大崎善生作品のページ No.2



11.Railway Stories

12.ユーラシアの双子

13.エンプティスター

14.西の果てまで、シベリア鉄道で


【作家歴】、聖の青春、将棋の子、パイロット・フィッシュ、アジアンタムブルー、九月の四分の一、ドナウよ静かに流れよ、孤独かそれに等しいもの、別れの後の静かな午後、ドイツイエローもしくはある広場の記憶、タペストリーホワイト

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11.

●「Railway Stories」● 

 
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2010年03月
ポプラ社刊

(1400円+税)

 

2010/04/18

 

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列車または電車に揺られ、あるいは車窓から外を眺めていると、ふと思い出がよみがえってくる。
若い頃の思い出、今となっては青春の一頁。
忘れ難い、そんな過去への回想を綴った小品からなる短篇集。

印象に残ったのは、大崎さん自身と重なるように思える部分。
大学時代に将棋道場へ入り浸った頃を振り返る「フランスの自由に、どのくらい僕らは、追いつけたのか?」聖の青春に繋がりますし、19歳でドナウで投身自殺した少女が暮らしたルーマニアの部屋を訪ねたことに触れる「虚無の紐」ドナウよ、静かに流れよの取材行を思わせます。

また、20歳も年下の妻と幼い息子を伴い寝台特急カシオペアに乗って札幌を目指す「キャラメルの箱」は、実際の大崎さん自身の家族風景を思わせます。

最後の「確かな海と不確かな空」は、高校時代から喫煙中毒だった作家が突然禁煙を思いつき、地獄の苦しみを味わうと一方で、亡き父親への想いを語るという忘れ難い一篇。

思い出アルバムをめくるような、短篇集。
鉄道、列車は話のきっかけに過ぎず、余り印象には残りません。

夏の雫/橋または島々の喪失/失われた鳥たちの夢/不完全な円/もしその歌が、たとえようもなく悲しいのなら/フランスの自由に、どのくらい僕らは、追いつけたのか?/さようなら、僕のスウィニー/虚無の紐/キャラメルの箱/確かな海と不確かな空

        

12.

●「ユーラシアの双子 Eurasian Twins」● ★★☆

 
ユーラシアの双子画像

2010年11月
講談社刊
上下
(各1600円+税)

2013年07月
講談社文庫化
(上下)

 

2010/12/06

  

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2年前に離婚、1年前に会社を退職した石井隆平、51歳。
時間をどう過ごせばいいのか判らなくなっていたところで思いついたのが、
シベリア鉄道を経てポルトガルのリスボンまで、鉄道を使ってユーラシア大陸を横断しようという旅。
その石井、
ウラジオストックのカフェでウェイトレスのロシア娘から、5日前に客としてきた若い日本人女性がリスボンで自殺しようとしているらしい、何とか彼女を助けてやって欲しいと頼まれます。
その時から石井の旅は、同じ旅程を辿る
エリカというその女性の後を追う旅ともなります。そして同時にそれは、19歳で自殺した長女=香織を救うことができなかったという自責の念を抱く石井にとって、回想と贖罪の旅ともなります。しかもエリカは、香織とそっくりの面影をもつ娘だった、というストーリィ。

紀行、そして長い旅を背景にした小説、大好きです。
懐かしく思い出すのは、
宮本輝「ドナウの旅人、そして宮脇俊三「シベリア鉄道9400キロ
上巻は富山の港から出発してワルシャワまで14日間の旅。シベリア鉄道の旅の様子がいろいろ描かれていて興味尽きません。石井の道連れとなるのは、船・鉄道で同室となったベルリン住まいの日本人男性=
前沢
下巻は、エリカとの接触を混ぜながら、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガルと石井の旅は進んでいきます。

本作品を通じて思うことは、人生は旅に似ている。そして、その旅に良き道連れを得たかどうかで、旅は楽しいものにも辛いものにもなりうる、ということ。
そんな本作品、大河小説のような風格を備えています。

※なお、宮脇さんの乗ったロシア号に比べて本書のロシア号、食事の不味さ、酷さは相当なものだったようです。それもまた旅好きにとっては面白く読める部分ですが。
それにしてもこの主人公、よく飲むこと、よく飲むこと。
ストーリィを別として、旅の味わいもまた本作品の魅力です。

1.出港−Nihonkai/2.出会い−Vladivostok/3.倦怠−Irkutsk/4.矛盾−Moscow/5.躍動−Berlin/6.郷愁−Colmar/7.流浪−Paris/8.共鳴−Barcelona/9.叫び−Lisboa

         

13.

●「エンプティスター empty star」● ★☆

 
エンプティスター画像

2012年02月
角川書店刊
(1700円+税)

2015年01月
角川文庫化

  

2012/03/27

  

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パイロットフィッシュ」「アジアンタムブルーに続く恋愛三部作の完結編。
主人公は同じ
山崎隆二。「パイロットフィッシュ」から6年が経ち、45歳になったという設定です。

前2作のような、山崎の恋愛ドラマが新たに繰り広げられるというストーリィではありません。これまでどちらかというと受け身に終始してきた山崎が、これまでの生き方にひとつの決着をつける、という意味での完結編という印象です。
「パイロットフィッシュ」の最後で山崎と恋人関係になった
七海が、山崎についに見切りをつけ、彼の元を出ていったところから本ストーリィは始まります。
そして、やはり同作の最後で消息不明となった歌舞伎町の人気風俗嬢=
可奈が、鴬谷の韓国デリヘル業界にいるらしいと、山崎はかつて勤めていたエロ雑誌の編集部仲間から耳にします。
鶯谷に風俗街に足を運び、
「お願い、助けに来て」という可奈からのメッセージを受け取った山崎は、空っぽの惑星から彼女を救い出すためライターの高木と共にソウルへと向かいます。
七海、そして可奈と、そんな山崎の姿が象徴的。
そのソウルで山崎が向かい合った現実とは・・・。

山崎がこれまで経験した恋、ソウルで新たに出会った恋模様を描きつつも、本作品は恋愛小説というより展開はむしろサスペンス小説。
読了後の感想としては、恋愛云々については余り思い浮かばず、「パイロットフィッシュ」の最後で不明瞭になっていた事々にやっと終止符が打たれた、という思いが全てです。
したがって、本書だけ読んでも何がなんだかよく判らないのではないか、と感じる次第。

          

14.

●「西の果てまで、シベリア鉄道で ユーラシ大陸横断旅行記」● ★☆

 
西の果てまで、シベリア鉄道で

2012年03月
中央公論新社
(1400円+税)

  

2012/04/10

  

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思い立ってのユーラシア大陸、端から端までの列車旅。もちろんその出だしは、シベリア鉄道という次第。

シベリア鉄道というと、宮脇俊三「シベリア鉄道9400キロがあり、また時代は遡って森まゆみ「女三人のシベリア鉄道があります。ただし列車旅といっても宮脇さん程の鉄道ファンということもなく、ただ列車で大陸横断するのが目的、また列車に乗っている間は酒を飲んでばかりとあって、列車紀行としての楽しみは少々薄い。
それより面白さを感じるのは
ユーラシアの双子との関係でしょう。
宮本輝さんが小説作品
ドナウの旅人を執筆するために行った取材旅行記に異国の窓からがあり面白く読んだものでしたが、大崎さんのユーラシア大陸横断旅はそのまま「ユーラシアの双子」に通じています。
今回の旅行で大崎さんに途中まで同行したのは、ベルリン在住の10歳年下の友人=
一柳慶氏でしたが、ぬいぐるみをバッグ2個に押し詰めての旅行等々、「双子」の登場人物=前沢という人物そのままではありませんか。

前半のロシア、後半のワルシャワを経てドイツ〜フランス〜スペイン〜ポルトガル。不愉快なことをあえて経験したいならいざ知らず、やはり楽しい旅行は西欧地域に限るようです。
幾度もそんな旅ができたなら、いいだろうなぁ。

はじめに−どこへどうやって行くか/シベリア鉄道に乗る/陸路でパリへ/西の果てまで/終わりに−旅の熟成、言葉の鮮度

        

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