世界中で愛されているキャラクター、“ピーターラビット”の生みの親である女流作家ビアトリクス・ポターを描いた伝記作品。
ピーターラビットがお気に入りという訳でも、作者に関心を持っていた訳でもない私が本作品を観たのは、ひたすら主演がレニー・ゼルウィガーだったということに尽きます。
1902年のロンドン、上流階級の女性であるビアトリクス・ポターが、青い上着をきたうさぎの絵を携えて出版社を経営するウォーン兄弟の元を訪ねたところから物語は始まります。
当時上流社会の女性であれば、結婚することこそ当たり前。それなのにビアトリクスは動物の絵を描くことばかりに夢中で、32歳になるというのに未だ独身。どうもそれは、元々絵を志したことのある父親の理解があってのことのようだ。
一度絵本に出来ればと思っていたビアトリクスでしたが、彼女の絵を気に入って熱心になったウォーン兄弟の末弟ノーマンの努力もあって、「ピーターラビットのおはなし」は瞬く間に評判となり、ビアトリクスは一躍人気作家となります。
結婚よりも絵を描くことを選んだビアトリクスでしたが、やがて彼女にも恋が訪れます。しかし、身分違いということを理由に両親は反対しますが、彼女はあくまで自分を貫こうとする。
ビアトリクスが“友達”と呼ぶ、彼女が描く絵の中の動物たち。彼女の声に応じて動き回るという、映画ならではの仕掛けが楽しい。
それにもまして、主演のレニー・ゼルウィガーがやはり絶品。地味な主人公、地味なストーリィですけれど、それだけにレニーの演技が光ります。
また私にとっては、ビアトリクス・ポターが愛したという、(ピーターラビットの文字通り故郷である)英国・湖水地方の美しい景色がふんだんに味わえることも魅力です。
この湖水地方、私の愛読書であるジェーン・オースティン「自負と偏見」で主人公エリザベスが行きそこなった旅行先。同作品を読んで以来ずっと私の関心の的になっている土地です。
“ピーターラビット”を世に送り出した功績も大きいですけれど、開発業者の買い占めによって湖水地方の景観が害されるのを防ぐため、売りに出された農地を自ら買い取って愛するその美しい景色を守ったという彼女の行動も、素晴らしい功績だと思います。
20世紀初頭、女性は家庭婦人であるのが当たり前と思われていた時代に、好きなことを貫いて自立を果たした、ミス・ポターの半生を描いた映画。
地味な作品ですけれど、深い味わいと喜びを感じることのできる好作品です。
2007.09.20
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