“蝉しぐれ” 
(2005年日本映画)

監督:黒土三男
原作:藤沢周平
脚本:黒土三男
出演:市川染五郎(7代目)、木村佳乃、ふかわりょう、今田耕司、原田美枝子

 

藤沢周平さんの名作、もっとも人気の高い作品ともいえる「蝉しぐれ」の映画化作品です。
評判の良い作品のようですが、率直に言って、描ききれていない分を感じると同時に見応えもまた感じる、というのが感想のすべて。

藤沢さんの「蝉しぐれ」は言うまでもなく、牧文四郎を主人公とした時代小説版青春小説であり、その中には友情、隣家の娘おふくとの幼く淡い恋、そして剣の道をつかむことにより自立していくという構成になっています。
友情の部分はそれなりに描かれていますが、剣の部分が省略されていて、おふくとの恋の部分に偏っているところが残念に感じます。もっともこれはもう、判りやすく受け入れやすい作品にしなければならないということもあって、映画化における限界なのかもしれません。
文四郎とおふくとの間にある思い、そして最後の出会い。それれは決して一律に描けるものではなく、またその間にはお互い過して来た年月と歴史が横たわっている訳ですけれど、その部分が直線的に描かれてしまっているという印象を受けます。
文四郎が一人前の男として立っていく過程には、秘剣「村雨」の伝授という重要なステップがあり、それが後に生きていく訳ですけれど、それがカットされてしまっているから何となく後半の重厚感がない。それと率直に言って、あの屋敷での立ち回り、殺陣は、相当に変です。

一方、ストーリィを丹念に追っていくところは見応えがありますし、四季折々の美しい景色を交えた映像は見事なもの。
むしろ後半より、前半の方に見応えを感じたのは私だけでしょうか。前半の方がすんなり素直に観れた気がします。

2006.06.11

        
→ 原作:「蝉しぐれ

 


  

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