中二病でもがしたい!

 虎虎の「中二病でも恋がしたい!」(京アニエスマ文庫)は、タイトルどおりに中二病の少年少女だって恋がしたいと願う物語。もっとも、恋なんて一般的な営みからは無縁と思われているか、あるいは無縁と思いたがっている節があって、中二病の人間にはなかなか恋は成就しない。下手すると永遠に成就しないから、なるほど恐ろしい病気だと改めて言いたい。そして訴えたい。中二病にかかるな。直すなら早く。

 もっとも、そうばかりとも言い切れないと、「中二病でも恋がしたい!」を読むと、ふっと思えてくるから楽しいというか、逆に危険というか。中学時代に邪気眼がと言って暴れていながら中三で悟り、一所懸命に勉強して進学した富樫勇太というが、入ったクラスには未だ前に眼帯をして寡黙な少女が、中二病設定丸出しで進んで来ていて、なぜか勇太に強い関心を抱いて、契約を結びたいと言い出した。

 放っておけないといった感情があり、また学校で密かに中二病的過去をちょろりと出してしまったところを見つかっていた勇太は、小遊鳥六花という名の少女に、不出来な数学を教える役目を買って出る。

 眼帯の下の眼が金色だったりするほか、言葉の端々に中二病的設定を口走る六花を相手に勇太は辟易としながら、それでも面倒を見ていたうちに、ほのかに芽ばえていく恋心。けれども、彼女の中二病をクラスに知られたらいったいどうなるのか、といった葛藤もありつつ進む恋路のその奧に、六花が今も中二病に頼っているのはどうしてなのか、といった理由がほのめかされ、多感な年頃の少女を苛む孤独感が示され、生きづらい世界を生きる大変さ、その逃げ道としての空想世界といったシチュエーションが見えてくる。

 今時のライトノベルだったら、そこで学校におけるヒエラルキー物へと滑り、いじめの問題へと行って苦みと痛みを味わわせそうな中二病話。あるいは田中ロミオの「AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い」(ガガガ文庫)のように、そうした状況を開き直って広く明かして、居場所を自ら切りひらくような熱い展開へと向かっていくものだろう。

 けれども、この「中二病でも恋がしたい!」は、年頃ならではの自分の心情、家族との関係をほのめかす物語にし、そんな世代に普遍の物語にクラスの皆も決して誹らず、少しばかりの共感も示していたりする、暖かみを残したストーリーが繰り広げられる。中二病でもいいじゃないか。中二病でも恋が出来るじゃないか。そんな感情が浮かんでくる。

 過去につづった中二病設定満載のノートを披露されるシーンとか、読んで身悶えもするけれど、それでも中二病であることに、微笑ましさを感じてしまうストーリー。「涼宮ハルヒの憂鬱」に出てくるキョンの妹並に、兄の勇太を慕う妹は健気で素直で可愛いし、勇太と六花の間にちょっかいをだしてくる学級王の少女も、ドSだけれど陰湿ではなく高飛車でもなく、むしろ少しばかりの元中二病で気っ風も良い。不安を虚飾に変えて行きにくい世を生きようとあがく六花も含め、キャラクターに恵まれ展開も楽しくメッセージ性もある。

 何より面白い小説と言えるこの「中二病だって恋がしたい!」。店頭ではあまり売っていないレーベルで、探すか取り寄せる必要があるけれど、そういう手間をしてでも読んで悪くはない。あれだけ数学が出来ないで、よくこの高校に進学できたものだと、六花のことを思うのは果たしてありかなしか。きっとその時は邪王真眼もきっと賢く発動していたのだと考えよう。


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