ジェイン・オースティン作品のページ


Jane Austen 1775-1817 英国においてブロンテ姉妹と並ぶ代表的な女流作家。代表作「自負と偏見」は、サマセット・モームの「世界十大小説」の中にリストアップされています。


1.ノーサンガー・アベイ

2.分別と多感

3.自負と偏見(or高慢と偏見)

4.マンスフィールド・パーク

5.エマ

6.説きふせられて

7.美しきカサンドラ−ジェイン・オースティン初期作品集−

8.サンディトン−ジェイン・オースティン作品集−

9.ジェイン・オースティンの手紙(新井潤美編訳)

         


 

1.

●「ノーサンガー・アベイ」● ★★☆
 原題:"Northanger Abbey"   訳:中尾真理


ノーサンガー・アベイ画像

1818年発表

1997年10月
キネマ旬報社刊
(2200円+税)

2009年09月
ちくま文庫刊
(中野康司訳)

    

1998/06/14
2000/07/15
2007/05/12

 

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この作品の特徴は、当時人気の高かったゴシック・ロマンスのパロディという点にあります。そのため、当時の小説情勢を知らないと、その可笑しさは判りにくいかもしれません。
具体的には、冒頭の「キャサリン・モーランドを子供時代にみかけたことのある人なら、誰も彼女がヒロインになるために生まれた人だなどとは思わなかっただろう」という一節。また、それ以降にも「強盗にも、嵐にも見舞われず、馬車が転覆して、ヒーローに遭遇するなどという幸運にも見舞われなかった」等々。
そうしたゴシック・ロマンスへの対抗にこだわり過ぎている所為か、あるいはオースティン初期の作品のためか、ストーリィの運びに堅さを感じます。
また、登場人物が少なく、ストーリィの世界は極めて狭いものです。その一方、先輩作家を揶揄するような作者の茶目っ気ぶりはとても愉快ですし、キャサリンとその少ない登場人物だけで、充分読ませてくれます。
そもそも小説にこしらえごとはつきものなのですが、オースティンの小説の題材は常に身近にある普通の生活。そして、登場人物もどこにでもいる普通の人間です。そこにオースティン作品の普遍性、確かな手応えと魅力があります。

ストーリィは、キャサリンヘンリー・ティルニーとの間の恋愛ごと+α。その点、どんな展開になるのやら予想もつかなかった自負と偏見」「エマのような面白さは、欠いています。
その代わり、若い男女2人のごく普通の恋愛過程を描いたストーリィとしては、パロディ部分を抜きにしても、ヘンリーが類稀なユーモア精神の持ち主であることから充分楽しめる作品に仕上がっています。
ともかく、私にとっては読むことができて嬉しく、満足できる作品でした。

(07.05.12再読)
久し振りに読んだのですが、とても楽しかったです。
まず、一般的な女性主人公・ストーリィのわざと逆を行くようなキャサリンの人物造形、ストーリィ展開。執筆当時人気あった作品を揶揄したものですが、そんなオースティンの諧謔精神、好きですねぇ〜。
オースティン作品の主人公の中では、本書のキャサリンは最も明朗で溌剌とした女性と言えるでしょう。その点マンスフィールド・パークファニーとは好対照。そのうえ気立ても良いし、素直ですし、「自負と偏見」リジーに次いで好きなヒロインと言ってよいかと思います。
相手役ティルニーのユーモア精神溢れる性格もなかなかのもの。但しユーモアが高級過ぎて、理解するのにちょっと時間がかかることもあります。
登場人物は少ないですが、その分各人物像もストーリィもすっきりしていて気持ち良い。
オースティン・ファンの方で未読でしたら、是非お薦め。

※TVドラマ化 → ノーサンガー・アベイ

        

2.

●「分別と多感」● ★★
 原題:"Sense and Sensibility"   


いつか晴れた日に画像

1811年発表

1996年06月
キネマ旬報社

訳:真野明裕
(1748円+税)

  

1996/07/07

 

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“いつか晴れた日に”という邦題で映画化されたことがきっかけで訳出された作品。映画は、95年度アカデミー賞最優秀脚色賞を受賞したとか。
映画を機に、オースティンへの関心が高まり、未読作品を読めたのは嬉しかったのですが、何故今頃オースティンが?という思いを持ったのは事実。
今更言うまでもなく、オースティン作品の主題は、常に結婚相手探しです。それも、当時の階級意識に立ってのものです。現代女性の風潮に合っていないのでは、と感じるのですが、女性の自立という結果が余り良いものではなかった、家庭復帰志向ということなのでしょうか、それとも上流社会への憧れということにあるのでしょうか。

本作品は、分別のある姉エリナと多感な妹マリアンという、ダッシュウッド姉妹がそれぞれ結婚に至るまでの物語です。
それなりにまとまった物語ですが、姉妹2人の結婚相手探し、対照的な性格、という共通性をもつが故に
自負と偏見とつい比較してしまい、本作品への評価が辛くなってしまうのは仕方ないことでしょう。
第一に登場人物に魅力が欠けます。エリナは利口ぶっていて策略ばかりめぐらしている感じがありますし、マリアンははっきり言ってしまうと美人だけが取柄のバカ娘。また、エリナの恋人エドワード・フェラーズは、何の取柄もなく優柔不断というだけ。魅力があるのはジェニングス夫人、好感がもてるのはブランドン大佐ぐらいなものでしょうか。
第二に人物が型に嵌りすぎていて結末も納得感に乏しい。
エリナ、マリアンの2人とも、恋人が実は別の女性と・・・・していたなんて、いくら何でもと感じます。ルシィという女性の行動も突拍子がないし、ブランドン大佐にしても気質的にはエリナと結ばれる方が自然なのに、何故18歳も年下のマリアンに惹かれたのか、その理由はもうひとつ希薄。
第三に総じて男性陣に魅力、活力が乏しい。
というように批判が先立ってしまいましたが、落ち着いてもう一度読み直したい、という魅力を持っている作品でもあります。

     


分別と多感画像

2007年02月
ちくま文庫刊
訳:中野康司
(1500円+税)

 

2008/01/03

 

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11年ぶりに中野康司さんの新訳で再読しました。
前回読んだときの感想を読み直すと、よくもまぁここまでけなしたかと思うのですが、それはオースティン作品への期待の大きさに対する反動だった故。

でも基本的な感想は、今回も前回とそう変わりません。
ついつい自負と偏見の出来の良さと比較してしまうのですが、人物の性格設定にもうひとつまとまりを欠いていると感じます。
マリアンの激情的で抑えの効かない性格は、姉エリナーと同じ姉妹とはとても思えないし、肝心の2人、エドワード・フェラーズブランドン大佐とも男性らしい魅力に乏しい。
ストーリィはエレナーの視点から語られていきますが、エレナー自身よりマリアンの恋愛騒動の方が中心になっていますし、エレナーの性格を反映して語りが分析的・解説的になっている点を否めません。
登場人物の中で私が魅力を感じるのはジェニングズ夫人ですが、善良で献身的である一方、お節介でやや思慮を欠く婦人という役目を与えられています。物語の進行役としてエリナーと並ぶ存在ですが、人物としての善し悪し、中途半端な設定になっていると感じられるところが、夫人のファンである私としてはちと残念。

上記の物足りなさがあるとはいえ、本作品はやはり面白い。
善良な人物より欠点のある登場人物の方がはるかに多い物語ですが、そうだからこそ現実感もあり、それに加えてストーリィが淀みなく進んでいくところに小説としての魅力があります。

           

3.

●「自負と偏見(or高慢と偏見)」● ★★★
 原題:"Pride and Prejudice"   訳:中野好夫


自負と偏見画像

1813年発表

1963年06月
新潮文庫刊
(上下)

1997年07月
新潮文庫
1冊化
(705円+税)

   

1970/09/02

 

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高校に入ったばかりの頃、S・モーム「世界の十大小説によりこの作品を知りました。それを契機に読んだところその面白さに夢中になり、以後読書にのめり込むすべての原因となった、私にとっては記念碑的小説です。
こんな面白い本を知らずに、何が読書好きか、と愕然とした思いが今でも忘れられません。

ストーリィは単純、そして普遍的なものです。即ち、5人姉妹を抱えたベネット家の結婚物語。
なんと言っても素晴らしいのは、19世紀初頭の小説だというのに古びた印象がまるでなく、現代においても日常感覚そのままに読んで楽しめる作品であるところ。

本作品中には数多くの人物が登場しますが、いずれも人間らしい欠点を抱えていて個性的、かつどんな世の中にも必ずいそうな人物ばかり。主人公といえその例外ではありません。それらはすべて作者の人間観察力の鋭さあってのもの。

登場人物たちが繰り広げるストーリィは、ユーモラスで心ゆくばかりに楽しいものです。
ベネット夫婦には、ここまで似合わない夫婦がいるものかという滑稽感がありますが、一方でどこにでもいるような夫婦に思えます。
もちろん、登場人物でもっとも魅力があるのは、“自負と偏見”の持主とされた主人公エリザベス・ベネットダーシーです。この2人の人物像は、決して忘れることができないほど生き生きとしたものです。
この2人は、もう一組の恋人ジェイン・ベネットビングリーに対比されることにより、ますます魅力を放っています。
また、イギリスの田園生活ぶりを垣間見る部分もあり、何度読み返してもその楽しさが薄れることはありません。

モームの言うとおり、まさに世界文学における傑作と言って間違いない作品です。

この作品は「高慢と偏見」という題でも訳されていますが、なんといってもこの中野好夫訳(新潮文庫版)がお薦めです。

※映画化 → プライドと偏見

  

4.

●「マンスフィールド・パーク」● ★★★
 原題:"Mansfield Park"   訳:臼田昭


マンスフィールド・パーク画像

1814年発表

1978年10月
集英社刊
世界文学全集
第17巻

   

1978/11/26
1986/01/12

 

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主人公であるファニー・プライスは、家が貧乏だったため、 10歳の頃から伯母の嫁ぎ先である富裕なバートラム男爵家で養育されます。
4人の従兄妹たちの中でただ一人ファニーに親切だったのが次男のエドマンド。そのためファニーはひそかにエドマンドを愛してきましたが、彼女が18歳ともなると、従兄妹だけでなくファニーも恋愛あるいは結婚問題の渦中に巻き込まれることとなります。
その波乱要因となるのが、近所に越してきたクロフォード(ヘンリとメアリ)という美男美女の兄妹。本書は、そんなファニーの恋愛顛末を描いた物語。

ファニーという主人公は、どちらかというと陰気で、常に隅に引っ込んでいて周囲の人々を冷たく観察している、という風があります。したがって、余りに好きになれるタイプの主人公ではありませんが、作者の手により、後半ではかなり面目をほどこされています。
そのファニーの出しに使われるのが、マライア、ジュリアのバートラム姉妹であり、引立て役がファニーの讃美者となるヘンリ・クロフォード
一方、ファニーが恋するエドマンドは、はっきりいって面白みのない人物です。一人良い子ぶっている偽善者という印象があって、ヘンリのファニーに対する男性的な態度とは対照的に、メアリ・クロフォードに対してもねちねちしている感じを受けます。
本作品において一番人間的で好感がもてるのは、伯父となるサー・トマス・バートラム。ファニーへの思いやり、愛情、そして少しばかりの自己満足をもっている故です。
また、ファニーにとって二番目の伯母であるノリス伯母は、見るからに楽しい意地悪ばあさんですが、どこか憎みきれないものがあります。
登場人物それぞれの個性が多彩であるため、この物語を広く眺めると、実に楽しく、興味尽きないものがあります。その点が、本作品の魅力です。

※TVドラマ化 → マンスフィールド・パーク

  

5.

●「エ マ」● ★★★
 
原題:"Emma"    訳:阿部知二


エマ画像

1815年発表

1965年04月
中央公論社刊
世界の文学
第67巻

中公文庫化

   

1973/03/11
1997/05/17

 

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11年ぶり、5回目の読書です。つい自負と偏見と比べてしまい、その面白さにはるかに及ばないと思ってしまうのですが、両作品を比較するのは正しいことではないでしょう。作者の狙いが、この2作の間では違うのですから。
「自負と偏見」の方は、ストーリイ展開の面白さと言えます。したがって、地理的範囲でもスピードの面でも、かなり活発です。それに比して本作品は、きわめて狭い範囲でストーリイが展開します。また、本作品の特徴は、ストーリイ展開も登場人物の描写も、エマ・ウッドハウスという21才の若い富裕な令嬢の目を通して行なわれる、という点にあります。したがって、ストーリイ展開はじれったい程ですが、その分オースティンのじっくり読ませようという意図を感じます。
エマの人物観察は、そのままストーリイ展開への推理的興味をもたらしています。ただ、結果的にその殆どは的外れであり、人物観察の難しさと、彼女の若いが故の未熟を感じます。時としてエマは階級意識が強く、エマへの反感を感じてしまう部分もありますが、彼女を嫌うまでに至らないのは、彼女の率直な性格と自己反省する素直さの故です。
エマからみて一番謎だったのは、ジェイン・フェアファックスというエマとライバルの立場にあるような若い娘であり、事実彼女は一番の謎をもっていました。
しかし、それ以上に、彼女自身、そして読者としても、完全に騙されていたのは、彼女とナイトリー氏の関係です。そこにも、作者の並々ならぬ設定のうまさを感じます。まず、彼ら二人が義兄妹の関係にあったこと、彼が37才と、エマとかなりの年齢差があったこと。もっと年齢が近いのであったら、読者とてもこうまで盲目であることはなかったろうに、と思うのである。
その観察眼の乏しさは、エマの親友であるウェストン夫妻も同様であって、読者としては同じ仲間を見出して慰められるとともに、ただ彼ら二人の幸福を祈るばかりで満足するほかありません。
ストーリイの舞台が、限られた中で、これほど多くのことを描き得たという点、完璧さが、本作品がオースティン作品中最も優れた作品と評価される所以でしょう。オースティンの小説技法の見事さを改めて感じます。

          

6.

●「説きふせられて」● ★★★
 
原題:"Persuasion"    訳:阿部知二


説きふせられて画像

1818年発表

1968年05月
河出書房刊
カラー版
世界文学全集
第9巻
(当時980円)


1974/01/04

2000/07/07


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准男爵で気位が高く見栄っ張りだけれど、経済的面では追い詰められているエリオット家の次女アン・エリオット、27歳が主人公。
彼女は若いときに海軍のウェントワース大佐と恋に落ちますが、周囲の反対から求婚を断り、以後縁のないまま嫁き遅れたという状況にあります。
エリオット准男爵は金銭的問題を解決するため邸宅ケリンチ館を賃貸に出しますが、それを借りたのがウェントワース大佐の義兄であるクロフト提督夫妻。そんなことから、アンとウェントワースが再会することとなり、2人の間に愛が再燃することがあるのか、ということが興味の中心となります。

といっても、オースティンのこれまでの作品のような華やかさは見られません。アンとウェントワースいずれとも、既に若くもなく、経済的に恵まれているわけでもない。また、一度人生の挫折を味わっていること、アンの中に後悔の念があることが、その理由となっています。
したがって、2人の関係は容易に進むことはなく、じっくりと2人の中で成熟していくようです。その分、再度芽生えた2人の愛情の強さ、確かさが感じられます。

舞台がケリンチ館、アンの妹の嫁ぎ先アッパークロスの田園、そして海岸保養地のライムと変化に富むところが、地味であるストーリィの一方で、本作品の楽しみとなっています。
じっくり噛みしめるような味わいに、本作品の魅力があります。

         

7.

●「美しきカサンドラ−ジェイン・オースティン初期作品集−」● 
 原題:"The Beautifull Cassandra"   監訳:都留信夫


美しきカサンドラ画像

1996年07月
鷹書房弓
プレス刊
(2500円+税)

   

2000/09/10

 

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“初期作品集”として刊行されたものは、オースティンが12歳から18歳までの6年間に書かれた断片・短篇・中篇等の計21篇を3巻にまとめたものだそうです。本書に収録された19篇は、そのうち第1・2巻に収録された作品だそうです。
あくまでオースティン作品である、という思いで読み始めると、冒頭2作から、いくら習作とはいえ、何、何だこれは?と驚きます。そう簡単に登場人物を殺すなよ、と声をあげたくなります。その2作品以外にも、本書収録作品については、オースティンとは思えないような非現実的、突拍子のないストーリィが多いです。
ただ、これらの作品は、本来公表を意図したものではなく、家族の間に楽しみを提供しようとして書かれたものですから、同じ土俵で評価しようというのは、適切ではないのでしょう。
とはいえ、文章の運び方、登場人物の会話等については、オースティンらしい滑らかさが感じられます。
試しに、あるいはオースティン作品のすべてを知っておきたいということで読むならともかく、長篇6作と同様に楽しむつもりで読むなら、全くあてが外れることでしょう。あまり読む必要もないだろうなぁ、というのが正直なところです。

第1巻:フレデリックとエルフリーダ/ジャックとアリス/エドガーとエマ/ヘンリーとイライザ/ハーリー氏のおかしな体験/サー・ウィリアム・モンタギュー/クリフォード氏の想い出の記/美しきカサンドラ/アミーリア・ウェブスター/訪問/謎/三姉妹/「断片」/哀れみに寄せる頌詩
第2巻:愛と友情/レズリー城/イングランドの歴史/手紙あれこれ/「断片」

          

8.

●「サンディトン−ジェイン・オースティン作品集−」● ★★
 原題:"Sanditon"    監訳:都留信夫


サンディトン画像

1997年11月
鷹書房弓
プレス刊
(2500円+税)

   

1998/10/10

 

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初期の2作品+未完2作品等を収録した一冊。
初期2作品は、明らかに当時流行したゴシック小説のパロディとして書かれたもの。その事を承知していないと、ちょっと当惑してしまうかもしれません。しかし、この2作品が作者17才の頃に書かれたことを思うと、その完成度の高さには驚いてしまいます。その後のオースティンを充分に彷彿させてくれます。
未完2作品は、いずれも未完に終わったことが惜しまれます。

「ワトソン家の人々」は、この作品集の中で私が一番気に入った作品です。作者自ら執筆を中断したのですが、主人公エマ・ワトソンがとても魅力的です。若くて美人で、しかも冷静な判断力としっかりとした決断力を持っています。さらに他人に対する思いやり、優しさも充分に併せ持っている。こう書くとあまりに優等生過ぎて嫌味に思われるかもしれませんが、彼女にそんな風は少しもありません。放埓な美男子の誘いをきちんとあしらうあたり、小気味良さがあって、とても楽しくなります。私にとってエマ・ワトソン自負と偏見のリジー以上に魅力ある主人公です。それだけに未完がとても残念。

「サンディトン」は、作者の亡くなる直前まで書かれていた作品です。サンディトンとは、海辺のリゾート地として新たに開発されている架空の町。そこを訪れた主人公はシャーロット・ヘイウッド。架空の町にいろいろと個性的な人物を集めてのストーリィは、なかなか複雑でコミカルなものになるものだったように思われます。エマの推理小説風と、ディケンズの個性的人物群による戯画風を合わせたような、そんな作品に発展する筈だったのではないでしょうか。

イブリン/キャサリンあるいは東屋(未完)/ある小説の構想(構想の梗概のみ) /ワトソン家の人々(未完)/サンディトン(未完)

          

9.

●「ジェイン・オースティンの手紙 ★★
 (新井潤美編訳)


ジェイン・オースティンの手紙画像

2004年06月
岩波文庫刊

(940円+税)

   

2004/07/16

 

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ジェイン・オースティンの書簡集となれば、オースティン・ファンとしては嬉しい限りなのですが、本書は約 500頁と読みでたっぷり。
手紙の殆どは姉キャサンドラ宛てのもの。仲の良い姉妹らしく、どちらかが家を離れている間、近況を知らせる手紙のやり取りが多かったようです。
前半の二十代は、そうした手紙が主体。手紙からは、当時の上流階級の一般生活が窺え、オースティンの小説世界に一歩親しんだ気がします。

ジェイン・オースティン(以下「JA」)という女性の実像は、自負と偏見リジーが一番近いのではないかとかねてより思っていましたが、本書を読んの印象もその通り。活気があり、かなりはっきりした物言いをする女性だったらしい。
三十代の書簡では、JAの小説が出版社に持ち込まれ、四兄ヘンリーの交渉を経て出版されるまでの経緯も書かれていて、興味をそそられます。
四十代に入ると、二十代とは打って変わり、流石に落ち着いた雰囲気。自分の書いた小説が好評を得、作者がJAであることも知れ渡って、それなりの自信を得たからかと思われます。
長兄ジェイムズの長女アンナ、三兄エドワードの長女ファニーがJAに触発されて小説執筆を試みており、JAが請われて批評を加えている部分も興味深い。オースティンの執筆姿勢がちょっと窺えます。
JAは、約190年前の1817年7月18日に死去していますが、その1年前から徐々に体調を崩していった日々が、痛ましく感じられます。
JAの実像が感じられ、ファンには嬉しい一冊です。


「綺麗で軽薄な蝶々?」−二十代の手紙/小説家としてのデビュー−三十代の手紙/その晩年−四十代の手紙

  

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