青木奈緒著作のページ


1963年東京都小石川生、学習院大学文学部ドイツ文学科・同大学院修士課程卒。89年オーストリア政府奨学金を得てウィーンに留学。以後、通訳、翻訳などの仕事をしながら約8年間、主にドイツ・フライブルクに滞在。祖母:幸田文母:青木玉

1.ハリネズミの道

2.くるみ街道

3.うさぎの聞き耳

4.幸田家のきもの

  


   

1.

●「ハリネズミの道」● ★★


ハリネズミの道画像

1998年09月
講談社刊
(1700円+税)

2001年12月
講談社文庫化

   

2001/02/28

 

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本書は“長篇エッセイ”とのこと。帯に「美しい季節が巡る南ドイツの学生寮で、心ひらいて語りあった友とのふれあいとかけがえのない青春の時」とあります。
まさにその通りと言うべき、奈緒さんの、1年間に渡る南ドイツ留学の思い出の記です。

まず、気持ちの良さが光ります。そして、瑞々しさがある。
また、青春の記であることも魅力です。
考えてみると、学生・青春という言葉にドイツの地は如何にも似つかわしい。アルト・ハイデルベルク」、ヘッセ、カロッサと、次々に思い浮かびます。
本書中で、奈緒さんは京(ミヤコ)という名になっています。留学記と言っても、内容は学校のことより、学生寮で共同生活を送った友人たちのことが中心。男女ほぼ半々、合計10人で、ダイニングルーム、シャワー、トイレも共同利用という生活。
イタリア人も居れば、チュニジアからきた女子学生もいて、共同生活の顔ぶれは多彩です。お互いの個を尊重しながらも、仲間もしくは家族意識を共有し、そのうえで共同生活のマナー、良識を守っている。その雰囲気が何とも快いのです。
書き手の奈緒さん自身も、とても良い。お国柄の違いに戸惑うことはあっても、分析的に見ることなく、素直に、それでいてしっかりとその違いを受け止めています。そこに新鮮さが感じられます。
読了後、美しい南ドイツ学生寮を背景にした青春の情景が、忘れ難い思い出となって心の中に残る一冊。

ドイツ行/秋/冬/春/夏

     

2.

●「くるみ街道」● 


くるみ街道画像

2001年01月
講談社刊
(1600円+税)

2004年01月
講談社文庫化

    

2001/03/02

 

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前著が“長篇エッセイ”とあったのに対し、本書は“小説”とのこと。その違いは如何に?と思えば、それは創作部分の大小にかかるのでしょう。ではその創作部分は何処?と、?マークは続きます。

ともあれ、本書はハリネスミの道の続編。松村京(ミヤコ)が再びドイツに戻り、6年の後、翻訳業で自活している日々が描かれています。
かつての学生寮以来の友人エルケ、ズザンネも登場しますが、主として登場するのはカールハインツ。現生活の場:ドイツ+恋人カールハインツと、母国:日本+両親の間で、揺れ動き、なかなか定まらない京の心境が綴られていきます。
ストーリィとして読めば、カールハインツとの生活を当然選ぶべしと言える間柄の2人ですが、そう理屈ばかりには押し切れないものが、人にはやはりあるのでしょう。
ハリネズミには、すらすらと流れ出るような青春の迸りというものが感じられましたが、本書にそれはもう見られません。主人公達の経た年月もあるでしょうけど、エッセイと小説の違い、という気もします。

前著から本書刊行までには2年余の間があり、ストーリィにおいても6年という間がありますので、間を置いて読んでいたら、感慨はもっと大きいものだったかもしれません。
いずれにせよ、後日談という作品。「ハリネズミの道」を読まれたのでしたら、是非本書も読まれることをお薦めします。

空の上の時間/柳絮の花嫁/チュニジアの虹/夜の背中/こじれる/刻む音/折れた薔薇/うつむいた友/くるみ街道

   

3.

●「うさぎの聞き耳」● 


うさぎの聞き耳画像

2001年11月
講談社刊
(1600円+税)

2005年01月
講談社文庫化

 
2001/03/24

 
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奈緒さんの爽やかなエッセイ集。
それは、書店店頭でページをめくった時にすぐ感じられたこと。また、きちんとした文章を読むという楽しさが、本書には感じられます。
全体の3分の2を占める“うさぎの聞き耳”のエッセイは、講談社のホームページ「講談社BOOK倶楽部」に、99年06月からおよそ2年間にわたり連載されたものの由。
爽やかで伸びのあるエッセイ、そんな印象です。時々混ざるフィクション風のものにも興味を惹かれますが、やはりドイツ絡みのエッセイに楽しさを感じます。

後半の“日本もいいし、ドイツもいい”は、ハリネズミの前頃から書き始めたエッセイを収録したものの由。
少し堅さがありますが、そこに若さが感じられて気持ち良い。
奈緒さんの軌跡を辿るエッセイ集ともなっており、ドイツ便り風のものには楽しさが、祖母・幸田文さんの思い出に通ずるものには感慨があります。

(抜粋)パンドラの箱/女所帯の夕飯/ただいま普請中/夏の曲/エリクの後日談/珊瑚礁に呼ばれる/アンティーク夫妻
秋のドイツはロマンティックか/ワインのおしゃべり/紅白ほろ酔い気分/中華大福/鹿の子もよう/現実と虚構のあわい/頼みにならぬDNA

     

4.

●「幸田家のきもの」● ★★☆


幸田家のきもの画像

2011年02月
講談社刊
(1600円+税)

  

2011/03/30

  

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それ程期待した訳ではなく、幸田家絡みだから、青木奈緒さんのエッセイだからと手に取ったエッセイ本なのですが、これが予想を超えて楽しかった。
本書を読み逃さずに済んだのは、真に幸運でした。

祖母=幸田文さん、母=青木玉さん、娘=奈緒さんと、幸田家の女性三代を繋ぐ、着物にまつわる思い出エッセイ。
奈緒さん、子供の頃から着物に親しんでいたということなのですが、これにはやはり幸田文さんの存在が大きい。
着物を着る楽しみ、そして着物の着方・選び方を、文さんはそれこそ奈緒さんの気持ちをそそるように仕込んでいったらしい。まず普段着として寛ぐための着る着物があって、その後に着物をおしゃれに着こなすという段階に進んでいった様子です。
そうしたことを無理なく、自然に文さんに仕込まれていった奈緒さんは、相当な果報者であった、と感じる次第です。
洋服と着物の両方を着ることができれば「先へ行って楽しみは倍にふくらむよ」という文さんの言葉は、殺し文句ですよねぇ。男性たる私でさえそう思います。まして導き手はあの幸田文さんなのですから。

幸田文さんの小説作品にきものという名品があり、その作品を読んだ時には眼前に着物が翻っているような気がして陶然としたものです。本エッセイはその「きもの」の流れを汲んだ、着物をどう楽しく着てきたかを語った手引書という印象です。
素晴らしいなぁと思うのは、祖母の来た着物を今は母が着、母の着ていた着物を今は奈緒さんが着る、という風に、着物によって祖母・母・孫娘がしっかりと繋がれているかの観があることです。
男性の私が読んでも楽しい着物にまつわるエッセイ本。着物に興味ある方には、是非お薦めです。

なお、幸田文さんの思い切りの良さが、改めて本エッセイ集の中で知れることも、ファンにとっては嬉しいこと。
また、本書中、時々挿入されている着物等の写真も、見ていて楽しいばかりです。 
      

    


 

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