山之口洋(やまのぐち・よう)作品のページ


1960年東京都生、東京大学工学部機械工学科卒。自然言語処理を研究。87年大手家電メーカーに就職、2001年退職。98年「オルガニスト」にて第10回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。2001年「われはフランソワ」は直木賞候補作。


1.
オルガニスト

2.われはフランソワ

 


1.

●「オルガニスト」● ★★    第10回日本ファンタジーノベル大賞受賞




1998年12月
新潮社刊

2001年9月
新潮文庫
(552円+税)

 

2001/09/30

ブエノスアイレスの教会に突然姿を現した、天才オルガニスト。その正体は、9年前交通事故で右半身麻痺となったまま行方をくらました、親友ヨーゼフ・エルンストなのか? 
今は音楽大学の助教授である主人公テオドール・ヴェルナーは、それを確かめるべく、謎のオルガニストを追い求めます。そして起きた惨劇。ヨーゼフのかつての恩師であり、名オルガニストであるラインベルガー老教授が、演奏中オルガンの爆発によって死すという事故が発生します。
オルガニストの正体は? そして、老オルガニスト事故死の理由は? 教会堂の中で荘厳に奏でられるオルガン、バッハの旋律を背後にして語られる音楽ミステリー。
単行本では三人称でしたけれど、文庫化にあたり一人称に変更され、大幅に改稿されたとのこと。元々、ヨーゼフのオルガンに対する熱い思い、その親友へのテオの思いを重要な要素としたストーリィですから、一人称に置き換えられたことですっきりし、緊迫感が生まれたように思います。ですから、これから読むのであれば、文庫本で読むのがお薦め。
オルガン音楽のためにすべてを捧げた青年の演奏は、神に叛くものなのか。哀切に充ちた終焉。最後のフーガには感動尽きず、いつまでも心の中に鳴り響くようです。
また、その幕切れは、ヨーゼフ、テオ、その妻マリーア3人にとっての、青春期との訣別という響きをもっています。

   

2.

●「われはフランソワ」● ★★




2001年2月
新潮社刊
(1800円+税)

 

2001/09/10

「フランス文学史上最高の叙情詩人」と称えられる一方、「大泥棒にして人殺し?」という、フランソワ・ヴィヨンの生涯を描いた歴史小説。

ヴィヨンが生まれたのはジャンヌ・ダルクが処刑された1431年ということですから、時代は英仏百年戦争の終わり頃。
前半はヴィヨンの生まれ育ちを説明するような展開のため、散漫としていて、あてが外れた思いがしました。ところが、後半に至ると俄然面白くなります。その理由は、ヴィヨンが詩人としての本領を発揮し始めたことにあります。
ヴィヨンの詩人としての最高の見せ場は、オルレアン公シャルルの元に滞在した折の詩会の場面でしょう。また、シャルルとヴィヨンのやり取りに、ヴィヨンの本質が語られます。
「おかしなやつだな、おまえは。こんな悲惨なことを、なぜ面白おかしく詠う」
というシャルルの問いに対して、「悲しみを悲しく詠った詩を、聞く者はどうして愉しめましょう」とヴィヨンは答えます。そのとおり、ヴィヨンの詠う詩には、人生を謳歌する響き、枠に縛られない奔放な楽しさがあります。

活力に充ちたヴィヨンの詩人ぶりに比較して、泥棒としてのヴィヨンはあさましいばかり。悪党組織に取り込まれ、やむを得ず悪行に手を染めざるをえなかった成り行きと、本書はややヴィヨンを弁護するような描き方になっています。
型破りで才気煥発な人物というと、ロスタン「シラノ・ド・ベルジュラックが思い浮かびます。この2人、如何にもフランス的な傑物と言えるでしょう。詩人としてのヴィヨンは、シラノに勝るとも劣らない、魅力的な人物です。
本作品は、フランソワ・ヴィヨンその人を描いたストーリィであり、歴史小説というよりはピカレスク・ロマンと言うべき小説です。
 ※岩波文庫にて「ヴィヨン全詩集」が出版されています。

→ 藤本ひとみ歴史館へ

 


  

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