海坂藩を舞台にした藤沢周平の短篇小説「花のあと」の映画化。
組頭・寺井甚左衛門の一人娘=以登は、父親から幼少より剣の手ほどきを受け、男に引けを取らぬ剣の遣い手。
そんな以登が唯一引けを取ったのは、藩道場随一の遣い手として名高い江口孫四郎。これまで試合をした相手の中でただ一人、江口のみが以登を女だからといって侮ることがなかった、真摯に竹刀を交わしてくれたと、以登は江口に淡い慕情の念を抱きます。
しかし、以登は五百石組頭の家の跡継娘して既に許婚者も決まっている身、一方の江口は平侍の三男坊と、2人の道が交わることはない。2人の関係は、たった一度竹刀を合わせたことがある、というだけのこと。
その後江口は、ある男との関係で悪い噂が立っているものの百石取りの奏者番の跡継娘の婿となり、奏者番見習いとして勤めに励むようになります。
数か月後、その孫四郎がお役目で大きな失態を演じ切腹したとの知らせが届きます。
それを聞いた以登は・・・、というストーリィ。
題名にあるように、冒頭シーンでの背景となる桜の美しさも格別ですが、本作品では冬、雪の吹雪くシーンも美しい。
主人公の以登も、孫四郎も、余計なことは口に出さないその無口ぶりが特徴的ですが、それは冬の寒さに耐え抜く北国の人々の辛抱強さと、だからこそ胸の中に潜める強い想いを象徴するようで、印象に強く残ります。
桜の美しさと咲き誇る時期の短さに、以登が娘時代の最後にとった行動の底にある純粋な気持ちの美しさを掛け合わしている処、原作の魅力を原作以上に引き出したと言って良いと思います。
なにより、日々の移ろいをゆっくり、丁寧に映し出しているところが素晴らしい。文章ではなく、映像だからこそなせる技。
2010.12.25
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