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1.宇宙でいちばんあかるい屋根 2.おどりば金魚 3.チェリー 4.ぴしゃんちゃん 6.洗濯屋三十次郎 |
●「宇宙でいちばんあかるい屋根」● ★★☆ |
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2006年07月 2020年04月
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主人公である中学生、大石つばめが“星ばあ”に出会ったのは、書道塾のある古いビルの屋上での夜のこと。 その“星ばあ”は、底意地が悪くてずる賢いうえに、口が悪くてずけずけとした物言いはするわ、頼まれごとの交換条件にコンビニ弁当をしゃあしゃあとねだるわ、呆れ果てるような振る舞いばかり。つばめは最初、ホームレスか?と思ったほど。でもそんな星ばあを憎めなく思うのは、カラッとしていて、言うことに腑に落ちるところがあるからです。 思えば昔はこんな老人、どこにでもいた筈です。少子化やシルバー世代の方がリッチになって物分りの良い優しい老人ばかりになってしまった所為か、星ばあの老人像が懐かしく感じられます。 こんな老人たちがもっと子供たちの身近にいたら、今のようなイジメ、引きこもりの問題などはこんなに多く起きなかったのではないか、そう思えてきます。
情け容赦ない物言いに反発しながら、その大事なところは素直に受け入れる賢さをもったつばめにとって、星ばあとの付き合いは大事なものになっていきます。
つばめの成長物語と絡んで星ばあの存在が忘れ難い佳作です。 |
※映画化 → 「宇宙でいちばんあかるい屋根」
●「おどりば金魚」● ★ |
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古ぼけたアパートに暮らす、不器用な人々を描いた連作短篇集。
・男に去られてばかりで恋愛も自立した生活もできないままという36歳の独身女性、依子(よりこ)さん。 いずれも不器用なために古ぼけたアパートで孤独を囲っているような人ばかり。それでもお互いに関わり合いが生じれば、そこに通じるものがあり、また開けるものがある、といった連作ストーリィ。 味わい深い連作短篇集なのですが、途中の篇にはピンと来るものがなかったり、やや退屈に感じたりと、もうひとつ盛り上がりを掴み切れなかったことが残念。 草のたみ/ダストシュートに星/小鬼ちゃんのあした/イヌとアゲハ/タイルを割る/砂丘管理人/金魚のマント |
●「チェリー」● ★★☆ |
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米国人女性と離婚して日本に戻り再婚した伯父。その伯父が困っている。米国の家を売ってローンを完済したいのだが、その家には離婚したベレニスの母親モリーが住み着いている。しかも家は売るに困るくらいメチャクチャな状態なのだという。 誘われた「僕」は、伯父の背中を押して“魔女”を退治してやろうと一緒に米国に向かいます。 しかし、僕が出会ったその魔女モリーは・・・・・。
本書は、米国“さくらんぼの州”で13歳の「僕」が繰り広げた、純粋に人を恋する物語。 13歳の少年を主人公にした青春、恋愛、成長物語ですが、何より胸がいっぱいになるのは、モリーというかけがえのない女性を主人公と共に知ったこと。 魔女たいじ/ミドリの館/砂丘/果樹園/祭りと海賊船/さくらんぼ小屋、本日開店/池に凍る牛/おわりのパイ/精霊 |
●「ぴしゃんちゃん」● ★★ |
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何か役割を与えられようとする度に逃げ出し、蒸発を繰り返してきたぼく=ジョーハツと、飛び込み自慢の水しずく=ぴしゃんちゃんが心を通わせるファンタジーな物語。
水たまりを怖がって眺めていた時、背後から突然「見ててくんなきゃ、つまんないっ」という声がかかります。それが主人公とぴしゃんちゃんとの出会い。 蒸発を繰り返してきた主人公と蒸発できない水しずく。 水しずくであるが故に、ぴしゃんちゃんは何時いなくなっても不思議ありません。そしてそれは、主人公が彼に好意を持つ人々に対してずっと繰り返してきたことに通じます。 |
5. | |
●「海鳴屋楽団、空をいく」● ★★ |
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人と付き合うのが苦手という天野里男、ある事情で大手食品会社を退職、東京での転職ままならず、日本海沿いの小さな町にある旅館「海鳴屋」で働くことになります。 元々大叔父が経営していて、幼い頃親戚一同で何度も訪れたことのある旅館。今は従兄の航平が引き継いでいて、温泉と美味しい料理だけが売り物。 ところが航平、旅館経営より従業員たちとの“スティールパン”バンドの練習の方に熱心。里男を受け入れたのも、従業員というよりバンドのメンバーが必要だったかららしい。 メンバーは航平の他、老若男女を問わない上に、トリニダード出身のマリオ、ロシア人女性のオリガも加わっていて個性豊か。 和気藹々というバンドですが、メンバーそれぞれ、実はいろいろ寂しい思いを抱えているらしい。 さて“海鳴屋楽団”、果たしてスティールパンのカーニバルに出場できるのか? 家族、仕事、様々な問題を抱えていても、ここに集まって楽器を奏でれば、音が人と人とを繋いでいく。本書のそんな光景が、とても気持ち好い。 それもスティールパンという一風変わった楽器のなせる業、と言って良いでしょう。 ※“スティールパン”は、ドラム缶から作られた音階のある打楽器で、カリブ海の島国=トリニダード・トバゴ共和国で発明され「20世紀最後にして最大のアコースティック楽器発明」と呼ばれているのだそうです。 この楽器がどんな音色を持ち、どう入り込み易い楽器であるかを知らないと、本ストーリィの魅力は判り難いと思います。是非ネットで検索して確かめてみてください。 |
「洗濯屋三十次郎(クリーニングやみそじろう)」 ★☆ |
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2021年08月
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シャッター商店街で今も商売を続ける“中島クリーニング”。 子供の頃から店を継ぐつもりでいた長男の醤生が、キャリアウーマンの妻がオーストラリアに異動になったことから、彼の地でクリーニング店を展開すると言い、母親を連れて一家でオーストラリアへ移住。そのため急遽、次男の三十次郎に後継店長のお鉢が回って来たという次第。 その三十次郎、全くの素人のくせに脳天気。そのうえ、子供の頃は染みを取ることより、染めることの方が大好きだったと、クリーニング屋の息子のくせしてと、父親である先代店主を嘆かせた存在。 三十次郎を迎え入れた、店を支える70代職人の荷山(かやま)長門は心配しますが、まずは様子見といったところ。 その三十次郎、染みには残しておくべき染みと、落とさなくてはいけない染みがある、というのが信条らしい。 染み=“人の想い”と置き換えて考えれば良いようです。 中島クリーニング店を訪れる様々な客、三十次郎の幼馴染で今はシングルマザーとなったみんちゃん(民子)とナコ(菜子)の親子、といろいろな染み、彼らが抱え続けている想いが語られていきます。 趣向は判りますが、分り難いなぁという印象を否めません。こうしたストーリィは連作形式で語られるところが多いのですが、本作では長編ストーリィの中での様々な出来事という形を取っているからでしょうか。 お仕事小説ではなく、といってハートウォーミングというまでには至らず、最後まで得心の行かないまま読み終わってしまったという感じで、どこかすっきりしない思いが残ります。 |
「遠い空の下、僕らはおそるおそる声を出す」 ★★☆ Under the distant sky, we let out a fearful voice |
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長崎の中学校で同級生、気が合い仲良かった松尾すぐりと行き違いが生じたまま、砂原一葦はNYでちゃんぽん店を開くのが夢という両親とともにマンハッタンへ引っ越します。 現地校でも孤立しそうだった一葦でしたが、マーベル好きという共通点から3人の友人を得ます。 その3人と一緒にやりたいと一葦が思ったのは、“アカペラコーラス”。 歌声あるいは言葉は、現実の距離を超えて、再びすぐりと、そして世界と、広く繋がることができるのでしょうか。 折しも新型コロナ感染の拡大で人と人との交流が制限され、アジアンヘイトによる暴力沙汰が起きれば、ジョージ・フロイド事件も起きるという索漠した状況。 そうした中で、母国がそれぞれ異なる4人の友情、お互いに助け合おうという気持ちが、さらに広く歌声で繋がり合おうという行動に繋がっていく。 そうした若者たちの行動の尊さ、希望や夢を持っていいんだという強いメッセージが伝わってくることが嬉しい。 NYに引っ越した一葦に対し、すぐりは長崎の高校に進学。 自分の不用意な言葉から一葦の居場所を失わせてしまったことに後悔を抱きつつ諦めてしまった観のあるすぐりの側でも、いろいろな変化があります。 一葦とすぐりが再び繋がることができるのか、も本ストーリィの読み処です。 人種とか偏見を持たない若い高校生たちがこれからの世界を変えていく、そんな期待を抱くストーリィ、快感です。 01.僕は今日もうまく声を出せない 2020.02/02.誰かのヘイトを呑み込んで 2017.07-2020.02/03.鼻歌さえも、歌えない 2018.04-2020.02/04.トラブルめいたシラブル 2020.02/05.閉じられていくドアの前で 2020.03-04/06.邪悪なる使者にへし折られたもの 2020.04-05/07.活動の場所から 2020.05/08.六フィート越しの友達 2020.05/09.息を止める時間 2020.05-06/10.ちゃんぽんな街で声を繋げる 2020.06-10/11.音楽が放たれる場所へ 2022.02-03 |