薄井ゆうじ作品のページ


1949年茨城県生。イラストレーター、広告プロダクション経営を経て作家。88年「残像少年」にて第51回小説現代新人賞、94年「樹の上の草魚」にて第15回吉川英治文学新人賞を受賞。

 


  

●「湖 底」● ★★




2001年7月
双葉社刊
(1900円+税)

 

2001/11/23

本作品をどう語れば良いのか、何とも不思議な物語なのです。
ダムの湖底に沈んだ過疎の村。そこにかつてあった学校には、6人の生徒が通っていました。日照りが続いたことから、湖面に学校の屋根が現れ、6人の内ただ一人地元に残った成島は、残る5人に同窓会をやろうと呼びかけます。かつての5人も、今やニュースキャスター、映画等での殺され役、イラストレーター等、各々異なった人生を送っています。しかし、彼らが現在の生活に満足しているかというと、各々充たされない思いを抱えつつ、仕方なく今を生きているという雰囲気があります。そんな彼らが、呼びかけに応えて、かつて通った湖底の学校跡に集まります。

そんなストーリィは、重松清「カカシの夏休みと確かに似ています。しかし、彼らの眼前に次々と起きる不思議な出来事、水が空中に浮かび球体となり、彼らに水を浴びせ掛けるという出来事は、このストーリィが単なる追憶には終わらないものであることを明確に示しています。その辺りは「カカシの夏休み」と全く異なるところ。
私としては、水が彼らに不気味な行動を起こすことから、むしろ恩田陸「月の裏側を連想しました。ファンタジーホラーと言うべきか。しかし、読み進むと、そうとも言い切れないのです。摩訶不思議なストーリィ、それでいて気持ちの良い小説、本書はそんな作品なのです。
干し上がった湖底の学校跡で、彼らの前に姿を現したものは何だったのでしょう? 水の化け物なのか、それとも忘れ去られたものの怨念なのか。それでいて、彼らに語りかける声の様子は、時により彼らへの励ましとも受け取れるのです。
そして最後に彼らが放り込まれた場所を、どう語れば良いのでしょう。言葉どおり地獄と言うべきでしょうか、それとも新生の世界と言うべきなのでしょうか。
こうした不思議な物語を読むのも、心が洗われるような気がして、時には良いものです。

 


  

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