滝沢志郎作品のページ


1977年島根県生、東洋大学文学部史学科卒。テクニカルライターとして各種マニュアル制作に従事。2017年「明治乙女物語」にて第24回松本清張賞を受賞し作家デビュー。


1.明治乙女物語

2.明治銀座異変 

3.月花美人 

  


       

1.

「明治乙女物語 ★★         松本清張賞


明治乙女物語

2017年07月
文芸春秋

(1400円+税)

2019年06月
文春文庫



2017/07/29



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明治21年、女子教育のためと初代文部大臣=森有礼の肝煎りで設立されたお茶の水にある高等師範学校女子部(通称:女高師)の生徒2人=野原咲駒井夏を主人公にした、明治という時代だからこその青春&サスペンス・ストーリィ。

明治時代の中期といっても、急激な西欧化に対する不満・批判、異国人と関わった女性への差別、高等女子教育に対する反対意見が色濃く残っていた時代。
そうした時代を背景に、2人の女高師生徒が時代の先端を切るかのように突き進んで行く姿勢がすこぶる清新、たっぷり魅せられます。

枢密院議長である伊藤博文、文部大臣である森有礼の政治、そして女子教育方針に対する「糾弾状」が新聞紙面に掲載されます。
テロを謀る一味がまず狙ったのは女高師、次いで鹿鳴館。
その影響により鹿鳴館の舞踏会への女性の参加者が減少。女性の踊り手不足を補うため、森有礼は自分の差配下にある女高師の生徒たちを招きます。
女高師での爆発事件の目撃者であった咲は果敢にも、事件の謎、その背後の事情を探ろうと、夏と共に行動を開始します。
それは、2人が顔見知りとなった車夫=
柿崎久蔵の過去を探ることへと繋がっていく。

明治時代にあっての若い女性たちの青春、そのうえミステリという内容はとても新鮮、ストーリィ展開には興味尽きるところがありません。
なお、彼女たちの学生生活は決して安穏なものではなく、批判や無理解も多い。さらに、教育の不平等、男性たちの女性たちに対する旧い固定観念、「らしゃめん」と呼ばれた女性たちへの露骨な差別意識等々がその時代の世相として描かれます。
そうした社会小説的な要素も本作品の魅力の一つといって間違いありません。

本作が松本清張賞の選考会で圧倒的な支持を受けた、というのも当然のこと。期待以上の面白さでした。 是非お薦め!


序章/1.文部大臣の舞踏会/2.コスモスと爆裂弾/3.そこにあるはずのもの/4.藤棚の乙女たち/5.文部大臣と人力車夫/6.良妻賢母/7.人力車に乗って/8.浜風の追憶/9.らしゃめんと呼ばれて/10.天長節日和/11.鹿鳴館の花火/12.昨日の花は今日の夢/終章

          

2.

「明治銀座異変 ★☆


明治銀座異変

2018年09月
文芸春秋

(1700円+税)



2018/10/03



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明治初頭の銀座を舞台にした事件ものミステリ。

プロローグは江戸時代末期。酒に酔った浪人もの3人組が、折しも馬車で通りかかった英国商人一家に難癖をつけ、父親を斬殺してしまうという事件を起こしてしまいます。
犯人は判らないままとなり、17年が経過。本ストーリィはそこから始まります。

主人公は
片桐栄一郎開化日報社の記者。その新聞社に探訪員見習いとして雇われている14歳の加藤直に対している時、外で鉄道馬車が暴走するという事件が発生。馬が暴走した原因は、馭者が狙撃されたためらしい。
片桐や直らの奮闘で暴走を止めた後、見事に馭者を救命措置をしたのは、
山本咲子と名乗った若い女性。
それを機となり、片桐、直、山本咲子という相当に風変わりな探偵トリオが、事件の真相を掴もうと動き始めます。

事件の謎解きはそれ程ドラマチックなものはありませんが、明治初期の銀座、鉄道馬車、車夫等々の小道具と、その時代だからこそ生まれたかもしれない探偵3人組という取り合わせが、楽しい次第。
畠中恵さんにも“若様組”等の明治を舞台にした作品がいくつかありますが、また違った味わいです。

特筆すべきは、山本咲子、実は
山川捨松という、当時の著名な実在人物を登場させているところ。
会津藩士の末娘、12歳で津田梅子らと共に米国に留学し、帰国して
大山巌(後に公爵、陸軍大将、陸軍大臣)と結婚するまでの僅かな期間における青春冒険譚、という設定です。

明治の雰囲気を十分に味わい、それなりに楽しめました。


序章/1.銀座煉瓦街、初夏/2.前髪をくるんとさせた女/3.青い眼の子/4.三人の侍/5.英国商人殺害事件/6.放蕩息子の告白/7.武士の情け/8.仇討ち/9.銀座煉瓦街、晩夏/終章

         

3.

「月花美人 ★★   


月花美人

2024年07月
角川書店

(1950円+税)



2024/09/07



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剣術修業に明け暮れていた望月鞘音(さやね)は今、兄夫婦が流行り病で死去したため、遺された姪の若葉を養女とし、向村で二人質素に暮らしている。
生活の糧は畑仕事と、幼馴染である紙問屋=
安孫子屋の壮介が買い上げてくれる、自ら漉いた紙。
その紙が、
女医師=佐倉虎峰によって、女のための月役紙として使われていると知り、思わず激怒してしまう。
さらに、ふと耳にした
「サヤネに斬られる」という言葉が、月役が始まることを意味していると説明され、自分の名が穢されたと感じ・・・・。
しかし、姪の若葉が初潮を迎え、その大変さを知ることになったことから、考え方を改める。

江戸時代末期、女性たちを月一回の苦しみから少しでも救おうと挑んだ、鞘音・壮介・虎峰の奮闘ストーリー。

時代小説、そして主人公は一流の剣客という設定ながら、内容は生理用品作り、というストーリーの意外性が面白い。

「穢れ」とする嫌悪ぶりも酷いものですが、鞘音の工夫ぶりには純粋に興味津々です。
また、常にユーモアが散りばめられている処が愉しい。
「女の下で口に糊する」とは悪口ながら、よく言ったものだと思いますし、最後の藩との対決場面、公事場奉行や藩主との対決も愉快。

まさに読んで快感、といえる時代小説の快作。お薦めです。


序章/1.サヤネに斬られる/2.初花/3.不浄小屋/4.蟷螂の斧/5.清く気高く美しく/6.殿の御成り/7.真剣勝負/終章

   


  

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