ジェレミー・マーサー著作のページ


Jeremy Mercer 1971年カナダ・オタワ生の作家・ジャーナリスト。元「オタワ・シティズン」紙記者。フランス・マルセイユ在住

 


 

●「シェイクスピア&カンパニー書店の優しい日々」● ★★
 原題:"Time was soft there
     :A Paris Sojourn at Shakespeare & Co."
     
訳:市川恵里




2010年05月
河出書房新社
(2600円+税)

2020年04月
河出文庫



2010/06
/03



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取材活動の失態から危険を感じ、カナダから身一つで逃げ出してパリにやってきた元犯罪記者が身を寄せたのは、シェイクスピア&カンパニー書店という、風変わりだけど、知る人には知られた有名な店。
本書は、その類稀な書店に身を寄せた筆者が、その日々を綴った味わい深い回想記。

“シェイクスピア&カンパニー書店”、元々はシルヴィア・ビーチという米国人が始めた書店で、パリで暮らす勝手気ままな人間たちの安息所として機能してきたとして知られた、有名な店だったという。
若き日のヘミングウェイフィッツジェラルド等も足繁く通い、ヘミングウェイの回想記移動祝祭日にもこの店のことが書かれているのだそうです。
早速同書の頁をめくってみたところ、確かにシェイクスピア書店のことを書き綴った一節がありました。
しかし、この店は、1941年ナチスのパリ占領下で閉店。
戦争終結10年後、やはり米国人のジョージ・ホイットマンがセーヌ左岸に似たような書店を開き、これが本書の舞台となる2代目となるシェイクスピア&カンパニー書店。

どういう書店かというと、店の奥へ入っていくと、階段、小部屋が幾つもあり、どの部屋も書棚でいっぱいの他、無造作に本が積み上げられているといった状態。信じ難いぐらい乱雑といった風ですが、有名小説家の直筆の書が沢山残されていたりと、貴重な書類を抱え込んでいる書店らしい。
そして、行き場所のない人間にベッドと食べ物を提供するという行為をずっと続けており、パリのセーヌ左岸にはただで泊まれる奇妙な本屋があるという噂が世界の隅々まで広まっているとのこと。

経営的にはいい加減で、滅茶苦茶と言いたい位なのですが、そんな経営ぶりにもかかわらず半世紀以上続いてきたというのですから、ただただ驚きです。
その秘訣はといえば、経営者であるジョージの人物眼と、その恐るべき倹約ぶり?
とにかく頁を繰る度、この書店での信じ難い日々が読者の前に繰り広げられていきます。
本書に興味をもたれた方は、是非この頁をお開きあれ。決して後悔することはないと信じます。
著者がこの書店で過ごした日々、私にはかつてヘミングウェイたちがパリで過ごした自由で放埓だった日々と重なって見えます。

 


  

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