帯に書かれているまま、北海道警・元SAT狙撃班の城戸口と元エリート自衛官・折本との極限の知床を舞台にした1対1の激闘ストーリィかと思ったのですが、展開はまるで異なるもの。
要は、破天荒のテロ計画を携えてアメリカ国家権力に挑んだ孤高のテロリストと、それを必死に追う日本の警察、公安らとの闘いを描いた迫真のサスペンス、といったストーリィです。
“グリズリー”とは熊のことですが、折本という人物を象徴する名称であり、同時に人が凶暴な熊を追うに似た本ストーリィを予見させる題名でもあります。
一般的なサスペンスとちょっと違うなと感じたのは、米国・テロリスト・日本警察との三角関係。
米国が究極の「悪」と位置づけられ、その強大な国家に孤独な闘いを挑むのが本来「悪」である筈のテロリストである、というのがその一面。同時にその折本は冷酷非道かつ計画的に殺人を実行していく凶悪犯であり、日本の警察は結果的に総動員で犯人を追うというのが、もうひとつの面。つまり、本ストーリィでの闘いは、二重構造になっている訳です。
相手方をすべて出し抜く折本の天才的な犯行ストーリィ、それを追う警察の捜査ストーリィは、共に読み応えがあり、どんどん引きずり込まれます。しかしながら、肝心の犯行動機に納得感が得られないこと、冒頭で折本が予め結末を宣言してしまっている観のあるところが惜しまれます。それ故に、単なる激闘ゲーム・ストーリィという印象に終わってしまう。
日本留学中の米国副大統領の姪まで巻き込み、極寒の知床を舞台にする最終場面はもちろんクライマックスの名に値しますが、結局は真保裕一「ホワイトアウト」のような感動が残るまでには至りませんでした。
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