交響曲第7番〜バッハと共に

 
 最も演奏する機会が少ない7番と8番の2曲を残していましたが、8番は節目の演奏会でやれるにしても7番は難しい、これは持久戦かと思っていました。ところが、某大学のOBオケの若い打楽器奏者がリハーサルの合間にやたらマーラーの7番の第5楽章冒頭のティンパニのソロを大音響で繰り返し叩いていることに気付きました。どこかで叩くのかなと思いきや、後でわかったことですが、どうやらこの曲をやろうというデモンストレーションだったらしい。普段はうるさいなと辟易していたのが、今度ばかりはもっとやれと心で声援を送っていたのが功を奏したか2018年に交響曲第7番が演奏されることになりました。

 今回は、このオケにソリストやトレーナーとして何回か来ていただいていた新日本フィルハーモニーのコンマスをゲスト・コンサートマスターに迎えるという幸運にも巡り合いました。リハーサル当初から決められたボーイングはもちろんプロオケ仕様、弓の使い方、音符によって変わる弓の位置。マーラーが記したダイナミクス記号の解釈など、目から鱗の連続でした。

 しかしながら、この7番は難曲でした。LP時代にテンシュテット指揮ロンドン・フィル、CD時代になってマゼール指揮ウィーン・フィルの7番を買ったものの聴いてもよくわからなかったというのが正直なところでした。そのため他の曲と違って頭に曲の展開が入っていないこともあり、これまでのマーラー経験を持ってしてもついていけず何度も置いてきぼりを食らうほどの意外性に満ちた音楽の展開に戸惑ってばかりいました。それでもマーラー独特のヴァイオリンのフレーズは弾くたびに感動を噛み締めることができたのは幸せでした。テノールホルンの独特な響き、本番直前にリハーサルに参加してきたギターとマンドリンの音がどう曲に馴染んでいくのかなと訝しく思ったり、6番に続いてカウベルも登場したりと特殊楽器の面でも印象に残る曲でした。

             テンシュテット指揮ロンドン・フィル マーラー7番      マゼール指揮ウィーン・フィル マーラー7番

 終楽章の祝典的とも言えるマーラーのこれまでにない作風に戸惑いを覚えたのでしたが、ヨハン・セバスティアン・バッハの管弦楽組曲との関連を指摘した説を知ってなるほどと思いました。マーラーはこの曲の作曲当時バッハの譜面を手元に置いていて、後に管弦楽組曲第2番と3番から抜粋して近代オーケストラで演奏すべく編曲して実際に指揮もしています。だいぶ以前にFM放送でそのマーラー版の管弦楽組曲を聴いた記憶があり、シューベルトやベートーヴェンの弦楽四重奏曲のオーケストラ編曲も行なったマーラーが抱いた先達への想いを知らされたものでした。バッハの管弦楽組曲第2番はロ短調でマーラーの7番第1楽章の序奏のロ短調と一致し、その冒頭のリズムとバロックのフランス風序曲のリズムとの共通性も指摘されています。第5楽章のロンド・フィナーレの構成もバロック様式からヒントを得たもので、Allegro ordinarioという一風変わったこの楽章の速度表記もバロック時代によく使われたものとされています。このオーケストラのひとつ前の演奏会で、ヴィラ・ロボスの『ブラジル風バッハ第7番』を演奏したのですが、偶然にしてもバッハがらみ、しかも7番が続いたことになります。


                                       ≪ 前のページ ≫    ≪目次に戻る≫    ≪ 次のページ ≫

Copyright (C) Libraria Musica. All rights reserved.