富樫倫太郎作品のページ


1961年北海道生。「修羅の蛩」にて第4回歴史群像大賞を受賞。

 
1.
堂島物語
(文庫改題:堂島物語1.2.)

2.いのちの米(文庫改題:堂島物語3.4.)

3.堂島出世物語(文庫改題:堂島物語5.6.)

  


    

1.

●「堂島物語」● ★★☆


堂島物語画像

2008年01月
毎日新聞社刊
(2000円+税)

2011年08月
中公文庫化
(1.曙光篇)
(2.青雲篇)

   

2008/02/12

 

amazon.co.jp

大阪は堂島の米市場を背景に、16歳になって米問屋に奉公することになった貧農の倅・吉左が努力と才覚をもって夢を叶えていくというストーリィ。
ビルドゥングス・ロマン+時代もの本格経済小説、という趣向です。

継母から追い出されるような形で大阪に奉公に出た吉左は、刻々と変わる米市場の世界に自らの生きていく道を見出す。
奉公した店の商いは必ずしも芳しくなく、年下ながら先輩の丁稚2人は底意地が悪い。
しかし、その一方で親友となった先輩丁稚の藤吉から知識を得、また吉左の才覚を買う隠居の月照の教えを守り、吉左は徐々に頭角を現していく。
夢を抱き、それに向かって一歩一歩努力を重ね、一つずつ目標を果たしていくというストーリィですから、ちと順調に過ぎるという気はするものの、その小気味良さは魅力。
読み始めたら止まらず、どっぷりハマッて一気に読み終わりました。
吉左の夢は、米仲買人として堂島に自分の店をもつというだけに留まりません。一目惚れした両替商のこいさん(末娘)=加保への恋がそれに加わります。

上方を舞台にした時代物ビルドゥングス・ロマンという点で澤田ふじ子「幾世の橋を思い出しますが、時代物経済小説という点では大島昌宏「そろばん武士道を思い出します。
剣術、人情という面だけでなく経済分野へストーリィの軸が広がっているところに最近の時代小説の特徴があると思います。
さしづめ上記「そろばん武士道」あたりがその皮切りとなった作品と思いますが、佐伯泰英「居眠り磐音江戸双紙」シリーズにもその傾向は窺えます。
元々時代小説とは、歴史を描く一方で、現代社会の事象を自由に描くための舞台という面がありますから。
本書に描かれる米相場等々も、現代に置き換えれば、ディーリング、先物取引、株式運用委託といった現代の金融取引と何ら変わるものではありません。
夢、恋、成功、そして経済的面白さ。たっぷり堪能できます。

1.堂島へ/2.米相場/3.駆け落ち/4.能登屋吉左衛門

   

2.

●「いのちの米 堂島物語」● ★★


いのちの米画像

2008年06月
毎日新聞社刊
(2000円+税)

2011年10月
中公文庫化
(3.立志篇)
(4.背水篇)

 

2008/07/20

 

amazon.co.jp

時代もの経済小説の力作堂島物語の続編。
能登屋の主・吉左衛門となり、米仲買人として一本立ちした吉左のその後を描いた物語です。

本書で吉左衛門が直面するのは、享保の大飢饉
豊作と皆が予想して値動きが少ない相場の中、吉左衛門は大豊作か大凶作かのいずれかと思い悩む。
それまで順調に歩んできた吉左衛門が初めて難しい局面に立たされたとき、吉左衛門はどう行動したのか。そしてその結果を手にした後、吉左衛門はそれをどう活かしたのか。
吉左衛門の商人としての力量、人間としての大きさを問うたストーリィと言えます。

成功を求めて懸命に働いてきた人間がその成功を手に入れた時、人はどう行動するのか。
人は何の為に金を儲けようとし、儲けた後それをどうしようとするのか。それはそのまま現代にも通じるテーマでしょう。
本作品の難点は、この奇麗事に過ぎるところかもしれません。でも、奇麗事を追わずしてどこに夢があるのでしょうか。
「いのちの米」という本書題名、最初は大袈裟過ぎて違和感を覚えたのですが、読み終わってみると決してそんなことはなく、そのまま本書の核心を表していることが判ります。
そしてそれが吉左衛門の辿りついた真実であることも。

なお、本書を以ってこの「堂島物語」完結とも思えるのですが、それにしては寒河屋宗右衛門等、本書だけでは納まりきれない重要な人物が幾人か登場しています。とすると、この物語、まだまだ続くのでしょうか。

1.赤米/2.蝗/3.いのちの米

  

3.

●「堂島出世物語」● ★★


堂島出世物語画像

2009年07月
毎日新聞社刊
(2100円+税)

2012年03月
中公文庫化
(5.漆黒篇)
(6.出世篇)

 

2009/08/22

 

amazon.co.jp

堂島物語」「いのちの米に連なる、堂島の米相場を舞台にしたビルディングス・ロマン。

主人公となるのは、「堂島物語」で不始末を仕出かし山代屋を出奔した丁稚頭の百助と下女のお新の息子、万吉
先に希望のない米の行商人をして世過ぎしていく他ない境遇に飲んだくれる百助、そのために苦労するお新と万吉の母子。
やがて万吉は青物売りをして一家の生計を支えつつ、父の無念を晴らすべく、いつか米仲買人となって成功しようと志す。
偶然、山代屋で父親と同じ丁稚だったという川越屋藤兵衛と出会った万吉は、勧められて川越屋に丁稚奉公に入りますが、14歳という丁稚奉公するには遅い年齢と、既に独学で米相場の動きを学んだ万吉にとっては、別の苦難が・・・。

大阪は堂島の米相場を舞台にした少年成長物語+経済小説という趣向は「堂島物語」と共通するもの。
そのため、「堂島物語」とつい比較してしまうのはやむを得ないところですが、「堂島物語」に比べるとロマン性という面で見劣りすると言わざるを得ません。
万吉の目標が、仲買人になるという極めて現実的なことに縛られている面が一つ。それと、米相場の仕組みを描くという点で詳しくなっている反面と思いますが、万吉の成功を本書1冊の中で描き切ろうとして急いでいる、という印象を受けるためです。

「堂島物語」に続くストーリィだけに、川越屋藤兵衛の他、米会所の年行司の一人である不動庵こと柴本六右衛門、山代屋のお家さまことお滝稲葉屋房之助、能登屋吉左衛門、寒河江屋宗右衛門というお馴染みの人物も登場。
「堂島物語」ファンの方にとっては本書も楽しみ多いと思いますが、初めて読む方にはまず「堂島物語」を先に読まれることをお勧めします。

      


  

to Top Page     to 国内作家 Index