大沼紀子作品のページ


1975年岐阜県生。脚本家として活躍する傍ら、2005年「ゆくとしくるとし」にて第9回坊っちゃん文学賞大賞を受賞し作家デビュー。


1.
真夜中のパン屋さん−午前0時のレシピ−


2.てのひらの父

3.真夜中のパン屋さん−午前1時の恋泥棒−

4.真夜中のパン屋さん−午前2時の転校生−

5.真夜中のパン屋さん−午前3時の眠り姫−

6.真夜中のパン屋さん−午前4時の共犯者−

7.真夜中のパン屋さん−午前5時の朝告鳥−

 


           

1.

「真夜中のパン屋さん−午前0時のレシピ−」● ★☆


真夜中のパン屋さん画像

2011年06月
ポプラ文庫刊
(620円+税)

  

2012/02/26

  

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都会の片隅、駅から少し離れた住宅街の中にある一軒のパン屋“ブランジェリークレバヤシ”
オープンしてまだ半月。従業員は穏やかな笑顔を絶やさないオーナー兼見習いの
暮林陽介と、辛辣な口ぶりのパン職人=柳弘基の2人だけ。この店が変わっているのは、営業時間が午後23時から午前29時までということ。
そこに突然ここを頼って現れたのが、女子高生の
篠崎希実
希実が加わって働き手が3人となったこの店にやってくるのは、幸せになれる条件をどこかに置き忘れてしまったような人たちばかり。
美味しいパンは人を幸せにする、そんなコンセプトからなる真夜中のパン屋とその従業員3人を中心とした連作ストーリィ。

真夜中のパン屋に美味しいパン、性格も立場も異なる3人に加えて風変わりな客たち、というシチュエーションがまず楽しい。
そして登場人物のキャラクターも各々風変わりで魅力的。母親に置き捨てられた希実、母親からまともな世話を受けていない幼い男の子=
こだま、のぞき魔の斑目、おかまのソフィア等々と。
まずは希実を描く冒頭の篇。これですっかり本書と登場人物たちの虜になってしまいます。そしてその後の章は、大なり小なり、こだまが中心となるストーリィ。
皆個性的な登場人物ばかりですが、その中でも異色なのが、脇役ではあるもののストーカーかつのぞき魔を自認する斑目ではないかと思います。

“まよパン”シリーズ第1作である本書、粗削りな面はありますが、個性的なシリーズとして今後の巻が楽しみです。

Open/Fraisage−材料を混ぜ合わせる−/Petrissage & Pointage−生地捏ね&第一次発酵−/Division & Detente−分割&ベンチタイム−/Faconnage & Appret−成形&第二次発酵−/Coupe−クープ−/Cuisson avec buee−焼成−

              

2.

「てのひらの父」● ★★


てのひらの父画像

2011年11月
ポプラ社刊
(1500円+税)

2014年04月
ポプラ文庫化

  

2011/12/23

  

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主人公の柊子が現在暮しているのは、築75年の木造一軒家。大家であるタマヨさんが一人で住んでいるのは勿体ないと、女性専用の下宿屋とし朝夕食事つき。名付けて“タマヨハウス”。
そのタマヨさんが友人の看護をしたいと急に渡米、代わりの管理人としてタマヨさんが差し向けてきたのは、いとこだという
トモミさん
そころがそのトモミさん、何とむっつり顔の老人男性。
家事・料理をきちんとこなしてくれるのは良いとして、下宿人のことを守るのも管理人の責任と、生真面目に管理人の職務を実行しようとする余り少々個人事情にも立ち入って干渉、3人の女性下宿人との間で何かと騒がしいドラマが繰り広げられるようになります。

柊子34歳は、失業して現在就職活動中。涼子ちゃん26歳は司法試験合格を目指して猛勉強中。残るでこちゃん36歳は仕事のデキる女。

題名といい本の表紙絵といい、児童小説のような印象を受けますが、上記のとおり中身は女性3人+老管理人という4人のあくまで大人のストーリィ。
その4人ともが家族に関して問題を抱え、とくに3人においては父親が大きなトラウマになっている事情が語られていきます。
本書は、トモミさんの過干渉がきっかけとなって一人一人に起きた問題に皆で一喜一憂するといったストーリィなのですが、いわば疑似家族物語。
お互いに個人干渉はしない、というのが現代の風潮だと思いますが、本当の家族であろうとなかろうと家族的な繋がりを持てる、真摯に気にかけてくれる人がいる、というのが幸せの第一歩なのではないかと思わされます。

トモミさんのキャラクターに味わいがあって、温かく、楽しい家族小説に仕上がっています。私好み。

                    

3.
「真夜中のパン屋さん−午前1時の恋泥棒−」● ★☆


真夜中のパン屋さん−午前1時の恋泥棒−画像

2012年02月
ポプラ文庫刊
(640円+税)

  

2012/03/09

  

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“まよパン”シリーズ第2弾は、長篇の趣向。
今回は、
暮林陽介柳弘基のコンビが経営しているパン屋“ブランジェリークレバヤシ”に突如、弘基の婚約者だと名乗って由井佳乃なる若い女性が飛び込んできたところから幕を開けます。この佳乃、弘基が中学生の頃に付き合っていた相手らしい。
とりあえず本書の主人公である
篠崎希実と共に店の2階に住み込むことになった佳乃、バッグに大金を入れていたりと、怪しいところいっぱい。
さらに暮林に馴れ馴れしくしたり、
斑目を蕩かせたりと、希実の気に入らないことばかり。そのうえ佳乃を追い回す怪しい男たちの影。
本巻はこの佳乃に、本シリーズの常連メンバーたちが引きずり回される、といったストーリィです。

本シリーズ、時代小説にある長屋もの市井小説シリーズの現代版、と言って良いのではないでしょうか。
真夜中のパン屋を中心に、パン屋の店員たち(暮林、弘基、希実)と常連客(斑目、ソフィア、こだま)らが、ゲスト出演の登場人物(本巻では佳乃)をめぐって繰り広げるストーリィ、という点において。

ゲスト人物をめぐるストーリィであると同時に、パン屋3人についての長篇ストーリィという面もちゃんと備えています。
母親に置き捨てられてめげていた希実の成長ストーリィ(
加納朋子「てるてるあしたを思い出します)、暮林陽介の亡き妻=美和子探しのストーリィ。えっと、弘基については何だろう? 弘基のこれまでの道のりを先例として描き出す、と言う辺りでしょうか。

題名の付け方からすると本シリーズ、長く続くもののようです。
でも上記のような構成・趣向が守られれば、きっと毎回楽しめることでしょう。次巻以降も期待!

Open/Melanger les ingredients & Petrir la pate−材料を混ぜ合わせる&生地を捏ねる−/Pointage & Tourage−フロアタイム&折り込み−/Decouper des triangles & Fermentation finale−カット成形&最終発酵−/Cuisson avec buee−焼成−

                    

4.
「真夜中のパン屋さん−午前2時の転校生− ★☆


真夜中のパン屋さん−午前2時の転校生−画像

2012年12月
ポプラ文庫刊
(640円+税)

  

2013/01/02

  

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“まよパン”シリーズ第3弾。
まず冒頭、高校生にもなって「魔法使いになりたい」と真面目に言う奇妙な転校生の登場が描かれます。これには仕掛けがあってそれが判るのは最後ですが、まずは気にせず読み始めましょう。

主人公の篠崎希実も早や高校3年生。その希実のクラスに変わった転校生が現れます。趣味は腹話術だと言い、何とアンジェリカという金髪の腹話術用人形を抱えている。しかもそのアンジェリカ、特技は霊視占いだといい、隣席となった希実にさっそく「君に災いが近づいている」と警告。ついつい無視できず、その言葉を真に受けてしまった希実ですが、まさかこの転校生がこんな面倒事に希実を引きずり込もうとは・・・・。

ちょっと奇妙な人々の間に起きる悩み、トラブルをめぐるパン屋“ブランジェリークレバヤシ”3人の奮闘ストーリィに留まっていればそれなりに楽しめるのですが、本書ではその枠をはみ出してしまったという観あり。そこまでいったらもう、本格的事件ですよ、高校生の希実にとって危険過ぎますって。
仕掛けの判り辛さ、本巻における主要登場人物キャラクターの判り辛さに加え、深刻さも加わって、楽しさという面において今一つ。
長く続く筈のシリーズものですが、こんな調子でこれから大丈夫なのかと、つい心配します。このパン屋の営業時間が午後23時〜午前05時とあってそもそも暗い部分を排除できないことは覚悟しておくべきことではあるのですが。

Open/Fraisage & Petrissage−材料を混ぜ合わせる&生地を捏ねる−/Pointage & Rompre−第一次発酵&ガス抜き−/Divisions & Detente−分割&ベンチタイム−/Faconnage & Appret−成形&第二次発酵−/Cuisson−焼成−

       

5.
「真夜中のパン屋さん−午前3時の眠り姫− ★★


午前3時の眠り姫

2013年10月
ポプラ文庫刊
(640円+税)

  

2013/11/03

  

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“まよパン”シリーズ第4弾。
希実の従姉妹=篠崎沙耶が深夜に突然“ブランジェリークレバヤシ”を訪ねてきます。幼い頃祖父の家に預けられた時陰湿に苛められた思い出しかない、希実にとっては因縁の相手。しかも駆け落ちしてきたという陰気な中年男=安田光連れ。そのうえ安田と付き合う前の元カレが凶暴なストーカーと化していて危険から逃れるためにと。
暮林があっさり承諾したことから沙耶、居候である希実の居候として同居することになります。おかげで希実は沙耶の厄介事に巻き込まれ・・・・というストーリィ。

沙耶と家族の関係、そして沙耶の恋人と母親の関係だけでなく、希実と母親の律子の親子関係にまで波及していくストーリィ。
冒頭で希実が見つけた、
美和子宛ての律子の手紙。その中で律子が書いていた「ご存知のとおり、私はあの子の記憶を奪ってしまいました」という言葉の意味、さらに美和子と律子の関係、何故“真夜中のパン屋”なのかの理由も終盤で明らかにされます。

一言で表すなら、希実が一歩前進し次のステップへ大きく踏み出したと言える巻。
午前0時に始まり、午前5時まで刻むであろう篠崎希実の大長編的成長物語の一端が本巻にて見えてきたように感じます。
読み応え十分にして、今後の巻への期待が大きく膨らみます。

暮林は不在ながら弘基、ソフィア、斑目等々、希実を囲む登場人物は相変わらず賑やかで、家族物語的要素も備えているところが本シリーズの魅力でもあります。

Open/Fraisage−材料を混ぜ合わせる−/Petrissage & Pointage−生地を捏ねる&第一次発酵−/Tourage & Faconnage−折り込み&成形/Cuisson−焼成−

          

6.
「真夜中のパン屋さん−午前4時の共犯者− ★★


午前4時の共犯者

2016年03月
ポプラ文庫刊

(700円+税)

 


2016/03/29

 


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“まよパン”シリーズ第5弾。
まず驚いたのは、本巻の分厚さ。シリーズものの巻として 560頁という厚さは驚異的です。
そして本巻の内容そのものの、頁数に比例して濃いというか、複雑極まりなし、というか。

冒頭、入院した母親=
律子希実の再会から本書ストーリィは始まります。入院中の世話はチチに頼んだから大丈夫というハハの言葉に、希実は呆然。
実は希実、前に戸籍謄本を調べ、「
門叶樹(カドノタツル)」という人物が自分の父親であることは承知済。でも今更、何で?
さらに、三回忌で
美和子の墓参りをした希実たちの前に、黒スーツにサングラスという怪しい中年男「」が現れます。
その榊は後日、希実に対し「君、お家騒動に巻き込まれているんですよ」と告げる・・・・。

律子と美和子との経緯、律子と門叶樹との経緯、等々これまで明らかでなかった詳細な事情がすべて明らかにされていく巻。
それにしても、本巻での一番重要な事柄にかかる真相が二転三転、さらに四転まで?、といった印象。まるでサスペンス・ミステリさながらの展開です。
※私としては、門叶樹という人物に好感。一方、篠崎律子という女性の来し方については切なさを感じざるを得ません。

本シリーズは、午前5時までの物語、という想定だった筈。とすれば、最終巻の直前巻として、背景事情をここで明らかにするという展開は必然的なものであったと思います。
 
Open/Reveiller−天然酵母を起こす−/Melanger & Petrissage−材料を混ぜ合わせる&生地を捏ねる−/Pointage & Murir−第一次発酵&熟成/Faconnage & Appret−成形&第二次発酵/Cuisson−焼成−

              

7.

「真夜中のパン屋さん−午前5時の朝告鳥− ★★


真夜中のパン屋さん−午前5時の朝告鳥−

2017年06月
ポプラ文庫刊

(700円+税)



2017/07/12



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“まよパン”シリーズ第6弾にして最終巻。

前作にて
希実が母親の律子と再会、そして律子の死と一つの区切りがついた観があり、本巻は主要登場人物のその後を描く、エピローグ的な内容となっています。
意外だったのは、
柳弘基“ブランジェリークリバヤシ”を辞めていて、さらに弘基と希実が付き合いだしていたということ。
何かともに、しっくりこないなぁ。
しかし、希実や弘基にとって“ブランジェリークリバヤシ”は変えるべき場所であり、行き場所のない人にとって受け入れてもらえる貴重な場所であるということに変わりがない、ということはファンとして嬉しいことです。

・最初の篇の主人公は
班目裕也。今や妻の綾乃と娘の百葉子という3人家族。綾乃の双子の妹である佳乃がマタニティブルーであるため、多賀田と佳乃が暮らすシンガポールへ家族3人で向かいます。
・次の篇は
ソフィア。恋人である安田光と別れようとしますが。一方、母親の倫子のたっての望みを叶えようとハワイ島へ。
柳弘基。転職して今はパリにあるパン屋店長。その弘基の周囲には、エマという仏美人、美作孝太郎が纏わりつき・・・。
篠原希実。志望の国立大学に合格して入学したものの、何と部屋にヒキコモリとは・・・。今は立ち直りましたが、内心にはいろいろな問題を抱えていて・・・。
・最後の篇は、やはり
暮林陽介が主人公。

さて、何故“真夜中のパン屋”なのか。その理由は本シリーズの最初の方で説明されていますが、実は・・・・ではなかったか、と希実が暮林に問い掛けます。
どうぞお楽しみに。

本シリーズは本巻で完結ということですが、いつか、5年後、10年後の彼らに再会できるといいなぁ、と心から思います。
 
Open/Melanger−材料を混ぜ合わせる−/Petrissage & Pointage−生地を捏ねる&第一次発酵−/Tourage & Faconnage−折り込み&成形−/Cuisson−焼成−/Closed

    


   

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