平 安寿子
(たいらあすこ)作品のページ No.1


1953年広島市生、本名:武藤多恵子。広島女学院高校卒業後、広告代理店、映画館勤務を経てフリー・ライター。アン・タイラーの作品に触発されて小説投稿を始め、99年「素晴らしい一日」にて第79回オール讀物新人賞を受賞。


1.素晴らしい一日

2.パートタイム・パートナー

3.グッドラックららばい

4.明日、月の上で

5.結婚貧乏(※8人の作家によるアンソロジー)

6.もっと、わたしを

7.なんにもうまくいかないわ

8.くうねるところすむところ

9.Bランクの恋人(文庫改題:愛にもいろいろありまして)

10.愛の保存法


センチメンタル・サバイバル、恋はさじ加減、あなたにもできる悪いこと、あなたがパラダイス、風に顔をあげて、セ・シ・ボン、こっちへお入り、恋愛嫌い、幸せになっちゃおしまい、さよならの扉

 → 平安寿子作品のページ No.2


ぬるい男と浮いてる女、神様のすること、おじさんとおばさん、人生の使い方、しょうがない人、コーヒーもう一杯、心配しないでモンスター、こんなわたしでごめんなさい、オバさんになっても抱きしめたい、幸せ嫌い

 → 平安寿子作品のページ No.3


言い訳だらけの人生

 → 平安寿子作品のページ No.4

 


    

1.

●「素晴らしい一日」● ★★


素晴らしい一日画像

2001年04月
文芸春秋刊
(1333円+税)

2005年02月
文春文庫化

 

2001/05/22

軽やかで、とても気持ちの良い作品集です。
内容だけでなく、装丁も軽やか。え、コレって文芸春秋?と、ちょっと驚きます。でも、持ち歩くには手頃な軽さです。
平さん自身の宣伝文句は、「クスッと笑えてちょっぴり身につまされるビタースィートな大人のコメディ」。本書の内容をぴったり言い表しています。

登場するのは、一般社会の常識からすると、どこかネジが緩んでいるような感じの人物が多い。でも、どこか憎めなくて、かえって応援したくなるところがあります。
とくに秀逸なのは、オール讀物新人賞を受賞した表題作の「素晴らしい一日」「商店街のかぐや姫」。いずれも主人公は女性なのですが、のけぞってしまうような男2人が登場します。

前者は、以前男に貸した20万円を取立てに行く元OLの話。相手の友朗は昔から能天気な男。すぐ返すと言っても、友朗に金はない。挙句の果て、友朗があちこち借金して廻るのに、一日中同行させられる羽目になります。笑ったり、悲哀を感じたり、感心したりと、読む身は忙しい。
後者は、ラヴホテルから女に払う代金を持って来てくれるよう平気で電話してくる、月恵夫婦の話。非常識きわまりないのですが、どこか憎めない。

軽妙で洒落ていて、気分が重い時の読書に格好の一冊です。

素晴らしい一日/アドリブ・ナイト/オンリー・ユー/おいしい水の隠し場所/誰かが誰かを愛してる/商店街のかぐや姫

      

2.

●「パートタイム・パートナー」● 


パートタイム・パートナー画像

2001年10月
光文社刊
(1700円+税)

2005年01月
光文社文庫化

 

2002/02/09

落ちこぼれサラリーマンだった進藤晶生が、自分で始めた仕事は“デート屋=自称パートタイム・パートナー”という珍商売。
会社勤めには向かないものの、女性の話し相手となり、相手を気持ち良くさせることに喜びを感じる、という自分の持ち味を活かそうというアイデア。
といっても、客は口コミばかりですから、通常は米屋のバイトの方が余程忙しい。 

珍商売故のユーモア小説かと思いましたが、晶生は狂言回しというべき役柄であって、主役はむしろ依頼主たる女性たちかもしれません。
お金を払って相手を勤めてもらおうというのですから、それぞれに事情あり。といっても、デート屋の料金は2時間1万円程度のものですから、不満、悩みをもっているといっても、それ程深刻なものではない。しかし、それなりに人様々、というストーリィです。 
ふと、市井もの時代小説を読んでいるような気分を覚えることがありました。
中盤、人の良さにつけこまれ、ヒドイ目に会うという盛り上がりもありますが、全体としては軽やかな小説、と言えるでしょう。

3月・土曜日の遊園地/4月・金曜日の墓地/5月・ゴールデンウィーク明けの海/6月・水曜日の高原/7月・日曜日のアパート/8月は夏休み/9月・秋分の日のオフィス/10月・金曜日のクラブ/11月・土曜日と日曜日の病室/12月・クリスマスイブの八畳間

     

3.

●「グッドラックららばい」● ★★


グッドラックららばい画像

2002年07月
講談社刊
(2000円+税)

2005年06月
講談社文庫化

 

2002/02/15

これまでの3作中では、本書が一番の傑作でしょう。
「バラバラだって大丈夫。家族は他人の始まりだから」「人の迷惑顧みず、自分のことだけ考える、タフな一家がここにいる」という表紙の宣伝文を読むと、ちょっと腰を引きたくなるような気持ちになりますが、読み始めてみるとそれ程のことはない。

ストーリィは、一家の主婦(母親)の家出から始まります。事前に信金勤めの父親の元に「今からちょっと家出しますから」という電話があったというのですから、読み手としても鼻を摘ままれたような気分。
父親は冷静さを取り繕うとし、高校を卒業したばかりの長女は動じず、自己中心的な次女は大騒ぎをする、という具合。しかし、その家出がそのまま20年も続いてしまうというのですから、単なる家出話には終わりません。
主婦おらずともそれなりに生活は廻っていくことが判ると、3人各々、自分の好きなように生き始めます。母親も時々近況を知らせてくるというのですから、なんとも不思議な家庭状況。
「家族」という言葉、形式に拘束されない分、彼らには自由気侭な雰囲気がありますが、それでいて家族のまとまりというものがどこかに残っている感じがあって、面白い。
改めて、これからの家族像といったものを読者に突きつけてみせた、という観のある作品です。
なお、気軽に読めて、しかも考えさせられるところあり。また、放浪を続ける母親のストーリィは絶品。

新しい日々1983/結果オーライ1985/ファイターのスピリット1993/イン・マイ・ライフ1983〜1993/プライドのサバイバル1998/どうぞ勝手に、グッドラック2003

    

4.

●「明日、月の上で」● ★☆


明日、月の上で画像

2002年11月
徳間書店刊

(1800円+税)

2006年06月
徳間文庫化


2002/12/14

平作品の主人公は、パートタイム・パートナーといい、前作のグッドラックららばいといい、どこか人とズレているところがあるようです。
本作品の主人公もその例外ではありません。むしろ、先鋭的にズレている、と言って良いでしょう。負けず嫌いですぐつっかかる性格から、渾名転じて自称“とんがりトビ子”
そんなトビ子が、恋人と思い定めたブンちゃんの手がかりをつかもうと、住み着く結果になってしまった処は、鄙びた温泉町、霧舟。
うらさびれたストリップ小屋の主人・元運動家の女経営者・お母さん、古株ストリッパー・マリア、ラーメン屋の嫁でブンちゃんの姉・美幸と、懐かしい雰囲気を漂わせる人たちが其処には似つかわしい。
都会のOL生活では、過剰に元気過ぎ、ややもすると攻撃的になってしまうトビ子したけれど、のんびりし過ぎな位のこの温泉町に留まるうち、多少角もとれてくるようです。

どんな人間にも何処かに、自由に振舞いつつ落ち着ける居場所がある筈、そんなメッセージを伝える作品です。

  

5.

●「結婚貧乏」● ★☆


結婚貧乏画像

2003年07月
幻冬舎刊

(1400円+税)

 

2003/11/04

8人の女性作家による、結婚を主題としたアンソロジー。
どれも軽いストーリィですが、一冊で何人もの作家の作品を味わえるのがアンソロジーの楽しさ。そのうえ、8人中6人が初めて読む作家、その作品傾向も様々と、魅力充分です。

共通したテーマは、心も身体も生活もすべて満足できる結婚生活なんてあるのか、ということらしいのですが、結婚生活の一翼を担う男性として耳の痛い話が幾つもあります。
空しい、切ないなぁと気持ちが沈めば、その後にはカラッとユーモラスな話(「森を歩く」)あり。また、危ういなぁと危惧する話(「シンデレラのディナー」)があれば、定番のような話の裏に強烈な対抗心が秘められていた話(「次はあなたの番ね」)ありと、その多彩さが楽しめます。
どのストーリィが一番面白かったか、などと問うのは、野暮というものでしょう。どれも女性らしいストーリィであり、様々なパターンがあってこそ面白いのですから。
なお、「オーダーメイドウェディング」については、その結末を見てみたかったという気持ちが多分にあり。
最後の「ぼくの秘めやかな年上の恋人」は、艶めいた一篇。

平安寿子:ロマンスの梯子/宇佐美游:玉の輿貧乏/春口裕子:オーダーメイドウェディング/三浦しをん:森を歩く/内藤みか:シンデレラのディナー/真野朋子:次はあなたの番ね/森福都:グッドマリアージュ/松本侑子:ぼくの秘めやかな年上の恋人

      

6.

●「もっと、わたしを」● ★★


もっと、わたしを画像

2004年01月
幻冬舎刊
(1600円+税)

2006年08月
幻冬舎文庫化

 

2004/05/03

すんなりと、はまって読んでしまう5つのストーリィ。
ストーリィ・テラー、平安寿子さんの上手さを十二分に味わえる連作短篇集です。

主人公となるのは、不器用なあまり恋愛や人生に自身が持てず、屈折感を抱いている5人の男女。現代の風潮からすると、こんな主人公像がまだあったのかと思うくらいですが、どこかホッとするのも事実。自分自身に見比べるからでしょうか。
優柔不断、プライドが高い、なりゆき任せ、自意識過剰、自己中心と、そんな性格故にもうひとつ自分の殻を打ち破れず、今の生活に充足感を持てないでいる。そんな彼らの切ないストーリィです。
読んでいてもどかしい思いに駆られることも度々、それだけ愛おしくなる主人公たち。
いささか関わり合う5人の間で、次々にたすきが渡されていくように主人公が入れ替わっていきます。次に誰が主人公となるのか、そんな点も楽しみのひとつ。
自分は不器用だと思っている人たちに贈るエール、とも言うべき短篇集。ちょっと落ち込んだとき、お薦めします。

いけないあなた/ノー・プロブレム/なりゆきくん/愛はちょっとだけ/涙を飾って

        

7.

●「なんにもうまくいかないわ」● ★☆


なんにもうまくいかないわ画像

2004年11月
徳間書店刊

(1500円+税)

 

2005/01/10

本書もまた“負け犬”小説ということになるのでしょうか。
5篇の主人公は並河志津子、42歳、独身・キャリアウーマン。
ただし、5篇はすべて、志津子の友人、部下、元情人、元恋人の未亡人といった第三者の一人称により、志津子の人となりが語られる、という構成です。
その点も含め、柴田よしき「ワーキングガール・ウォーズとはとっと趣きが異なります。言うなれば、結果は同じであれ、自分で計算ができないところに主人公像の違いがある。
つまり、志津子は恋多き女であり、隠しごとのできず何でもしゃべってしまうが故に、可愛い女であり、“私生活のない女”なのです。恋する相手はいつも結婚できない男ばかり、とのこと。

第三者によって主人公の人物像を浮かび上がらせるという構成の傑作小説は有吉佐和子「悪女について」だと思いますが、それと比較すると、志津子の人物像は割りと単純。開けっぴろげで、セックスさえことのほか健康的、という人物像が憎めない。
これは、平作品に共通する登場人物の特徴でしょう。
亭主も子供もいないけれど、年中騒がしく、いつも誰かが傍にいる。そんな生き方も在りなん、と思わせるストーリィ。

「亭主、差し上げます」は、不倫現場に乗り込んだ本妻・と、部下の不倫相手・恵子が、男を間に挟んで本音を叩き合う短篇。男性としては立つ瀬がない展開ですが、光と恵子の本音に思わず笑ってしまう。寸劇にしたい位です。
ありきたりな筋立てですが、女性の切なさを薬味にした、そのまとめ方が上手い。お見事。

マイ・ガール/パクられロマンス/タイフーン・メーカー/恋駅通過/なんにもうまくいかないわ/亭主、差し上げます

   

8.

●「くうねるところすむところ」● ★★☆


くうねるところすむところ画像

2005年05月
文芸春秋刊
(1667円+税)

2008年05月
文春文庫化

  

2005/06/29

 

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思わぬ成り行きから土建屋稼業に入り込んだ女性2人を描く、コミカルな根性物語。
女社長とそこに飛び込んだ素人女性というコンビは角田光代「対岸の彼女をふと思い出させますが、ストーリィとしては対極にある明るいストーリィ。

零細広告出版社の編集部で不倫関係にはまり込んでいた30歳のOL・梨央は、酔っ払った時助けてもらった鳶職の男にホレ込んで一念発起、土建屋に転職します。
その土建屋の女社長が郷子。浮気した夫に腹を立て追い出したことから、社長職を担わざる得なくなります。普通の主婦から一転して社長になったものの、子飼いのベテラン社員2人から“姫”という仇名で呼ばれ、いいように使われているだけ。
家を作るという仕事に夢ふくらませて入社してきた梨央と、いやいや社長業をやっている郷子の姿が対照的で、とても愉快。
現実ではとてもこんな順調には進まないと思うのですが、梨央の張り切りぶり、その成果が着実に実っていくというストーリィ展開に思わず納得させられ、楽しい。
流されるままだった梨央が一転してヤル気溢れる土建屋レディに変身し、そのうえ周囲の登場人物はクセ者ばかりというのですから、このストーリィ、まるで高校の運動部のようなノリの良さがあります。その分、爽快。

そして何といっても終盤、梨央と郷子の、社長と社員のやりとりとは思えない、女同士の本音を叩き合った会話がすこぶる愉快。こうしたやりとり、会話の面白い作品は大好きです!
やればできる、という本書ストーリィ、これまでの平作品と一線を画す痛快さがあります。

 

9.

●「Bランクの恋人」● ★★☆
 (文庫改題:愛にもいろいろありまして)


Bランクの恋人画像

2005年10月
実業之日本社
(1500円+税)

2009年06月
光文社文庫化

2017年06月
実業之日本社
文庫化


2005/12/08


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冒頭の2篇「Bランクの恋人」「アイラブユーならお任せを」を読んで、またもや平さんの上手さに唸らされました。
うまい!  面白い、そして愉快!

7篇を収録した短篇集。
いずれも恋愛に絡んだ悩みごとや人間関係のゴタゴタを主にしたストーリィですが、登場人物の性格や、人生観を反映しているところが楽しい。
この面白さ、並みではない。痛快なのです。

「モテるかモテないか」こそ人生最大の問題だといってメゲることのない営業マン(Bランクの恋人)、幼少のみぎりから「愛している」の口稽古をしてきた自転車屋の中年オヤジ(アイラブユーならお任せを)、男を見る目のないキャリアウーマン(サイド・バイ・サイド)、はずれっ子狩りが大好きというふしだらなオバサン教師(はずれっ子コレクター)等々。
各篇に登場する人物造形が秀逸です。意表を付かれて呆れるところもありますが、少しも憎めず、こうした人がいるからこそ人生は面白いと言えるような彼&彼女ばかり。
現に、彼らの存在によって慰められる人たちもいるのですから。
気持ちが疲れたとき、重たい読書の後に読むには、最適の一冊です。
最後、半身不随の義父を看取った若妻が義姉相手に思いの丈をぶつける「サンクス・フォー・ザ・メモリー」を読み終えての読了感は、実に爽快。お薦めです。

Bランクの恋人/アイラブユーならお任せを/サイド・バイ・サイド/はずれっ子コレクター/ハッピーな遺伝子/利息つきの愛/サンクス・フォー・ザ・メモリー

 

10.

●「愛の保存法」● ★☆


愛の保存法画像

2005年12月
光文社刊

(1400円+税)

 

2006/01/23

どんな恋愛においても男の側と女の側の思惑に違いがあるのは当然のこと。そんな思い違い、食い違いを様々なパターンに描く、ちょっとユーモラスな短篇集。
上手い!と唸らされる程ではないものの、ユーモラスと上手さがうまく溶け合った小品集。私と同じく恋愛小説好きの人なら楽しめることでしょう。

まずは表題作の「愛の保存法」。4回も離婚・結婚を繰り返している人騒がせな夫婦を友人の視点から描くストーリィ。妻の本音と夫の本音に微妙なズレがある面白さが、本短篇集への期待を高めてくれます。前菜には恰好の篇。
「パパのベイビーボーイ」、婚約者を嫌悪している父親に奪われかねない展開。「きみ去りしのち」と合わせて、気の利かない男性には勉強になります。
「寂しがりやの素粒子」には、働くことなくただ素粒子物理の勉強をしていたいという宅田が登場。居候先の工場主にぬけぬけと八方納まる解決策を提案してくるところが愉快。
この宅田と「出来過ぎた男」信光、この2人の人物造形が楽しい。現実的な女性と対照的な現実離れした発想が楽しめます。
離婚、再婚、再々婚したうえに、子供を産みたいと頼まれ協力した結果、5人の父親。その子供全員に対して律儀に父親の役割を果たしている信光は、もしかしたら少子化社会での理想的な父親像かもしれない、と納得させられてしまうところが愉快。ドストエフスキーの「永遠の夫」像ならぬ、“永遠の父親”像かもしれません。
また、最初の妻ミチルとのやり取りには、掛け合い漫才のような楽しさあり。最後を飾るに相応しいデザートのような好篇。

愛の保存法/パパのベイビーボーイ/きみ去りしのち/寂しがりやの素粒子/彼女はホームシック/出来過ぎた男

 

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