戸梶圭太作品のページ


1968年東京都生、学習院大学文学部心理学科卒。自称ミュージシャンを経て、98年「闇の楽園」にて第3回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、作家活動入り。


1.溺れる魚

2.なぎら☆ツイスター

3.未確認家族

4.ご近所探偵TOMOE

 


      

1.

●「溺れる魚」● ★★




1999年11月
新潮社刊


2001年01月
新潮文庫刊
(590円+税)

 

2001/02/09

自宅謹慎中の落ちこぼれ刑事2人が酌量を交換条件に命じられたのは、なんと公安刑事の内偵。その公安刑事は、奇妙な脅迫を受けた大手企業から内密に頼まれ、小遣稼ぎをしている最中。その為、特別監査官室に目をつけられたもの。なお、その脅迫は、幹部社員に珍奇な恰好で繁華街を歩かせるという、当人にとっては屈辱的なもの。一体、犯人グループ“溺れる魚”の目的は何なのか?
そんなストーリィというと、ちょっと変わったサスペンス小説としか思いませんが、この小説の真骨頂は、最終・第7章にあります。
犯人側と上記刑事・特別監査官室に、背徳刑事、企業側が雇ったヤクザ、革滅派の活動家まで入り乱れ、乱闘、追跡、さらにまた撃ち合いと、まるでアメリカ映画の追跡アクションも顔負け、というドタバタ騒ぎが展開します。サスペンスと言ったら良いのか、それともコメディと言ったら良いのか、途方に暮れてしまうという具合。
死傷者がゴロゴロ出る程凄絶な場面が続くのですが、どこか可笑しみがあります。そこが本書の魅力! その理由は、個性豊な登場人物たちの、事に直面しての慌てぶり、平静ぶりにある、と言って良いでしょう。
壮絶アクションを単純に楽しもう、という一冊です。本年2月東映系で上映とのことですが、極めて映像化向きのストーリィ。

   

2.

●「なぎら☆ツイスター」● ★☆




2001年06月
角川書店刊

(1600円+税)

2012年02月
文春文庫化

 

2001/09/24

田舎町である群馬県那木良町。そこに東京からインテリやくざ2人(桜井・滋野)がやってきます。地上げ手付金の1千万円をもってこの町へ来た弟分2人が、現金と共に消え失せた為。2人を迎え入れるのは、地元やくざの室田組
と言うとヤクザ小説と思われかねませんが、戸梶さん得意のエスカレート小説に、今回田舎町の戯画化とハードボイルド風味を付け加えた作品、と紹介するのが適当でしょう。
ヤクザが滑稽に描かれる点では、小林信彦「唐獅子株式会社を思い出しますが、戯画化されているのはやくざではなく、那木良という田舎町の様子、田舎ヤクザ、田舎暴走族、田舎の若者たち。さらに、リストラされた中高年3人組も。この辺り、桜井と滋野は、都会人の観察者として、対照的に描かれています。
主ストーリィは、失踪した2人+現金の追跡。戸梶さんらしく、追跡劇は次第にエスカレートして、大混乱が引き起こされます。ただし、前作溺れる魚恩田陸「ドミノと異なるのは、それで一気に最終結末まで突っ走るのではなく、その後に次の展開があること。ストーリィが2段階になったのは、失踪の謎解きという要素がある故でしょう。
それにしても、戸梶さんの追跡・混乱劇は面白い。人が次々とはね飛ばされ、車の下敷きとなる。その凄絶さを笑ってしまってはいけないのですが、それをしてしまう側のパニックぶりは滑稽の極みです。
相手を人間と思わぬような振る舞いが随所にあり、そこが本作品の面白さなのですが、それにヤクザは格好の主人公です。
理屈無用。面白さに引きずり込まれ、一気に読み上げてしまう痛快・娯楽作品です。

   

3.

●「未確認家族」●




2001年10月
新潮社刊

(1500円+税)

2005年1月
新潮文庫化

 
2001/12/06

まさにハチャメチャ、と言う他ないストーリィ。
冒頭暫く読んだだけで嫌になり、放り出したくなったのですが、結局最後まで読了。でも、こんなストーリィ、私の好みではありません。

小説自体が不出来とか、そういうことではありません。それ以前に、人間としてどこか壊れているとしか思えない登場人物たち、その彼らの、幼い自分の子供に対する暴力的な振る舞いに、堪らない気持ちになるのです。
さてその登場人物はというと、通勤電車内で常習的な痴漢行為にふける夫、子供を放ったからしにしてエアロビクス、不倫に励むその妻、その妻を怨んで復讐しようとする刑務所から出所したばかりの男、復讐を煽り立てるその父親と、男の保護観察官。さらに、SFゲームの妄想に取り付かれたような異常な女。
そんな調子でストーリィが展開されるうえ、戸梶風の混乱+ジェットコースター的要素が加味されるのですから、そのハチャメチャぶりが想像つこうというものです。

自分のことばかり考えて、他の家族のことを一切考えない人間たち、“家族”といっても名前だけで全く心の繋がりを持たない人間たち。そんな家族の姿を、誇張した形で描いた作品と言うべきなのでしょう。
※戸梶作品を始めて読もうという方は、本作品を避けて、まず溺れる魚辺りから読む方が良いと思います

       

4.

●「ご近所探偵TOMOE」●



2001年12月
幻冬舎文庫刊

(495円+税)

2001/12/24

売れてない女優でセクシーかつ脳天気な妻・ともえと、売れないイラストレーターで気弱な夫・勝雄のコンビによる、ご近所ミステリ。
舞台は2人が住む近所のスーパーマーケット。
そこでなんと麻薬取引が展開され、それにまんまと2人が巻き込まれます。
ド派手なアクションストーリィが売り物の著者にしては、軽いギャグ風ミステリ。
戸梶らしさが不足しているところは、ともえと勝雄が何度も繰り返すHなエピソード、片目の愛犬・スネイクのキャラクターが補っています。
が、それにしてもミステリとしては物足りず。
軽いギャグのノリで一気に読み通してオワリ、という作品です。
まあ、気分転換には良いかもしれません。

 


  

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