高田 侑作品のページ


1965年群馬県桐生市生、法政大学卒。東京都内のソフトハウスでシステムエンジニアとして勤めた後、94年群馬県に戻る。現在は県内の金属材料メーカーの経理課に勤務。2003年「裂けた瞳」にて第4回ホラーサスペンス大賞を受賞し、作家デビュー。

 
1.
フェイバリット

2.てのひらたけ

  


    

1.

●「フェイバリット」● ★★


フェイバリット画像

2008年03月
新潮社刊
(1400円+税)

   

2008/04/30

 

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主人公の城井由真(ゆま)は、もうすぐ29歳という保育士。仕事で挫折し、今は失業状態。
そんな由真を慰めてくれるのは、小学校時代からの幼馴染であるハツモからのお出かけの誘い。
初茂(はつも)一幸というれっきとした男性なのですが、由真が彼を男として意識したことはない。
なにしろ、小太りで30才前だというのに髪も薄くなっていて、「いけてない」のだから。
それでも誘いがあると楽しく出かけるのは、いつも思いがけないところへ連れて行ってくれるから。なにしろ競馬場、築地の魚市場、建設中のビルの20階、横浜埠頭のクレーン作業場、寄生虫博物館というのですから、奇抜。

このハツモというキャラクターが断然、魅力。何しろ見合いした相手とのデートに、畳職人の店、蚊取り線香の工場等々、とんでもない場所に平気で連れて行くのですから。
しかし、その理由はちゃんとしたもの。
「自分の好きなこと、お気に入りの場所へ連れて行く」だけのこと、ハツモの流儀は単純明快なのである。
そんなハツモと一緒になって、素直に感動してくれる相手がいたら、こんな幸せなことはないでしょう。
ドキドキするような恋愛はできなくても、ずっと一緒にいて幸せを共有できるのではないかな。

そんなハツモが由真に「彼女になってください」と言い、由真が「はい。よ、よろこんでっ」と答えるところから始まるラブ・ストーリィ。
ハツモが仕事上の失敗で元気を無くして皆が心配したり、高校時代のイケメン先輩が突然現れてハツモと見比べてしまったり、それなりのドラマはちょっぴりあります。
それでも、ハツモが漂わせるほんわかした雰囲気、自然なままの自分で居ていいと言ってくれるような雰囲気が本ストーリィ全体を覆っていて、とても心地が良い。
こんな恋愛があってもいいよなァ、こんな恋愛ができたらさぞ幸せだろうなぁ、と心から温まってくるストーリィです。

1.オムライス/2.ポテト/3.青いザリガニ/4.ファイバリット

  

2.

●「てのひらたけ」● ★☆


てのひらたけ画像

2009年05月
双葉社刊

(1600円+税)

 

2009/06/15

 

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山に入り込んで噂に聞く“てのひらたけ”を見つけ食した“僕”は、気分が悪くなり意識を失ってしまう。
気付くと、僕を介抱してくれていたのは優しい少女。そこからはお決まりのように彼女に恋し、迎えに来ることを約束した僕が再び山に登って見い出したものは、何十年も前に朽ちたような家屋跡だった。
ファンタジーなラブ・ストーリィにどう決着をつけるかが見処ですが、梶尾真治「未来のおもいでと似たストーリィ。
結末、味わいは各々ですが、この「てのひらたけ」のエンディングも嫌いではないです。

残りの3篇は、大切な家族の絆を失い、あるいは失いかけ、あるいは失おうとしている姿と、現実か非現実かは別としてかろうじて再び見い出すことができたという、現実の哀しさとファンタジーな救いを絡ませたストーリィ。
いずれも印象的なのは、低賃金労働だったり、リストラされてそのまま立ち直れなかったり、貧しさが家族に亀裂の入る一因になっていること。
町工場に勤務しているという高田さんの生活観が投影されている故かと思います。

哀しさとファンタジーが入り混じった短篇集。中でも「タンポポの花のように」のエンディングは、特に切なく、愛おしい。

てのひらたけ/あの坂道をのぼれば/タンポポの花のように/走馬灯

   


  

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