折原みと
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1964年生、茨城県出身。85年「ASUKA」にて漫画家デビュー。87年「ときめき時代つまさきだちの季節」にて作家デビュー。90年刊行の「時の輝き」が110万部のベストセラーとなる。

 
1.
乙女の花束

2.
乙女の初恋

3.乙女の翼

 


      

1.

●「乙女の花束」● ★★


乙女の花束画像

2010年03月
ポプラ社刊

(1500円+税)

2012年07月
ポプラ文庫化

  

2010/08/05

 

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戦前華族の令嬢たちのために創設され、今もその伝統を引き継いで鎌倉の海を見下ろす長谷の山手に立つ、全寮制の女子高校=桜の宮女学院
全生徒数が百名にも満たないというその名門女子高に入学するため、信州から一人でやってきたのは篁風子(たかむらふうこ)
父母や付き添いに伴われ高級車でやってくるのが当たり前のこの学校に一人で歩いてやってきたということに高齢の警備員は驚きますが、彼女の風情にここの生徒特有の資質を認める。
風子という新風によって引き起こされる、桜の宮女学院の一年間を、花言葉を織り交ぜながら綴った少女小説。

いかにも“乙女文学”という雰囲気ですが、男性の私が読んでもすこぶる面白いのです。その一番の理由が主人公・風子のキャラクターにあることは言うまでもありません。
敢えて言うと、バーネット「小公女」の逆バージョン。同作は金持ち向けの全寮制学校に入学したセーラ、ひときわ秀でたそのプリンセス資質でヒロインを演じるストーリィでしたが、本作品は深窓の令嬢たちの中に混じって、野育ちの健やかな強さ、自由奔放さを発揮して新風を吹き込む故にヒロインとなる、風子を中心としたストーリィ。
もちろん面白いストーリィに欠かせない、徹底的な悪役を演じる女生徒が登場します。そのことといい、ちと現実離れした展開といい、花や花言葉をモチーフにしているところは、いかにもマンガ的世界。
それでもそれらが巧妙に組み合わされているからこそ、男性が読んでも魅力に富んだ乙女小説になっています。お薦め。

菜の花の章/矢車菊の章/紫陽花の章/撫子の章/向日葵の章/秋桜の章/紫苑の章/桔梗の章/ポインチセチアの章/スノードロップの章/ミモザアカシアの章/忘れな草の章

            

2.

●「乙女の初恋」● ★★


乙女の初恋画像

2010年11月
ポプラ社刊

(1500円+税)

2012年11月
ポプラ文庫化

  

2010/12/26

  

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全寮制の名門女子学園を舞台にしたシリーズ2作目。
本巻は、2年生に進級した風子たちの“初恋”をテーマにした、彼女たちの成長物語。
  
今回新たに登場するのは2人、一人は新入生の
山城椿。母親が有名なピアニストで本人もまた数々のコンクール入賞実績がある帰国子女で、学業もトップクラスという美少女。風子を慕って園芸部に入部してきます。
もう一人は、風子の祖父=篁翔山の直弟子で現代陶芸世界で注目されている
島村宗右衛門に弟子入りした学生の都筑紫郎。日曜日ごとに島村のアトリエ・星泉窯に通う風子と、当然にして顔見知りになります。

ストーリィは折々に花言葉を織り交ぜて可愛らしいのですが、相変わらず乙女チックな内容。それが新鮮だった
乙女の花束程の面白さはないなぁと思っていたら、そこからどんどん面白くなってくるのですから、このシリーズ、惹きつけられずにはいられません。
中身としては、風子が幼い頃の初恋の思い出、そして新たに知った恋の苦しみ。それに椿のずっと胸に秘めた恋物語が絡みます。

本シリーズの魅力は、何と言っても主人公・風子のキャラクター。
明るく、いつも生き生きした、自然児そのままの少女。そして、困難にぶつかっても自分の力でそれを乗り越えていくたくましさが、風子の魅力です。
本巻においてもそれは全く変わりません。そして、そうした風子の特性が周囲の人間まで前向きな姿勢に変えていく、というところが本シリーズの魅力。次巻も楽しみです

4月-白つめ草の章/5月-ライラックの章/6月-黒百合の章/7月-月見草の章/8月-鳳仙花の章/9月-秋海棠の章/10月-吾亦紅の章/11月-竜胆の章/12月-山茶花の章/1月-シクラメンの章/2月-椿の章/3月-四つ葉のクローバーの章

                

3.

「乙女の翼」 ★☆


乙女の翼画像

2013年09月
ポプラ文庫刊

(640円+税)

   

2013/09/17

   

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全寮制の名門女子学園を舞台にしたシリーズ3作目、完結編。

さすがに3年生ともなると主人公の篁風子(たかむらふうこ)について新たに驚かされるようなことはなく、これまでの2巻を含めての総決算編、そして女学生の園から外の社会に向けて旅立つ時を控えての準備時間編という趣きの巻となっています。
12ヵ月の日々は、月と花言葉を追うようにして淡々とショート・ストーリィ風に描かれていきます。

そうした中で目を惹く出来事といえば、幼い頃の初恋から育って大人の恋へと羽ばたこうとする
都筑紫郎との試練も含む恋、これが主ストーリィになっていると言って良いでしょう。
そしてこれから先を見据えるようにして、風子の目は実父の
秋月潤一郎にも、さらに入学以来風子を宿敵のようにしてきた高倉Y子にも向けられます。
それはそのまま、桜の宮女学院での3年間における風子の成長を示したものといえるでしょう。ただ風子を少々スーパー女子高生にし過ぎているのではないかと思う処もあります。

いずれにせよ、本書は風子を主人公とした“乙女”シリーズを完結させるための巻というに尽きる、と感じます。
これまでの2作が単行本で刊行された後に文庫化されているのに対して本書が最初から文庫書下ろしとなっているのも、その辺りに要因があるのではないかと思う次第です。

4月-クロッカスの章/5月-都忘れの章/6月-露草の章/7月-野牡丹の章/8月-朝顔の章/9月-曼珠沙華の章/10月-金木犀の章/11月-杜鵑草の章/12月-柊の章/1月-福寿草の章/2月-白梅の章/3月-桜の章

      


   

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