
深刻化。これと同時に、景気拡大に伴う輸入の増大で膨らんだ貿易赤字(経常赤字)
とあいまり、「双子の赤字(貿易、財政の赤字)」を形成するに至りました。

このうち財政赤字については、レーガン政権期以降削減努力が続けられていき、90
年代の景気回復局面における税収回復を背景に、急速に改善。勿論、累積赤字は
解消されませんでしたが、単年度ベースでは財政収支を黒字にさせる事に成功し、
「双子の赤字」という言葉もあまり聞かれなくなってきました。

しかし、最近はテロ対策等に伴う軍事費増加(※1)、ITバブル崩壊・景気低迷に伴う
税収悪化(※2)により、財政収支の改善プランに黄信号が灯りはじめ、「双子の赤字」
懸念が再び登場してきており、ドル安要因の一つともなっている状況です。   【編】

(※1)ブッシュ政権は、テロとの対決姿勢を強める一方。今月12日には、生物化学
兵器テロ法が発効、約46億ドルもの予算が計上。また、歳入を確保すべく、今月11
日に上院で国債の発行限度枠を4500億ドル引き上げ、6兆4千億ドルとするという
法案を可決しています。

(※2)今年4月の税収は昨年同月比で約30%も落ち込んでいます。



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2002年6月30日

           JAPAN ECONOMIC REPORT
                   02.06.23
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          G7と市場との温度差
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先週14日〜15日かけてカナダの ハリファクスにて行われたG7。ワールドカップの影
に隠れて、ニュースへの取り上げられ方も極めて小さいものでしたが、そのG7での声
明文の内容も、先進国経済に関する楽観的な見方を示すもので、黄信号を出している
マーケットの見方とはピントがズレている感が残るものでした。

G7では「我々の経済成長は強まってきている。...我々は今後の見通しに自信を持
っている。」という極めて自信に溢れた声明文が出される一方で、世界経済回復の大
前提にある米国経済回復に対して市場は警鐘を鳴らしています。

米国株式市場では、企業業績不安、エンロンショックを契機とする会計不信、双子の
赤字(貿易収支、財政収支双方が赤字となること。次号に用語解説をします)の再燃
懸念等々、不安要素が噴出中。

先週の金曜日も、(1)米製薬大手のメルク社が、同業他社の採用していない会計処
理を行い、売上高を数十億ドル水増ししていると報じられ、会計不信懸念が強まった
事、(2)2つ投資銀行がIBMの2002年、2003年通期の業績見通しを下方修正した
事、等から地合が悪化。NYダウは前日比178ドル安の9253ポイントと、昨年10月
31日以来の安値を更新し、為替も一時1ドル120円台迄、ドル安が進行しました。

日本も週明けは、株安が見込まれます。日本の景気は、回復局面にはありますが、
循環的なものに過ぎず、力強さは無く、短期楽観・長期悲観というのが一般的な市場
参加者の見方。今週末は、カナダのハリファクスにてサミットが開催されますが、各国
の経済に対する認識の変化があるか等も注目となります。  【編】


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2002年6月23日

           JAPAN ECONOMIC REPORT
                   02.06.16
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          日銀景気判断修正へ
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先週、米国市場の下落に加え、追加デフレ対策に対する失望売り等から、週末の
日経平均株価は約2ヵ月ぶりの1万1千円の大台割れ。13日の夕方に開催され
た政府・与党政策懇談会では、懸案の追加デフレ対策が協議されましたが、その
3本柱となる「税制改革」「規制緩和」「金融システム対策」は国債増発に結び
つくものでは無い一方で、今年度の実態経済に与える影響も無さそうな内容のも
のでした。といっても景気の話題は今や完全に蚊屋の外。最近、食品業界の不祥
事も相次いでいますが、国民の目がサッカーに向いている今がチャンスとばかり
に、日経新聞には「お詫び」公告がズラリと並んでいますね。【編】

日銀は13日に6月の金融経済月報を発表し、景気の総括判断を4ヵ月ぶりに上
方修正しました。

同月報においては景気の現状について、前月の「悪化のテンポは緩やかになって
いる」との表現から「下げ止まりに向けた動きがみられる」へと変更。景気の「
底入れ」にまでは言及しませんでしたが(もっとも政府の月例報告でよく「底入
れ」を宣言するのとは異なり、日銀は過去の景気判断において「底入れ」という
表現を用いる事は過去にないのですが)、7ヵ月ぶりに「悪化」という表現を削
除した事となります。

景気判断上方修正の背景は、(1)輸出の増加、(2)生産の持ち直し、(3)
一部での雇用改善の兆し、(4)一部での個人消費の底堅さ等。とはいっても、
これらの動きに力強さがあるわけではなく、過剰雇用や過剰債務の調整圧力が根
強くある点を指摘し、景気回復の動きにはかなり時間がかかるとの先行きの判断
は変えていません。

金融政策に選択の余地があった時期においては、冒頭のような日銀発表文書の微
妙な判断修正から、金融政策の転換(金融緩和策から引締め策へ)の時間軸が短
縮されたと敏感に察知する必要もあったのですが、金融政策出尽くしの現状下、
市場の反応は全くありません。

株式市場の不安定化は気になるものの、今週も大きな材料無く、ワールドカップ
観戦ウィークとなりそうです。【編】


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2002年6月16日

           JAPAN ECONOMIC REPORT
                    02.06.04
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          伸びる電子商取引市場
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先経済産業省が民間調査機関と共に電子商取引市場規模について調査した結果に
よると、2001年のBtoB市場規模は、今年から新たに含入したサービス関連
品目を含め、34兆円にまで拡大(推計ベース)。前年調査と同一品目に限定し
ても、前年比60%の拡大となっています。従来は、電子・情報関連機器や自動
車等特定の業種に偏っていましたが、他業種にも徐々にではありますが拡がりは
じめているのが2001年の特徴となっています。又、2006年の市場規模は
125兆円と予測。予測達成の確度は定かではありませんが、拡大傾向が続く事
は間違いないでしょう。

又、BtoCの市場規模は、1兆5千億円程度とBtoB市場と比べて規模は小さい
ながらも、前年の約8千億円と比べて80%の拡大。BtoC市場についても、品
目に拡がりがみられるようになりました。2006年の市場規模は16兆円と予
測。GDPの個人消費に占めるウェイトもかなり高まる事となります。

私が支援しているBtoC型のベンチャー企業も、広告を殆どしていないにも拘わ
らず、ネット経由の申込みは前年比ベースで安定的に増えており、市場規模が拡
大しているという実感は確かにあります。また、ネット上で情報を収集した上で、
店頭で商品を購入するというケースのように、電子商取引市場規模調査には反映
されないものの、実はネット上の情報が消費行動に大きく寄与しているという例
もますます増えてくる事でしょう。

尤も、それに反比例する形で非電子商取引規模は縮小するでしょうから、マクロ
経済には概ね中立要因でしょうが、電子商取取引/非電子商取引市場が完璧なる
逆相関とはならないでしょうから、電子商取引の拡大傾向は一層無視できないも
のとなる筈です。


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2002年6月9日

           JAPAN ECONOMIC REPORT
                    02.06.02
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         疲弊する金融機関の体力
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先日、大手銀行の2002年3月期決算発表が行われました。新聞各紙の見出しを並
べてみると、「大手銀、株安で消耗」「不良債権寸止め処理」「大手銀、最終処理の
難問」「アリ地獄、体力の限界」「解けぬ不良債権の呪縛」。。

説明せずとも、この見出しをさらっと眺めるだけで、日本の金融システムがいかに疲
弊しているかがよく分かります。

各銀行は、収益力強化に向け、企業向け貸出の金利引上げ交渉積極化の動きを見せて
はいますが、多くの企業は、資金需要が伸びないどころか、過剰債務の解消に躍起に
なっている状況。

一方で、金融機関の統合・合併がそれなりに進んだとはいえ、依然、中小行も含める
と銀行の数はかなり多い。

結局、資金の需要と供給がアンバランスとなっている構図が変わらない中、貸出金利
引上交渉は険しい道のりです。

痛みを伴わずに問題を解決していくのはなかなか難しいものです。   【編】

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2002年6月2日

           JAPAN ECONOMIC REPORT
                    02.05.26
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             生産回復の動き
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仕事でスペインのマドリッドに行っており、配信間隔がすっかり空いてしまいま
た。すみません。。パソコンを持っていったので、出張先のホテルからも発行
する
事はできたのですが、なかなか余裕がなくて。

マドリッド滞在中の15日、サッカーの欧州チャンピオンズリーグの決勝戦があ
、御存じの通り、レアルマドリードがレーバークーゼンを2−1で降し、クラ
ブ創
立100周年を2季ぶり9回目の優勝で飾る事となりました。

競技場はイギリスのグラスゴーだった筈なのですが、試合終了後、マドリッドの
の街は暴徒、警官隊、バリケード、車から体を乗り出して旗を振る人々、クラ
クシ
ョンを鳴らして暴走する車(殆どの車)、サイレン鳴らして暴走するパトカ
ー(一
応、風紀委員のようだが)、バル(立ち飲み屋)でテレビを見ながら怒号
を上げる
客達、とにかくオレオレ歌いまくる人々等々。そんな事とは露知らず、
サポーター
が集結する街の中心街のスペイン飯屋でパエリアを食べていた私は帰
りのタクシー
を捕まえるのにかなり苦労、しかもそのタクシーの運転手がどうや
らレアルマドリ
ード嫌い(日本で言うアンチ巨人)だったらしく、行く先々のバ
リケードにより迂
回させられる事に対して煮え繰りかえっていて、大変でした。
マドリッドは東京か
ら7時間の時差がありますが、その時差以上に調子が狂うの
は食事の時間。昼休み
は午後2時から約2時間、夕食は午後9時にならないと店
が開きません。必然的に
夜は遅くなり、胃がもたれます。こんな生活を難無くこ
なす人々ですからサッカー
もかなわないわけです。【編】


===============================
■温室効果ガス削減目標
===============================

21日、衆院本会議で地球温暖化防止条約・京都議定書の批准を承認しました。
批准に必要となる国内対策を定めた地球温暖化対策推進改正案も可決し、参院に
付。改正案設立後、6月上旬迄には議定書を批准する方針であり、ロシアも議
定書
に批准すれば、離脱した米国を除いて早ければ今秋にも発効する事になりま
す。

京都議定書は、2008〜12年の目標期間に先進各国が達成すべき温室効果ガ
の削減目標を定めるもので、97年に京都にて開催された気候変動枠組条約第
3回
締約国会議(COP3)で採択されたもの。削減目標値は、先進国全体で1
990
年比約5%とし、国別では日本が6%、欧州連合(EU)が8%の排出削
減目標を
負い、削減義務を達成できない場合は罰則があります。

批准に向けての一つのハードルは超えましたが、今後、日本の目標達成という更
るハードルが待ち受けます。日本のガス排出量は、既に99年段階で90年比
7%
増の状態であり、議定書に定める目標を達成する為には、あと数年内に13
%も削
減しなければなりません。

省エネ・環境保護と口で言うは易しですが、目標達成という結果を出すには、国
一人一人のレベルで生活様式を変えるぐらいのアクションが必要です。平和が
支配
する日本にいる国民が排出量削減に取り組んでいけるかどうか。。。

          ・      ・      ・

話は変わりますが、マドリッドはロンドンと同じ経度にも拘わらず、時差があり
す。1時間のサマータイム制度も導入されておりますが、実質的には3時間の
サマ
ータイム制度があるような感覚を受けます。その為、日本と同緯度にも拘わ
らず、
日の入りが夜9時過ぎとなり、とにかく昼が長い。

サマータイム制度の導入は、エネルギー、化石燃料の節約をし、ガス排出量を抑
する手段の一つ。現在、世界70か国以上で導入されており、その導入の背景
・理
由として最も多く挙げられるものは、省エネです。経済協力開発機構(OE
CD)
加盟国の中では、導入していない国は、日本と韓国とアイスランドぐらい
ではない
でしょうか(もっともアイスランドは、白夜となるため、サマータイム
を導入する
意味も必要もないのですが)。

日本では、戦後、電力不足の深刻化を背景として、GHQ指示のもと、サマータ
ム制度が昭和23年に導入されましたが、昭和26年にサンフランシスコ講和
条約
が調印された後、制度継続の検討、世論調査が実施。その結果、廃止を支持
する意
見が過半数となった為、昭和27年に制度が中止されたという経緯があり
ます。

しかし、その後、高度経済成長期以降の世論調査では、一貫して導入賛成派が反
派を上回っています。

試算では、サマータイム制度導入に伴うガス削減効果はさほど大きくないとも言
れていますが、一方、導入されている国で、導入に伴う問題点が指摘されてい
る国
も少ないこの制度。日本人のライフスタイルに変化をもたらし、経済に刺激
をもた
らす、そして、省エネに多少なりとも関心を高め、ガス削減目標達成に近
付こうと
いう認識を生み出す、一つの小さなきっかけにはなるかもしれません。

【編】




2002年5月12日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.05.05
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              生産回復の動き
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本年2月3日号でもさらりと触れたように、鉱工業生産指数については底入れが明確化してきまし
た。
前月30日に発表された3月の鉱工業生産指数によれば、1−3月期の生産指数は前期比+0.
5%と五四半期ぶりの上昇を記録、又、同時に発表された4月、5月の予測指数に基づけば、4−
6月期も前期比ベースで比較的高い伸びになる見込み。積み上がっていた在庫調整が一巡し、
増産姿勢を強めていこうという姿勢が伺えます。

尤も、この製造業の姿勢は、今後も外需の拡大に牽引される(海外での日本製品の需要が高ま
り、輸出が伸びる)姿をイメージしているものと思われ、国内の需要が増加する絵は描けないと
いうのが実情でしょう。かのような脆弱な経済基盤の中においては、回復傾向とはいえ、そのピッ
チは緩やかなものとなる事でしょう。 【編】

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                  下がり続ける国債格付
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先月15日、米大手格付会社のスタンダード&プアーズ社が日本国債格付をAAからAA−へと
1ノッチ(一段階)引下げました。又、26日の日経・ダウジョーンズの記事によれば、同じく米大手
格付会社であるムーディーズ社の国債格付担当者によると、現在検討されている格下げの幅に
ついて「2ノッチ格下げは、まだ可能性があるし、引き継げ有効だ」とコメント。
連休明け後に日本国債が2段階格下げとなる可能性も有り得る事が示唆されました。

現在のムーディーズ社の日本国債格付はAa3(ダブルAマイナス)、2段階引き下げられるとA2
格(シングルAフラット)となり、イスラエル、キプロス、ギリシャ、ポーランド、モーリシャスの国債
格付と並ぶ事となります。

日本の国債は、大部分は国内居住者が保有しており、格下に敏感な海外投資家の保有比率は
低いため、格下げによる直接的、短期的影響は限定的でしょうし、そもそも大手格付会社が決め
た格付が必ずしも正しいというものでもありませんが、まぁネガティブな話と言われれば、言い訳
もできません。

本誌発行から一貫して格付は下がり続けておりますが、事実、構造改革は遅々として進まず、財
政赤字が膨らんでいっているというのが実情ですから。。。

御参考迄に、2年前のコラムを転載します。−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「格付けとはなんですか?」という素朴な質問を読者からいただきました。先週より国債の格付け
の話しが少し話題になっていますから、この機会に簡単に説明したいと思います。

格付けとは、政府、地方公共団体、金融機関、一般企業が発行する債券等に関する評価指標
(意見)です。

例えば、ある企業が社債を発行して、投資家が購入します。その企業は債券の満期日に投資家
から預かったお金を返済しなければなりません。この支払い期日(満期日)に投資家に対して約
定通り支払いがしっかりと行われるかどうかの確実性について、意見を示したものです。

その信用度を示す為のランキングといっても良いでしょう。
一般的に最高格付から「AAA(トリプルA)→AA(ダブルA)→A(シングルA)→BBB(トリプルB)
→BB(ダブルB)→B(シングルB)→CCC→CC→C→D」となります。(BB以下は「投資不適格」
「投機的格付け」と言われます)

投資家にとって、格付けがある事のメリットとしては以下のような点が挙げられます。

1.その格付記号によって短時間に信用リスクが分かる。
2.信用力の変化によって格付が変更されるので、時系列の変化が把握しやすい。
3.多数の銘柄の格付が実施されている為、銘柄間の相対的なリスクの判定がしやすい。

但し、上述の通り、格付けは「意見」に過ぎません。一種の「予報」のようなものでもありますから、
それが正しいという保証はありませんし、外れても格付機関は免罪です。
格付けが正しいかどうかという事も本来は投資家の責任で判断するべきものなのです。【編】


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2002年4月28日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.04.21
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     ネットオークションの熱き戦い〜ヤフーvsビッターズ
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情報通信総合研究所の予測によると、今年中に日本はブロードバンドの普及率で米国を追い抜き、
その先数年は差が開く一方との事。−−−ブロードバンド先進国の一つ、韓国もそうですが、国土
そのもの米国に比べ相当狭い上、住居のかなりの割合が都市部に集中しており、通信インフラを低
コストで整備しやすいという地理的メリットを有している点がキーポイントなのでしょう。

(一方、米国のような広大な国土に点々と大都市が点在しているような状況においては、通信回線
の架設工事をするのも相応のコストがかかり、普及するのも容易な事ではありません。)

日本で成功してきたIT企業の多くは、IT先進国米国のビジネスモデルを輸入してきた事によります
が日本におけるブロードバンド普及に伴うIT環境の日米逆転に伴い、日本がITビジネスのリード役
を担えるでしょうか。そして、民間の活力を生み出す為にも、規制緩和等の政府の役割にも期待し
たいところです。

さて、今回は、そのブロードバンド普及も追い風となり、急伸しているネットオークション市場につい
てです。


ブロードバンド時代に突入し、各ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)は加入者獲得のた
めに、料金体系、コンテンツの充実、加入者への特典付与など、様々な施策を行っています。

2001年の8月にヤフーBBが月額980円(NTT回線使用料、ISPサービス料は除く)という業界
最安値で誕生。月間50億PVを誇るヤフーがプロバイダー事業を開始したわけですから、プロバ
イダーとコンテンツが1対1で結びつく垂直型モデルを確立し、独占市場を狙っていることは、言う
までもありません。

さて、ヤフーJAPANの代表的なコンテンツとして、ヤフーオークションが存在します。1999年9
月から、無料コンテンツとしてサービスを開始し、あっという間に200万品ものアイテムが出品さ
れている巨大マーケットへ。そして、昨年5月より参加費というかたちで、月額280円を徴収する
ことになりました。

参加費ということは、落札者からもお金をもらい、さらには利用しようがしまいがお金を支払わなけ
ればならないという、従来のネットオークションの基本ビジネスモデルであった「成功報酬型」を壊
したことになります。それから、1年。
今や出品数は400万品を超え、ネットオークションユーザーも着実に増加。ネットオークション市
場も、2001年の取扱高で2500億円、2006年には、1兆円まで成長すると言われています。

ブロードバンド時代のキラーコンテンツとして、オークションがあげられている中、ヤフーオークシ
ョンは、今年の3月初めに、「4月15日から出品料を1品につき10円課金し、5月15日からの落
札分より、成約手数料を3%徴収する」という発表を行いました。有料化後、現在の400万品以上
の出品数が50%減ってもまだ、200万品という規模は維持できるとの考えです(最近1ヵ月では
400万品から300万品へと急減している状況)。

一方、業界2位の株式会社ディー・エヌ・エーが運営する「ビッダーズ」は、現在20万品を超える
出品数を保持しています。1位と2位の格差は依然大きいものの、ビッダーズの出品数は昨年5
月の時点では、3万品。無料キャンペーンの実施や、今月1日に発表した手数料の引き下げ(5
%から2.5%へ)等、ヤフーとの徹底した差別化戦略により、出品数ベースで急成長を遂げてい
ます。

今月1日の手数料引き下げでは、国内主要ISP4社の代表クラスが勢ぞろいして記者会見を行い
、ビッダーズをバックアップする宣言をしました(みずほ銀行の初日のニュースの影に隠れてはい
ましたが、なかなか揃わない顔ぶれです)。
これが実現した裏には、ヤフーに対する強固な包囲網結束があります。

ビッダーズは、「2位の我々が課せられているミッションは、独占市場を崩すこと。独占市場だから
、ユーザーの存在をあまり考えず、次々に値上げできるわけで、我々がいなければ出品料10円
が10円でなかったかもしれない。」とコメント。年内には100万品の出品数を目指すとし、ヤフー
独占の牙城を崩すために、かなりの使命感でいるようです。

「一つの業界で生き残るのは1社だけ」と言われる日本のネットビジネスですが、ビッダーズはこの
仮説を覆そうという意気込み。4月1日には16.5万品だった出品数が、2週間後の4月15日には
21.3万品。そして4月21日には25.8万品と、急激な伸びをみせています。

この勢いはいつまで続くのでしょうか。しばらくはネットオークション業界から目が離せませんね。
【Mr.T】

※参考ホームページ
http://www16.big.or.jp/~shumaru/site_count.html
国内オークション大手3社の出品数シェアが毎日更新されています。

「JAPAN ECONOMIC REPORT編集部 Copyright(C), 1998-2001」
URL<http://www.jerep.com/>






2002年4月21日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.04.14
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               公示地価と実勢地価
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何人かのメンバーで海の近くに艇庫や駐車場、そして一軒家を借りている話を先日しましたが、この
土地と一軒家の賃貸料は30年前に借りた当初から右肩上がりに上昇を続け、ここ数年は月額30
万円でした。

でも、バブル絶頂の頃から地価が半値近く迄下がっている状況下、敷地面積広しと言えども、都心
から離れた海岸沿いの風致地区の借家に月30万円という家賃は明らかに高い。という事もありまし
て、先般大家さんの所に値下げ交渉に行ってきました。

ダメもとで月12万円と提示し、まん中ぐらいに落ち着けばいいかなと思っていましたが、交渉日より
2週間後、「月12万円でいいですよ。こんな時代ですから。」と大家さんの返事。なんと、60%も家
賃が減額されてしまいました。今迄の家賃はいったい何だったのか。。。

とはいえ、先月25日、国土交通省が公表した今年1月1日時点の公示地価をみても、全国平均で
前年比5.9%下がり、11年連続の下落。公示地価がピークに達した1991年に比べ、住宅地は
36%、商業地は62%下落し、80年代の水準迄落ち込んであるわけですから、家賃が値下げされ
るのも至極当然の事でもあり、今回の家賃減額は、まさに「デフレ」の時代の象徴的出来事でした。

                            ・     ・     ・

さて、この公示地価は、国土庁の土地鑑定委員会が毎年1月1日現在で公表する1平方メートルあ
たりの地価で、「地価公示法」に基づいて全国の大都市圏から選ばれた住宅地と商業地が鑑定、算
出されるもので、又、一般の人が土地取引を行う際や国や地方自治体が公共事業に使う土地の保
証金を計算する際の判断材料となったり、土地を含んだ相続税や固定資産税を計算する場合の算
定基準にも使われます。

しかし、実際は、公示地価は実勢地価との乖離率が依然大きく、土地の売買においては、賃料収入
などその土地から得られる収益力から算出した収益還元価格を利用するのが主流です。

公示地価は固定資産税の評価額とも連動し、大きく下がり過ぎると地方自治体の固定資産税収入も
急減してしまいますから、この点を配慮し、公示地価は実勢地価よりも緩やかな下落幅になるように
調整されているとも言われます。従って、実勢の地価が上昇に転じても、公示地価は減少していると
いう現象が起こる可能性もあるわけです。

公示地価は、一般の人にとっては分かりやすい基準指標ではありますが、「一物五価」と呼ばれるよ
うに様々な基準によって様々に定められている地価ですから、一つの基準にて地価の比較を行わな
いよう気をつける必要があります。 【編】


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2002年4月14日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.03.31
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                底打ち?底ばい?
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2月危機、3月危機云々と、マスコミに好き放題言われていましたが、結局は何事も無く、3月決算
期末を迎える事となりました。

そもそも「危機」なるものは突然訪れ、事後的に「○○危機」と名付けられるものなので、予言され
ているうちは大抵大事に至る事はないものです。

さて、先週も幾つかの指標の発表がありました。

先ずは、鉱工業生産指数。2月の生産指数は前月比1.3%増。前月時点での予測指数(+4.7%)
には遠く及びませんでした。四半期ベースでは、1−3月期は前期比ほぼ横ばいとなる見通し。よく
言えば「底打ちを探る」、悪く言えば「底ばい」の状況です。

同日発表された完全失業率は、5.3%と前月と横ばいとなり、表面上は変化は見られません。
しかし、完全失業者の数は、前年同月比で38万人増加と11ヶ月連続で増加しており、実態は厳し
いものです。にもかかわらず、失業率が悪化しなかったのは、「求職を諦めた人が増えている」とい
う要因があると推定されます。

消費者物価指数は、下落一服。以前、マクドナルドの平日半額セールが消費者物価下落に大きく寄
与した事がありましたが、そろそろ平日半額セール打切りによる反動増が出てくる頃かもしれません。

マクドナルドの価格変更は、藤田会長のインタビューにもあったように、まさに「円安」による原材料
価格の上昇の影響を受けたもの。円安による物価上昇圧力がじわりと出てきて、デフレ時代の勝ち
組となったマクドナルドやユニクロ等の輸入企業にとっては厳しく環境となりそうです。(一方、輸出
企業にとっては、円安は大きな追い風となりますが。)

総じてみると、やはり景気は弱い。今週には日銀短期観測調査(日銀短観)の発表(4月1日)があ
りますが、小幅改善がいいところ。100点満点のテストで、20点しかとれなかった子が、なんとか2
5点ぐらいとれるようになったという程度のイメージでしょうか。

あなたが親だったら、このテスト結果を見て、今後の飛躍に期待をかけるか、やっぱりうちの子供は
ダメな子だと諦めムードとなるか、果たしてどちらを選びます?−−家庭と経済では、選択が違って
くるかもしれませんね。  【編】




2002年3月31日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                       02.03.12
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                追加デフレ対策よりも
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先日発表された、総合デフレ対策について、「新味無い」との市場の評価があったからというわけで
はないでしょうが、先週、塩川財務相は、総合デフレ対策の追加策を今月内にもまとめる努力をす
るとの考えを表明しました。(「どうせ追加するのだったら、一度にまとめて打ち出してくれ」と言いた
いところですが、政策出尽くし感が出るのを恐れ、小出しに出していくのが政府の常套手段でもあり
ます。)

具体的な内容については、明示されませんでしたが、基本的には「既存の施策がベースとなる」と
の事。うーん、期待してよいのでしょうか。また、いつものごとく、積極財政派からは財政出動の声が
高まっています。

先日のデフレ対策を見て思った読者の方も多いかもしれませんが、そこには、税制改革なり規制緩
和などに本格的に取り組み、経済に活力を生み出そうとするような策は全く出てきませんでした。

先日の金融政策決定会合において、日銀が金融緩和に踏み切った声明文においても、政府の踏み
込みの甘さを危惧したのか、「日本銀行の思い切った金融緩和が経済全体に浸透していく為には、
迅速な不良債権処理を通じて金融システムの強化・安定を図るとともに、税制改革、公的金融の見
直し、規制の緩和・撤廃等により経済・産業面の構造改革を進めることが前提となる。」と明言して
います(明らかに政府に対するメッセージですね)。

デフレ対策を追加、追加で打ち出すのもよいですが、旧来型の対策ではなく、日銀の言うように経済
・産業面の構造改革(小泉政権の初心もここにあったはず)を進めていってもらえればとも思う次第
です。  【編】


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2002年3月24日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                       02.03.17
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               設備投資と生産空洞化
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先週は、1月の機械受注が発表され、前月比15.6%の減少となり、統計開始以来最大の下げ幅
を記録しました。

前年比でも約22%の悪化。同指標はプレやすいものなので、あまり細かい数字を気にする必要は
ありませんが、特殊要因による単月の落ち込みではなく、大きな減少トレンドの中にあると認識して
おく必要があります。

さて、この民間設備投資の減少傾向は、「生産の空洞化」による影響も受けています。中国が「世界
の工場」と言われる事に象徴されるよう、多くの企業がコスト削減の為に、中国へと生産拠点を移し
ている一方、国内の工場施設は閉鎖が相次いでいます。従って、それに附随する設備投資も当然
の事ながら減少していくという流れです。(もちろん、国内での設備投資が落ち込む一方、中国市場
の旺盛な需要を受けて、同国向けの設備輸出が伸びてはいますが、同じ性能を持つ単純な工作機
械であれば日本製に対して中国製の価格は3〜5分の1という相場ですから、それなりの付加価値
がなければ、中国向けの設備輸出の伸びも限られます。)

いずれにしても、設備投資の動向は企業の体力によりけりですが、日経新聞が9日に集計した今年
度の上場企業の最終利益は前年度72.4%と大幅減益となる見通しで、とても設備投資余力があ
るような状況ではありません。

引き続き、企業のリストラマインドは高く、設備投資抑制意欲も継続され、その立ち上がりは鈍いもの
となりそうです。 【編】


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2002年3月17日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                       02.03.10
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                   油断大敵?
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先週は、日経平均株価が急騰し、一時は、昨年8月以来ほぼ7ヶ月ぶりに1万2千円台を回復しま
した。政府による空売り規制の強化と米国景気の底堅さ等が背景です。

株価はあくまでもファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に左右されるもので、空売り規制の強化
等といった需給対策による上昇要因は、早晩剥落する事でしょうが、一方、米国経済の底堅さは、
ここ最近の指標をみると、確かにあなどれません。

先週は、ISM(米供給管理協会)景気指数(旧NAPM指数)の発表がありましたが、総合指数は5
4.7と前月比4.8ポイント上昇。2000年後半以来はじめて拡大と縮小の分岐点である50を上
回りました。これを受けて、グリースパンFRB議長の発言にも変化が見られ、7日の上院での議会
証言では、「経済拡大が進行中であることを示す根拠が最近になり増えてきた」との一文を、前週
に行った下院での議会証言に追加。同議長が明らかにISM景気指数の好転を意識している点が
示唆されました(1週間の間隔しかない議会証言で、テキスト修正をするのは、異例の事でもあり
ます)。又、金曜日に発表された雇用指数も、失業率・雇用者数ともに改善。雇用面でも米国景気
に底入れの兆しがある事が裏付けされ、米景気の強気派の発言はさらに強まりそうです。

問題は、米景気回復の持続性と日本経済への影響度。前者を見る上では、米GDPの約7%を占
める消費動向をどう見るかにもよりますが、この点、10−12月期の米GDP統計等をみても、自
動車会社のゼロ金利ローンキャンペーンを受けた自動車販売台数の拡大といった例のように、
「前倒し消費」的な動き見られるあたりが懸念されます。後者については、確かに日本と米国株価
との相関度は高いのですが、ファンダメンタルズへの影響度という点では、疑問の余地はあります。

米国景気底入れにより、米国への輸出が拡大して輸出産業が牽引する形で国内景気も好転する
との意見もありますが、GDPの大半を占める個人消費の見通しに明るさを見出せない中において
は、実体経済への影響は限られるでしょう。

まぁ、そうはいっても、日本も景気下降局面入りしてから、2年近く経とうとしていますから、循環的な
回復局面がそろそろあってもよい時期でもあります(最近の生産指数の動きを見ても在庫調整が一
巡する等、そういう動きが示唆されていますし)。そして、循環的な景気回復局面が来たとしても、危
機意識を忘れる事なく、構造改革の手を緩めずに進めていけるかが、毎度の事ながら、大きな課題
となるのでしょう(危機が去ると、つい油断してしまうのが人間の性ではありますが)。    【編】




2002年3月10日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.03.03
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         エンゲル係数、過去最低を記録
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貧乏学生の頃、友人と少ないバイト収入を嘆きあう会話の中で「エンゲル係数」という言葉が出て
きた事があります。「オレのエンゲル係数、高いなぁ」と。

エンゲル係数とは、消費支出に占める食費の割合。家計の支出が100で、このうち食費としての
支出が40であれば、エンゲル係数は40となります。一般的には、生きていく為には食費は一定
限度以上は減らせないものですから、収入が少ないほど、エンゲル係数は高まり、逆に、収入が
増え、ゆとりが生まれれば、食費以外にも積極的に支出するようになり、エンゲル係数は下がる
もの。

総務省による全世帯家計調査では、2001年のエンゲル係数は23.2と、過去最低を更新。
現行の統計がスタートした1963年のエンゲル係数38.7から一貫して下がり続けています。

といっても、ここ5年程度の動きを見てみるとほとんど横ばい。若干、低下はしていますが、不況
で外食回数を減らした、医療費や光熱費が値上げされ食費を切り詰めざるを得ない、狂牛病の
影響もあって高い牛肉から安い豚肉の購入を増やした等々、「豊かさ向上」とは縁遠い要因が容
易に想像できます(実際の統計を細かに分析してもそういう傾向はみてとれますが)。

生活程度を表す指標と言われてきたエンゲル係数でしたが、もはやそれだけでは説明できない
世の中になっているのです。  【編】

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■規制強化の是非
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先週のJEREPにも触れました通り、政府は27日の経済財政諮問会議で総合デフレ対策を発表。
「総合デフレ対策」等と打ち出されると聞こえは良いのですが、内容は今さら、、という新鮮味は
無いもので、デフレ対策としての市場の評価はあまり高いものではありません。

注目を浴びていた「銀行への公的資金導入」については、金融システム安定化策として「資本増
強を含むあらゆる措置を講じる」とし、不良債権への引当て増加により自己資本不足に陥る銀行
が出るなど、金融危機の恐れが生じた場合は、公的資金の再注入も検討する方針を明確にして
います。しかし、銀行の体力が回復したからといって、日本経済が回復する保証もなく、どちらか
と言えば「問題先送り」の感が拭えない気も。

株式市場は、本質的なデフレ対策よりも、(株式)市場対策としての「空売り規制の強化」を好感
した模様で、発表当日、日経平均株価は、今年2番目の上げ幅を記録する事となりました。

確かに3月期末に向けた短期的な株価対策としては、効果はあるかもしれませんが、これも小手
先の対策と言われればそれまででしょう。そもそも、市場の動きに政府が何らかの介入をしようと
いう発想は、民間の活力を促し、経済を再生していこうという新しい流れに反するもの。米国でも
既に空売り規制が導入されているとはいえ、最近はこれを緩和しようという動きが出ていますし、
欧州については空売り規制がもともとありません。金融市場が高度化し、グローバルにリンクして
いる中、政府による規制強化はいかがなものなのでしょう。

毎年、恒例行事のように行われる3月決算期末を控えての株価対策。中長期的な視点において
は、いかに意味の無かったものかは、今の株価水準を見れば明らかでしょう。    【編】

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■用語解説:空売り
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株式を所有せず、又は所有している場合であっても、それを用いず、他人から借りてきた株券を用
いて売却を行うこと。

近い将来に株価の下落を予想している場合において、現時点の株価で売却し、借りてきた株券で
決済を行い、株価が下落した時点で買い戻しを行うと同時に、貸主に株券を返却する形となります。
そして、結果として、売却時点での価格と買戻し時点での価格の差し引き分が利益となります。

空売りには株価の下落を予想している場合に、その差額から得られる利益を狙った投機的なもの
と、所有株式の株価下落による損失をヘッジするためのつなぎ売りの2種類があります。(以上、
東証のHPより抜粋)

空売り自体は正当な行為なのですが、とかく規制を設けないと、特定の銘柄が狙い打ちされ、株
価操作をされかねない。これに対応する為に、今回、空売り価格を直前の株価を上回る価格に制
限するという規制を打ち出しました。例えば、これまでは直前の株価が100円の銘柄を100円で
空売りできたのですが、今後は101円以上でなければ空売りできなくなります。これにより、株価
の下落を一段と誘うような空売りは行いにくくなるわけです。 【編】


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2002年3月3日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.02.24
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              4年の歳月・・・
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創刊してから4年。振り返れば、一時期ネットバブルで盛り上がった時もありましたが、総じて日本経
済は低迷。創刊の頃の記事を見ても「デフレ懸念深刻化」「財政赤字拡大」「日本売り」「不良債権処
理の遅れ」等、今なお聞き慣れた言葉が並んでいます。

具体的に創刊年である98年と今年の経済状況を比較してみると、、
        1998年     2002年
日経平均株価  12879円    9420円
       (98年安値)   (2月6日終値)
不良債権残高(全国銀行のリスク管理債権)
        30兆3660億円 35兆6730億円
       (98年度末)   (01年9月末)
日本国債格付  Aa1        Aa3

未曾有の金融危機と言われた98年当時と比べると、確かにジャパンプレミアム(邦銀に対する貸出
金利上乗せ)や貸渋りという点では改善しましたが、経済状況全体としては、とても改善したとは言え
ない状況です。

そういえば、改善したといえば、国会中継。4年前、国会中継の視聴率が二桁に乗せるなど、誰も考
えなかったでしょう。とはいえ、あの内容で視聴率があがった事は、喜ぶべきことというよりかは、悲
しむべきことか。。  【編】

===========================================
今週は総合デフレ対策に注目
===========================================

今週は、月末の経済指標の発表が相次ぎます。この中でも注目度の高いのは、1月の鉱工業生産
指数。先月、12月の速報値では、在庫調整の動きも見られ、又、1月予測も前月比1.4%増と、比
較的明るい材料となりましたが、果たして予測値を実現できるかどうか(現時点では下方修正予想
が大勢)。

その他、雇用関連指標や消費者物価指数は、悪化・下落傾向に沿う事となるでしょう。

政策面では、27日に策定される総合デフレ対策が注目材料。(1)不良債権処理の促進、(2)金融
システムの安定、(3)市場対策、(4)貸し渋り対策、(5)金融政策の5項目について具体化が図ら
れる見通しです。そして、翌日、28日には日銀金融政策決定会合が開催されますが、上記デフレ対
策の一環として、長期国債買切オペの増額、ロンバート貸出期間の延長、公定歩合の引き下げ等が
決定される可能性もあります(とはいえ、実体経済への影響は限定的)。【編】



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2002年2月24日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.02.17
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  構造改革の読み方(3)〜構造改革と不良債権処理(その2)
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先日、政府は「デフレ問題に関する論点整理」を公表しました。この「論点整理」が示すデフレ脱却
のための政策対応を抜粋すると、(1)不良債権問題の抜本的解決、(2)需要・雇用創出を重視し
た構造改革/デフレ脱却を目指した潤沢な資金供給/将来展望の提示や構造改革へのコミットメ
ントを強化し、成長期待を高める措置等、(3)雇用面でのセーフティ・ネット拡充/金融システミック
・リスクの回避、等々。しかし、理念の域を出ておらず、いざ具体的実践段階となると、政府内での調
整がなかなかつかないというのが実情というところでしょう。

今回は、【案山子】氏の連載コラムです。同コラムを読まれると、上記にある「デフレ」「システミック
・リスク」「資金供給」といったキーワードについて理解を深める事ができると思います。(【案山子】
氏へのご感想・ご質問等はこちら迄、→<mailto:jerep@jerep.com>) 【編】


皆様こんにちは。
先日より「構造改革」についての連載をお届けしている【案山子】です。

先月末の外相更迭騒動で一気に揺らいだ小泉政権、日本を立て直す唯一の方法と期待された構
造改革の行方も混沌として来ました。果たして小泉総理は長くつらい戦いの末に日本復活を成し遂
げる「日本版サッチャー」となるのか、それとも結局は改革は頓挫し、守旧派クーデターに敗れて
混乱と無秩序の淵に日本を追いやる「日本版ゴルバチョフ」となるのか、我が国の自己改革能力
が試されている気がします。

前回、「その1」で不良債権処理の経緯を見て来ましたが、結局、バブル崩壊後「景気が悪化」→
「不良債権処理の増額」→「景気小幅回復」→「不良債権処理のヤマは越したと発表」→「再び景
気悪化」→「一段の不良債権処理の必要」というイタチゴッコだったと言う事がお分かりになったか
と思います。

しかし、そうこうしているうちに実は日本経済は更に一段と悪化の傾向を辿っている事が段々と明
らかになって来ました。日本経済がかかった一層深刻な病、それは「デフレ」でした。

2000年既にバブルの傾向を見せていた米国を中心としたネットバブルもついに崩壊一時5000
ポイントを超えていたNASDAQ指数もこの年の後半には急激に下落し始めます。ITブームに乗っ
ていた日本経済もこの年の末から深刻な落ち込みを見せ、まず半導体などIT、ハイテク業界から
、次第に一般の素材や流通などにも波及し始めます。ITバブル崩壊でそれまで見えにくかった経
済の「デフレ」的傾向が一気に明らかになりだします。

「デフレ」とは一般的に「物価の持続的な下落状態」を表します。物価が下落して消費者にとっては
いいじゃないかと思われる方も少なくないとは思います。確かに経済が健康体であるときの技術革
新や合理化による物価下落は歓迎すべきものです。しかし、構造的、持続的物価下落は経済全体
に深刻な影響を与えるのです。

まず物価の下落は企業の売上高減少、収益悪化という影響を与えます。この結果、企業は生き残
る為に雇用カット(いわゆる首切り)や設備投資の削減を行います。
すると、更にヒトも企業もモノを買わなくなって、需要は減退して行きます。この為、物価は一段と下
落し、更なる企業収益の悪化...とまるで景気拡大時とは正反対の悪循環に陥ってしまうのです。
この悪循環を特に「デフレ・スパイラル」と言いますが、既に日本経済はこの入り口に立っている、
いや既に入り込でいるとさえ言う専門家もいます。

いずれにせよ、経済がこの悪循環に入り込んでしまったらなかなか抜け出す事が困難です。近代
史上、人類が経験した最も悲惨な世界規模のデフレは1930年代の大恐慌ですが、この時は物
価がいくら下がってもモノが売れず、全世界的に経済が麻痺しました。日本ではクーデター騒ぎが
頻発、ドイツではヒットラーが登場し、世界大戦への扉が開かれます。米国でもこの時期、都会で
は失業者が街に溢れ、飢えた子供が寒さに震えていたにも拘わらず、農業地帯では(モノが売れ
ないばかりに)農作物を焼き払い、ミルクを河に流すという歪んだ光景が見られました。「デフレ」は
かくも深刻な経済の病なのです。

不良債権処理に苦しんでいた日本経済もこの「デフレ」という新たな病の出現で一層困難な局面を
迎えます。何故なら、デフレは即企業収益の悪化を意味し、実質債務の増大に繋がるからです。
今まで比較的健全であった企業もデフレのあおりを受けて業績が悪化するケースが頻発するよう
になりました。また、物価が下落する中ではかつての1億円の債務とデフレ後の1億円の債務では
違いがあります。名目上は同じ1億円でも相対的に物価が下落している中では実質的な負担は増
大するのです。

こうして、2度目の公的資金注入を受け、一時はなんとか不良債権の処理にめどをつけたかと思わ
れた日本の銀行でしたが、状況は再び泥沼の有り様になってきたのです。あたかも穴の空いた船
をこぎ続けるかのような...

小泉政権ではこの不良債権処理について、2〜3年で最終的に処理する、と述べていますが、その
方法については銀行の業務純益の範囲という以外、明確に述べられていません。そもそも、現在公
式に金融庁が認めているだけで約36兆円、実際には潜在的不良債権を含めると(幾つかの外資
系金融機関、シンクタンクの試算では)100兆円以上存在すると言われています。既に株式の含
み益や過去の準備金をほとんど取り崩してしまった現状ではこれらを処理する事は一企業の努力
の範囲を超えていると言えます。そう遠くない将来に公的資金の再々注入や、実際の破綻、最悪の
ケースとしては預金者にもそのコストがのしかかってくる事態もありえるのではないかと思われます。

ところで、そもそもどうして構造改革に「不良債権問題の処理」が不可欠なのでしょうか。読者の中
には疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。また、一般の中小企業が経営不振の結果、
当たり前のように倒産しているのに、何故大銀行だけが公的資金注入で国に救われるのか、納得
がいかないという方も当然少なくないと思います。(筆者も実は釈然としないものを感じます。)

これは、銀行の持つ「金融仲介機能」「信用創造機能」「決済機能」によるものです。日銀が現金や
日銀貸出しなどの形でお金を供給すると、お金はまるで血液のように日本経済全体にまわってい
きます。これが健全な時の経済の姿です。しかし、一旦この循環器系が故障したり、つまってしまう
と、身体のすみずみまでこの経済にとっての血液ともいえる「お金」が回らなくなってしまいます。

本来ならば成長させるべき、健全かつ将来性のあるビジネスにまで「お金」が回らなくなると経済
全体の成長がとまってしまうばかりでなく、通常の一般企業のモノやサービスの提供にまで支障
をきたしかねません。また、人はお金を受け取っても、通常それを使いきってしまう事はまれで、一
部は銀行預金などの形で還流し、再び銀行の貸し出し原資となります。さらにそこで貸し出された
お金もまた一部は銀行に帰って来て貸し出し原資となり...と、この循環が続くのです。こうして、
健全な経済では実際に日銀が供給した以上の「お金」が流通し、それが経済全体に行き渡るので
す。これが金融機関の持つ「信用創造機能」です。人々がタンス預金を行ってしまう経済ではこう
はいきません。

これら機能を有している為、銀行を倒産させる事は容易な事ではありません。「システミック・リス
ク」と言われていますが、銀行が倒産した場合はその影響で取引先の連鎖倒産や取り付け騒ぎの
波及、また銀行間仲介市場の実質的な取引停止などが十分予想されるのです。最悪の場合はそ
のあおりで日本経済全体がリスク過敏症に陥って経済活動が麻痺してしまう事も考えられます。

実際、昭和恐慌時には銀行がバタバタと倒産し、そのあおりで連鎖倒産も急増、更に被害が拡大
するという泥沼の状態に至りました。もちろん、やってみなければ分からない、という意見もあるか
もしれませんが、日本経済の規模がこれだけ大きくなった現在、下手に銀行処理の方法を誤ると
世界経済危機の引き金を引きかねない、という懸念もあるのです。

しかし、だからといって銀行は潰せないから、何をやってもいいんだ、という訳にはもちろんいきま
せん。このような経営規律の喪失をモラル・ハザードと言いますが、現在のような不良債権の山
を築いた過去の銀行経営者の責任は厳しく問われなければなりません。もちろん、金融行政に過
度の介入を繰り返して結局は大規模な破綻を招いた行政側の責任も極めて重いでしょう。

また、預金者の側でもこの4月からはペイオフ解禁で元本1000万円とその利息を超える預金に
ついては保護の対象外となります。自己責任の時代、預金者にもリスクの見極めが不可欠となっ
ているのです。問題が現に存在している以上、その解決の為のコストは誰かが払わねばならない
のです。今までの日本はなるべく「見なかったことにしよう」という事で問題が顕在化するまで先送
りを続けていました。しかし、もはやゼロ金利で負担を押さえるという方法も会計制度の変更も、株
式含み益の益出しもすべて行き詰まってしまいました。「痛み」をどこかでこらえないとその「痛み」
はあたかも預金のように利子をつけて蘇って来るのです。

日本と同じような金融危機は実は90年代初頭の北欧各国も経験しました。この時、これらの国々
では金融機関と国家が一丸となって危機に向き合い取り組んだ結果、確かに数年間はGDPの数
10%を超える負担に苦しみましたが、危機の発見とその治癒が早かった為、90年代後半には各
国経済とも蘇り、いまやフィンランドなど好調な経済を謳歌しています。 【案山子】




2002年2月17日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.02.10
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           日本人の税負担は軽い?(1)
              課税最低限引き下げの是非

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先月、小泉首相は、政府税制調査会に税制改革の検討を指示しました。

例年、税制改正は年末の予算編成作業の中で、短期間に処理されてきていたものなので年初に
議論を始めるというのは、異例の事でもありますが、構造改革を行うにあっては、税制改革は切っ
ても切り離せないものであり、ようやく中核に踏み込んでくれるかと期待しているところでもありま
す。

景気刺激を意識した短期的な政策と、簡素で公平な理想な税制を目指す中長期的な政策とに二
分されますが、後者において誰もが重要なポイントとして指摘するものとして、「課税最低限の引
き下げ」の問題があります。

「課税最低限」というのは、所得税が課されるか否かの分かれ目となる所得水準のことで、言い換
えると、この水準に所得が満たなけれぱ所得税を納めなくてもよいという制度でもあります。

課税最低限と比較するための所得は、一般的なサラリーマンの場合は、給与収入から、給与所得
控除、社会保険料控除、基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、特定扶養控除など
を差し引いて算出され、例えば、夫婦と子供2人の4人家族だと控除額の合計が384万円となりま
すから、年間給与収入が384万円の家庭は控除後の所得はゼロ。つまり、全く所得税を支払わな
くてもよいという事になるわけです。

上記の各種控除は、先進各国を見ても極めて手厚く設定されており、この恩恵を受け、99年には
全国の就業者の23%に当たる人が所得税を納めていないとされています。

この問題は、低所得者と高所得者で意見が全く対立するでしょうし、賛否両論あるでしょうが、人々
の働きがいを高め、社会を活性化し、また、納税者意識を強める為に、所得税の累進構造をフラット
化させ(所得が多い人ほど、つまり、頑張って働いて稼げば稼ぐほど、所得税率が高くなり、手取給
与率が小さくなるという構造を是正する)、また、課税最低限を引き下げるというというような税制改
革論議は、構造改革の中核と言えるでしょう。 【編】


「JAPAN ECONOMIC REPORT編集部 Copyright(C), 1998-2001」
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2002年2月10日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.02.03
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             急ピッチに進む少子化
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先週金曜日に発表された、米系格付会社S&P社のレポート(「2002年の日本の信用動向−低下
傾向はより鮮明に」)。この中の「構造改革と景気回復のいずれかにさらなる遅れが生じれば、格下
げの可能性が高まるだろう」というコメントに市場は敏感に反応。田中外相更迭を受けた小泉内角
支持率の急低下(政局不安や政策路線変更懸念)やオニール米財務長官の発言(「米製造業者の
強いドルへの不満に同意しない」)等もあり、トリプル安(円安・株安・債券安)が進行しました。

世知辛い世の中です。まぁ、短期的な動向は兎も角として、日本経済の中長期展望を占う上で、欠
かせないのが人口(少子高齢化)動向。先週は5年ぶりに将来人口推計の発表が行われました。

厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は30日、長期的な日本の人口動向を予測した「将
来人口推計」を正式発表しました。出生率(女性1人が生涯に産む子どもの数)は長期的に1.39
どまりで、5年前の前回推計(1.61)を大幅に下方修正しました。

日本の人口は2006年の1億2774万人をピークとして、2007年から減少に転ずる見込み(5年
前の調査より人口減少に転ずるタイミングが1年間前倒しされた形となります)。そして、50年後に
は1億人を割り、100年後には半減する(江戸時代の水準)という予測です。

この政府の人口推計調査は、5年に1回の頻度で行われ、年金政策に影響をもたらす(人口構成
予測等から年金の保険料率を検証するので)重要な調査の一つですが、過去20年間の同推計調
査の成績はゼロ勝4敗。出生率の低下は政府の見通しから常に下方修正され、早い段階で出生率
は回復するという政府の筋書きは結果だけみれば「全くの見当違い」と言えます。

実は、この推計に関しては、1月11日の日経新聞でリーク報道がなされており、「人口減少時期が
2004、5年頃に大幅に早まる」というものでしたが、正式発表では「2007年」となっていました。
「数字の遊び」とも言えますが、急ピッチな少子高齢化の進行により、保険料・医療費国民負担が
急増するという懸念を緩和すべく、何らかの政治的配慮が働いているのかもしれません。

少子化対策で出生率低下のピッチを抑える事はできるでしょうが、このトレンドが反転する可能性
は低いと思われます。人口減少という現象のみで「日本衰弱論」を唱えるのは少々強引かと思いま
すが、社会保障制度の早急な再構築がいずれ行われざるをえない状況である点は、十分肝に命
じておく必要があるでしょう。
(何故、少子化が進むのか、先進諸国ではどういう状況なのか、等は続編にて説明できればと思い
ます) 【編】

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生産動向は底入れの兆し?
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ネガティブな経済指標の発表が続きますが、29日に発表された鉱工業生産指数は、若干の明る
さを感じる事ができました。

12月の鉱工業生産指数は、前月比2.1%増加となり、事前の予測値と一致(下方修正は無し)。
同時に発表された1月、2月の予測値も連続して前月比プラスの数字。又、在庫指数も減少し、在
庫調整(出荷減少により大幅に積みあがっていた過剰在庫が、減産により一掃されつつある)の進
展もみられてきました。

1、2月のプラス予測値が、実現するか否かが大きなポイントになると言えましょう。      【編】





2002年2月3日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.01.27
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          消費者物価と1品目1銘柄主義
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総務省が25日に発表した2001年平均の全国消費者物価指数は、価格変動の大きい生鮮食料
品を除いたベースで前年比0.8%下落。マイナス幅は比較可能である1971年以降最大の下げ
幅を記録しました(既定路線ではありますが)。

項目別の内訳を見ると「家具・家事用品」が前年比▲3.6%、冷蔵庫やエアコン等の家庭用耐久
財の下げが目立ちます。続いて、「教養娯楽」も同▲3.0%と大幅下落。この「教養娯楽」には、
「パソコン」も品目として含まれており、上述の通りパソコン価格の下落が一つの要因となっていま
す。

ところで、消費者物価指数は、調査方法の所々に問題があり、実勢が反映されていないのではと
の批判の声もよく聞かれますが、これら問題点の一つとして「1品目1銘柄主義」(各品目ごとの
価格変動を代表的な1銘柄によって捉えることとしている)という調査方法が挙げられる事もあり
ます。

確かに、代表銘柄の調査のみで傾向がはっきりと掴める品目もありますが、必ずしもそういうもの
ばかりではありませんよね。例えば、テレビは用途に合わせて小型のシンプルなタイプから、大型
のデジタル放送受信機能付きの高付加価値製品まで多種多様なもの(銘柄)があります。その多
種多様な銘柄がある中の一つのみをサンプリングして価格動向を調査してもテレビ全体の価格動
向を掴んだとは言い難いでしょう。

結局、平成12年基準改定では、この点を考慮して、パソコンについてのみ、POS情報による全国
の主要な家電量販店で販売された全製品(銘柄)の価格及び販売数量を用いて指数を算出する
事となりました。

総務省は「各店舗において全商品の毎月の販売額と価格を調査することは現実的には不可能」と
いう理由で、パソコン以外の品目については「1品目1銘柄主義」を固辞していますが、今どき大抵
の大型店鋪はPOSシステムを導入していない店鋪などあり得ないでしょうから、全品目について銘
柄ごとの価格変動を調査するというのも簡単なはずなんですけどね。

いずれにしても、経済統計にはそれぞれにクセがあるものですから、あまりマニアックに突き詰めず
に、マクロな傾向をザックリと把握しておく程度に考えておけばよいと思います。(パソコン買った話
から話が飛んでしまいました。) 【編】

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■今週の経済指標など
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1月もあっという間に終わり。月末は、各種経済指標の発表が相次ぎます。

29日には、鉱工業生産指数、11月時点の予測調査結果を下回り、景気の悪化傾向を示唆するも
のとなるでしょう。同日に、失業率と有効求人倍率の発表も行われますが、こちらも既定路線に沿っ
て、過去最悪水準となる見込み。相次ぐ倒産を受けて、非自発的失業者が失業率を押し上げる(い
わば「リストラ色」)が一段と強まる事でしょう。

日銀関連では、29日に速水日銀総裁講演、30日に中原審議委員の講演が行われます。金融政
策面は、もはや出尽くし感が強い状況ですので、さほど目新しい材料とはならないでしょう。

米国では、29〜30日にかけてFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されます。先週25日にグリ
−ンスパンFRB議長が景気に対してやや明るいコメントを述べた事もあり、今回のタイミングでは追
加利下げ(金利の引き下げ)は無いとの見方が大勢を占めています。 【編】




2002年1月27日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.01.20
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  構造改革の読み方(2)〜構造改革と不良債権処理(その1)
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12月31日号に続いて【案山子】氏のコラムをお届けします。

ところで、経済とは関係ありませんが、「案山子」は「かかし」と読みます。
「かかし」は「かがし」から濁音が消えたもので、この「かがし」は、獣肉などを焼いて串に貫いて田畑
に刺したり、人間の頭髪や古着などを焼いて竹に吊ったりして、その悪臭を「かがせ」、鳥獣を追い払
ったことに由来があるようです。
そして、その姿が、「山や田畑」において「案内」をしているように見えるということで、「案山子」という
漢字が割り当てられたようです。

さらにさかのぼっていくと、節分に炉の中でネギ、ニラ、鰯の頭など悪臭を放つものを焼いて疫病神を
追い払おうとする「焼いかがし」という儀式が元になっていると言われ、そういう意味では、「案山子」
は、鳥獣から作物を守るだけではなく、人間界から悪霊を遠ざける神の化身でもあるわけです。

日本経済も早いところ悪材料が出尽くしてしまえばよいですが。では、今週もよい一週間でありますよ
うに。 【編】


皆様どうもこんにちは。前回より構造改革についての説明をお届けしております「案山子」です。
第2回は今も話題となっている不良債権処理の問題についてご説明させて頂きます。

小泉内閣の掲げる構造改革の中で最も差し迫った問題、それが「不良債権」処理であると言われて
います。しかし、そもそも「不良債権」問題とはいつ、どのようにして始まったのでしょうか。
そして、何故ここへ来て解決が世界中から迫られる深刻な事態となったのでしょうか。

そもそも、不良債権とは、お金を貸した中で、貸した相手が業績不振に陥って、返済出来なくなってし
まう部分、つまり、焦げ付いてしまう部分です。これは金貸し業をやっていたら、常に何%かの割合で
発生するものです。これは、銀行でも消費者金融でも、江戸時代でも現代でも変わらぬ事実です。

そこで戦後、銀行は上昇基調にあった土地に目を付け、それを担保に融資を行うというモデルを編み
出しました。何故なら土地はほぼ常に右肩上がりで値上がりを続けたし、例え融資した企業が倒産し
ても十分な土地を担保にとっておけば資金の回収はかなり見込めた訳です。

こうして銀行は土地をもとにお金を貸し、企業は成長、地価は値上がりして更にお金を借りる、という
好循環で回っていました。(このような日本独自の土地の信用に基く経済システムを「土地本位制」
と呼ぶ経済学者もいます。)特に80年代末バブルの時代は急激に地価が上昇し、銀行も拡大戦略
をとって担保価値以上に(例えば4億の価値しかない土地に6億貸すなどの)融資する姿勢を打ち
出したところが続出しました。

しかし、この好循環も終焉を迎えます。1991年バブルがはじけ、それまで急騰していた土地は急激
に下落に転じます。土地だけではありません。日銀の金融引締め(いわゆるバブル潰し)が効を奏し、
企業業績も急速に悪化に転じます。一部企業の中には倒産に至る所も出てきました。89年には4万
円近かった日経平均は92年には1万5千円割れまで下落します。銀行の融資の中には焦げ付く所
も当然出てきて不思議ではありませんでした。

しかし...銀行は何故か沈黙を守ります。いずれ地価が回復すると見ていたのか、何よりも当時の
大蔵行政が銀行の赤字決算を認めず、銀行は融資先が返済に窮する状況に陥っても負担金利を
追い貸ししたり、返済スケジュールを塩漬けにしたりして、「一時しのぎ」に走ります。当時はまだ潤沢
な資本力で何とか乗り切れると見ていたのです。

90年代初頭に、米国の銀行が経営危機に陥ると迅速な資産売却(シティバンクは本店の半分を売
却)や徹底したリストラでV字型回復を成し遂げたのとあまりに対照的な危機対応でした。

日本の銀行でも、例えば三菱銀行はNY証券取引所に上場していた為、徹底した情報開示が求めら
れ、この為、バブル時に野放図な融資拡大競争に踏み込まず、結果として傷が浅くで済んだと言わ
れています。一方、この時期から日本経済の病は深刻である、と気付いていた一部の外資系投資銀
行は「邦銀の不良債権総額は数十兆円」とのレポートを発表、大蔵行政の無為無策を鋭く突き始め
ていました。

最初に危機が噴出したのは体力の弱いノンバンク、住専でした。

95年、ついに不動産関連への融資を中心に行っていた住宅専門金融会社7社が7兆円の負債を
抱えて経営破綻。この破綻処理を巡って6850億円の公的資金投入が国会で政治問題となり、議
論が紛糾します。野党は国民の血税を民間企業救済に使うな、との論調で国民に訴えます。
この結果、しばらく「公的資金投入」が政治的にタブーとなります。しかし、結果としてこれは日本に
とって不幸な事でした。

96年、一時的に経済が回復基調を迎えます。

日経平均は22666円まで上昇、バブル崩壊後の危機は去ったかに見えました。大手銀行も相次
いで不良債権処理を発表し、これで峠を越えた、と発表します。この機会をとらえ、橋本政権は財政
再建を打ち出します。97年4月に消費税の引き上げを実施、しかし、日本経済の回復は一時的な
ものでした。不良債権の毒は実は日本経済の全身に回っていたのです。この夏から景気は急速に
悪化、11月にはついに三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が相次いで破綻。金融危機は誰の
目にも明らかでした。タブーとなっていた公的資金投入はもはや避けられない状況になっていたの
です。日本発の世界恐慌の影に世界経済までがおびえる事態となっていました。邦銀は「ジャパン
・プレミアム」と呼ばれる金利上乗せを行わなければ海外市場で資金調達出来ない事態にまで追い
込まれてしまいました。

98年2月、ついに金融システム危機に対応すべく、公的資金投入が決定されます。が、当初の資
本増強策(1.8兆円)では不十分でした。この年の7月にはついに景気悪化の責任をとって橋本総
理が辞任に追い込まれ、小渕内閣が成立。

小渕内閣は政策総動員で景気対策、金融危機対応に奔走します。国会では金融再生トータルプラ
ン関連6法案が野党案丸呑みで修正され、通過し「金融国会」と言われました。この混乱の中、長銀
、日債銀が相次いで不良債権に押しつぶされる形で経営破綻に追い込まれます。しかし、とりあえず
国会で公的資金投入が決定した事で危機は収束に向かいます。東京三菱銀行を除く大手行への公
的資金投入が実施され、また銀行側でも合併構想が相次いで打ち出されるなど、生き残りをかけた
必死の模索が行われました。公的資金導入を受けた大手銀行は再び「不良債権処理は峠を越えた」
と発表します。

99年から2000年にかけてはITブームによる景気回復の影響もあり、金融危機はとりあえず過去
のものになったかに見えました。

大手銀行は過去100年に蓄積した自己資本を「失われた10年」の間に不良債権処理に大部分食
いつぶしてしまっていましたが、公的資金投入と景気回復、それに日銀のゼロ金利政策のおかげで
何とか立ち直るかに見えました。経営危機に陥る企業もありましたが、銀行は不良債権処理の過程
で十分な引当金を計上しており、影響はない、との姿勢を示していました。確かに超金利政策は利ざ
や拡大という形で銀行に潤沢な業務純益をもたらし、それで毎年の不良債権処理を実施する事が出
来ました。

しかし、危機は去ったのでしょうか。いえ、見えないところで危機は進行していました。毒はまだ消えて
いなかったのです。しかもより深刻な形で...

以下、次号  【案山子】


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2002年1月20日

             JAPAN ECONOMIC REPORT
                      02.01.15
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            プラスの非ケインズ効果
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財政再建策というと、歳出削減や増税となりますから、需要は減退し、景気が失速するのが通常の
展開です。又、前号のように積極財政策を行ったとしても、債務残高が大きい国の場合は、需要を
減少させる事になってしまう事もあります(マイナスの非ケインズ効果)。では、打つ手なしか。。

しかし、債務残高の大きい国において、顕著に財政再建が進むという期待が高まると、それが景気
拡大につながるという可能性もあります。財政再建が現実的なものである確度が高まれば、多くの
国民は「現在の増税は、将来の増税軽減、或いは、減税へとつながっていく。将来の可処分所得の
増加へつながっていく」という期待を持ち、個人消費を活発化させるというものです。又、国のリスク
プレミアム縮小が、金利低下をもたらし、これが個人消費や民間設備投資を拡大する効果もあるで
しょう。

この財政再建が民間需要を喚起、拡大させる作用を、「プラスの非ケインズ効果」と呼んだりします。

当然、日本においても小泉政権の構造改革の進展により「プラスの非ケインズ効果」が生じる事が
理想なのですが、与党内の様々な軋轢もあり、なかなか思い切った財政再建ができず、プライマリ
ーバランス(昨年本誌5月20日号御参照)がいつ黒字になるのか見通しすら立たない状況。

もうここまできたら、思い切りが必要のような気がしますが。 【編】


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