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1.思い出のとき修理します 2.思い出のとき修理します2−明日を動かす歯車− 3.拝啓 彼方からあなたへ 4.がらくた屋と月の夜話 5.木もれ日を縫う 6.額を紡ぐひと(文庫改題:額装師の祈り−奥野夏樹のデザインノート−) 7.まよなかの青空 8.めぐり逢いサンドイッチ 9.語らいサンドイッチ 10.神さまのいうとおり |
あかずの扉の鍵貸します、ふれあいサンドイッチ、小公女たちのしあわせレシピ |
「思い出のとき修理します」 ★★ | |
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恋に破れ、美容師の仕事に自信を失くした仁科明里28歳が引っ越してきた先は、20年前の夏休みに祖父母の元で1ヶ月だけ過ごした津雲神社通り商店街。 祖父母が営んでいた理容店を明里が訪れたのはそのたった一度だけだったが、明里にとっては今も忘れられない、幸せな時間だった。空き家となっていたその店を明里は住居として賃借したという次第。 引越して早々に明里が知り合ったのは、斜め向かいにある時計屋の飯田秀司、津雲神社の禰宜の親戚だというグータラ大学生の太一という2人。 その2人から明里は、自分が既に“ヘアーサロン由井”の孫娘として商店街の人々に受け入れられていることを知るのですが、実はそこには複雑な事情があり・・・。 明里には明里の、そしてスイスで独立時計師としての就業をしていた秀司が帰国して祖父の時計店を継いだのにも秀司なりの事情があるようなのですが、たまたま同い年の2人がこの寂れた商店街で新たな幸せを見つけることができるのか・・・というストーリィ。 表題は、飯田時計店のショーウィンドウにある掲示文句が子供の悪戯で壊され、「時計」の「計」が取れてしまったことから。 でも様々に事情を抱える人たちの“思い出”を修理する、というのがこの連作小説のテーマになっています。 なんとなく大沼紀子“真夜中のパン屋さん”シリーズを思い起こさせられるところがあります。同シリーズが真夜中がコンセプトになっている所為でやや陰のあるストーリィになっているのに対し、本シリーズは昼のイメージ、そして平明で安らかな雰囲気に満ちています。思い出を手繰るストーリィにはそれが如何にも相応しい。 本シリーズで何より素晴らしいのは、思い出が修復されることによって、当事者たちが未来へ進むきっかけを手に入れる、という処。 本書で一番感動を覚えるのは最後の「虹色の忘れ物」。そこに至るまでの一段一段、階段を登るような展開も実に好い。 ※加納朋子作品にも共通することですが、物語の中に篭められた優しさは、読み手の心をとても安らかにしてくれます。 黒い猫のパパ/茜色のワンピース/季節はずれの日傘/光をなくした時計師/虹色の忘れ物 |
2. | |
「思い出のとき修理します2−明日を動かす歯車−」 ★☆ | |
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人気シリーズの第2巻。 第1作目は、主人公とその思い出ある商店街の店への興味、そしてストーリィ自体への興味があったことから面白く読んだのですが、2作目となると早やマンネリ化した向きがあることは否めません。 その分、主人公の明里と秀司という現在進行形の恋愛関係が少しずつ、一歩一歩成長していく様子が微笑ましく感じられるのと、もう一人の主要登場人物=太一の存在が意外にミステリアスであると仄めかされている点が、新たな興味処として浮上してきたように思います。 シリーズ第3巻は図書館への予約が殺到している様子なので、いつ読むかは未定ですが、マンネリ化を吹き飛ばす新たな展開が用意されているのでは、と期待する次第です。 「きみのために鐘は鳴る」:明里の異父妹=香奈が訪ねてくる。2組の異父姉妹・異母姉妹の関係を語る篇。 ※主人公の明里に直接関わる物語だけに、本巻では一番興味を引かれ、かつ気になった篇です。 「赤いベリーの約束」:果物店の若夫婦を含む、幼馴染3人の複雑に絡み合った関係を描く篇。 「夢の化石」:明里が偶然再会した中学校時代の先輩の過去に関わる出来事を解決する篇。 「未来を開く鍵」:森村老夫妻の関係を解きほぐす篇。 きみのために鐘は鳴る/赤いベリーの約束/夢の化石/未来を開く鍵 |
「拝啓 彼方からあなたへ」 ★★ | |
2018年12月
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谷瑞恵さん、初の単行本作品とのこと。 電子メールや携帯メール、さらにはフェイスブックやラインが当たり前になった現在において何を今さらと思われるかもしれませんが、差出人の気持ちが籠るという点では手紙に到底及ぶものではない、と思います(手紙など出したことがないのに何ですが)。 本ストーリィには「思い出のとき修理します」と共通するところがあります。 |
「がらくた屋と月の夜話」 ★★ |
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2017年11月
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人に騙されやすい性格の山本つき子、夜道に迷った際、ガラクタ屋だという老人のトランクを蹴っ飛ばして品物の一部を壊してしまったことから、一日だけ老人を手伝うことになります。 元々は骨董屋だったというその老人、夜の公園でトランクを広げ、ガラクタとしか思えない古道具を売るのが今の商売。その河嶋老人曰く、ただ道具を売るのではない、道具が語る物語を一緒に売っているのだと。 その河嶋老人の家で大切なものを失くしてしまったため、つき子はそれ以来ガラクタいっぱいのその古い家へ度々通うことになります。それと共につき子は、友人である米村成美を初めとし、心に何らかの傷を抱えながら古道具を求めた人たちの物語、そして買い求められた古道具たちが語る物語を聞くことになるという、連作風長編ストーリィ。 記憶を辿るストーリィという点で、「思い出のとき修理します」と相似形の作品と言って良いでしょう。 各章毎のドラマも十分読まされますが、道具たちが語る思い出深い物語を聞くことが実に楽しい。あたかも現代版「千夜一夜物語」といった趣きがあります。 その道具たちが語る物語に共通するのは、道具としての役割を果たしてその役割を終えた観ある道具たちが、もう一度新たな可能性を求めて旅立とうとする処。 それはちょうど、慎重になり過ぎて前に足を踏み出せないでいるつき子、そして河嶋老人の息子と名乗り、河嶋老人との父子関係に何か確執を抱えているらしい弓原大地の背を叩き、前に向かって踏み出すよう示唆しているようです。 道具が語る幾つもの物語という趣向の面白さと、それを語り連ねることによってつき子と大地の成長物語を紡ぎ出していくというストーリィ構成が楽しい。 ※最初に登場するトマス・クックの時刻表、私も20代の頃にヨーロッパを一人旅行した時に利用して愛着があるもので、今でも大事な記念品としてとってあります。 1.タイムテーブル/2.白い糸のジュエリー/3.特等席の彼女/4.未来からのドッグタグ/5.夜のトワエモワ/6.角ウサギの夢 |
「木もれ日を縫う」 ★★☆ |
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2019年04月
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1年半前に姿を消し行方不明になっていた母親=文子(64歳)が、東京で会社勤めする末っ子=小峰紬(25歳)の前に突然姿を現します。 否応なく自分のワンルームマンションに迎え入れとりあえず同居を始めた紬ですが、どこか母親と違うところを感じ、彼女は本当に自分の母親なのだろうかと疑いを持ちます。 母親、自分はもう“山姥”になったからと言いますが、それは本当なのか。 まるでサイコ・サスペンスのような出だしです。 しかし、それから後の展開がサスペンスものとは異なります。 疑念を持ってしまった不安から紬は、ずっと縁遠くなっていた次姉の麻弥(36歳)、そして長姉の絹代(40歳)と連絡を取るようになります。 そして三姉妹は、自分たちの母親はいったいどんな女性だったのかと考え始めます。 三姉妹の母、貧乏暮しの所為だったのか使い古しの布を集めては不細工なパッチワークを縫い上げるのが常。その母親の貧乏臭さが嫌だったからこそ、三姉妹それぞれは実家から逃げるようにして東京へ出て、自分の幸せを掴むことにこだわっていた、という次第。 バラバラだった姉妹が初めてというように繋がり、そしてずっと目を背けていた母親の真実の姿を見い出していこうとする。 その結果として、3人が見出したものは・・・・。 小峰文子と名乗って姿を現した女性の真偽は?と、ミステリ要素はずっと本ストーリィにつきまとっていますが、サイコ・サスペンスのようだった冒頭とその終盤では同じ一つのストーリィとは思えないくらいに様変わり。 最後は、家族が一つに繋がった温かさが読み手の心をひたひたと満たしていくようです。 本ストーリィに結末はありません。でも、それぞれが幸せへの扉を見つけたらしい姿に、幸あれと祈りたい気持ちになります。 お薦め! 1.母の登場/2.男嫌い/3.襤褸をつなぐ/4.飯食わぬ女房/5.母とにせもの/6.けっして覗いてはいけません/7.山姥と三姉妹 |
「額を紡ぐひと」 ★★ (文庫改題:額装師の祈り−奥野夏樹のデザインノート−) |
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2020年12月
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ある思いを抱え、神奈川から西日本の土地にやってきて自分の額縁店を開いた若い女性額装師=奥野夏樹を主人公にした連作ストーリィ。 本作は、夏樹にオーダーメイドの額装を依頼してきた顧客の思いに関わる連作短編であると同時に、夏樹が抱えた思いを辿っていく長編ストーリィ、という二重構造。 本書を手に取ってまず思うのは、「紡ぐ」という言葉が「額」に相応しいのだろうか、ということ。しかしそれは、本書を読み進んでいくと自然に納得できるようになります。 夏樹にオーダーメイドの額装を依頼してくる顧客たちには、それぞれ抱えている深い思いがあります。したがって額装を設計するうえで夏樹は、当然の如くにして彼らの事情、気持ちに踏み入っていくことになります。その点、本ストーリィはミステリのようです。 しかし、決して秘密を暴こうとするのではありません。必要な限りにおいてという一線を画している。夏樹のその抑制された雰囲気に、とても惹きつけられます。 だからなのでしょうか、地元の大手表具額縁店「くおん堂」の次男坊である久遠純は、夏樹の作る額装をまるで“祭壇”のようだと表現します。 思いを額の中に閉じ込めるのではなく、そこで止めて終わりにするための額装。飾ることによってそれは別のものへと変化し、自分も新たな道へ足を踏み出すことができる、という設定。 本作もまた「思い出のとき修理します」に連なる作品。 顧客の思いを紡ぐ(短編)と同時に、夏樹自身や純、もう一人の重要人物であるカレー店の店主=池畠の思いを解きほぐす(長編)物語となっています。 夏樹というストイックな女性と、一見能天気と思えますが実は過去の事故の後遺症に今も苦しむ純との取り合わせが、上手い。 それによって2人の人物像が生きているように感じます。 私好みの、格調高く、素敵なストーリィ。お薦めです。 1.宿り木/2.小鳥鳴く/3.毛糸の繭/4.水底の風景/5.流星を銀器に入れて |
「まよなかの青空」 ★★ | |
2022年05月
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人生に諦めを感じていた、同世代の男女数人が主人公。 彼らが共通して思い出すのは、修学旅行専用の2階建て特別列車“あおぞら号”、そしてあおぞら号で“ソラさん”に会うと願いが叶うという伝説。 ソラさんは実在したのか、誰だったのか。それが分かれば自分の人生を立て直せるかもしれない・・・彼らは願いを込めてソラさんを探し始めます。 ・竹宮ひかる:母親の過干渉に中高生の頃から今も苦しめられている女性。離婚後音信不通だった父親が死去したという知らせと共に、父親が遺したという電話番号のメモがひかるの元に届けられます。 ・島尾日菜子:虐待を疑われ、離縁され親権も奪われた女性。ひかるとは高校時代の同級生。二人の再会から本ストーリィは始まります。 ・森沢達郎:あるトラブルで銀行を退職後、ブラック会社勤務に甘んじている男性。かつてひかるとは、大切な仲間同士だった。 ・石上哲也:達郎がかつて殴ってしまった塾仲間の「テツヤ」か? 彼がソラさんの手掛かりか? ・古間康子:哲也の消息を知る、手掛かりとなる女性か? 上記の登場人物は、いずれも身勝手な親、近い相手によって深く傷つけられ、今もその傷を背負ったまま生きている。 ソラさんの正体を確かめようとするひかると達郎の行動によるストーリィ展開は、あたかも警察ミステリのようです。 ひとつずつ段階を越えながらテツヤの後を追っていくことによって、思いがけない事実、思いがけない相互関係が明らかになっていきます。 謎解きサスペンスを踏まえて、主人公たちの再生を描き出していく長編ストーリィ。 頁を繰る手が止められない面白さがあるのは、当然のことでしょう。 そして何より、登場人物ひとりひとりが、これからに向けた希望を手にするところが嬉しい。 サスペンス風の読み応えある再生ストーリィ、お薦めです。 ※「あおぞら号」とは、近畿鉄道が昭和37年から運行した、修学旅行専用の2階建てビスタカーだそうです。 私は東京でしたから、中学時の京都・奈良への修学旅行は、やはり国鉄の専用列車「ひので号」(昭和34年から)でした。でも、3学年下の妹の時はもう新幹線利用でしたね。 1.からくり箱の謎/2.思いがけない再会/3.あした天気になあれ/4.開かない願い箱/5.やりきれない夜は深く/6.あおぞらをさがしに/7.ソラさんに会える日 |
「めぐり逢いサンドイッチ」 ★☆ | |
2022年01月
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姉妹で営むサンドイッチ店<ピクニック・バスケット>を主な舞台とした、軽快で温かなストーリィ。 清水笹子が、大通りから奥に入った、公園に向かい合うこの店を開いたのは3年前。 東京で勤めていた会社が倒産し、笹子から誘われた妹の清水蕗子が大阪にやってきてこの店を手伝うようになったのは半年前。 そしてこの店の常連顔はというと、人気店「かわばたパン」を経営するイケメンのパン職人=川端勇と、正体不明の常連客=小野寺清心、笹子の飼い猫=コゲ。 パンにはさんでサンドイッチにすると、それは全く別の食べ物になる。ちょっと装った感じの食べ物になる、というのが店長である笹子の言葉。 その言葉を体現するように、登場人物が様々にこだわり、屈託を抱えてきた食べ物が、サンドイッチという形をとることによって各人の気持ちを広げ、一歩先へと踏み出させていく。そんな温かな連作ストーリィ。 タマゴサンド(かつて中学で同級生だった女性2人)、ハムキャベツの炒め物(青果店の娘で高校生の成田真理奈)、チキン(大家の徹子さんとコゲ)、コロッケ(小野寺清心)、カレー(笹子と蕗子)。 優しく心温まるストーリィですが、軽い感じの連作風長編。 でもこの居心地の良さ、気持ち好さ、私は好きです。 1.タマゴサンドが大きらい/2.ハムキャベツの隠し味/3.待ち人来たりて/4.はんぶんこ/5.おそろいの黄色いリボン |
「語らいサンドイッチ」 ★☆ | |
2023年02月
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姉妹で営むサンドイッチ店<ピクニック・バスケット>を主な舞台とした、軽快で温かな連作ストーリィ、第2弾。 雰囲気、ストーリィ展開等々、「めぐり逢いサンドイッチ」と変わるところはありません。 サンドイッチはいろいろな食材を挟んで、食材そのものとは違う食べものに仕立て上げてくれます。それは人と人とが関わり合うことによって何かが生まれる、という展開とよく似ています。 本作は、サンドイッチを作るのと同じように、登場人物たちを優しく、包み込むようにして一人一人のドラマを綴っていくところが魅力です。 キューカンバーサンド(キュウリ好きな男女高校生2人)、フィッシュソーセージサンド(ピンクが好きな女の子とその母親、さらに祖母)、クラブハウスサンド(昔あった喫茶店を偲ぶ)、謎のジャムサンド(祖父の思い出の味を探す孫娘)、後輩の結婚披露宴のためにサンドイッチケーキ。 このシリーズの優しさ、居心地の良さ、私は好きです。 なお、本巻では、姉・笹子の別れた恋人=津田尚志がフランスのレストラン修業から帰国し、自分の店を開くための準備中。 笹子と津田の関係は? そしてピクニック・バスケットの店はどうなる? 蕗子がいろいろと思い悩みます。 1.青い花火/2.オーロラ姫のごちそう/3.黄昏ワルツ/4.明日の果実/5.祝福のサンドイッチケーキ |
「神さまのいうとおり」 ★★ | |
2023年05月
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父親の路也、パワハラのためかIT企業を退職し農業をやりたいと言い出したことから、一家は畑のある、母親の祖母(友梨の曾祖母)の家に引っ越します。 母親が県庁職員であるおかげで、現在の父親は無職で主夫、そして農業見習い中という状況ですが、そうした父親のことに陰口を叩かれそうと、友梨は友人に話せないでいる・・・。 縁側のある昔ながらの家で、曾祖母と同居することになった吉住一家を中心とする、心救われる連作ストーリィ。 題名の意味が気になるところですが、これは曾祖母が折に触れて口にする言葉についてのことでしょう。 というのは曾祖母、昔から伝わる言い伝えやおまじない、といった言葉を度々口にします。それを聞いた皆々、不思議に思うのですが決して古臭いとは思いません。曾祖母が大事にしてきた言葉だからでしょうか。でもその言葉のおかげで、当事者の気持ちが楽になる、救われることになるのですから、古の知恵は大事にしたいものです。 ※引っ越しによって友梨が、一時的に曾祖母の元に預けられた時の友だちとの交遊が復活する部分、楽しいです。 ・「橋の下の幼なじみ」:高校生の友梨。昔、一緒に遊んでいていなくなった子がいたことを思い出します。その子は・・・。 ・「縁側の縁」:母親の遼子。縁側から出ていくと、戻ってくる道が分からなくなる? ・「猫を配る」:中学生の拓也。猫を連れてきてくれるのはお稲荷さん(狐)? ・「絡まりほどける」:友梨。友梨の気持ちをかき乱しているのは小鬼に仕業? ・「虫の居所」:遼子の従妹である奈菜。よく泣く赤ん坊の紗和から疳の虫を追い出せば、問題は解決する? ・「背を守る糸」:友梨。服の背中に縫い込んだ糸は、瑛人を危険から守ってくれる? 1.橋の下の幼なじみ/2.縁側の縁/3.猫を配る/4.絡まりほどける/5.虫の居所/6.背を守る糸 |