新川帆立(しんかわ・ほたて)作品のページ


1991年生、米国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒、同法科大学修了後、弁護士として勤務。「元彼の遺言状」にて第19回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2021年同作にて作家デビュー。


1.元彼の遺言状

2.倒産続きの彼女

3.競争の番人 

4.女の国会 

5.ひまわり 

 


                   

1.
「元彼の遺言状 ★★      「このミステリーがすごい!」大賞


元彼の遺言状

2021年01月
宝島社

(1400円+税)

2021年10月
宝島社文庫



2021/02/12



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著者が弁護士であるという点、またかなり話題になっている作品という点にも惹かれ、珍しく上記大賞の受賞作に手を出してみました。

まずは、何といっても着想・設定がお見事。さらに主人公である女性弁護士のキャラクターが強烈で、このキャラでストーリィを引っ張りまくった、と言えます。

主人公は大手法律事務所に所属する、まずはお金が大事と考える女性弁護士=
釼持麗子・28歳
その麗子、大学時代にちょっと付き合っていた
森川栄治が死んだという知らせを受けます。
その栄治、何と大手製薬会社の御曹司。しかも
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言を残しているという。
その結果、自分が犯人と名乗る人物が殺到。
麗子もまた、栄治の友人である
篠田から依頼を受け、犯人候補の代理人として<犯人選考会>に乗り込みます。もちろん成功しての多額の報酬狙い。
しかし、栄治の顧問弁護士が毒殺されるという事件が発生。否応なく麗子は元彼の遺言状が端緒となった事件に巻き込まれます。

当然ながら予想するのは、ミステリ&サスペンス。ところが読んでの印象はむしろ、コミカルなミステリ。
その理由は、主人公=釼持麗子の暴走族気味なキャラ、突進性にあります。
冒頭、「お金がないなら、内臓でも何でも売って、お金を作ってちょうだい」という言葉に思わず仰け反ってしまいますが、この麗子、お金お金という割に結構、愛嬌があります。
ある意味で正直、腹黒くない。そしてどこか能天気で、お人好しなところあり。だからこそ、読者も麗子の後について行けるのです。

ストーリィには粗削りなところもありますし、事件の真相にはちょっと興味をそがれるところもありますが、麗子のキャラがとにかく楽しい。また、ストーリィ運びもテンポが良いとあって、それらを充分補って余りある面白さ、というところ。
是非、次作を期待したいところです。

1.即物的な世界観/2.中道的な殺人/3.競争的贈与の予感/4.アリバイと浮気のあいだ/5.国庫へ道連れ/6.親子の面子/7.道化の目論見

                  

2.
「倒産続きの彼女 Ms.Bankruptey ★☆


倒産続きの彼女

2021年10月
宝島社

(1400円+税)



2021/11/05



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元彼の遺言状で話題を呼んだ著者の2作目。
結果としては、う〜ん、イマイチかな。

本作の主人公は、山田川村・津々井法律事務所に勤める若手女性弁護士の
美馬玉子。両親が早くなくなり祖母との二人暮らし。合コンではとかくぶりっ子ぶるキャラクター。

その玉子、ボス弁護士=津々井の指示で先輩弁護士の
剣持麗子(前作主人公)とコンビを組まされます。
案件は何かというと、倒産の危機に陥ったゴーラム商会で内部通報があった、
「会社を倒産に導く女」と名指しされた経理課所属の途中入社社員=近藤まりあの身辺調査。

近藤まりあが過去に勤務した3社は、3社とも倒産。幾らなんでも偶然が続き過ぎ、そこに何らかの不正があるのではないか?と疑えども、近藤まりあからその事実は発見できず。
それどころか、玉子と麗子、ゴーラム商会の本社内で死体を発見してしまい・・・。

前作は剣持麗子のキャラが際立っていましたが、本作においては控え目、というかもう一つ。
ストーリィとしても、結局何が問題であり、最後に問題は解決したと言えるのだろうかと、もうひとつすっきりしない読後感に終わりました。


1.羨望と下剋上/2.あちらこちらの流血/3.同じくらい異なる私たち/4.トラの尻尾/5.命の値段

          

3.
「競争の番人 Guardian of the Market 


競争の番人

2022年05月
講談社

(1600円+税)



2022/06/08



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公正取引委員会の局員たちを主役にしたお仕事小説?と思い、それなりに期待して読んだのですが、正直なところ、とんだドタバタ劇。

主人公の
白熊楓は、警察官になりたかったところ母親から強硬に反対され公正取引委員会の局員になったという、大学までずっと空手部という体育系、29歳
その楓が新たにコンビを組むことになったのは、留学先のハーバードロースクールから戻ってきた
小勝負勉・27歳
その小勝負、16歳で公認会計士試験、20歳で司法試験合格、東大法学部・ハーバードロースクールでも首席で、何でこんな弱小官庁に入局したのか不思議、と言われる人物。

この2人が同じチームに配属され、ウェディング業界の価格カルテル調査に挑む、というストーリィ。
何かと感情的になる楓、それに対して小勝負はいつも冷静な判断・考え方を示し、都度それに反発する楓。しかし、立入調査の難航に連れて楓、小勝負の苦労にも理解が向くようになり・・・。

この2人、とくに白熊楓のキャラクターが拵え過ぎ、という印象拭いきれず。そのうえ、楓の感情的な動きがドタバタ感を一層強めていて、本作はドタバタ劇狙いなのかと感じてイマイチ。

※ベテラン職員と新米職員のドタバタお仕事小説というと、
高殿円「トッカンを思い出します。同書の展開にはそれなりに納得感がありましたが、本作の楓、入局5年目というのにこのレベルなのか、全てはドタバタ劇とするためか、と違和感あり。

1.弱くても戦え/2.タピオカを踏むな/3.水に流してください/4.本当に幸せなのか/5.ヒーローはいる/6.悪だくみの終わり

                 

4.
「女の国会 ★★


女の国会

2024年04月
幻冬舎

(1800円+税)



2024/11/18



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ミステリ&政治の裏舞台という、政治エンターテインメント。

主人公は各章で交替しますが、共通するのは女性であること。
能力があっても女性であるが故に虐げられ、あるいは軽視されてきた彼女たちによる逆転ストーリー。

事前に与党と合意できていた筈の「同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」改正案が不成立に。
法案成立に向けて尽力してきた野党の国対副委員長で
“憤慨おばさん”の異名をとる高月馨(46歳)は、協力関係にあった与党の国対副委員長で“ウソ泣きお嬢”の異名をとる朝沼侑子(46歳)に詰め寄りますが、派閥のドン=三好顕造幹事長(83歳)が突然反対に回ってしまったと答えるのみ。
そしてその朝沼が何と、服毒自殺? 理由は不明ながら、高月が朝沼を責め立てた所為ではないかと批判が高月に。
しかし、朝沼はそんなことで死ぬような人間ではない。何故お嬢は死んだのか? 高月は朝沼の婚約者で、三好顕造の息子であり参議院議員である
顕太郎に接触しようとしますが・・・。

第一章「国会」の主人公は、高月の政策秘書である若い沢村明美(29歳)。女性議員故の苦闘を高月を通じて認識。
第二章「政治記者」は、毎朝新聞政治部記者で、与党三好派の担当である和田山怜奈(33歳)。朝沼死去後の政局の動きを掴もうとしますが、とんでもない事態に巻き込まれ・・・。
第三章「地方議員」は、朝沼と出会ったことが縁で市議会議員となるに至った間橋みゆき(39歳)。主婦&母親兼議員。
初めて会う高月から思わぬことを言い出され、困惑。
第四章「選挙」は、上記4人の女性たちが協力、朝沼侑子死亡事件の真相に迫ります。

ミステリ要素はもちろんありますが、それ以上に政治の裏舞台で男たちから粗略に扱われてきた女性たちの、逆転劇。
その意味で痛快なエンターテインメント作になっています。

※政界、高齢男性議員ばかり、女性議員が少ないままでは、碌なことにはなりませんね。


1.国会/2.政治記者/3.地方議員/4.選挙

            

5.
「ひまわり ★★


ひまわり

2024年11月
幻冬舎

(1900円+税)



2024/12/08



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総合商社で海外主張も含めバリバリ働いていた朝宮ひまり、しかし33歳の時に暴走トラックに撥ねられ、脊髄損傷という重傷。
その結果、首から下しか動かせず四肢麻痺、24時間要介護という重度障碍者となってしまう。
それからの日々、懸命にリハビリに励みますが、手・指がわずかに動くようになったのみ。
当然にして復職を希望しますが、会社は応じてくれず退職を余儀なくされます。そこから就職活動に挑みますが難航。

そんなとき、幼なじみで今は検察官となっている
額田レオが、それなら司法試験を受けて弁護士になればいいと助言。
しかし、常人でも難関の司法試験に、四肢麻痺の自分が合格できるのか。
そこからひまりの、司法試験合格を目指しての並々ならぬ苦闘が始まります。
ひまりが辿るステップ、ひとつひとつに難題あり。
勉強するだけでなく、それらの難関も乗り越えていかなくてはなりません。
まずは、24時間介護を受けられる体制を整えることが必要。

もし自分がそういう立場になったら・・・どんなに絶望にくれることか。また、どこまで自分を奮い立たせることができるか。
そのうえ、重度障碍者のための設備、配慮が、如何に今の日本社会に欠けていることか、まざまざと感じさせられます。

ひまりの奮闘、周囲のサポート、そして多くの難題とそれを乗り越えていくストーリーには、深く惹きつけられます。
そして、障碍者にとっても暮らしやすい、働きやすい社会を作るためには、障碍者ときちんと向かい合うこと、障碍者だからダメと決めつけてはならないこと、一つ一つの積み重ねの重要さを学んだ思いです。

ひまりと周囲の人たちとの関わりストーリーも充分に面白く、読み応えたっぷり。ひまりだけでなく、後に介助者となる
渡辺光という若い女性の存在も感動的です。お薦め。

なお、本作はフィクションですが、実際に脊椎損傷で四肢麻痺となりながら日本語入力ソフトを使って司法試験に合格、弁護士となって活躍している方がいるそうです。


プロローグ/1.事故までの暮らし/2.動けない!/3.起きあがる/4.スパルタリハビリセンター/5.海/6.歩く/7.安静は麻薬/8.デイジー/9.台風男、登場/10.一時帰宅/11.退院/12.職探し/13.司法試験?/14.適性試験/15.ロースクール入試/16.オリエンテーション/17.ヘルパー探し/18.入学/19.勉強会/20.夏休み/21.事務所訪問/22.予備試験/23.法務省/24.ドクターストップ/25.大丈夫/26.追い込み/27.司法試験/28.リクルート/29.合格発表/エピローグ

      


   

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